もうずいぶん昔のことだが、大学受験に落ちたことがある。 発表を見た帰り、ショックで、帰りのバスを間違えて乗ってしまった。 駅とは違う方向に走るバスの中で、思考回路はほとんど切断されていた。 かろうじてつながっていた心の回路が、ただ漠然と、 (これからどうなるんだろう…) という信号だけを送り続けていた。 乗客が一人、また一人降りていき、ついに終点のステーションに着いた。 到着するはずだった名鉄本線のにぎやかな街の駅とは違う、高台の静かな住宅地に あるロータリーだった。 すっかり日も落ちてしまって、高台の高層マンションの灯りだけが青く光っていた。 バスの中には、おいらと運転手だけ。 やむなく、ふら…と立ち上がり、運転手に近づき、バスに乗り間違えた理由を告げた。 運転手は、しばらく黙っていたが、 「…運賃はいらんよ。あと10分で出るから、それまで待ってな。 お前、まだ若いんだから、来年がある…」 …何も言葉にならなかった。ただ黙って頭を下げるだけだった。 翌年、同じ大学・同じ科を受けて合格することができた。 在学中に、もう一度あの運転手に逢いたかったが、その機会がなかったのが心残りだ。 |