二隻(にそう)の舟


一昨年のクリスマス、友人TOMYから「夜会のチケットあるから行こう」と誘われた。
毎冬、渋谷コクーンで行われていた「夜会」。夜会チケットは、毎回、発売後数時間で
完売するという。まさに伝説のミュージカルコンサート(?)である。
しかも10年間に渡る夜会も、このvol.10「海嘯」で一つの区切りとなる。
その千秋楽の日のチケットが手に入ったのだそうである。
うわさには聞いていたが、観に行けるのは初めてだった。

「じゃあ、これで勉強しておいで」

夜会初心者のわたしに、TOMYは1枚のLDを貸してくれた。そこに「二隻の舟」が
収録されていた。10周年を迎える夜会のテーマ曲であり、中島みゆきのライフテーマ
とも言われている。

「夜会のどこかの場面で、必ずこの曲が使われるんだよ」


一つの魂(kokoro)はふたつに別れ、それぞれ別の人生を歩む人間になる。
そして、お互いの人生の中で、必死に出逢い、再び一つになろうとする。
二隻の舟は、たとえ離れていても、心は必ず通じているのだ。
心を以て心を伝える…以心伝心。
そんなに不思議なことではない。本来、ひとつのものだったのだから。
その事実を確認しあった時、お互いは、かけがえのない存在であることを自覚する。

海鳥には翼があり、時の流れ・人生の悩みに束縛されることはない。
高いところから見下ろすと、二隻の舟が、なんとちっぽけに見えることか。
今にも波に流され消えてしまうかも知れない…。
しかし、すべての海鳥が、ふたつの魂が不幸になることを望んでいるわけではない。
たとえ力を貸すことはできなくても、それを見守っていてくれる海鳥は必ずいるはずだ。
誰かが自分を応援し、『見守ってくれている』事実…うれしいものだ。
そんな人が一人でもいれば、人は思い切って前に進むことができる。
あなたには、思い切って前に進んで欲しい。わたしがあなたを見守り、応援するから。

夜会の中で必ず歌われる『二隻の舟』。中島みゆきのライフテーマ。

【『10WINGS』 ほかに収録】

(初稿 2000.02.11)
(最終改稿 2000.04.15)


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