五才(いつつ)の頃

五才の頃って、何をしていたんだろう?
小学校に入学する前だから、幼稚園・保育園時代?
五才ぐらいの年の子どもは、よく泣く。
何が悲しくて、何がつらいのかもわからないけど、
いつでも顔を真っ赤に腫らして泣いているみたい。

その頃のことを覚えていないのかといえば、
けっしてそんなことはない。
小さな心には、想像もできない大きな想い出が凝縮されているのだ。
  
大人になると、涙を見せないもの。
でも、泣きたいときに泣けないのは、心が悲鳴をあげるだけだ。
そんな無理をすることない。
はらはらと流れる大人の涙は、美しいものだ。


【『みんな去ってしまった』 ほかに収録】

(初稿 2000.04.01)



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