under the sky

  5話:雲上のアルミア  

 夕暮れのゴルドバ。
 人が夕飯の買い物をしているのだろうか、商店街はにぎわっている。
 野菜や果物や、内陸部にもかかわらず新鮮な魚介類。
 魔法技術が高いからそんなことも出来るんだろう、本当にたくさんの物が並んでいる。
「おーい、シェリー!!、ゼン!!」
 ゴルドバの街を歩くあたし達の背後から声がかかる。
「……」
 止まる?と聞こうと見上げたゼンはただまっすぐ前を見てそのまま進むから、あたしも止まらないで進もうとしたんだけど……。
「だーーー!!!無視してんじゃねぇよ!!」
 そう叫んだディルが前に回り込んできたから立ち止まる羽目になった。
「何先に行ってんだよ、おまえら!!」
「だって……」
 ディルの問い掛けにそう答えたけれど、その後なんて続けていいか分らなくて悩む。
「この先どうするんだ?おまえら」
「この先?別に、特に考えてないぜ?親父の追っ手から逃げるのには変わりないけどさ」
「だったら、さっき話した俺の方につきあえよ」
 ディルの方?
 あぁ、七つ石探し。
「悪い話じゃないと思うけど?」
 とヒリカも追いついて聞いてくる。
 二人ともさっきのことなんてなかったように言ってくる。
 気を遣ってくれてるんだね。
 二人とも、有り難う。
「シェリーどうする?オレ達はシェリーが良いのなら構わないけど」
 と、ゼン。
 オレ達って事は、シュウも良いって事よね。
「うん、いいよ」
 たいした用事もないわけだし。
「じゃあ、オレとヒリカはこの街にあるゴルドバ・カムイに行ってくるからさ」
 ゴルドバ・カムイ?
 って確かただの酒場じゃ……。
「酒場じゃなくってハンターギルドなんだよ。ま、そこに知り合いが居るんだけど前々から頼んでおいた物を受け取ってくるんだ。そんなわけだから、宿探し任せた!!!」
「お、おい、勝手に!!!」
 ゼンに何かを押しつけて呼び止めるまもなくディルとヒリカはゴルドバ・カムイへと向かっていった。
「ったく、勝手に押しつけやがって」
 愚痴るゼン。
 ハンターギルドが酒場?
「そうですよ、知らなかったんですか?」
 押しつけられた何かを見つめながらシュウが言う。
「シュウ」
「何ですか?」
 そう返事されて、あたしはなんて言って良いのか分らなくってうつむいてしまう。
 大丈夫?平気?
 どっちも相応しいとは思えなくって。
「ふぅ」
 息を吐く音がして、シュウの声が響く。
「全く、クゼル・ライエンは貴女に何を教えたんでしょうねぇ。酒場がハンターギルドである理由は、どこの街にもあるからですよ。その土地の情報得るにはその土地に住んでいる人の方が遙かに詳しい。そしてもう一つ。情報を交換しやすい環境にあるからです」
 情報交換しやすい環境……。
 納得したわ。
「じゃあ、宿屋探そう?大部屋で良いよね。その方が安くなるし」
 そう言いながらあたしは歩き出す。
 隣に気配がなくって後ろを見たらゼンがため息をついていた。
「どうしたの?ゼン」
「どうしたのではないでしょう?」
 そう答えたのはシュウ。
「何が?」
「少しは自分が女性だと言うことを考えなさい」
 そうお説教するようにシュウは言う。
 考えてるわよ?
「だったら男と同室で止まることに問題があると言うことを貴女はもう少し考えなさい」
 そんなこと言われたって……。
「だってディルよ?ヒリカも一緒。それシュウとゼンはあたしの幼なじみじゃない。何か問題ある?」
 そう言ったあたしにシュウは片手で顔を隠しため息をついた。
「な、何よ」
「何でもありません」
「そ、何でもねぇの」
 そう言って先にすたすたと歩いていってしまった。
 シュウ、ゼン!!
 何よぉ、あたし何か間違ってる?
 あたしは師匠に言われたことを実戦しようと。
 いくらディルがおじさんから100万ダラーせしめたからってお金って大事なものよね。
 なくても平気だけど、あればあっただけ良いよね。
 だから、節約するのは良いことだと思うんだけどなぁ。
「シェリー」
 ゼンは数歩先で止まりあたしが後を着いてきてないことに気がついたのかあたしを呼ぶ。
「何?」
「宿、探すんだろ?」
 そうどこか困ったように言う。
「うん」
「日が暮れる前に決めちまおうぜ」
 そうだね。
 ゼンの言葉に頷いてあたしは彼に駆け寄る。
 どこにしようかと考えていたらいつの間にか決めたのかゼンは迷いもせず一軒の宿屋に入っていく。
 ちなみに、ゴルドバは色々な人それこそ貴族、王族から貧乏人まで一種最後の望みを神託に望みを掛ける人達ばかりなので安価な宿から高級ホテルまでホテルの質には事欠かないところだったりする。
「だからと言って、安いところに泊まるつもりはありませんよ。下手に安い宿に泊って何かあったりしたら目も当てられませんからね」
 決めたのは、シュウらしい。
「貴女はヒリカと同じ部屋ですからね」
 どうあがいても全員大部屋は却下らしい。
「コードを確認しました。少々お待ちください」
 カウンターで受付をしてそう言われる。
 コードって何?
「ディルからカードを受け取ったんです。それにはハンターギルド所属のハンターのコードが書かれています。ゴルドバはハンターギルドとも提携を結んでいますからこうやってコードを登録しておけばギルドからの情報がすぐに手にはいるんですよ。そして、ココにいることをディル達も把握が出来るようになります」
 へぇ。
 結構大がかりな事やってるんだね。
「……別に大がかりな訳でもないですよ?ハンター・ギルドであるカムイがあちこちに点在しているからこそ出来たシステムですし」
 でも、そう言えば、何でカムイって言うの?
「……シェリー?」
「何?」
「知らないんですか?クゼル・ライエンはその事も貴女に言っていなかったんですか?」
 その事って何だろう。
 言われてみればクゼル様から学んだ事って…サバイバルとかしかないかも?
「はぁ」
 シュウは思いっきり息を吐いた。
「旧時代、新パルマ暦といいましょうか、各国家が団体法人を作っていたことは知っていますね?」
 呆れながらも教えてくれるらしいシュウの言葉にあたしは頷いた。
 今から1000年以上も昔この世界の暦は新パルマ暦と呼ばれていた。
 その時代に世界には7つの大国に分かれていたという。
 特化した能力ごとの団体法人が国ごとに合ったという。
 今でも現存しているのは聖道王国であるベラヌール法皇が治めるベラヌール聖道教国。
「その内の一つハーシャで特化したのが魔法。いわゆる黒魔法と呼ばれるものです。ハーシャは魔法使い同士の連絡網及びハンターギルドも取り仕切っていました。その本部と言われるのがシャナ」
 シャナって今もあるよね。
「はい。今もベラヌールの南、旧ハーシャの首都である場所にシャナはあります。そのカムイという地名だと言うらしいですが、その地にハンターギルドが合ったために、総称にカムイという名前を付けたと言われています」
 成程、それでカムイって付けるようになったってわけ?
「そうですね」
 あたしの言葉に満足したようにシュウは頷く。
「ゼン・ウィード様。お待たせいたしました。コードの認証が終了いたしました。こちらが部屋の鍵となります」
 丁度終了したのか受付の人が鍵を渡してくれる。
「じゃ、部屋でディルとヒリカが戻るのでも待つか」
 鍵を受け取ってゼンがそう言う。
「そうだね。………ヒリカが来るまでそっちの部屋にいてもいいよね」
 一人で、部屋にいるのは寂しいよ?
「来るまでだかんな?」
 ダメもとで聞いてみればそう言葉が返ってきた。
 それもダメって言われたらどうしようかと思ってたんだよね。
 部屋に入って数分後、案外早くにディル達は部屋にやってきた。
 たくさんの食べ物を持って。
「どうしたんだよ、それ」
「いや…飯まだだったろ?食堂で食べるのもありかと思ったんだけど、せっかくの情報、誰かに見られるのも何だしなぁと思って、調達してまいりましたぁ〜〜」
 どこから借りてきたのか、ヒリカが押すワゴンにはたくさんの食べ物がのっていた。
 ご飯物とかスープ類とか、飲み物とか、おかずとか、サラダとかデザートとかフルーツとか。
「ありすぎじゃねぇの?」
「まぁまぁ。細かいことは気にしないで、飯にしようぜ」
 そう言いながらディルはテーブルに食べ物を並べていく。
 結構な量になったけどまぁ、たまにはこんなのも悪くないよね。
 ゼンと目配せしながら頷いて、食事となった。
「光と闇の七ツ石、どこまで知ってる?」
 唐突にディルが口を開く。
「…どこまでって、そんなにないよ。魔族や神族が作ったって所まで」
 世間一般で言われている物はそれだ。
 だから光と闇と言われている。
 七ツ石だけど正確な数は知られていないんだよね。
 あって、十四個。なくて七個。
「でも、七個って言うのはあり得ないと言われている。なぜなら、「希望のダイヤ」と「怠惰のダイヤ」がアルから」
 ディルの言葉に頷く。
 でも、そこを何でかって言うところまでは知らないんだよね。
「ゼンとシュウは?」
 ディルはあたしの隣に座っているゼンに目を向ける。
「オレは、シェリーと同じぐらい」
「私は、ディルよりは知っているかもしれませんし、知らないかもしれません。とお答えしておきましょう」
 とシュウははぐらかす。
「何だよ。まぁ、知らないシェリーのために詳しく説明してやるよ。光と闇の七ツ石は神の祝福と魔王の呪いを掛けられた石のことで石の種類としては七種類ある」
 それは、知ってる。
 ダイアモンド、エメラルド、サファイア、ルビー、パール、アメジスト、オニキス。
「そう、現在確実に現存しているのはガナディール王国の王冠にはめられている勇気のルビー。ただ一つ」
「一個だけなの?」
「あぁ、一つだけ。そして、ガナディールに『勇気のルビー』が現われて以来歴史上に対となる『憤怒のルビー』が現われてきていない。それで7つって言う奴もいるけど、本当のところは分らない」
 ディルの説明にシュウは頷く。
 ガナディール。
 ベラヌールの南。
 その昔ハーシャ王国があった南端にガナディール王国は位置している。
「現物見たことあるけど、赤く輝いていて、見る人全てを勇気づけるあの力強さは並大抵の物じゃない。『勇気のルビー』と言われるだけはあるぜ」
「アレを見て、ディルはトレジャーハンターになろうって思ったのよね」
 思い出すかのようにヒリカは言う。
「あぁ、七ツ石、全部そろえるのは無理だろうけどさ。1個ぐらい欲しいって思ってたら知らない間にトレジャーハンターになってたんだよな……」
 しみじみと言うディルにヒリカは笑みを見せながら頷く。
「っと、話戻すぜ?光と闇の七ツ石で現存が確実なのはルビー以外に二つ。ダイアモンドとアメジスト。ダイアモンドの方は数十年しか存在してない王国にある」
 数十年しか存在してない王国?
「確実なんですか?」
「それを言われたらつらい。場所は確定してないが国名はレオニート王国」
 レオニート?
「知ってる?」
「レオニート……いえ、心当たりがありません。おそらく私が眠っていた200年の間にあったか……私が生きていた以前の頃でしょうね」
「あぁ、レオニートが公式文書に出てくるのは神聖アルゴル暦767年。この年に国王がゴルドバの巫女に面会に来ている。その時に王の胸に輝いていたのが希望のダイアモンドだったっていう話だ。それ以降、レオニートは忽然と歴史上から消えている。魔族に滅ぼされたって考えるのが妥当だろう。だが、それ以降怠惰も希望も現われていない。そこにあるのは間違いないってオレは思ってる。で、もう一つ」
 とディルは直径10センチほどのメダルを取りだし、テーブルに置く。
 中央には銀色で縁取られた杯。
 ベラヌールの紋章である金色の聖杯に似てる。
 そして聖杯の周囲にはなにやら言葉が書かれていて所々に魔力を持つ宝石の欠片が埋め込まれている。
「旧時代にとある王国の魔法使いが大地を作り上げた。それを空中に浮かばせて魔法使いはそこで自分だけの空間を作ったって言う……」
 それと、コレがどういう関係なんだろう。
「だが一人だけじゃ寂しいって言うんでいろんな人を呼ぶために2種類の転移方法を考えた。一個がその国にある転移装置。もう一つがこの羅針盤!!」
 コレ羅針盤なの?
 ただのメダルじゃないの?
「ラヌーラで作られたものですね」
 メダルを手に取り見つめていたシュウが言う。
「お、詳しいじゃねえか」
「この中央に描かれている銀の聖杯。コレはラヌーラ王国の紋章ですから」
 そう言いながらシュウはメダルをテーブルに置く。
 ラヌーラ王国なんて国あったっけ?
「ラヌーラ王国は、昔からあった国ですよ。ただ神聖アルゴル暦800年代の後半に魔王ゼオドニールに滅ぼされていますが。今、廃墟になっているエカルマ。あそこはラヌーラの首都でした」
 ゴルドバがある中央大陸、ベラヌールやハーシャがある東の大陸コーラルス大陸
 中央大陸から見て西に位置するリスブルク大陸。
 そのリスブルク大陸の丁度中央付近に『エカルマ』がある。
 そこは魔族に滅ぼされた廃墟。
「そこで作られたメダル……」
 何の変哲もない普通のメダル……見る人によっては高価そう?
「まさか、ラヌーラに、転移の魔法陣が存在していると言うんですか?」
「あぁ。街の中心部に転移の魔法陣がある。エカルマは確かに廃墟なんだが、あまりの瘴気のせいでエカルマの中心である王城と森には入れねぇが周囲の街には入れる。知ってるか?そこはトレジャーハンターがごろごろ居るんだぜ?」
 と楽しそうにディルは言う。
 ヒリカの話じゃ少し前にエカルマに行った事があるそうだ。
「ハンターだらけのエカルマだけど、魔法陣は誰も作動させることが出来なかった。まぁ、だからこそ、メダルがギルドに流れてきたっていう理由でもあんだけどさ。シェリーお前、この文字が読めるか?」
 とディルはメダルに書かれている文字を指す。
 えっと……普通の魔法呪文でもないよね。エルフ語に近いの?
 一応クゼル様がエルフ王だから、エルフ語だけは読めるようにしたんだけど……。
 古代エルフ語じゃあ、分んないかも。
「シェリー、古代エルフ語も現代エルフ語も文法は一緒ですよ。一部言葉が違っていますが」
「じゃあ、こいつは何なんだよ。お前の言い方じゃエルフ語でも古代エルフ語でもないんだろ?」
 ずっと聞いていたゼンが我慢できなくなったのか表に出てきた。
「そうですね。コレは聖古グラフィス語です。魔道国家であった古の聖グラフィス王国で使われていた言葉です。上級呪文の一部に聖古グラフィス語が使われているのもあるんですが」
「あぁ、あたり。こいつは聖古グラフィス語だ。うちのギルドマスターがこの文字を読めてまぁ、使うこと出来ねぇんだけど、コレの行き先、使い方が分ったんだ。行き先は最初に言ったとおり雲上。で、いつだったかある魔法使いが住み始めた。そいつの名前はデュナウス・エーベルト」
 デュナウス・エーベルトって聞いたことある。
 確か女の子さらってたって言う魔王じゃなかった?
「魔王エーベルトですか…」
 名前を聞いたとたんシュウは難しい顔をする。
「知り合い?」
「いいえ。名前は知るぐらいですよ。確かに、彼なら持ってる可能性がある。色欲のアメジスト。女性をむやみやたらにさらっていた彼に相応しい七ツ石ですね」
 ……な、なんか言葉に刺がない?
「そんなことないですよ?まぁ、実際、彼がアメジストを手にしたという話も残っているのは事実ですし」
「あぁ、オレもそれを考えたんだ。まぁ、行ってみる価値あるとおもわねぇ?雲上だし。もし七ツ石が空振りだとしても何らかのお宝はあるだろうし」
 あってもなくても良いと思っているのかディルはやっぱり楽しそうに言う。
「で、私にこの呪文を作動させろっていうわけですか…」
 あ、そうか。
 雲上に行くにはこの『聖古グラフィス語』を唱えて作動させなくちゃ雲上には行けないんだ。
「まぁ、そんなとこ?一発で聖古グラフィス語だって分ったシュウならコレ作動させられるだろう?」
 ディルの言葉にシュウは頷く。
「よし、そうと決まれば、明日は雲上!!!待ってろよお宝ちゃん」
「ディル、七ツ石のアメジストってどれだけ大きいのかな?勇気のルビーって大きかったよね」
「それも明日のお楽しみだぜ?ヒリカ」
 盛り上がってるなぁ。
 でもディルとヒリカ、すごく楽しそう。
「最初はどうなるかと思ったけどさ、お宝探しって楽しそうだよな」
「そうだね」
 ゼンの言葉にあたしは頷く。
「のんきに言ってられるのも今の内かも知れませんよ?雲上は何があるかわかりませんから」
 そっか…気を引き締めないとね。
 と言うわけで、いろいろあった今日の疲れを取るために次の日は準備の日としてその次の日にあたし達は雲上に向かうことにした。

「準備はいいですか?」
 シュウが問い掛ける。
 ゴルドバの街の外。
 あたし達は人気のないところまでやってきた。
 転移の魔法がどれだけの影響を周囲に及ぼすかが分らないからだ。
「まずは準備ですね」
 そう言いながらシュウは円を描く。
 転移範囲を決定するためのサークルで、それの内にいる人を転移の対象とするためだ。
 呪文の施行者が中心に立ちあたし達はその周囲の円の内側に立つ。
「それでは始めます。ウムディ エレディン デイェ ウォデェア ヒムエルイスト……」
 シュウの流れるような呪文が始まるとサークルから光があふれる。
「天と大地 光と闇 空間を繋ぐ扉 運びゆけ 大空の大地へ」
 聖古グラフィス語の後あたし達がよくしゃべっている言葉が聞こえそして光に包まれたかと思うと気付けそこは大地の端。
 端という言葉が相応しく、あたしの後ろには大地がない。
「雲上の大地」
 ゼンがそう呟く。
 その言葉の通り大地の下に雲が見える。
 雲の切れ間から青い海。
 あまりの高さに驚いて周囲を見てみれば一面には草原が広がっており、さほど遠くないところに城らしきものが見える。
 高いところにあるはずなのに空気はそれほど薄くないような気がする。
 コレを作った魔法使いの結界でも効いてるのかな?
 それに風もそれほど強くない。
 さわさわと音を鳴らしながら風が草原を駆け抜けていく。
「すっげー、ここが雲上の大地」
 ディルが声を上げる。
「マジで無理かと思ってたんだけど、上位魔法を使えるそれこそエルフ王とか魔王じゃなくっちゃ絶対来られないような場所に………。サンキュ、シュウのおかげだな」
「いえ。それに礼を言うのはまだ早いんじゃないですか?ディル、貴方の本当の目的は?」
「あぁ、七ツ石のアメジスト、張り切って探すぜ!!!」
 ディルはシュウの言葉に力を入れる。
 その時だった。
「ディル、お城の方から誰かが来たよ」
 ヒリカの言葉に城の方を見てみると、確かに人影がこっちに向かってくる。
「ま、まさか。デュナウス・エーベルト?」
「あれはどう見ても女性です。デュナウス・エーベルトは男ですよ」
 ディルの言葉にシュウは冷静にツッコミを入れる。
「うわぁ、人が来るのって久しぶり。エカルマの魔法具で転移してきたのね」
 肩に掛かるぐらいの赤毛の髪を特徴的にくるんと外に巻いた……だいたいあたしの年と同じぐらいの女の子がやってきた。
「……えっと、何でオレ達が魔法具で転移したって分るんだ?魔法陣だって可能性あるだろう?」
 やってきた女の子に戸惑いながらもゼンは問い掛ける。
「だって、魔法陣だと、城内に直接入るんだもん」
 とその女の子は言う。
「魔法陣が直接繋がるって訳か…」
 納得したようにゼンが言う。
「で、どこの誰?で何しに来たの?」
 彼女からしてみたらあたし達は突然の侵入者であり久しぶりの来訪者なのだろう。
 彼女の方が気になるけれど、侵入者であるあたし達が名前を言うのは先だと言うわけで、
「オレは、ディル・マクマード。こっちはヒリカ・シュルズベリー、シェリー・ヒルカライトにゼン・ウィード。一応シスアードって知ってるか?そこのスイーパーっていうか。ハンターって言うか。ここに来たのはあるお宝を探しに来たって言うか……」
 あたしとゼンもディルと同じトレジャーハンターになってる。
 まぁ、しょうがないよね。
 ココに来た理由をはっきり言えないのも。
「シスアード、知ってるわ。商業都市よね。お宝って?ココにはいろいろあるけれど」
「え?光と闇の七ツ石の一つで……アメジストなんだけど……」
 あっけらかんに言う彼女にディルは恐る恐る聞く。 
「知ってるわ。案内してあげるわね。あ、自己紹介がまだだったわよね。私は、アルミア・ハーヴェ。一応、この城の住人」
 と彼女、アルミアは城を指さしながらにっこりと微笑んだ。

 アルミアが案内してくれる城内部は豪華に飾られているけれど、彼女が入った部屋は派手な装飾とかは全くなく、落ち着いたシンプルなインテリアでまとまった部屋だった。
 それでも、かなり広い部屋だけど。
「ねぇ、アルミア。一人でココに住んでるの?」
 そんな訳ないと思いながらも疑問をアルミアにしてみる。
 魔王エーベルト、会わないならその方が良いような気がするし。
「一人じゃないわ。二人で住んでるの」
 そう、アルミアは質問に答えてくれる。
 やっぱり、魔王エーベルト……。
 なんて言えるはずもなく。
「恋人か何か?」
 なんて無難な答えを投げかけてみる。
「恋人?デュナウスが?まさか。違うわよ」
 とアルミアは思いっきり否定する。
 今、デュナウス……って言ったよね。
「もう、そんなことよりアメジストよね。今持ってくるわ。別の部屋にあるの」
 そう言ってアルミアは集まっているテーブルを離れる。
 部屋を出て行くのかと思っていたら突然立ち止まりあたし達に向く。
「あのね、この部屋から絶対出ないようにして欲しいの」
 と突然のお願い。
「いきなり、どうしたの」
 普通、人の家の中を歩き回るって言うことはしないよねぇ。
「デュナウスってやつが何かするからか?」
 鎌を掛けるように質問するディルには答えずに
「お願いね」
 と言ってアルミアは部屋を出て行く。
「別に、何か魔法トラップとかされてるって訳じゃなさそうだぜ?」
 と唐突にゼンが言う。
「ねぇ、なんで魔法関係の説明をゼンがしてるの?」
 さっき魔法陣の時もそうだったよねぇ。
「この城にいるのが、デュナウス・エーベルト、魔王エーベルトだから。面識なくても気配を見せたら何してくるか分らない……ってさ」
 とゼンがシュウの言葉を代弁する。
「旅してく間、こんなこと多分何度でもありそうだな」
「まぁ、今までとあんま変わりないぜ?『オレ』の事知らない奴にはオレで通してきたわけだし。
 ゼンの言うとおり、シュウのこと知らない人には、ゼンが話してきた。
 でもさぁ、魔法の解説なんて、ゼン大丈夫?
「あのなぁ、一応、シュウが言ってることオレが言ってるだけだから問題ないって」
 苦笑いを浮かべてゼンが言う。
 まぁ、人格は違うけど、同じ人間なんだから、大丈夫なんだよね。
「お待たせ」
 丁度いいタイミングでアルミアが戻ってくる。
 その手にあるのはビロードの布張りがされたの小さな箱。
「光と闇の七ツ石の『アメジスト』ってコレよね」
 そう言いながら箱を開けると大きなアメジストの指輪があった。
 甘い深い紫色の綺麗なアメジストの指輪。
 アメジストの大きさはウズラの卵ぐらい。
 大きくてちょっとびっくり。
「触っても良いか?」
 ディルの言葉にアルミアは頷く。
 柔らかい布をバックから取り出しディルはそこに指輪を置く。
 上から、右から、下から左から。
 いろんな角度から見つめため息をつく。
「宝石ってさ、何でも大体そうなんだけど。色の濃い方、傷がないもの、大きな方が価値があるんだ。こいつの色はものすごく色が濃い。傷も全然。大きさもある。宝石の価値としたら上級品だぜ?」
「デュナウスがくれた物にしてはまともだったのね」
 魔王エーベルトからのもらい物?
「そう、いつもは変なものしかくれないんだけど……唯一まともみたい」
 それほど、感動もしてないのかアルミアは淡々と呟く。
「本物の様だぜ」
 ゼンが呟く。
「分かるの」
 それって本物の『光と闇の七ツ石』って事?
「あぁ、内部にある魔法容積が大きい。闇の力って言うよりも、聖なる…光の力の方が強い。ディル、こいつはどうやら闇『色欲のアメジスト』じゃなく光『愛のアメジスト』の様だぜ」
「おぉおお、マジでか〜〜。そこまでは分かんなかったぜ。すっげー、さすが!!!」
 ディルが喜びのあまりゼンの背中を叩く。
 そっか、シュウなら分かるってこういう事だったんだ。
「ねぇ、コレ欲しいの?」
 ディルの興奮ぶりをじっと見つめていたアルミアは聞いてくる。
「え?」
 アルミアの言葉にディルは止まる。
「どうしたの?」
「いや、まぁ、欲しいんだけどさぁ…」
 と、ディルは困ったようにあたし達の方を見る。
 見られても困るよねぇ。
 って言うか、これ貰ったものなら……あたし達が貰って良いのかなぁ?
 恋人??かもしれない『デュナウス』から貰ったものなんだよねぇ。
「欲しいなら、あげるわよ」
「え!!!」
 アルミアの発言にあたし達は全員驚いた。
 いいの?
「良いも悪いも、別に私はこんな物欲しくないし。珍しくまともなものだけど、私には必要ないもの……」
 寂しそうにアルミアは言う。
「アルミア……あんた、ここに……」
 そうゼンがアルミアに何かを言おうとしたときだった。
「それを持って早くこの城から出て!!!」
 何かに気付いたのか、アルミアは突然慌てだしあたし達に帰るようにせき立てる。
「アルミア?」
「帰って来ちゃった……」
 その言葉であたし達は悟る。
 どこかに行っていたらしいデュナウス・エーベルトが戻ってきたのだと。
「急がないと不味いの?」
「そう。デュナウスは私に誰かが近づくことを極端に嫌がるの」
 アルミアがそう答えた次の瞬間だった。
「アルミアーーーー!!!」
 と飛び込んできた男の人。
 金髪の髪に浅黒い肌にアメジストと同じ紫色の瞳を持った人はアルミアに抱きつく。
「デュナウス、うるさい」
「誰こいつら」
 そう言って、彼、デュナウス・エーベルト?はあたし達をにらみつける。
「デュナウスには関係ないでしょう?離れてよ」
 手を突っぱねてデュナウスからアルミアは離れ、そして睨む。
「関係なくない。こいつらはオレがデュナウス・エーベルトの屋敷だってしってる訳?」
「そんなの知るわけないでしょう。いい加減にしてよ。彼らはあたしが招待した人なの。デュナウスが何者かなんて関係ないのよ!!!」
「アルミアぁ〜〜」
 彼女の言葉をきついと感じたのかデュナウスは泣き出しそうな声を上げる。
 ……デュナウス・エーベルト、魔王エーベルトって言うけれど、なんだかイメージが違うような気がする。
「だから、デュナウス、いい加減出て行ってよ」
「そう言うわけにはいかない」
 突然デュナウスはあたしに近づく。
「お前だ」
「えっ」
 突然、デュナウスはあたしの耳を掴む。
「てめぇ、シェリーに何すんだよっっ」
 ゼンがデュナウスの手を掴み無理矢理離す。
「デュナウス、彼女になんてことするの?」
 アルミアがデュナウスに文句を付ける。
 その間も彼はあたしをにらみつけていた。
「このピアスからシオドニール・シュバイクの気配が凄くするんだよ。お前は何者だ?」
 ピアス、もちろん、それはシュウから貰ったもの。
 そんなこと言えるはずがない。
「コレは、オレがやったもんだよ」
 あたしを背中にかばいながらゼンは言う。
「シェリーが魔法使いになるって言う。それのためのお守りのためにやったもんだ。シオドニール・シュバイクの気配なんてよくわかんねぇよ」
 そうゼンは言う。
 うまく、ごまかせたか分からない。
 でも
「そーか」
 デュナウスは疑いながらも引く。
「ま、悪いことは言わねぇよ、そのピアスは外した方がいい。やったお前には悪いけどさ。こいつに残ってる気配、魔力でお守りになるって思ったお前の勘は悪くないぜ?だが、人が悪すぎる。シオドニール・シュバイク。消えてから結構立つが奴のことを覚えてない奴がいないとも限らないぜ?オレみたいにな。こいつを持ってる限り、いろんな奴に言われる。それでも良いのか?狙われてもおかしくないんだぜ?」
 そう言うデュナウスの言葉。
「心配してあげてるのね」
 アルミアが言うとおり、どう聞いても心配してくれているようにしか聞こえない。
 アルミアも思いがけないのか驚いている。
 魔王エーベルト、思ったよりも悪い人ではないような気がする。
「ありがとう、心配してくれて」
「べ、別に心配してる訳じゃねぇよ。気になるからな、何も知らないでそれ付けてんだし」
 デュナウスは照れたのか顔を真っ赤にして言う。
 何も知らないで……か……。
 どっちかって言うとそれはあたしの台詞だ。
 知らないのは彼らの方。
 でも言わないし、ピアスは外さない。
 ゼンとシュウがくれた大切なもの。
 あたしはシュウを、ゼンを守るために魔法使いになった。
 だから、何を言われても、狙われても
「平気だから。せっかく貰ったもの、大切にしたいから外さない」
「お前っ」
 コレはあたしの決意。
「一応、忠告はしたぜ」
 うん、分かってる。
 あたしの思いを分かったと返事するかのようにゼンがポンとあたしの頭の上に手をのせる。
 見上げればゼンが微笑んでいた。
「じゃあ、改めて。コレ、貰ってくれる?」
 そう言ってアルミアが示すのはもちろん『アメジスト』。
「あ、アルミアぁ、それは!!!」
「デュナウス、うるさい。行きましょう」
 わめくデュナウスをそこに文字通り止めて(もしかして彼女も魔法使い?)アルミアはあたし達を外へと促す。
「いいの?」
 受け取ったヒリカがアルミアに問い掛ける。
「いいの。ホントに、こんな物貰っても嬉しくないの。『光と闇の七ツ石』なんて」
「世界中のコレクターが探してるものだよ?」
 ヒリカの言葉にアルミアは首を横に振る。
「コレは、闇の『色欲のアメジスト』だけど」
 そう、アルミアは言う。
 あれ?さっき、ゼンっていうかシュウがこれは『愛のアメジスト』って言ったよねぇ。
 それに、なんか闇には見えないんだけど。
「でも、闇よ。デュナウスがそう言ったの。だから闇」
 寂しそうにアルミアは言う。
 それをまるきり信じているのかアルミアは言い切る。
「アルミア、いいのか、あんたココに縛られてて。時間と、場所に……」
 ゼンが問い掛ける。
「気付いたの?ゼンって、魔法剣士だよね。それ、アルタロトリーでしょう?」
「あんたは魔法使いだろう?」
 自分の事はちゃんと誤魔化してゼンはアルミアに言う。
「まぁね。……あのね、私がデュナウスと逢ったのは魔王ゼオドニールが滅ぶちょっと前」
 え??
 そんな前?
「驚いた?でも、本当のこと。それからずっとココでデュナウスと二人きり。時々フレイアが来るけれど、でもほとんどデュナウスと二人きり。あぁ、フレイアって言うのは友達ね。ワインレッドの髪できれいなのよ。……私ね、デュナウスと居られるのが嬉しいの。……魔王エーベルトって呼ばれてるの知ってる。でも、きっとそれは私のせいね」
 悲しそうにアルミアは言う。
 魔王エーベルト、女の子をさらう魔王……。
 アルミアをさらった魔法使いデュナウス・エーベルト。
「ゼンの言うとおり、縛られてるのは本当。私はこの地を離れられない。でもそれでも良いと思ってる。デュナウスは寂しがり屋なのよ」
 アルミアは悲しそうにでも嬉しそうに言う。
「なぁ、やっぱこいつは貰えねぇよ」
 ディルの言葉に頷いて持っていたヒリカはアメジストを渡す。
「どうして、こいつは色欲のアメジストじゃねぇ。愛のアメジストだ」
「んん、いらないの。必要ないから」
 アルミアはそう言ってアメジストをヒリカに握らせ
「ラウム ドゥクレ・アン・デェリイスト・ウォデェア エレディン。大地と天 光と闇 ふたたび開け、彼らを約束の大地へ!!」
 呪文を唱える。
「アルミア、それは!!!」
「またね。いつか」
 ゼンが持っていた羅針盤から光があふれ、来たときと同じように転移をしていた。

 気がついたらすぐ近くに森がある海岸だった。
 港街もすぐ近くにある。
「……良かったのか。こいつ、持ってきて、。『愛のアメジスト』なんだろ?」
 ディルはアメジストに目を落として呟く。
「アルミアに最初に渡ったときは、色欲だったと思いますよ…」
 シュウが呟く。
「どういう?」
 意味が分からなくて首をかしげる。
「光と闇は同時には現われない。それは一つのことを示唆しています。そして、一つの仮定としてあった」
「同じ石で、聖なる力が強ければ光へ、魔の力が強ければ闇へって事?」
 ヒリカの問いにシュウは頷く。
「元々、そのような事は言われていたのは事実です。ですが調べようがなかった」
「あぁ、確実に分かってるのが光の勇気のルビーだけだから…ってことか」
「そう言うことですね」
 デュナウスは魔王だったからアルミアに渡った時は『色欲のアメジスト』だった。
 アルミアの思いがなかったら、もしかしたら『色欲のアメジスト』のままだったのかも知れない。
 もしかしたらだから本当のところは分からないけれど、『色欲のアメジスト』から『愛のアメジスト』に変わったのがアルミアの思いからだとしたら良いなって思う。
 だから、持ってきて良かったのかって思うのだけれど。
「デュナウスは物でアルミアの気を引こうとしてたのかもね。だからアルミアは欲しくなかった。ちゃんとアルミアの思いはデュナウスにあるのにね。いつか気付いて欲しいな、アルミアのちゃんとした思いに」
 そう空を向いて言ったヒリカの言葉にあたし達は頷いた。
「それより、ココどこだ?ディル、知ってるか?」
 ゼンの言葉にディルは首を横に振る。
「私の予想が正しければ、『約束の地』でしょう」
 それってアルミアの呪文の中の言葉でしょう?
「約束の地……聞いたことあるぜ。エルフにとってって聞いたことがある」
 エルフにとって?
「聖古グラフィス語は古代エルフ語の元と言われています」
 へぇ、知らなかった。
「世界中のエルフにとっての約束の地とはエルフ神族が住まう地を指します」
 それって、まさか。
「トエルブス大陸……ラルドエードがある?」
「おそらく」
 うそぉ〜〜。
 中央大陸から空へ、そして中央大陸から南の方にあるトエルブス大陸ってどれだけ、移動してるのよぉ〜〜。
「マジでかぁ〜〜シャインフェザー!!聖剣シャインフェザー探しに行こうぜ!!!ラルドエードに」
 と、ディルの言葉で次の目的地はエルフ神族が住むラルドエードに行くことになったけど、なんだか不安なのはあたしだけ???

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