粉雪は忘れ薬

長い間、人間やっていると、世の中楽しいことばかりじゃないことに気がつく。
どうしようもないつらいことだって、きっとある。

長い間、人間やっていると、今までいろんな人と関わってきたことに気がつく。
 仲の良い人、悪い人。
 愛しあった人、傷つけた人。
 守りたい人、そして、忘れたい人。

記憶というのは、心の一番の底から順番に上に積み重なっていく。
忘れたければ、新しい記憶をどんどん積み重ねていけばいい。
けれど、どんなに隠したつもりでも、ほんの少しの糸口から思い出しちゃう
過去ってあるんだよ。

 「やばい。思い出してしまった…」

忘れることだけが、正しいとは限らない。
思い出すことで、真実となることだってある。
記憶は忘れたつもりでも、心の引き出しにしまわれただけだから、
それが本当に必要なときには、きっと思い出されるはず。

きっかけとなるのは…何?

過去にもどることはできないけど、前を向いて歩くために
過去を振り返るのは、悪くない。


【『短篇集』ほかに収録】

(初稿 2001.01.14)



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