霧に走る

「…もうこんな時間だ」
「そうだね。帰らないといけないね…」

時間というものは、無情に冷たく流れるもの。
(もう少し、もう少しだけ)と思えば思うほど、同じ1秒でも
早く流れていく気がしてしまう。

車の中って、ひとつの閉ざされた空間。
涙も、ため息も、そこから外には出ることができない気がしてしまう。
その中にいる限り、誰も二人のじゃまをすることはできない気がしてしまう。
その中にいる限り、時間が永遠に続くような気がしてしまう。

…でも、残念だけど、それは錯覚なんじゃないかな。
その空間は、いつまでも、そのまま閉ざされていることはない。
いつか、他人が入り込んでくることだって、あるかもしれない。
いつか、自分から出ていくことだって、あるかもしれない。
いつか、自分だけが残されてしまうことだって、あるかもしれない。

長い夢から、錯覚だと気がついた時、あなたはどうするのかな。
それとも、がんばって、その夢を見続けることができますか。



【『Singles』ほかに収録】

(初稿 2000.05.15)



        みゆきトップ   波の上