ラルドエード王国 4・守護聖騎士と神娘
エディが緊張しているとあたしが気がついたのは金髪の少年があたし達の目の前に駆け込んだときだった。
「ヴェルナーっ」
「ごめん、エディっ僕のせいなんだ」
息も絶え絶えに彼はエディに謝る。
「僕が、僕が案内さえしなければっ」
そう彼は言う。
「ヴェルナー、お前は引っ込んでろっ」
「テオ、僕はっ」
ヴェルナーを追ってきた黒髪の少年……テオがヴェルナーを追いやってエディの前に出る。
「エディ、クリシュナが人質になった」
「っ」
テオの言葉にエディは息をのむ。
「最初は全く別の奴だったんだけど、クリシュナが自分がなると名乗りを上げた」
「分かった……すぐに行く」
「アルマさん達にはエリノルが連絡に行ってる」
「オズウェルはいるんだよね」
「あぁ」
「クリシュナっっ」
そう言ってエディは、その場からもの凄いスピードで……初めてあたし達の目の前に現われたときのように去っていった。
「陛下のご友人の方々ですね。突然の事で申し訳ありません。どうぞ、このあたりを観光なさっていてください。街の方には出ないように……していただけるとありがたいのですが」
そう言ってテオはヴェルナーを連れて戻っていった。
「クリシュナ、どうしたの?」
「人質って言ってたよな…」
「……最悪の事態というわけですか……」
突然、シュウが表に出てくる。
「シュウ、最悪の事態ってどういう事」
「神娘が囚われたという事態ですよ。通常の巫女という立場にある者は神に仕える者という意味を得ます。ですが、エルフ神族の神娘に至っては違う。彼女は神の娘という意味を持っている。神の娘が囚われると言うことは最悪の事態なのですよ。だからこそ……守護聖騎士が居る」
神娘を守る存在?
神の娘って?
「そう……。もしかすると聖剣シャインフェザーが見れるかも知れません。行きますか?ディル」
「……それでなくても行くに決まってんだろ。シュウ」
シュウの言葉にディルはそう答えた。
街の中心から少し離れた場所に教会がある。
その前で事は行われていた。
教会の前で囚われているクリシュナ。
そして少し離れた場所にエディやテオ、メリーベルさんの姿も見えた。
すでに一悶着あり今は膠着状態の様だった。
「あいつら……賞金首だぜ?」
クリシュナにナイフを向けている男。
そしてその周囲にいる数人、ディルとヒリカの話では高額の賞金がかかっているグループらしい。
「あいつを賞金首だって認識した奴はおまえらだけじゃないようだぜ?」
ゼンの言葉に周囲を見渡してみればハンターらしき人間が何組が居た。
「一般レベルじゃ幻の王国ラルドエードだけど、ちょっと調べればココに来る手段は簡単に分かる。もっともアトゥマクルに来るだけでも大変だけどな」
「クリシュナ助けられないの?隙がないの?」
「それはないわね。彼らは確かに高額の賞金首だけど、隙がないほどじゃない。現に彼らは陽気にしゃべってる。うまくいけば助けられるわ」
ヒリカの言うとおり、彼らは陽気に何かをしゃべっている。
クリシュナは捕らえられているけれど、ナイフを当てられている訳じゃない、向けられているだけ。
すぐに刺されるという状況じゃない。
じゃあ、助けようよ。
「いえ、不可能です。ただ我々には黙って見ている以外にありません」
「何でだよ」
シュウの言葉にあたしだけじゃなくゼンも納得いっていない。
「見ていれば、分かりますよ。ディルもヒリカも動かないでください。そろそろ、彼らがしびれを切らす……」
彼ら?
もう一度、周囲を見渡せば他のハンター達が動こうとしていた。
「光の矢、狙いの元へ(リヒト・ソ・プフェル) ライトニングアロー」
どこかのハンターが『ライトニングアロー』の呪文を使った。
光の矢は狙いを外さず、賞金首へと向かうはずだった。
「うそ……」
周囲がざわめく。
「無駄なんですよ……。それが故の神の娘……。彼らがエルフ神族と言われる最大の理由………」
シュウが周囲の喧噪にかき消されるぐらいの声はそれでもあたし達の周囲から音をなくす。
「テメェ〜何しやがんだっ」
賞金首の男が怒鳴っているがあたし達には耳に入らない。
「どういう意味だ」
「見たでしょう。魔法は彼女には届かない」
「正確に言えば神娘の周囲の魔法はかき消されてしまうのさ」
シュウの言葉の後に続く声。
「クゼル様っ」
「気を向けて帰ってくればこんな状況とはな」
そう言ってクゼル様はため息をつく。
「クリシュナは大丈夫なんですか?」
「知り合ったか、エディとクリシュナに。クリシュナのことなら心配はない。エディにその気があるのならな」
その気って何だろう。
「けど、クリシュナが居る限り、あいつらには魔法は効かないんだろう?じゃあ、どうすんだよ。矢で狙うってか?それこそ危険すぎる」
「エディが居るから問題ないと言っただろう?」
ディルの言葉にクゼル様はさらりとかわす。
「エディが守護聖騎士だからですか?守護聖騎士って言うのはどういう事ですか?師匠から聞いたことがある……。聖剣シャインフェザーは守護聖騎士しか扱えないと」
ゼンはクゼル様に問い掛ける。
「お前の師匠は何者だ?名のある魔法剣士は数知っている。だがお前の剣はそのどれにも属さない」
「………」
クゼル様の問いにゼンは黙り込む。
「シェリーお前も知らないのか……」
知ってるけど、言わない。
言えない。
ゼンの師匠の事は。
それが約束だから。
だから、何も言わない。
「まぁいい。それより、剣のことシュウにも聞いてないのか?」
「聞いていない」
「そうか……。確かにシャインフェザーは守護聖騎士にしか扱えない代物だ。今言えるのはそれだけだ」
クゼル様はそう言って囚われているクリシュナを見てエディを見る。
「クゼル、帰っていたか」
声がしてその方を見るとアルマさんがいつの間にかやってきていた。
「アルマか。首尾はどうだ?」
「既に完了している。連絡は早かったし、何より賞金首が入ってきているという情報は得ていたからな」
「やはり残りはエディ次第というわけか……」
「あぁ……」
そう言って二人はエディを見つめる。
そのエディはというとクリシュナをじっと見つめている。
「理解していたはずだろうに……」
「理解しているさ。だからこそエディは覚悟を決めた。お前はしなかった覚悟を」
「アルマ……。それを聞くと耳が痛いんだが」
「事実だろう」
な、何だろうこの会話。
クゼル様とアルマさんの会話。
もしかして、クゼル様も同じ様な事を経験したことがあるのかな?
「魔法が効かない。こりゃ、便利だわ」
「どこにでも入り放題って奴?」
「エルフの神娘の噂話は本当だったって奴だ」
そんなうわさ話なんてあるの?
「……まさか…ブラックギルド……」
ヒリカが呟く。
何、それ。
「ブラックギルド。ブラックマーケットに直に繋がっているギルド。噂から裏情報って言うよりも地下情報はそこに行った方が早いわね」
「ガセネタも多数。、掴まされて死んじゃう奴も多数。掴ませて返り討ちに遭う奴も多数。アサシンギルドよりハードだぜ?」
それも……シスアードにあるのよね。
ディルとヒリカが知ってるって言うことはそう言うことだろう。
「売ればどのくらいだ?」
「まぁ、物によるけどな。トエルブス関連なら、間違いなく遊んで暮らせるぐらいだぜ、クゼル王」
「成程……」
ディルの話にクゼル様はため息をつきながら返事をする。
その間も事態は動かない。
賞金首の面々も動けばいいんだけど、クリシュナが居るせいで妙に安心しているのか、どっかりとそこに腰を下ろしている。
唯一気を張っているのはクリシュナとそしてエディだけ……。
他の面々はあたし達も含め見守っているという状況だった。
「エディ。私は大丈夫よ。心配しないで」
クリシュナは笑顔を見せてエディに話しかける。
「クリシュナ……。僕は……キミが……」
「安心して、エディ。大丈夫だから。ハイファ様も、大丈夫なのだから」
「……クリシュナ……」
エディは微笑んでいるクリシュナを見つめている。
ハイファ様って誰だろう……。
「陛下、帰っておられたのですね」
「……ハイファ……」
クゼル様に声を掛けたのはニース王妃だった。
でも、クゼル様はハイファって呼んでいる……。
「いや、ニースだったか?」
「陛下、どうぞ、ラルドエードにお戻りくださいませ。私のことは気にせずに……」
「それは…私の罪だ。お前は関係のない事なのだよ」
「陛下……」
クゼル様の罪?
訳が分からないまま時間だけが過ぎていく。
「父さん、……母さん」
エディがこっちを見る。
クゼル様と王妃様を見つけたらしい。
「それでも、それを望んだ……」
エディがナイフを構える。
「来たれ、光よ。フィシング・リヒト・スクォーブ・ディア・フリューゲル」
そして呪文を唱える。
「魔法か?魔法は効かねえぞ」
賞金首がエディをはやし立てる。
「クリシュナ、今、行く。出よ、聖剣シャインフェザー!!」
その瞬間だった。
光が集まりエディに降りかかる。
そして彼は光の翼を身に纏う。
「……あれは……」
そして、素早くクリシュナの元に向かう。
「クリシュナは返してもらう!!!!」
エディの姿に驚いた賞金首の手からクリシュナを奪い取りそして戻ってくる。
「出動!!」
アルマさんの声に隠れていたエルフ神族の面々が賞金首を取りかかり捕らえる。
「あれが、聖剣シャインフェザー。神の娘の結界を破る唯一の剣。そして神の娘を救い出す唯一の手段」
クゼル様がそう言う。
「だから、触れない。見ることすらも難しい」
「そう……。言うことが出来なくて悪かったな」
「いや、クゼル王が悪い訳じゃねえだろ?神娘を捕まえれば攻撃魔法は全く受け付けなくなる。その結界を解く唯一の手段の剣…というよりアレは魔法じゃねえの?」
「いや、あれは魔法ではなく剣だ。光の刃が無数に翼のようになった物。それがシャインフェザー。あれを実体化させるには相当の魔力がいる。無い者は剣に滅ぼされる」
エディは片膝を着いている。
「あれぐらいなら良い方だ…。どうやらまじめにやっていたようだな」
片膝着いて立ち上がれないのは良い方なんだ………。
「聖剣シャインフェザー……。神の剣か……。神の剣を扱うには神娘に認められたものだけって……さ」
そうゼンが今はもう翼が消えたエディを見ながら言う。
「あの人?」
クゼル様に聞こえないように聞いた問いにゼンは頷く。
「エディ、大丈夫?」
「僕は大丈夫。それより、クリシュナは大丈夫?怪我してない?」
「私も大丈夫よ。怪我なんて無いわ」
お互いを気遣い合ってるエディとクリシュナ。
「あの二人は大丈夫のようだな…」
クゼル様は囲まれる二人を見ながらそう呟く。
「自分の息子を疑ったか?セジェス」
皮肉気に王妃様はクゼル様に問い掛ける。
その様子は柔らかいそれまでの雰囲気とは違う。
アルマさんに『ハイファ』と呼ばれた瞬間に変わった気配に似ている。
「……ハイファか……。疑った訳じゃないさ。ただ、オレの二の舞にはなって欲しくなかったそれだけだ」
「くだらん……。あの時は、私にも原因がある。原因があった。セジェスだけのせいではない」
寂しそうに、王妃様は言う。
「シェリー、紹介しておこう。ハイファ・ガワールだ。オレの妻だ」
えっと……なんて対応した方が良いの?
「昨日はニース・ムシュカとして挨拶していたな。私はこの男のせいで人格が分かれていたと言えば分かりやすいだろう」
「ハイファ……。オレのせいだけじゃないと言った癖に」
「あぁ、そうだったな」
そう言ってハイファ様は笑い、クゼル様は苦笑いを浮かべる。
近くにいるアルマさんはどんな顔をして良いのか分からずに困っている。
「今回は済まなかったな。謝る」
そう言ってクゼル様はあたし達に頭を下げる。
「く、クゼル様っっ。べ、別にクゼル様が悪いわけじゃないじゃないですかっっ」
クゼル様が謝るところ見たこと無いからビックリなんだけど!!!
「この男が頭を下げるのを見ることが出来るのは珍しいぞ」
「ハイファ」
苦虫を噛みつぶしたようなクゼル様に対し、王妃様は心底楽しそうに笑った。
「セジェス、さっきも言ったがここには戻らぬのか?」
「戻ろうとは思っているんだが……この弟子が心配でな」
と王妃様の問いにクゼル様はあたしのことを持ち出す。
あ、あたしが心配ってどういう事?
「この弟子がやっかい事を持ち込んでくれたおかげでゴルドバの巫女姫にも睨まれてしまったんだよ」
やっかい事ってゼンとシュウのこと?!!
それはやっかい事じゃないんですけどっ。
「だからもう少し待ってはくれないか?ハイファ、そしてアルマ。バジルにはどやされるだろうがな」
「オレではなくお前がな」
「分かって居るさ……はぁ」
ため息付くぐらいだったら放っておいてくれたって良いと思うんだけど。
「王がため息をついたのは帰らなくちゃならないと思った事だ。お前が原因ではない」
「そんな訳ではないぞ」
「ならば、独り立ちしている弟子を遠くから見守るのが師匠のつとめではないのか?」
そうそう、王妃様の言うとおり。
シュウの事なんて全然心配ないんだから。
「お前の思ってることと、王妃様が思ってることが全然違うって言うのが面白いよな」
なんてこっそりゼンが呟く。
いいの、クゼル様に追いかけられたら困るじゃない?
「クゼル王がいれば世界中のお宝見放題……?!」
うっディルの目がキラキラし始めた。
「こいつらの宝探しに付き合わんとならんしな」
「クゼル王!!サンキュー」
「私、私、もう一回、勇気のルビーが見たい!!」
「オレも見てぇ〜〜!!!」
クゼル様の言葉にヒリカとディルが盛り上がり始めた。
どうしよう、止められない〜。
頼みはクゼル様を止めてる王妃様だけ〜〜。
「そうか、ならば仕方ない。クゼルは顔だけは広いからな。利用すると良いだろう」
仮にも王様を、利用って。
って、結局クゼル様も一緒なの〜〜〜?
「どうしよう、ゼン」
「何とかなるだろ?、なりたくないって思ってるけど」
シュウが思っていることも伝えてくれる。
そうだよね、シュウはクゼル様とは仲悪いもん。
はぁ、どうしよう。
夜、夕食は回復したエディやクリシュナそしてクゼル様と王妃様との会食になってしまった……。
せっかくの家族団らん(クリシュナもいるけれど)にお邪魔しちゃっていいのかなぁ?
って言うか、相手はエルフ神族の頂点王族なんだけどっ。
気後れするよね、いくらクゼル様が居るからっていったって。
クゼル様、正装してるんだよっ。
なんて思ってたら家族同然のメリーベルさんや宰相のバジルさん、アルマさんも一緒だったので一安心。
夕飯の話題はクゼル様の悪行三昧、素行の数々。
国王になる前のこと、アルマさんやバジルさんと知り合ったきっかけ、その他いろいろ。
聞いてて面白いって言うのもあったけど、この話題で改めてエルフ神族の寿命の長さって言うのを改めて知らされたって感じかな?
クゼル様や王妃様はミアが新従騎士と一緒に先代エルフ王に謁見したときに合ってるんだって(神聖アルゴル暦235年、ラルドエードにゴルドバの巫女来訪。現在は神聖アルゴル暦1431年)。
「エルフの時間は長い。神族はなおさらだ。時が止まっていると感じることがある。だからこそ、オレは旅をしたくなるんだろうな」
なんて事をクゼル様はどこか遠くを見ながら呟く。
でもそれってクゼル様的には満足かも知れないけど、エルフ神族の人からしたら王様が居なくなるって大問題なんじゃないの?
「国王でなかったらそれでも良いかもしれませんが。あなたはエルフ神族を束ねる王だと言うことをお忘れになっては困ります」
案の定、クゼル様の言葉に納得いってない宰相のバジルさんを初めとしたその場にいた人に明日のスケジュールを全て仕事にさせられてしまったクゼル様。
まぁ、自業自得って事で。
クゼル様が仕事で忙殺されてる間にこっそりラルドエードを抜け出したいんだけど、ディルやヒリカはそのつもり無く。
あたしと同じ気持ちのはずのゼンもシュウも、抜け出すつもりは無いみたい。
でも良いのかなぁ?
クゼル様がいて。
「諦めよう?オレ等もさ」
なんてゼンは中にいるシュウにも言い聞かせるようにあたしに言った。
夕食後、解散となり部屋に戻る。
奇しくもあたしとゼンだけ、そして、すぐ側にアルマさんがいた。
ゼンはアルマさんに話がしたかったらしくてクゼル様が早速仕事ということでバジルさんに連れて行かれた隙を狙っていたと言う。
「話ってなんだい?」
「ラルドエードに行く機会があったら、コレを渡して欲しいって頼まれてたんだ」
そう言ってゼンは一つの勲章をアルマさんに手渡す。
「こ、コレはっっ。セジェスは……クゼルはこのことを知っているのか?」
「知らない。クゼル王には言っていない。アルマさんだけに伝えて…いや渡して欲しいってそう言ってたから……」
そう言ってゼンは手渡した勲章に目を落とす。
ゼンの剣の師匠から受け取ったもの。
その紋章はあたしも見たことがあった。
「……ウェルス……」
そう呟いてアルマさんはゼンに問い掛ける。
「キミは、また会う機会はあると思うかい?」
誰にとは聞かない。
言わない。
「オレは一応、渡したって報告しようと思ってるし、したいと思ってる。向こうは報告なんてしなくて良いって言ってたけど、やっぱりそれじゃ気持ち悪いし」
「じゃあ、オレよりキミの方が会う確率はあるだろうな」
そう言うアルマさんはどこか寂しそうだ。
「アルマさんは……どこかの国に出掛けることは無いんですか?」
そうすれば、アルマさんが思ってる人にあえるだろうに。
「コレでも、エルフ王国軍事担当者だからな。オレが出て行けるのはせいぜいゴルドバかマルデュースぐらい……。他の国じゃ警戒されちゃうんだよ」
あたしの言葉にアルマさんは苦笑いを浮かべる。
「もし会ったら伝えて欲しい。場所は作るって」
「それだけで伝わるんですか?」
「伝わらないならそれでも構わない。幸い、オレ達はエルフ神族、時間だけは飽きるほどあるんでね」
そうアルマさんは言った。
アルマさんと別れ、あたし達は部屋に戻る。
「シェリー、お前自分の部屋に戻れよ」
ゼンの部屋に入り込んだあたしにゼンはそう言う。
「寝るまでいたって良いじゃない。一人じゃ寂しいんだもん」
「お前今までどうしてたんだよ」
ため息付いて呆れながら言うゼンにあたしは言う。
「……ゼンとシュウに会ったの久しぶりじゃない。だから嬉しいんだよ?」
ゼンが修行に行って1年、あたしも修行に出た。
両親説得して、おじさんとおばさんに頼み込んでクゼル様の元で修行すること2年。
両親が占い士って事で下地が一応あったからそれで帰ってこられた。
カードマジックを使いこなすのに時間かかったけど。
趣味の占いで持ってたカードが功を奏して、クゼル様がそれをベースにカードを作ってくれたんだよね。
もちろん、その間ゼンと会えるはずがない。
大体、どこにいたかすらも知らないんだもん。
だから、会いたかったんだよ。
帰ってきたら帰ってきたでとんでもないことになってたし……。
「……お前ってさぁ……」
ゼンはため息付いて。
「甘えん坊だと言うことでしょうね…」
シュウは声で困ったって言ってる。
甘えん坊って子供みたいな事言わないでよ。
あたしだって一応は成人過ぎてるんだけど?
「それにしても子供過ぎます。シェリー、自分が女性だと言うことを自覚してください」
してるわよ。
「私たちは男で、あなたは女性なんですよ」
「それぐらい分かってるわよ」
「シュウ、無理だ、こいつには。それ以上に『幼なじみ』がくっつく」
「やっかいなそれですか……」
って二人で納得しないでよ。
やっかいって幼なじみってやっかい?
いいじゃないの?
「シェリー、自分が女性だと自覚していると言い張るのなら部屋に戻って休みなさい。明日、あなたに付き合ってもらいたいところがあるんですから」
シュウがそう言ってあたしを部屋の外に追い出そうとする。
付き合うところ?
「どこに行くの?」
「このトエルブス大陸内です。さほど遠くはないはずですが、それでも歩きます。そして、そこで何が待っているのか私にも分かりません。もしかするとあなたに手伝ってもらうことが出てくるかも知れない」
表に出てきたシュウの表情は相変わらず読み取れない。
いつもは少しだけでも分かるのに。
今日は特別分からない。
「……分かった。でも何時頃?」
あんまり早いとつらいなぁ……。
「起こしに行きますよ」
「……お願いします。じゃあ、ゼン、シュウ、お休み」
「あぁ、お休みシェリー」
「お休みなさい、シェリー」
二人に声を掛けてあたしは隣の部屋に行く。
あたしが泊ってる部屋。
今まで狭かったから、豪華だけどヤケに広くてちょっと寂しい。
シュウが付き合って欲しい所ってどんなところだろう……。
彼の事だからとんでもない所ではないと思うけれど。
何かが待ち受けている、そんな気だけはしていた。