6話:トエルブス大陸
トエルブス大陸で唯一外と開いているのが今あたし達が居る港町アトゥマクルだ。
唯一の港であるアトゥマクルは、エルフだけじゃなく普通の人も他に滅多に人の世界に出てこないドワーフなどであふれかえっていた。
「しっかし、すげー人だなぁ」
「元々は、国家法人の母体国家で有った魔道国家トゥルーラの玄関口ですし、今もトエルブス大陸の唯一外と開いているところですからね。ここがエルフやドワーフ等デミ・ヒューマンの約束の地となってからは、余計にココだけが唯一他の大陸との繋ぎの場所でもあります」
シュウがあたりを見まわして驚いているあたしやゼンに説明してくれる。
「それにさ、ここからちょっと言ったところにある場所で工芸市がやってんだよ。そこに来る奴も結構多いぜ?」
とディルも説明を加えてくる。
「結構良いのがあるんだよね」
とヒリカ。
「ねぇ、ディルとヒリカはここに来たことがあるの?」
「あぁ、その市場までだけれどな。本当はトゥルーラの幻のお宝を探しに来たんだぜ?」
「でも思った以上に森が浸食してるのよ。奥まで行ったら出てこれないって言われたんだよね」
「でまぁ、工芸市でうろついてたら結構珍しいものがたくさんあってさぁ、それにドワーフの住処もすぐ側にあるからエルフの工芸品だけじゃなくってドワーフの工芸品も手に入んだぜ」
とディルは楽しく説明してくれる。
「トエルブス大陸の森のほとんどはエルフの領域です。その為に森の領域が多いんでしょう。ただ南方の岩場から地下域に掛けてはドワーフの域です。デミ・ヒューマンの地と呼ばれるだけはあります」
補足のようにシュウは説明を加えた。
アトゥマクルの港町のなかを散策してあたし達は食堂に入る。
「そう言えばどうやってラルドエードの中に入るんだ?」
ゼンがディルに聞く。
確か、ラルドエードって許可ないと入れないんだよね。
「私も、疑問に思ってたわ。ラルドエードに行くって言ってるけどディル、いつの間に許可もらったの?」
ヒリカがディルに質問する。
二人の質問にディルは不思議そうな顔をする。
……何、その顔。
「は?持ってる訳ねえじゃん。シュウ、お前は入れるんじゃねえの?」
「いえ、私は入れませんよ」
あたし達が座っているところは角のところで、ゼンの隣、背後はあたし以外壁になっている。
こういうところだとシュウは平気で出てくるみたい。
「どういう事だよ、シュウ。オレはてっきり、お前がエルフの許可かなんか簡単に持ってるもんだと思ってたぜ?」
「ディル……最初に一つ訂正させてもらいますが、ラルドエードに入るにはエルフの許可というものはいりません。王国の領域は周囲を空間が結界により断絶されています。その結界を解除し中に入れる者はエルフだけと言うことです。まぁ、エルフの同行者がいなければ中に入れない……。まぁ裏を返せば許可という形になるのかも知れませんが。まぁ、そこまで事は難しく考える必要はない、ラルドエードに向かうエルフに共に同行させてもらう。という手を取るのが無難でしょう」
そう言えば、クゼル様が言ってたっけ。
ラルドエードに向かう森は案内がなければ永遠に彷徨うことになるって。
それが、断絶された空間なんだ。
「さっきも言ったけど、オレ、お前が入れる手段を持ってるもんだと思ってたぜ?」
「それはありません。忘れたのですか。私の力の源といいましょうか」
「え……」
シュウの言葉にあたし達は戸惑う。
力の源……魔王ゼオドニールの力を吸収して得た力だよね。
「エルフ神族と魔王軍の戦い。通称、神魔戦争。その終了前後、ゼオドニール・ピエヌ・シャハガール滅びる。まさか、その時に?」
ヒリカの言葉にシュウは頷く。
「お前、神魔戦争に参加してたのかよ」
ゼンが表に出てきてシュウに問い詰める。
周囲に聞かれては不味いと分かっている為なのか怒っているからなのか、声は抑えてある。
「シュウ?」
あたしは、何も聞けないし言えなかった。
第一、何を言えばいいか分からない。
「言っていませんでしたね……。済みません」
静かな笑みを浮かべながらシュウは言う。
それ以上聞いてくれるなと言っているようで、寂しい。
「まぁ、いいさ。後で教えろよ?」
もっとも、ゼンが表に出るとすぐに変わるけどね。
そう言えば、
「ねぇ、ラルドエードに入るには大丈夫なの?」
神魔戦争の首謀者であるゼオドニール・ピエヌ・シャハガールの力を持ってるって事はちょっと不味いんじゃないの?
「それは大丈夫ですよ。気付かれることはまずあり得ません」
そ、そうなのかな?
ミア達に気付かれたよ?
「巫女が気付いたのは彼女たちが『世界の盾』だからですよ」
世界の盾、ゴルドバの巫女と二人の従騎士を指す言葉で、彼らが永遠の命を持つことからそう言われる。
それに対をなすのが
「世界の剣であるエルフ神族で気付く者は皆無と言っても良いでしょう。クゼルが良い例ですよ」
世界の剣、エルフ神族のこと。
そう言えば、クゼル様はエルフ神族の王様だったのよね……。
「だから、心配する必要はありません。表に出てこなければ私がいるということは分かりませんよ。大丈夫ですよ、シェリー」
そう言って安心させるようにあたしを見て微笑む。
さっきのような寂しい笑みじゃなくってちょっと安心したけれど……。
「でも、ホントにくるくる変わるねぇ。表情見てだけでも面白い」
とヒリカがゼン(シュウ)の顔を見ながらそう言う。
まぁ、あたしですら、時々思うんだから、『ゼン』=『シュウ』って言うことを知ったばかりのヒリカからすれば、飽きないかも知れないね。
「見せ物じゃねえんだけどな」
「顔つかれないの?」
「いや、別に。昔からだし。ほら、それにこいつ基本無表情だし」
言えてる。
シュウの表情ってそんなバリエーションないもんね。
微笑んでるか無表情で怒ってるか、話してるか。
「ゼン、シェリー、ヒリカ。私を怒らせたいのですか?」
やっぱり、無表情にシュウは怒ってる。
そう言う訳じゃないんだけどね。
ただの、感想って言うか、思ってることって言うか……。
「はぁ」
た、ため息付くのやめて〜〜。
「あなたに対して付いた訳じゃないですよ、シェリー」
へ?
「じゃあ、何に対して?」
聞こうとする前に
「やはりココにいたか」
とあたし達の席やってきたのはクゼル・ライエン様。
「クゼル様どうしてココに?」
なんで居場所が分かったんだろう。
シュウの魔力を追っかけてきたって事?
魔法使ったっけ?
「ゴルドバの外で転移の魔法陣を見つけた。あの魔法陣は雲上に向かう魔法陣。そして向こうからココに来るにはもう一度その羅針盤を作動させるか強制転移しかない。デュナウスはどうかは知らんが、アルミアはココへの転移呪文しかしらない。羅針盤の転移はココになるからな…。予想は出来ていたさ」
そうクゼル様は言う。
あれ?
今、デュナウスとアルミアの名前が出てきた。
デュナウスは魔王って事で置いといて
「クゼル様ってアルミアと知り合いなんですか?」
「古い友人だ」
そう、クゼル様は寂しそうに言う。
「アルミアに、転移の呪文を教えたのはあなたでしたか。一介の人間が聖古グラフィス語を解し唱えることは特殊な血筋がない限り不可能です。あなたが呪術を施した以外考えられない」
「そう、オレが教えた。どうやら元気だったようだな」
クゼル様は懐かしむ様に言う。
……アルミアは、何で聞いたんだろう。
いつかあの羅針盤で来る人がいると思ったのかな。
それとも、あの羅針盤は昔稼働したことがあったのかな?
「さぁな」
疑問に思って聞いてみたら笑ってはぐらかされた様な感じ。
「それより、お前達、ラルドエードに入りたいんじゃなかったのか?」
「そーっす!!よく分かったっすね」
「そりゃ当然だ。ラルドエードに用がなければいつまでもココにとどまっていない。この奥の工芸市に用があるんだったらさっさと行けばいいし、それにディル、お前はシャインフェザーが欲しいんじゃなかったのか?」
……クゼル様にまで言ってたの?
「クゼル様なら知ってるじゃん、聖剣シャインフェザー」
でもエルフの宝でしょう?
「幻のって言うのが付くんだぜ?いくらオレでも盗んでまで欲しいって思ってる訳じゃねぇよ」
「確かにディルはトレジャーハンターだけど、見て喜びたいって言うのもあるんだって。盗んでまで欲しくないって言うか。まぁ、あたし達は泥棒じゃないわけだし?」
ヒリカの話を聞いて思い出した。
そう言えば、クゼル様のエルヴィンロード、ゼンのアルタロトリー、ロシュオールのリオス・アルダーク、ランのシャインロイエルを見れて喜んでたんだっけ。
「見てみたいか……。それは難しいかも知れねぇな」
幻だから?
「それ以外にもある」
「まぁ、問題ないですよね。クゼル様も向かわれるんでしょう?案内お願いできますか?行くときエルフが一緒じゃないと迷ってしまうんですよね」
「断絶空間に入ってしまうからな」
何?その断絶空間って。
「ラルドエードは一応エルフ神族の住まう神域だからな。エルフ以外の余計なモノが入らぬよう仕掛けを施しているだけだ」
そう言ってクゼル様はシュウに一枚の紙を渡す。
「コレは、今度は魔術札ですか。ディルと良い、クゼルと良い、私をなんだと思ってるんでしょうね」
そう言うシュウの声はどこか楽しそう。
「まぁ、気にすんなよ。久々にこういうの見れて結構楽しんでんじゃねえの?」
「それほどでもありませんよ」
そうシュウは素っ気ない風を装ってゼンの言葉に返事を返すけど、あたしはゼンの感想に同意するわ。
こんなに楽しそうなシュウの声久々に聞いたわ。
不満なら今みたいな「ディルもクゼルも〜」なんて事言わないはずだもんね。
「その札を断絶空間で作動させれば通常の空間に入れる様になる」
まだ見入ってるシュウにクゼル様は説明する。
成程って思ったけど、クゼル様がこの札をくれたって事は、
「クゼル様は、ラルドエードに向かわれないんですか?」
「まだ、入るわけにはいかんのだよ」
そう言って用があると言ってそのまま去っていった。
「どういう事かなぁ?」
ヒリカの疑問に私も首をかしげる。
知ってるとすれば、シュウだと思うけど……何か聞きづらい。
なんだろうな……。
シュウが魔王って言うことを知る前の方がいろいろ聞いていたような気がする。
さっきの『神魔戦争の時の事』もそうだし……。
何でだろうな……前の方がいろいろ教えてくれたような気がする。
うーむ。
「シェリー、どうしたんだよ。難しい顔して」
ゼンが考え込んでいたあたしの顔をのぞき込んでいた。
「ねぇ……隠すこと、多いよね」
あぁ、あたし何言ってるんだろう。
言いたくないことだってあるだろうって分かってるのに。
最低……。
「まぁ、確かにそうだよな」
って、フォローしないの?ゼン。
「魔王って言ってから、言えなくなったこと、多いしな。言えないことはこいつが今までいろんな事やってきたせいで、シェリーには言いたくても言えないことだらけなんだよ」
「ゼン、フォローするつもり有るんですか?」
ないと思うよ。
「事実だろ?」
ほらね。
「それは……そうかも知れませんが」
「だから、もうちょっとだけ、待ってて欲しいんだってさ。言う覚悟って奴?ないんだと。お前もシュウが魔王だって知ったばっかだろう?もうちっと落ち着いてからの方が良くね?」
「……うん……それはそうだね」
ゼンの言うこと分かってる。
聞いたのはずっと前じゃなくってつい一昨日だ。
その前の日に魔王じゃないかって疑われて違うって否定したんだけど、やっぱり本人がそうだって肯定して。
それでもそうなんだって納得して、理解して。
簡単に受け入れているようだけど、もしかすると混乱している部分も有るのかも知れない。
シュウの態度も、ゼンの態度もいつもと変わらないから、良く理解してないだけで。
「シェリー、いつか、ちゃんと言います。だから、もう少しだけ、待っててもらえますか?」
考え込んだあたしにシュウは静かにそう言う。
ちゃんと考えてくれてるんだよね。
大丈夫、待ってるよ。いつか教えてくれるときまで。
「約束しますよ」
ありがとう、シュウ。
次の日、あたし達はラルドエードに向かうことになった。
あの後、すぐに向かっても良かったんだけど、あたし達がたどり付いた時間はもうエルフの工芸市は終わってしまった時間でディルが明日に延ばそうと言い出して。
別に急ぐ旅でもないわけだし、それでもまぁいっかぁと言うことになって市が始まる時間に合わせて向かうことになった。
アトゥマクルの港から出ればすぐ側に森が迫ってくる。
いつからか森が広がったと言われていて、ココにあった魔法国家トゥルーラは廃墟となった後、森に埋もれたという。
今かろうじて残っているのが、アトゥマクルから出ている一本の街道から通ずる一角だけ。
そこで市がやってるんだって。
その場所がルモイ。
当時あった国家法人ルモイ・カミシホロの発祥の地と言われている場所。
市が始まった時間らしく、露店がいっぱいあってつい……
「ヒリカ、コレ可愛いー!!!」
「シェリー、コレも可愛いー!!
ヒリカと露店巡り。
おいしそうなモノとか、可愛いものとか。
トエルブス大陸の唯一の交易所なので、工芸だけじゃなくほか農産物や海産物も多い。
たくさんのデミ・ヒューマン達がいて見てるだけで面白かったりするんだけど、露店見なきゃもったいないんだよねぇ。
「好きだよなぁ、シェリーもこういうの見るの」
だって楽しいもん。
「ねぇ、魔法具だけじゃなくってアクセサリーから洋服、日用品、家具、お総菜からデザートから、いろいろあって全部見ても楽しいじゃない。飽きないよ?」
うんうん、ヒリカの言うとおり!!
「でもさぁ、お、すっげー、このレプリカ。え?うわぁ、コレもすげー。ヒリカレアもののレプリカ、こいつは本物より価値あるんだよなぁ。まぁ見たい気持ちも分かるけどさ。お、おぉぉぉぉ!!こいつもシスアードじゃ高く売れるんだぜ?でさぁ、えっと……アレ見に行ってもいいか?」
……ディルはキョロキョロ、うろうろ……。
見たくて仕方ないのは、ディルの方な気がするな……。
「ディル、お前、ラルドエードに行きたいんじゃねえの?」
「行きたい!!!」
ゼンの問いにディルは即答する。
「じゃあ、そろそろ行こうぜ」
「私も、じっくり見たいのを我慢しているんですよ」
ゼンの言葉の後を付いてシュウが言う。
凄く、底冷えするような声で。
「あ、わりぃ……」
「ココから、どこかへ飛ばされることはありません。ココは約束の地。強制転移の力は『約束の地』以外という条件下で発生します。ちなみに、この地から何かを排除するには世界の盾の力が必要です。だから帰りもこの地を通りますよ。その時に思う存分見ればいいと思いませんか?確かに、昨日は市場の開始時間に合わせてという意見に賛成しました。ですがこの分では何時間も居座る可能性が高いでしょうね」
静かな怒りを讃えたままシュウは言う。
あぁ、シュウの意見に賛成だわ。
既に、市場に入って……2時間は見てるんだもんね。
「そ、そうだよな。帰り、たくさん見ようぜ!」
何とか、そこから離れることに成功してあたし達は森の中に入っていく道を歩き始める。
「でも、どこがラルドエードの断絶空間だって分かるの?」
素朴な疑問だよね。
ラルドエードに行くのは良いけれど、クゼル様はくれた魔法札を空間のところで使えって言ってただけだし。
「やっぱ、迷うしかねぇの?シュウは、分かんねえの?」
「えぇ、私は案内されて入りましたので、空間は分からないんですよ」
それって迷うしかないって事?
「一番早いのはそれでしょうね。断絶空間は一定の空間の繰り返しですのですぐに分かると思いますよ」
とシュウは言う。
「って言うか……もう迷ってる気がするんだよね」
やっぱり?ヒリカもそう思う?
「そうですね……断絶空間に入ったかもしれません」
「お前なぁ、そう思ったんなら、すぐに言えよ」
「お言葉ですが、ディル、今も言いましたがあの時はエルフの案内で入りましたので断絶空間に入るのは初めてなんですよ」
ふと思ったけど、シュウは神魔戦争の時どっちだったんだろう。
やっぱり魔王軍側?
エルフの案内でって言うんだから、エルフ側なのかな?
それにしては、クゼル様と仲違いしているような。
「で、どうすんだ?」
「その前に私たちが本当に断絶空間に入り込んだのかを確認したいですね。どこかに目印を付けてもう一度付けて先に進みましょう」
断絶空間ならループしてるわけだからまたその目印を見つけることが出来るって事ね。
シュウの言葉に納得したディルが近くにあった木に『印』を付ける。
いつの間に買ったのか、さっきの市場で売っていた布織物を縛り付けていた。
「よしっと」
「ディル、いいの?」
「目に付いた奴買っただけだしさ」
「じゃなくって、それトゥールがクララにあげたいって言ってた奴じゃないの?」
「どうせループ空間なんだからまた戻ってきたときに回収すれば問題ねぇよ」
結局、その布織物を目印にすることになったらしい。
先に歩き出したゼンを追って隣に並ぶ。
「シェリー」
「何?」
並んだあたしの名前をシュウが呼ぶ。
「ラルドエードから出たとき、話しますので、聞いてもらえますか?」
シュウが、何を言おうとしているのかすぐに分かった。
「神魔戦争の事か?」
「そうですね……」
ゼンの問いにシュウが答える。
「シェリー、それで良いか?」
「うん、いいよ。有り難う、シュウ」
ラルドエードで何か起きるかも知れない。
今ふっとそんなことを思った。
何か変わるのかも知れない。
変わらないかも知れない、起きないかもしれない。
単なる不安なだけでそう思っただけならそれでいい。
でも漠然とした不安だけが何故かわき起こった。
「シュウ、大丈夫だよね?」
「聞くのが不安ですか?」
「それは大丈夫。そうじゃなくって……」
「何かあっても、あなたは私とゼンで守ります。不安になる必要はありませんよ」
そうシュウは言った。
「お、あったぜ」
20分ぐらい歩き続けたとき布織物が見つかった。
「でも、それ本当にディルが付けたもの?」
疑問に思って聞けばそれは一点物の布織物で
「同じモノなんてないんだぜ」
との事だそうです。
「ディルって一点物って言うのにも弱いのよねぇ」
ヒリカがそうしみじみ言う。
何度か騙されたこともあるんだって。
「一点物だってレアなお宝じゃん」
「まぁね」
それは言えるかも。
「それでは、断絶空間を抜けます」
シュウが札を掲げ
「リッチ ダイ ダンヘルト ウァン ウァード エンスティド エルド ヒュア ウァシェル ナトジング ヴィド 開け 約束された地に続く扉を」
呪文を唱える。
すると、クゼル様からもらった札がシュウの手を離れ道の端である森に向かう。
止まったかと思うとその札は差し込んでいる光の中に消え、今まで木々があり獣道しかなかったところに人が通れるような道が出来ていた。
その道はもっと奥に続いている。
「この先がラルドエード……」
「急ぎましょう、ココで立ち止まっている間に札の効果が切れます」
シュウの言葉にあたし達は小道へと入っていった。
この先にラルドエードがある。
エルフ神族の王国が……。