under the sky

  ラルドエード王国 3・冒険家と宝物殿  

 ラルドエード王国。
 トエルブス大陸のほぼ中央に位置し、その周囲は全て森に囲まれている。
 王国は結界で守られていて簡単に入ることはできない。
「それはこの地がデミ・ヒューマンにとって約束の地だからだ。その中でも最大の勢力を誇るエルフ神族の3大秘宝と言えば!!!」
 ディルが熱く問い掛けてくる。
「『黒の書』ですか?」
 そのディルをあざ笑うかのようにシュウは冷静に答える。
「すげーマニアック!!!っつーか、出てきても平気なのかよ」
「問題ありませんよ。ここに居るのは私を知る者のみ。誰かの気配がしたらすぐに消えますよ」
 ディルの質問はもっともだけど、ちゃんと聞いたからあたしは納得したわ。
「って言うか、『黒の書』って何?」
 そっちの方が疑問。
「この国にトゥルーラという魔法王国が存在したときに既にあった魔道書ですよ。一説には旧時代の女神が記した予言書とも言われています」
「言われてるってシュウは見たことないの?」
「……シェリー、今ディルが『秘宝』と言っていたのを忘れていたんですか?秘宝は秘されているからこそ秘宝なのですよ?」
 あ、アハハハ。
「さて、あと二つだぜ?」
 あたしは知らないけど……。
「一つは神々の名を冠した聖宝の一つ『ラピスの宝珠』!!コレも興味津々だよね」
 ヒリカが興奮気味に答える。
「そして最後の一つ、聖剣シャインフェザー!!今回ラルドエードに来た最大の目的!!!!それは!!」
 それは?
「聖剣シャインフェザーに触ること!!!!」
「はぁぁ?」
 ディルの発言にあたし達は驚く。
 ………触りたいなんて聞いてないよ。
「見るだけじゃなかったのかよ」
「見たら、触りたくならねぇ?」
「触るですか………」
「ディル〜〜〜。そのまま欲しいなんて言わないでよ?」
「言わねえって」
 ラルドエードの王城で夕食後の緊急会議中(ディルが召集掛けたって言うか、あたしとゼンがくつろいでるところを突入してきたって言うか)。
 ホントは、エディとクリシュナの二人もいたんだけど、呼び出されて今は居ない。
 だからシュウも出てこれるし、ディルも結構きわどい所まで言える。
「ですが……それは難しいかも知れませんね……」
「クゼル王も言ってたけど、難しいってどういう意味だよ」
 ディルの触りたい発言にシュウがちょっと何と言っていいのかちょっと困惑している。
「聖剣シャインフェザーの持ち主が問題なのかよ」
「問題と言えば問題かも知れません。シャインフェザーの持ち主は守護聖騎士です」
「先に質問!!森に入ったときも言ってたけど、守護聖騎士って何?」
 あたしも疑問に思ってたことをヒリカが聞いてくれる。
「守護聖騎士とはエルフの神娘を守る騎士の事を指します。エルフの神娘は何人にも傷つけることが出来ません。それが故に無防備です。それを唯一救える手段を持つのが守護聖騎士です。守護聖騎士は何人もいません。たった一人、神娘一人にたった一人の守護聖騎士です。神娘を守るために使う剣が聖剣シャインフェザーです」
 神娘を守るための剣。
「神娘がクリシュナって事はエディが守護聖騎士?」
「そうです」
 はっきりとシュウは答える。
「じゃあ、エディに言えば触れんじゃねえの??」
「それは…そうですが……」
 シュウは今まではっきりと答えてきたのに、触る段階にはいると妙に歯切れが悪い。
「な、何だよ!!!何が問題なんだよ!!!」
 そうディルが怒鳴ったときだった。
「あ、どうしたんですか?」
 エディとクリシュナが戻ってきたのだ。
 当然の如くシュウは引っ込んでしまった。
「いや、えっとさぁ。なんだ、まぁ、うん。お宝って言うか観光どこにしようかなって」
「そうでしたね、今日は到着が少し遅かったですから、何を見るというのも出来ませんでしたし。明日はきちんとご案内出来ると思います。どこが良いですか?トレジャーハンターな皆さんですから、一般公開が出来る宝物殿とかなんて」
 そう、クリシュナが言った瞬間に
「マジでぇ〜〜ラピスの宝珠みたい!!!!」
 とキラッキラに目を輝かすディルが居たのを忘れてはいけない……。
「ディル、いきなり、そんなことを言ったらダメよっ」
「だってさぁ!!!」
 ディルの言ったことも、ヒリカの言ったこともどっちもどっちって感じがするんだけど。
「ラピスの宝珠ですか?大丈夫ですよ」
 ディルとヒリカの掛け合いをクスクスと笑いながら見ていたクリシュナがそう言う。
 大丈夫なの?
「はい、問題ありませんよ」
「じゃ、じゃあさぁ、聖剣シャインフェザーは!!!??」
 うわぁ〜いきなり核心!!!
「守護聖騎士が持つ聖剣シャインフェザー!!!!オレが見たいお宝、剣編ベスト5に数えられる一つ!!!」
 後の3つは想像つくけど、もう一つは何だろう。
 ディルの事だもん、今、聞かないでも後で教えてくれそう。
「シャインフェザー……ですか」
 エディはディルの言葉に困惑する。
「エディ?どうしたの?」
「無理?」
「そう……ですね……」
 何でとは聞ける様子じゃなかった。
 困っているというのがあたし達にも手に取るように分かるぐらい、エディは困惑していた。
「あ、いや、無理なら、良いんだ……無理なら」
「すみません……。聖剣シャインフェザーはよっぽどのことがない限り抜くことが出来ない剣なので……」
 エディは本当に申し訳なさそうに言う。
 そんなに恐縮しなくても大丈夫なのに、なんて思わず思ってしまう。
「ディルのバカがごめんね。ディルってばお宝大好きで目がなさ過ぎなの。だから時々突っ走って他人の事困らせちゃうのよ」
「ひ、ヒリカ……」
 ヒリカの言葉にディルはがっくりとうなだれる。
 でも、ヒリカの言ってることは本当だよね、実際突っ走ってるところも見たわけだし。
「まぁ、ラピスの宝珠が見れるだけでもいっか……。シャインフェザー触りたかった」
 落ち込みながらも本音を見せてるディルにエディは苦笑いを浮かべていた。

 宝物殿は王城が建っている敷地内ではなく、街の方にあるそうだ。
 ココで言う街はもちろん侵入者排除の結界がされているエルフ神族が住む街の方。
 ちょっと遅めの朝食の後、あたし達はディルが行きたいといった宝物殿と別の場所に安置してあるラピスの宝珠を見に行くことになった。
 と…いうか、ディルに何か掛かっている気がするんだけど……。
 何というか細い糸の様な物が結構グルグルとディルを取り巻いている。
 動きづらくないのかなぁなんて思うんだけど、案外ディルは気にせずに動いている。
「シェリー、見えたのか?」
 あたしの隣を歩いているゼンが言う。
 もちろん、視線の先には細い糸の様なものでグルグル巻きにされているディル。
「見えるし、その先、ヒリカから出てるよね?」
 ヒリカが手の中からその細い糸がディルに取り巻いているのだ。
「アレは、行動の呪縛。一応ランクとしては中程度だな。ディルにはそれで問題ないだろう。トレジャーハントの副業で賞金稼ぎもやってるからな。多分、それ用」
 ディル捕まえてる為にヒリカかが出してるのね。
 もしかしてディルってば暴走しちゃうのかな?
「しちゃうのかな?って言うより、もうする確定だろう?」
 苦笑い浮かべたゼンにあたしは納得した。
 確かに、お宝を見たときのディルの反応は普通じゃない気がする。
「大体、エルフ神族の宝物殿に行くんだから、何かやらかしてもおかしくないって言うか?」
 実際、あたしはディルとヒリカとは1回しか一緒に動いていない。
 その時でさえ、かなりお宝で興奮していたんだ。
 エルフの長い歴史の中でお宝がたくさんある宝物殿に行くんだから、興奮しない方がおかしい……。
 ヒリカの苦労が手に取るように分かってあたし達はもう一度苦笑いを浮かべ合った。
 エルフの宝物殿はあの神族と他を分ける結界の側にあった。
 ただし、橋のすぐ側じゃなかったから来たときは気づきもしなかったけれど。
 一般公開されてるって言うけど、結界のこっち側(神族側)にあるんだから普通の人は見れなくないのかなぁ?
「期間限定で、年に数回ココへの道が作られるんです。その時に入れるんですよ」
 あたしの疑問にクリシュナが答えてくれる。
「その期間になったら大騒ぎになるんです。ココへの道と結界の変更とか」
「大騒ぎだけどさ。でも、みんな、楽しそうなんだよね」
「それがやりたくてやってるような気がするわ。一種のお祭りみたいな感じだろうし」
 お祭りで、エルフのお宝を一般公開って……平気なのかなぁ?
 なんて余計な心配してしまうけど、それが分かってて楽しいって言うんだから気にしない方が良いんだよね。
 宝物殿の中に入り、エントランスを抜け最初の間に入る。
 ココから既にお宝の展示室。
 そう、エルフのお宝が治められているって言うよりもさすが一般公開用、きちんと一つずつ展示されていた。
 お宝って言うよりも、美術品。
 歴代エルフ王のコレクションって感じがひしひし。
 絵とか、彫刻とか。
「おぉ〜〜すげぇ!!!。賢王ルフィダニスのコレクション!!!」
 賢王ルフィダニス!!!
 って誰?
「国家法人イゼナ・モトブの母体国家商業国ハイリアの王です。彼の王は大変な美術芸術の愛好家で若き芸術家を庇護していた方ですよ」
「ハイリアは今のシスアードにあったんだぜ。それのなごりが今のシスアードだ」
 ディルは絵を見ながらエディの言葉を引き継ぐ。
「ヒリカ、マルティウスの奇跡だ……」
「エールンスの光もある……。コレが……本物」
 ディルとヒリカは2枚の絵の前で立ち止まる。
「シスアードにあるんじゃなかったの?」
 マルティウスとエールンスという二人の画家が描いた2枚の絵。
 それは2つで初めて完成する2対の名画。
 あたしは、シスアードにあるって話でしか聞いたことがなかったけれど。
「トゥースが持ってるのは、コレのレプリカだよ。トゥースって言うのはシスアードの市長でギルドの長な」
「でも良く、本物だって分かりましたね」
 熱心に見てるディルとヒリカにクリシュナが問い掛ける。
「本物は見れば分かるって聞いてたから。魔力…って言ったらいけないと思う。聖なる力。絵から力を感じるから。純粋な光。奇跡。レプリカから感じるのはその絵を写した思いだけ。絵の力は感じてないの……」
「一度本物を見た方しか分からない感想ですね」
「シスアードの秘宝。エールンスの翼を見てるから」
「そうだったんですか」
 クリシュナの言葉に頷いてヒリカは再び絵を見つめる。
「分かるか?シェリー」
「うん」
 ゼンを通してシュウが問い掛けてくる。
「ヒリカの言うとおり、光。空から包み込む光と目覚める奇跡。そんな感じがする。こういう言い方はおかしいのかも知れないけれど、クゼル様から頂いたカードに少し似てる」
「クゼル王がお前のために作った魔力を持つカードだ。似てて当然なのかもな。でも、コレはあくまでも純粋な絵。マルティウスもエールンスもそう言う意味では魔力は持っていなかったから」
「でも、絵は力を持った」
「力ある画家が生み出す絵の力よ、それが」
 ヒリカの言葉に見ていたあたし達は頷いた。
「オレ、ずっとココにいたい」
 この間の美術品を見ていたディルがぼそっと呟く。
 今思ったけど、ディルって美術愛好家?
「美術品、芸術品は全て、お宝なんだぜ!!もちろん、冒険して得るお宝もある」
「シェリー、秘宝だけがお宝じゃないのよ」
 ディルの言葉に頷き言葉をつなげる。
「ヒリカもお宝好き?」
「そんな今更な事。じゃなきゃディルと一緒にいない。ディルは全般に興味あるけど、あたしはどっちかって言うと宝石とか宝飾品かなぁ」 
 なんて言いながらヒリカは指にはめてる愛のアメジストを見つめる。
「宝飾品でしたら、次の展示室ですよ」
「よし、ヒリカいくぞ!!!」
「おーけー」
 クリシュナの話を最後まで聞かず二人は次の部屋に向かってしまった。
「す、凄いね、二人とも」
「トレジャーハンターの本領発揮って所か?あの勢いになんど付き合わされたか……」
 あたしは一回しかないけれど、ゼンは何度かディルとヒリカの二人に付き合わされてる見たい。
「お二人はトレジャーハントはしてないんですか?」
 先に行ったディルとヒリカを追うように歩き出した時、エディにそう聞かれる。
「うん、あたしとゼンはディルと一緒に旅しているだけなの。ゼンはマルデュースまでアルタロトリー作りに行ったみたいだけど?あたしは基本的にゴルドバまでで……。ほら、ファーレンとゴルドバって近いじゃない。そう言う意味だけじゃないけど、世界中を見てみたいなぁなんて……。コレは建前で本当は、家出なんだけどね」
 なんてちくりとゼンに嫌みを言いつつ(ずるいよね、二人[ゼンとシュウ]だけマルデュースに行って)、最後だけこっそりと言ってみる。
 この二人も家出してるんだもんね。
 理由は分からないけれど。
 家出ってよっぽどの事情がない限りしないものだから、この二人もよっぽどな事情って言うのがあるんだと思うの。
「家出だったんですか……。ココは良いところですから少しのんびりすると良いですよ。王城に泊るのだって全く問題ないですから」
 うん、ありがとう。
 理由、聞かないでくれるところも、快く止めてくれるところも。
「クリシュナ、やっぱりココだったんだね」
 赤毛の髪にエメラルドの瞳の少女が宝物殿の中に入ってくる。
「シャーリィ。どうしたの?」
「どうしたのって、クリシュナ、忘れちゃったの?時間だよ!?」
 シャーリィと呼ばれた少女の言葉にクリシュナは驚く。
「うっかり忘れてた……。ごめんなさい。今から行くね。皆様ごめんなさい。ラピスの宝珠もご案内しようと思っていたのですが……」
「忘れてた僕も悪いよ。シャーリィ、今日は一人?」
「まさか、テオとオズウェルが外で待ってるよ。クリシュナのお迎えだもん。行こう、クリシュナ」
「えぇ。では失礼します。また後ほど。エディ、またね」
 シャーリィに引っ張られるクリシュナは丁寧に挨拶しエディにも声を掛け出て行ってしまった。
「時間って?」
「礼拝の時間なんです。簡単に言えば神娘の仕事です。定期的に行われているんです。だから、クリシュナは僕よりはココに帰ってますよ」
 あれ?
 でも100年近く帰らなかった時があったって言わなかったっけ?
 クリシュナも一緒に家出ってあたしの勘違い?
「家出はクリシュナも一緒でしたよ。本当の所を言うと、礼拝なんて必要ないんです。ボク達の様子を知りたい、その為にそんなことを作り出したって言うか」
 とエディはつまらなそうに言う。
 けど……。
「100年帰らなかったらいくら何でもそうなるんじゃねーの?」
 ゼンの言うとおりだと思う。
「や、やっぱりそうですか?」
 そう聞き返したエディにあたしとゼンは大きく頷いた。
 ココの人達ってクゼル様がなかなか帰ってこないから大騒ぎしてるんでしょう?
 それなのに王子と神娘が一緒にいなくなったら余計に大変だと思うけど?
「それに、王妃様も寂しいんじゃないのかなぁ?」
 昨日逢った時、今思えばちょっとだけ寂しそうな笑顔があったよね。
 あの時は緊張して、それどころじゃなかったけれど。
「……そう……かも……知れませんね」
 あたしの言葉にエディは言葉を切りながら答えた。

 どのくらい長い間宝物殿の中にいたんだろう。
 …ディルとヒリカに付き合って。
 途中、お昼を食べようって事で外に出たけれど、その後も宝物殿に戻ってまた見倒したっていうか。
 もっとも、それだけ見るのも多いんだよね。
 絵画、美術品、宝飾品、歴史的なもの、ディルとヒリカじゃないけれど、いくら見ても見飽きない。
 さすが、エルフ王国。
「ゴルドバの神殿のコレクションも見事だと聞きますよ?」
「マジで?」
 エディの言葉にディルはきらきらと目を輝かせる。
「うぉ〜〜〜見てみて〜!!」
「でも、入れてくれるかしら?」
 うーん、あたしとしては、あんまりゴルドバには戻りたくないんだけど。
 ゼンと目を合わせお互いに再び苦笑を浮かべる。
 友達として逢ってくれるってミアは言ってくれたけど。
 実際どうだか分からないし。
 なんて今は盛り上がってるディルとヒリカには言えないけれど。
 ね。
「そろそろ、クリシュナを迎えに行きませんか?彼女が一緒ならばラピスの宝珠を見ることが出来るんですよ」
 とエディはあたし達を誘う。
「ラピスの宝珠!?」
「簡単に見れちゃうの?」
「クリシュナがいればですけどね」
 もしかして、クリシュナは神娘だから神娘に関係する何かなのかな?
「よし、礼拝堂に行くぞ!!!」
 張り切っているディルを先頭にあたし達は宝物殿を出る。
 外にでて街の様子が変わっているような気がした。
 なんて言うかざわついているって言うか。
「礼拝はもう終わっている時間だと思います。なかなか戻ってこない所を見ると礼拝にきた市民に捕まっているのかな?」
 そうあたし達に言ったエディはその言葉を自分に言い聞かせている。
 そんな感じがした。
 何かが起きている。
 そのせいで街がざわついている。
 遠くから走ってくる金色の髪の少年、彼の目的があたし達だと分かるのはすぐ後の事だった。

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