言論の自由に関する一考 |
「こんにちは、月光ハヤテ特別上忍でいらっしゃいます?私こういう者ですが、少々お話伺いたいのですが」
「・・・はあ、なんの話ですかね?」 名刺とその人物の顔を確認する。 小柄だが出るところは出、締まるべき箇所は締まっている。 顔は小作りで整っており、ツンと小生意気な角度で尖っている細い鼻、それと揃いのように頤も尖り、吊り上り気味の白っぽい青い目は好奇心の塊の小動物のように光っている。 キュートな感じの女だ。 女のぽってりとした肉感的な唇が、ハヤテの視線を受けて言葉を紡ぐ。 「月光特別上忍は、うみの先生と親しいとお聞きしたのですが」 「はあ、良い友人ですね」 「先日の禁書窃盗事件に関係したことなんですけど」 「はあ」 「怪我をされたうみの先生に、ミズキ容疑者はふられたんだそうですね?」 「はあ?」 ゴシップ誌の記者特有の図々しい様子が、女の口調に漂ってきた。 「そうなんですかね?わたしは知りませんねぇ」 多少不愉快に思いながらも、それが仕事なんだし、と、ハヤテはいつもと変わらぬポーカーフェイスで答えたが、女はさらに畳み掛けるように質問を重ねてきた。 「それでですね、その理由というのが、うみの先生にどなたか決まった人がいらっしゃるからだ、と耳にしたのですが。 ・・月光特別上忍ならご存知なんでしょう?」 念入りにマスカラをつけたボリュームたっぷりの睫毛をしばたたかせ、媚びるように上目遣いにハヤテを見る。 その水色の瞳がうっすらと紫がかったと思ったら、急に思考がぼやけた。 ハヤテは慌てて女から目を逸らせた。 「え、は、・・・いえ・・・・・さあ、私はそんな話聞いたこともありませんね。どちらかで聞き間違えた話じゃないでしょうかね?」 できるだけさり気ない風を装うが、何故かなかなか簡単ではない。 「あら、そんなに警戒なさらなくても大丈夫ですわ。私も記者の端くれでしてよ。ソースを明かすような真似はしません。・・・・・うみの先生の好い人は、はたけ上忍、なんですよね・・・?」 白い歯を覗かせ、ねっとりとした口調で囁く女に、ハヤテの頭に本格的に警報が鳴り響く。 ・・・・・・・なぜそれをこの女が知っている!?? 「わたしではお役に立てませんよ。では忙しいので失礼しますね」 「あ、特別上忍!お待ちに・・・・・チッ・・・畜生、かけそこねた!」 (かけそこねた?術を・・・?) ハヤテは瞬身で立ち去ったと見せ、口汚く罵る女の様子を木陰で伺っていた。 しばらくこの女を尾行し、誰に接触し、どんな話を聞き込むのか、知っておいた方が良さそうだ。 その夜、ハヤテはアンコを捕まえて今日の出来事を伝えた。 「ほんと!?あの女、あちこち嗅ぎまわってると思ったら、そんなことまで握ってるの!?・・・・・マズイじゃない!」 アンコは憎らしげに爪を噛み締め、ハヤテを睨みつける。 「わ、わたしは何も喋ってませんよ・・・・・割合に可愛い感じの人なんですがね、目の色がこう、変わるんですね。そうすると・・・」 「なんでも喋りたくなってきちゃう?」 「そうなんですね。あれは幻術の一種ですね。ただの記者だと思って少々油断しました」 アンコは呆れたように首を振った。 「まぁったくこれだから男は。ちょっと見られる顔だと、すぐ・・・」 「すみませんね!男で!」 ハヤテはアンコに皆まで言わせず、らしくもなく顔を赤らめて思わず大声をあげた。 「でもこれはマズイことになるわよ。なにせ・・・」 これは木の葉の里のトップシークレットなのだから。 「確かにそうですね・・・」 彼らを守らなくては。 「・・・・そーだ、あんたんち行くわよ」 アンコは人の悪そうな笑顔でニヤリとした。 ・・・この女がこういう顔で笑うときは、なにかろくでもないことを思いついたときだ。 「何するんですか?」 「んなビビんなくてもいーわよ。あんたんちのパソコン、ちょっと借りるだけ」 「はあ・・・」 二人はハヤテの部屋に入ると、さっそくパソコンを起動させた。 「えーと、なになに。ハヤテのお気に入りは・・・ええ〜〜!?」 「なっ!?何しに来たんですか、もう」 「アハハ、冗談冗談。えーと、ウィークリー木の葉ホームページ、っと」 画面に、原色使いの派手で目障りな文字の羅列が現れた。 アンコが件のホームページを閲覧している間に、ハヤテはコーヒーを淹れるため台所に行く。 アンコは何がしたいのだろう? 彼女の分のマグカップにミルクと砂糖を投入する。 ・・・・・しまった。考え事をしていたせいで、予定より大分多めに入れてしまった・・・・・まあいいか。 「はい。コーヒー入りましたよ」 「あら、ありがと。ん〜甘くておいしv・・・・・ふーん。やっぱこーゆーゴシップネタばっかか。ねえ、ハヤテ。あんたさ、ハッキング得意よね?」 ・・・・・それが狙いか。 「・・・・・・・ええ、まあ。ココの編集部に進入するんですか?」 「うん、そう。あの女が今書いてる記事が読みたいのよ。出来るでしょ?」 モニターの光を受けて、アンコの眼が剣呑な光をたたえる。 「はあ、出来ますが・・・」 「じゃあ、やって」 パソコンの前の椅子をハヤテに譲ると、アンコはモニターが良く見えるベッドの上に移動した。 しばらくはハヤテに任せ、淹れてくれた甘いコーヒーの味を楽しむ。 しんとした部屋にはキーボードを打つカタカタという音だけが響いた。 「・・・・・・・・・・・・・うん、これですね、このフォルダ。無用心だなぁ・・・」 「何言うか。あんたにかかったら、無用心もへったくれもないじゃない」 そのとおり。 ハヤテは名うての凄腕ハッカーなのだから。 「どれ、見せて・・・・・」
「仕方がない。君にとっておきの秘密を教えよう」 そう囁いて少年を己の欲に巻き込んだ教師。この教師こそが今回の里中の忍びを総動員させるに至った事件の容疑者、ミズキである。 このミズキ容疑者、生徒(特に女子生徒)から「優しい」「カッコイイ」と評判の教師であった。同僚も口を揃えてこういう。 「信じられないです。ミズキ先生が、こんな事件を起こすなんて。生徒思いの優秀な先生だったのに、残念でなりません」 今回ミズキ容疑者が犯行をそそのかしたN少年は、両親ともにおらず、教室でも浮いた存在だった。アカデミー卒業試験に失格し、ひどく落ち込んでいたという。 そんな少年に容疑者は、まず励ます素振りを見せ、信用させた。少年の供述によると 「ミズキ先生ってば、火影のじーちゃんちにある巻物を見て練習すれば、きっと合格出来るようになるから、こっそり借りてこいって俺に言ったんだってばよ。そんで術が成功したらI先生も俺のこと、見直してくれるって」 容疑者は少年が母のように慕っているI教員まで引き合いに出し、少年が禁書を盗み出すことを強く勧めたのだ。 少年にしてみれば、「ミズキ先生がそう言うならきっと合格できる」と軽く考えてしまったのだろう。 そして、その深夜12時を回った頃、少年は火影邸に不法侵入を果たし、容疑者が狙う禁書を持ち出してしまったのだ。持ち出されてから半日後、ようやく通報があり、この事件があかるみに出るに至った。 通報が遅れた理由と、アカデミー生ですらたやすく侵入できてしまった火影邸のセキュリティーについて、火影のコメントを求める質問状を出した。回答は以下のとおりである。 「火影様は大名のお召しにより、現在火の国首都への道中にて、残念ながら貴社の質問にお答えすることが出来かねます」(木の葉広報部)
今回不運にも被害者となってしまったI教員は、N少年に大変慕われており、まるで母子のようだ、と周囲にからかわれるほど二人は親しい間柄だった。両親のいない少年に自身の生い立ちを重ね、なにかと面倒を見ていたらしい。 しかし彼女はN少年を特にえこひいきしていたわけではなく、生徒は平等に扱っていたという。 そんな彼女に同僚の信頼は厚く、その上評判の美人であることから、密かな崇拝者は多数いるのだそうだ。この話を追っていくうちに、あるひとつの興味深い証言が浮かんできた。 「I先生?とても素敵な方ですよ。ええ、とてもモテる人です。彼女受付もしているんですけど、誘われているのをよく見かけます。でも絶対承知しないんですよ。真っ赤になって断るばかりで。たしかミズキ先生もその一人じゃなかったかな」(同僚Iさん談) どうも、ミズキ容疑者も彼女に懸想し、お断りされたうちの一人らしい。 「いつだったか、4〜5人で呑みに行ったとき、ミズキの奴えらく荒れて。『I先生に告白したがふられた。どうして俺じゃ駄目なんだ』ってクダ巻いてましたよ。その話を知ってからあと、彼女はミズキに普通に接していたんですが、ミズキは根に持っていたらしくって、彼女を無視したりしてたなぁ。なんて情けない奴だ、って皆話してましたよ」(同僚Kさん談) さらに、こういった驚くべき証言も出てきた。 「Iにはもう決まった相手がおってのぉ。相手?ああ、皆も良く知っておるだろ。KだよK。もうラブラブでのぉ!ガハハ!!」(Jさん談) そうなのだ。I教員の隠された恋人は、なんとK・H上忍だったのだ! ミズキ容疑者はそのことを知っていたのだろうか?それは考えにくいだろう。なにせK・H上忍といえば、他国のビンゴブックにも載る、凄腕の忍びだ。知っていれば彼女を傷つけるなど、恐ろしくてとても出来まい。 容疑者はその驚くべき事実を知らなかったからこそ、今回の事件を起こしたに違いない。 ―――――腹いせに、彼女を慕ってやまないN少年を使って彼女を傷つけてやれ――― そんな容疑者の捻じ曲がった動機が見えてきたのではないだろうか。
N少年は禁書を手に入れると、森の奥深くでたった一人で修行をしていた。その間ミズキ容疑者は慌てた風を装い、何食わぬ顔をして少年の捜索に加わっていた。その際、容疑者自らI教員のもとを訪れ、少年が禁書を盗み出したことを彼女に伝えている。 「俺は偶然知ったんだよ。たまたま呑んでた居酒屋で、緊急招集だって中忍連中に声掛けに来たんだ。俺の耳にも入ったからさ、『俺も行こう』って言ったら、やつの顔色が変わってな。『下忍・中忍のみの緊急招集です』って言いやがるんだよ」(特別上忍Gさん) 容疑者が捜索隊より先に少年を見つけるために、木の葉の精鋭である上位の忍びの存在は邪魔だったのだろう。容疑者の思惑通り、当初捜索隊は、ほぼ下忍・中忍で編成された。 そして捜索開始から約40分後。ようやく少年の足取りがつかめたI教員は、少年のもとへと急いだ。 現場にI教員が到着した直後、ミズキ容疑者もその姿を現した。ミズキ容疑者は口を極めてI教員・N少年双方を罵り、ついには少年を手にかけようとしたのである。少年に向かってミズキ容疑者の牙が剥き出される・・・しかしそれを受け止めたのは、I教員だった。少年の盾となり、放たれたクナイの雨をその身に受けたのだ。 そして更なる攻撃に晒されようとしたちょうど其の時、後から捜索に加わった暗部に発見された。容疑者が致命的な一打・・・風魔手裏剣を投げたのだが、暗部によってその軌道は逸らされ、急所は外された。暗部は怯む容疑者を直ちに逮捕、事件は終結した。 重傷を負った二人は現在も入院中ではあるが、命に別状は無く、快方に向かっていると木の葉病院側は発表。 病院では、入院中の恋人を見舞うH上忍の姿を見ることができるだろうか。見ることが出来た幸運な方は、是非当編集部にその様子をホームページ等にお寄せいただきたい。 「へぇ〜!良く調べてるじゃない。関心しちゃったわ」 「関心してる場合じゃないですよ。これが記事になったら本当にマズイことになりますよ」 アンコはインタビュー部分までスクロールし、舌打ちする。 「見てみなさいよ、ここんとこ。余計なこと喋ってるの、皆男じゃないのさ。ほんっと男って馬鹿ね」 アンコは容赦なく続ける。 「これ、きっとゲンマね。これは自来也様だし・・・後でちょっと痛いことしてあげなくちゃね?」 モニターを見つめるアンコの目はまるで獲物を狙う雌の虎のようで、ハヤテは喋らなくて良かった、とこっそり胸をなでおろす。 「とりあえずこの記事のデータ、全部消しちゃってよ。うーん、壊しちゃった方がいいかな。そんでね・・・・・・」 ハヤテには、悪魔のように不吉な笑みを浮かべるアンコに逆らうすべも無く、いいなりにキーを叩いた。 しかし、逆らう気も毛頭なかった。 なにしろ、敬愛してやまない彼ら夫婦の為なのだから。 コツ コツ コツ コツ・・・ 夜道に足音が響く。 残業で深夜になってしまった家路を、カズハは早足で歩いていた。 家はもう、すぐそこだ。 と、そこへ。 「江田カズハだな」 くぐもった声が彼女の足を止めさせた。 「だ・・・っ誰!?」 振り返り、鋭く誰何するが、声の主は見当たらない。 怯えたウサギのように忙しなく周囲を見回していると、今度は違う声がどこからとも無く振ってきた。 「あの記事、読んだわよ。とっても良く書けてたわぁ。でもねぇ、ちょ〜っとやり過ぎじゃないかしら。だから、お仕置きしにきたの」 そう言ってクスクス哂う。 お仕置き!?お仕置きって・・・・・ 「ちょ、ちょっと待ってよ!あれは仕事よ!」 「だから、そのお仕事、熱心にし過ぎだって、忠告しにきたんですよ」 深夜の住宅街でこんな大声を出しているのに、誰一人窓から顔を出さない。 カズハは震える足を叱咤し、走り出した。 恐ろしさで足がもつれ、途中何回か転んだが、どうにか自分の家にたどり着いた。 穴になかなか刺さってくれない鍵に、カズハは泣きべそをかく。 ようやく開錠し家に入り、再びがっちり鍵を掛け、止まっていた息を大きく吐き出した。 しかし。 「おかえりなさい」 ・・・・・・・・先回りされてた。もうだめだ。 真っ暗な室内でそこだけさらに漆黒の影が浮かぶ。 見開かれた目に、その不吉な姿が暗部の者だと判る面が映った。 「お願いがあってきたんですよね」 「な、な、何よ、何が望みなの!??」 「例の事件の記事のことなんですけどね、あれ出さないで欲しいんですよね」 「そんな・・・!」 何を言うのか。あれを書くのに散々歩き回って、大勢の人間に会い、色仕掛けまでしてようやく取った初のスクープだ。冗談じゃない。 ・・・・・この暗部は男だし、口調も柔らかい。懐柔できるかもしれない。 「ね、ねえ、アナタが暗部に取り立てられた時のこと、覚えてる?」 「・・・・・?」 「今、私そんな気分なの。こんな大きなスクープ取れたの、初めてなのよ。・・・ね、お願い・・・・・」 芽が出ず、下忍のまま忍びを辞めた自分が唯一得意だった幻術、紫芯惑眼。 「気が強い人ですね。でも・・・」 カズハの瞳があの紫色を帯びた、其の時。 「あらあら、またお得意のその術?いいわねえ、アタシにも教えてちょうだいよ」 「ひっ・・・・・!」 女の暗部が音も無く自分のすぐ後ろに居た。 目の前で、肩越しに回された手に着けた不吉な鉤爪が真っ直ぐこちらを向いている。 こめかみからすうっと伝ってきた汗が、顎から滴り落ちた。 「でも残念。あんたに術を習う暇はないみたい。だってもうこの眼とはお別れだもの、ね?」 鉤爪が恐怖で閉じられない眼に近づけられる。 「・・・・・手荒なことをしに来たんじゃないんだけどねぇ・・・ほんと、残念」 ゆっくり、じわじわと。 「・・・・・!わ・わ・わ・わかった!!あれは出さないから、だから・・・っ」 背後から、くすりと哂った気配が伝わる。 「そう?判ってもらえて嬉しいわ。きっとそう言ってくれると思って、もう手は打っておいたから安心して。じゃあね」 次の瞬間、二人の暗部はまさに煙のようにかき消えた。 アンタッチャブル。 その言葉の意味を身をもって知ったカズハは、糸の切れた操り人形のように、その場にへたへたと崩れ落ちた。 一仕事終え、屋根から屋根へと、跳んでゆく二つの影。 「ねえ、アンコさん」 「何?」 「言論の自由、って知ってます?」 「やあねえ。知ってるわよ、そんなの。でも書かれる方だって、声を大にして言いたいこと言わなきゃ。必要ならボディランゲージも込みでね」 「新解釈ですね・・・」 「明日の朝が楽しみね。これに懲りてあの人たちに関わろうなんて気、二度と起こさないわよ」 彼らを守るためとはいえ、自分にはまだ迷いがあった。 アンコには迷いなど欠片も見えない。 あの女記者がもし否と言えば、アンコは躊躇無く手を下していたことだろう。 そんなアンコを、羨ましくも思い、恐ろしくも思う。 だが所詮同じ穴の狢なのだ。 強引な手段を用いたからといって、自分にアンコを攻める資格など無いことは重々承知。 少しだけ、言ってみたかっただけ。 あの人にわざわざ知らせて頭を撫でてもらおうとは思わないが、あの人のことだ、ほどなく知るところとなるだろう。 ・・・・・・・・そしてきっと叱られるのだろう。 翌朝、出勤してパソコンを起動させたウィークリー木の葉の編集部の面々は、口から泡を吹かんばかりに驚いた。 自分たちの誰かが、木の葉の暗部の逆鱗に触れてしまったのだと思い知る。 編集室すべての端末がウイルスに感染しており、復旧不可能な状態に陥っていたのだった。 その画面に唯一映し出されるのは、暗部が刺青でその肩に施すあの印・・・・・・・。 |
ナナシ〜様に戴きましたー。 ちょっと、銀真珠ネタでハヤテですよ!!そして、アンコ! カカシ兄ちゃん(笑)激LOVEのブラコンビを出してくるなんて、ナナシ〜様ったらお目が高い!! また是非、書いてくださいませねーvv(もう、冥利に尽きる〜vv) そんな訳で、藤原の蛇足編はこちらから。 |