ONE


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「…増援?」
 不意に現れた狗面をつけた暗部の言葉を聞き返す。
 今回、規模の大きさから暗部の一個中隊までもが駆り出されていた。
 とはいえ、淡々と裏の任務をこなす彼らがその姿を現すことは滅多になく、精々宿営地の隅に2、3用意された、暗部専用のテントに交代で休んでいるのを感じる程度だったのだが。
 部隊長を任じる彼ですら、定期的に伝達に現れる者を認めるだけに止まる。当然、その個別認識は出来ていない。
 …もっとも、この現場に現れるどの暗部も同じ狗面を付けているという事も、個別認識をし難くしている原因には違いなかった。
 その中で、今回の接触は異例と言えた。
「暗部の中でもトラップの天才が派遣されたそうだ。もう、着く頃だろう」
 言われて頷く。
 そういえば、本陣のトラップ班の班長を任されていた上忍が数日前の戦闘で殉職していた。トラップ内容の精緻さから、一端破られた綻びを修正出来る者もなく、専門職の増援を考えていた所だった。
「手回しが良いな」
「…今回の要故」
「助かる」
 ふ、と煙を吐き出す。
 誰を呼んだのか知らないが、トラップを直し、増強して貰えるならそれに越したことはない。正しく張られたトラップがあれば、無駄な消耗も減り、里への生還率も格段に上がるのだ。
 素直に感謝すると、暗部と共に宿営地の入口へ足を向ける。ちょうど休憩を取っていたところだ。
 出迎えるのも悪くない。
「…で、誰が来るんだ?」
「…ご存知かは知らないが…銀様と真珠様だ」
「…暗部の『銀』?」
 告げられた名に軽く瞠目する。
 暗部の銀と言えば、上忍なら一度は耳にする名前だった。
 十数年前…あの四代目の在任中から暗部に君臨しているという噂の、既に伝説ともなっている暗部の長。
 他国において、『木の葉には月が二つある』という噂があるのだが、その二つの月の一人だとも聞く。
 実際、今一人の方は、里でも有名な忍びであり、また自身の友人でもある、よく知る人物だったが、もう一人の方には未だ逢った事はなかった。
 噂によると最近では滅多に前線には出てこないと言うが…。
 そんな人物が本当に来るというのだろうか。
 そう思い、改めて問い質そうとした刹那、入口からざわめきが生まれた。
「…いらっしゃったか」
 ぼそりと吐かれた言葉に顔を向けると、そこにはいつの間にか狐面の暗部が二人立っていた。
 うち一人はすらりとした長身で月に映える銀髪を持ち、今一人は小柄で闇に溶ける黒髪をしている。
 そして、小柄な方は身体をマントに覆われている上に、銀髪の暗部の腕に抱えられるようにして閉じ込められている。
 陣内の注目を集めながらも全く気に止める事なく立つ姿は、どこか超然としており、成程、暗部を統率する者だと思わせる。
「お待ちしておりました。ご足労をお掛けして申し訳ありません」
 隣に居た狗面の暗部が一足早く二人の前に寄ると頭を垂れて跪く。
「良いよ。それよりテント用意してある?」
「はい」
 長身の暗部が軽くいなす。
 ──────── …声は想像よりかなり若い。
 十数年の長きに渡り暗部を率いてきたという人物なら、それなりの年齢を想定していたのだが。
 どうも想像を超えて若いようだ。どこかで聞いたような落ち着いた声に首を捻る。
「悪いけど、案内して。それから、何か食べ物ない?俺は良いけど、真珠には食べさせたい」
「…は」
 ふ、と新たに現れた暗部が頷き、同時に消える。
「今の十番?七番から九番は?」
「偵察に出してます」
「そう。なら四番から六番にテントの見張りを頼む。一応、結界は張るけど、念の為ね。…真珠。部隊長にトラップ位置を聞いて来るから、食事を取ってゆっくりしてて。テントからは出ないようにね」
 矢継ぎ早に指示を出しつつ、狗面の案内のままテントに向かう。
 腕の中の存在を大事そうにテントの中へ隠すと、漸く息を吐いた。
「さて…。二番、三番、付いて来て」
 言いながらきょろりと辺りを見回し、煙草を銜えたまま、次々と現れては消えていく暗部達を凝視して立ち竦んでいた部隊長を見止めるとスタスタと近寄ってくる。
「アースマ。トラップの位置教えて」
「…お、お前…。カカシ、か」
「当たーりぃ」
 聞き慣れた気安い声に、使い込まれた狐面の下、見えない筈の目が弓形になったのを見た気がした。


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