under the sky

  7話 ラルドエード王国 1 神娘と王子  

 脇道に入り、森の奥へと入っていく。
 現われた脇道は結構細くって、人が通る道と言うよりは獣道に近い。
「……クゼル・ライエンが用意した道はとんでもない所でしたね」
 生い茂る草を切り払いながら先頭を歩くシュウが言う。
「シュウが昔入った所は違うの?」
「もっと整備されていましたよ。街道というか…そんなところでしたね」
 ……街道じゃないこの道は一体何?
「もしかしてクゼル王の逃げ道じゃねえの?クゼル王って結構抜け出してる訳じゃん。あの人探していろんなエルフが動いてるって昔聞いたことあるぜ」
 あぁ、言われてみればそうかも。
 ゼンの言葉になっとく。
「ねぇ、ラルドエードってまだ先なの?」
「そうですね……。正確に言えば、ラルドエード内には入ってないっていった方が良いかもしれませんね…。エルフの結界を抜けましたからいつかはたどり着けるでしょうが……」
 頼りのシュウが、道を知らない。
 あたしやゼンはもとより、初めてラルドエードの道に来ているディルやヒリカだって分からない。
 なんか、まだ、迷ってる気分…。
「ーーーーー」
 ふと風に乗ったのか、声が聞こえてくる。
 誰か、いるのかな?
「エディ?」
 木陰から現われたエルフの女の子。
 アッシュゴールドの髪にエメラルドグリーンの瞳、そして額に銀青の印がある。
「どなた……ですか?」
 少し怯えながら彼女は言う。
「……エルフの神娘?」
 ゼン(シュウ)が呟く。
「みこ?」
 そう聞き返そうとしたときだった。
 あたりの気配が一変する。
 気温が下がり、穏やかだった森はどこか薄気味悪さを醸し出す。
「な、何だよ。何が起こってんだよ!廻りの雰囲気いきなり変わったぜ!?」
「ちょっと、怯えてない?」
 ヒリカも感じてる。
 この森が怯えてること。
「ワリィ……、エルフの神娘って言ったからだ」
 誰がとゼンは言わない。
 シュウは彼女がエルフの神娘って事を知ってるんだ。
「お前のせーかよ!!責任とれーーーー!!!!ラルドエードにいけなかったらどうすんだよ!」
「えっと…無理?こーやって身構えてるだけで精一杯みたいだぜ?」
 苦笑いを浮かべながらゼンはディルの追求に答える。
「ど、どういう事?
「彼女は、我々を敵と見なしました」
 遠くまで聞こえない程の小さな声でシュウが出てくる。
 ゼンの通訳だけじゃ埒があかないと思ったのだろう。
「よって、彼女の守護聖騎士が出てきますので注意してください」
 そう言って
「お、オイどうすりゃいいんだよ!!!」
 またゼンの奥に引っ込んでしまったらしい。
「お、オイ……」
 一陣の強い風が吹き少年が突然彼女の前に守るように立ちはだかる。
 遠くから転移してきたんじゃない。
 彼はどこからかものすごい早さで到着したんだ。
 金髪にアズライトブルーの瞳を持つ少年は神娘を見つめて、でも気配はあたし達に見せて彼女に問い掛けていた。
「クリシュナ、大丈夫?」
「エディ……」
 少年の名前を呼んで彼女はあたし達を見る。
「貴方たちはココに何のようだ。普通だったらこの道には入れないはずだ!」
 と少年はあたし達を睨みながら問い掛けてくる。
 ………普通じゃ入れないって言ってたよね……。
 完璧に、クゼル様の裏道だった……よ。
「あ、あたし達はとある人の紹介でこの道に来たの。その人から魔法札はもらったけど入るときに使ったしまったから、証拠には出来ないわ。でもその人のことは説明出来るわ」
 ヒリカがそう言う。
「クゼル様の事言っても平気かな?」
 多分、大丈夫だと思う。
 でも、良いよね、気を使わなくても。
 確かに、ラルドエードの道を教えてくれたのはクゼル様だけど、……裏道教えてくれるとは思わなかったし。
「今はまだ行く時じゃない」とは言ってたけど、「言うな」とは言われてないし。
「あたし達の事説明してなかったわね。あたし達はシスアードのハンター。トレジャーハンターが主。ココへの目的は一応観光」
「札はクゼル・ライエンからもらったんだぜ?」
 ディルとヒリカで説明する。
「クゼル・ライエン……そんなバカな事……」
 少年はディルとヒリカの言葉を信じられないのか呆然としている。
「クゼル様と知り合いって言う証拠はあるわよ。あたしはクゼル・ライエンの弟子。証拠はコレね」
 あたしはバッグの中からタロットカードを取り出す。
「コレは……クゼル様が作ってくださった、あたし専用の魔法具。確認して?」
 あたしはタロットカードを渡す。
 このタロットカードは特殊で……しかもクゼル様オリジナルだ。
 描かれている絵が……だけど。
「75枚、全部渡す必要はなかったんじゃねぇの?」
「そうかもね。でも、大丈夫だと思う」
「理由は?」
 何だろうね。
 ゼンの問い掛けにあたしは分からなくって首をかしげた。
 理由があるとするなら……あの子、誰かに似てる気がして……。
 クゼル様かな?
「………………シェリー」
「どうしたの?」
「いや……。何でもねえ」
 ん?
 何だろう。
「もしかして、シェリー・ヒルカライト?」
 へ?
「クゼル王から聞いています。あなたがシェリーさんなんですね」
 クゼル様、何て言ってるんだろう。
「僕は、エディ・ウーテンドルフです。彼女はクリシュナ・シスプーリ。シェリーさん、こちら、お返しします」
 とエディからカードを返してもらう。
「シェリーの事を知ってるのね。あたしは、ヒリカ・シュルズベリー、こっちがディル・マクマードとゼン・ウィードよ」
「この道を通る方は限定されているので正直驚きました」
 限定……。
 やっぱクゼル様限定って奴?
 な〜んでこんな道をクゼル様は教えてくれたり何かするのよ!
 普通の道教えてくれればいいのに。
「先ほどは驚いてすみませんでした。私は、お気づきの通りエルフの神娘です。神娘と言ってもゴルドバのミア様の用に神に仕えると言うものではないのですが……。でも、良く私が神娘だと分かりましたね」
 クリシュナはゼンの方を見て言う。
 あたしも知りたい。
 知ってるのは…シュウだろうけど。
「そ、それはえっと……その額の銀青の印、それはエルフの神娘だけしか付けないって聞いたことがあるから、それで分かったって言うか」
 そう、ゼンは言う。
「そうだったんですか…。おっしゃるとおり、この額の印はエルフの神娘にしか使われないものです。色はこの大陸でとれる銀鉱石トリスライトで…その中でも稀少な銀青のトリスライトから作られています。この銀青は神聖な色でだから神娘だけしか使われないと言われているんです」
 そうクリシュナは教えてくれる。
 トリスライトって、良くエルフの工芸品に使われてる奴よね。
「そう、白金はよく見るけど、青…その上銀色だもんな。マジで珍しいって言われてる最上級のトリスライトだぜ」
 ディルは目を輝かせている。
 さすがお宝好きだ……。
「皆様はラルドエードに向かわれるんですよね。先ほどのお詫びと言っては何ですが、皆様方をラルドエードまでご案内いたします」
「クリシュナ、いいの?」
「えぇ。もちろんエディも一緒よ?」
「く、クリシュナ……」
「たまには帰るべきだわ。ニース様……いえ、ハイファ様も心配なさってるわ」
「そんなこと……」
「いいえ、確かに心配なさってるわ。帰りましょう、ラルドエードに」
「分かった……」
 クリシュナの説得にエディは頷く。
「では行きましょう。少し歩きますけど」
「え、まだ遠いの?」
「はい。距離はもうちょっとあるかも知れませんね。この森の奥ですので……ココからでしたら、1時間ぐらい?」
 うそ……。
「ま、マジかよ…。クゼル王、なんで普通の道教えてくれなかったんだ…」
「……裏道ってどれだけ遠回りしてるの?」
「……言うの忘れてたけど普通だと、10分足らずだって……」
 ディルとヒリカの言葉にゼンがため息付きながら小声で言う。
 ………クゼル様のアホ〜〜。
「あまり人目に付きたくないのでこのような道を選んでいるのでは?と思うんですが……」
 微妙にフォローしてエディが言う。
「ねぇ、クゼル様ってそう何度も逃亡してるの?」
「え?まぁ、マメですね……」
 困ったようにエディは言う。
 クゼル様……一応王様なんだから、帰ってあげようよ。
「それよりラルドエードに向かいましょう。トレジャーハンターとおっしゃってましたが、人にとっては珍しいものもたくさんありますよ休むのは宿屋では何ですから…王城に案内しますよ」
 エディ、王城って?
「僕はクゼル・ライエンの息子です」
 …………クゼル様の息子?
「そう言えば、言い忘れてましたね」
 とクリシュナはにっこりと微笑む。
「マジ!!!?」
「うっそ〜〜〜あの、クゼル様の息子?」
「スチャラカエルフ王の?」
 エディの言葉にあたし達は驚いた。
 信じられない。
「よく……言われます。でも……一応、立派な、方…ですよ?」
 まぁ、一応……ね。
 言いずらそうにしてるエディの気持ちあたしにもよく分かるわ。
「さぁ、気を取り直して行きましょう」
 クリシュナの言葉にあたし達はラルドエードに今度こそ本当に向かう事になった。

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