しあわせ芝居


恋人だと思っていた人に、別に好きな人がいた…。

世の中で、気がつかない方がよかったと、後から思えるものの一つだ。

それに気がついてしまった時ほど、つらいものはない。
このまま自分が壊れてしまうような気になっていく。
気がつかなければよかった。(その方が本当は辛いのかも知れないのだが…)

恋人だと思っていた人に恋人がいた時、あなたはどうするだろうか。
  @ 自分から別れを告げる
  A 恋人を問いつめる
  B 気がつかないフリを続ける
  C 黙って身を引く
  D 恋人を殺す (→ヤバイね)
  E 恋人の相手を散弾銃で撃って自分も自殺する (→最近の事件にもあったね)

どれを選んでも、結局は同じ。
恋人が自分のもとに返ってくることは…まず、ないのだから。
なぜなら、自分が恋人を受け入れられなくなるからだ。
それでも…それでも…。

  つらくて、つらくて、夜が眠れない。
  苦しくて、苦しくて、食欲がない。
  悲しくて、悲しくて、笑顔が出せない。

そんな気分から逃げ出したくて、つい、Bの行動をとってしまうことがある。
自分の心が崩壊するのが怖くて、つい、まだ恋人であったころの自分を演じてしまう。
それが、しあわせ芝居。恋人が演じるのではなく、自分が演じる、しあわせ芝居。
本当は、悲しくて悲しくて、泣き出したいけれど、がんばって、ピエロの面をかぶるのだ。

たぶん恋人は、そんなことは知らない。自分が必死に芝居を演じているなんて。
自分の心に、どうしようもないすき間ができていくのが分かる。
だから、それを自分で埋めたくて、芝居を続けるけれど、だめ。
どんどんすき間は広がるばかり。本当に、どうしたらいいんだろう。
だけど…だけど…やめることができない しあわせ芝居。


【『おかえりなさい』 ほかに収録】

(初稿 2000.02.27)


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