誕 生 後編


人が生きていく限り、自分の後ろには過去という名の道ができる。
その道を戻りたいと思うことがある。
一方で、それはいけないと踏みとどまる自分がいる。
過去をふりかえるのは大切だが、それにふりまわされてはいけないのだ。

幾度となく聞いてきた「さよなら」…個人的には、あまり好きではない言葉である。
でも、そのことばの裏に込められた想いを、あなたは考えているだろうか。
たとえどんな「さよなら」を聞いても、(もう二度と逢いたくない)という気持ちよりも、
(またいつかどこかで)という気持ちを、わたしは持っていたい。


そうなんだ。思い出に浸るのもいい。
でも、それよりも、もう一度思い出させてくれる人がいること、
いつでもそう言ってくれる人がいるという事実の方が、もっとうれしいことなのだ。

自分を覚えていてくれる人が、どこかにいるという事実。
それだけで、前向きに生きていく勇気がわいてくる。


【『EAST ASIA』 ほかに収録】

(初稿 2000.02.24)
(最終改稿 2000.04.15)


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