まつりばやし

小学校1年生のEちゃん。
彼女は、
生まれながらに、自分の血糖値をコントロールできない病気だった。
普通の人なら、1食抜いたぐらいでは、どうってことないけれど、彼女は3時間ごとに
エネルギーを体に入れないと、極端な低血糖の状態になってしまう、そんな病気だった。
低血糖の状態になると、彼女の顔色は蒼白になり、体中の力が抜ける。やがて意識を
失って昏睡状態に陥ってしまい、そのまま放置しておくと、死んでしまう。
朝ご飯を食べて、給食の時間まで何も食べないと死んでしまうという、悲しい病気だった。
そこで、Eちゃんは、2時間目の放課になると職員室に行って、補食をとることにした。
Eちゃんの補食は、おせんべいやビスケット。Eちゃんにとって、幸せなひとときだった。

周りの大人たちは、いつもポケットに角砂糖やガムシロップを入れていた。
もし、Eちゃんが意識を失ってしまった時、無理矢理口をこじ開け、胃の中に流し込むためだ。
そんな場面に2度ほど出くわしたことがあった。

そして、8年。
Eちゃんも、中学3年生になった。
「私は小さい時から病気で苦しい思いをしているので、将来は医者になりたいです」
愛知でも有名な進学校への推薦合格が決まって、あとは卒業を待つばかりだったEちゃん。
それなのに…。

卒業式の練習を終え、教室に戻った後、突然倒れたEちゃん。
卒業式の1週間前、わずか15歳で人生の幕を下ろしてしまうなんて。
あの病気が原因だったのだろうか。
すぐに適切な処置を施したのにもかかわらず、二度と意識が戻ることがなかったという。

Eちゃん、意識を失ったあなたが最後に観ていた夢は、どんな夢だったのかな。
義務教育を終えたこれからが、あなたの人生の始まりだっただろうにね。



【『あ・り・が・と・う』ほかに収録】

(初稿 2001.03.24)



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