4話:ゴルドバの巫女とその従騎士
神殿の奥の方から二人の男女が抜け出してくる。「今のうちだっ」
「ありがとう!!!!やっぱり、君は話が分かるわぁ、お礼に、好きな本『2冊』買ってもいいわよ」
強気な感じを受ける女性の言葉に彼女を守るように立つ騎士(その割には帯刀していないけれど。そんな風に見える。)は喜びに顔を輝かせる。
「マジで??」
「いいわよ。あなたが好きな勇者物買ってもいいわよ。堅物ランに聞かせるのも悪くないわね」
「……ミア…もしかして八つ当たり??」
「……ロシュ…それは言わない約束よ」
女性…ミア…のどことなく冷たい笑顔に男性…ロシュ…は、やれやれと行った感じにため息をつく。
「あ、ロシュ、見てみて、屋台でてるわ」
「ミア様、これ食べてください」
とミアに差し出されるその屋台の看板商品。
「ありがとう。あ、おいしい。ロシュ、ロシュも食べる」
「?いいのか、ミアっ」
ロシュの言葉にミアはニッコリと微笑む。
「ランに見つからないようにね」」
「……任せろっっ。ミア、あっちにも行かないか?」
「良いわねぇ。ロシュに任せるわ」
そう、ミアが言った次の瞬間だった。
「ラン様も、こちらをお召しになりますか?」
「ありがとう、後で頂こう。私は、あの二人を追わなくてはならないので」
とランがでてくる。
「げっランっ!!」
「ら…ラン早いわね」
「早いではありません!!ミア様。あなたはこの街の聖巫女なのですよ?それをふらふら出歩くなど問題です。ロシュオールっお前もだ!!!。ミア様を連れ出すなんてもってのほかだ!!分かってるのか?それでも、お前は従騎士か!?」
とランはミアとロシュオールに説教をする。
この街の…いつもの風景がそこに現れていた。
ゴルドバ中央の神殿はさすがに出入りが激しい。
ここはゴルドバを、世界を守護する巫女様のおられる所。
そして巫女様が神託を下ろし、望むものにそのお告げを告げられる所。
巫女様は世界を守護するために永遠の生命をもっておられる。
その従騎士も同意。
そう言えば、私奥宮には入った事ないなぁ…。
「無くて、当然だ。奥宮に入れるのは巫女がお許しになった者のみ。今から行く所は奥宮と表宮の間にある謁見の間だ」
と、クゼル様。
なるほどね、だからあたしは入った事ないのね。
聖殿の中央部、謁見の間につく。
ここは実は一般人は立ち入り禁止で、聖殿関係者や許可を得た人しか入れないらしい。
あたし達がいるのはクゼル様のおかげ。
「クゼル様」
と謁見の間にいた女の子がクゼル様の名前を呼ぶ。
ワインレッドの髪にアメジストの瞳。
どこか作り物っぽい女の子があたし達を出迎える。
「ユエ、巫女はおられるか?」
「はい、今お呼びします」
と女の子は巫女を呼ぶために奥に向かう。
あたし達は入り口付近にいるようにとクゼル様にいい、クゼル様は謁見の間の中央に向かう。
そしてユエが先導して出てきた3人。
……???
…あれ?なんか…知ってる人達に…似てる……。
「ただいま報告に参りました」
「クゼル殿、ご苦労であられた」
クゼル様の言葉に金髪で碧眼の人が答える。
「で、結果はどうだったのかしら?」
巫女らしいフォレストグリーンの髪にエメラルドの瞳の女の人がクゼル様に聞く。
「シオドニール・シュバイクの力が復活したのは事実のようです」
「……そう…」
クゼル様の言葉に、巫女様は目を伏せる。
「……、クゼル王、ようですって事は、確認してないのか?」
「……魔力の発動は、確認してますよ。あなたも確認しているでしょう」
クゼル様の言葉に、栗色の瞳と髪の人がうなずく。
「力だけと考えても、可能か?」
と、金髪の人が、クゼル様に聞く。
………。
知らないんだ…よね…。
ゼンの中にシュウがいるって事。
ちらっと、ゼンを見上げる。
巫女様は気付くのだろうか…、シュウがいるって事…。
ちょっと…やだな。
そしたら、どうなるんだろう。
「大丈夫?」
ヒリカがこっそりとあたしに言う。
不安そうにしていた事にヒリカが気がついたのかもしれない。
笑顔でうなずくけど……。
クゼル様は言ってしまうんだろうか…。
俯いて考え事していたら、不意に影が掛かる。
「やっぱりシェリーね」
「へ?」
顔を上げればそこには巫女様………やっぱり知り合いにしか見えない。
「…私よ、ミア」
「…やっぱりミアなの?」
「何?最後にあったのは2週間前なのに、もう忘れたの?」
…とミア?巫女様?はいたずらっ子のように微笑む。
……って事はミアの隣にいる金髪碧眼はランでもう一人がロシュオール??
「どういう事!!!、ミア、あたし、ミア…様が巫女だなんて知らないっ」
「そうね、言わなかったもの」
とあっけらかんにミア様は言う。
「シェリー、あたし達に対して『様付け』はやめてね」
「だって、っっ」
いくら何でも、巫女様を呼び捨てなんて無理だよぉ〜〜〜。
クゼル様まで呆気になってこっち見てるし!!!!
「ダメよ。これは私の命令」
なんてにっこり言わないでよう!!!!
「シェリー、ゴルドバの巫女と知り合いだったのかよ」
「あたしが聞きたいっっ」
もう、何で巫女と従騎士だって黙ってるのよぉ〜〜〜。
「……うわ〜〜〜」
突然、声を上げるディル。
その様子はとても喜んでいるって言うか、興奮しているって言うか。
「ちょ、ディル、どうしたのよっ」
「見てみろよ、ヒリカ。従騎士の腰に下がってるヤツ!!!聖剣シャインロイエルにリオス・アルダーク!!!マジで見れるって思わなかったぜ」
「マジ?リオス・アルダークって、『アルタロトリー』のオリジナル!!!???」
「マジマジ!!!」
ディルの興奮が…ゼンに移った。
「こいつが珍しいか?」
そういってロシュオールが腰に差してある『リオス・アルダーク』に手をかける。
「あぁ、『アルタロトリー』を持つヤツなら、大抵は珍しいだろう?」
「…信じられねぇ……。幻って言われてたあの『リオス・アルダーク』。今はない魔法国家のスペルナイトマスターが作らせた最高級品。魔法抵抗がほとんどない『オリハルコン』で精製されてるその剣!!!。…あんたがスペルナイトマスター『ロシュオール・ダルハート?』」
「今は、ミアの従騎士だけどな」
ディルの興奮する語りの後に問い掛けられたロシュオールは苦笑いしながらうなずく。
「それに、『聖剣シャインロイエル』といえば!!!聖王国ベラヌール法皇を守護するために作られた聖騎士団の団長に与えられた剣で!!無くなったって聞いたけど…『ランディール・ハイリゲン』が最後の持ち主って」
ランもロシュオールの様に苦笑している。
「すげーーーーーーーーー。今日一日で3つもお宝見ちまったぜ」
3つってロシュオールの剣と、ランの剣と…クゼル様の剣…っか…。
さすが、お宝好きのディル。
「…って結局それ?」
ヒリカはあきれたようにディルに言う。
「仕方ねぇじゃん?一応、トレジャーハンター。お宝って言うヤツは手に入る入らずに関わらずチェックつけとくもんだぜ?」
「分かってるけどね」
ディルの言葉にぼやくヒリカに一同は笑いに包まれる。
「おまえも、アルタロトリー持ってるんだよな?」
不意に、ロシュオール…様ってつけじゃダメなんだよね…がゼンに聞いてくる。
「あぁ、オレのも一応アルタロトリー。『リオス・アルダーク』見たいにオリハルコンを使ってるわけじゃないし…ただのミスリル銀だし…」
「一応、見せてくれねぇか?『リオス・アルダーク』のその後を見てみたい。ただそれだけだからさ」
ロシュオールの言葉にゼンは『アルタロトリー』を見せる。
「…ミスリルだけじゃねぇな。これは…」
「ファーレン一帯でしかとれない、ゲーラの石。正しくはヴィスザイト。稀少鉱石の一つね。ミスリル銀と同様の魔法抵抗が少なくって、ついでに耐久性も上がるわね」
と、ミアが関心している。
って言うか、珍し物好きがプラスされてるお宝好きのディルも目を輝かしてる。
知らなかった。
まぁ、ヴィスザイトってはそこら辺に転がっている石だったよね。
「純鉱石は森の奥に行かなくちゃないんだけどな。最初、転がってる石持ってったら純鉱石を持って来いって怒られた」
「よく、おじさん許したね。森の奥行くの」
森の奥は聖域と呼ばれていて、めったに入る事は許されていない。
ファーレンのヴィスザード祭りの時だけだった気がする。
「…まさか、許すわけないじゃん」
って事はこっそり??
なんて聞いたら苦笑しながらうなずいた。
もしかしてシュウがけしかけたのかな?
あたしの思ってた事がゼンには分かったのか、笑顔ではぐらかす。
「…ヴィスザイトで耐久あげて、ミスリル銀で抵抗をなくすか…。おまえのオリジナルだな?」
じっくりと見ていたロシュオールはゼンに問い掛ける。
「まぁ、一応。カスタムって事で」
「ふ〜ん」
ロシュオールは納得したのかゼンに剣を返す。
そして次の瞬間あたし達を驚かせた。
「ミア、こいつと一戦交えてもいいか?」
と、ゼンをにらみつけながら言った。
「おい、ロシュオール、どういうつもりだ!!」
「どういうつもりも、今聞いた通りだぜ、ラン。こいつと戦ってみたい」
「だからって、神族であるおまえに、人である彼がかなうわけがないだろう」
「それにはオレからハンデをつける。まぁ、純粋に剣技だけで戦いたい。ただそれだけだよ。ミア、いいよな。試合って事で訓練所でならいいだろう?」
そういってロシュオールはミアを見る。
いくら何でも、無理だよ。
ゼンの中にシュウが入ってたとしても、多分、今の状況じゃシュウは出てこない。
どうしてシュウがここに来たがらないのか分かんないけど、(ミアが神族で巫女って事関係ないと思う。だいたい、ファーレン自体が聖地だもん)魔王であるシュウがゼンの中にいたって、肉体は人そのもので。
ロシュオールはゴルドバの巫女であるミアの従騎士って事で、永遠の生命を持ってる。
「ロシュオール、無茶すぎるだろう」
「ミア」
ランの言葉を無視して、ロシュオールはミアに問い掛ける。
「………構わないわ」
少しだけ考えてミアは答える。
「そのかわり、ロシュオール、あなたには従騎士としての力の封印を施します。そして魔法の封印を。ゼン・ウィード、あなたにも魔法の封印を施させてもらうわ。
「…それじゃ、そいつのハンデがないんじゃないのか?」
ミアの言葉にゼンは不満げに聞く。
ロシュオールの封印するのは分かる。
でも、ゼンの言う通り、ゼンの(正確に言えばシュウの)魔法まで封印しちゃったら、ミアの従騎士であるロシュオールにゼンが敵いっこないわよ。
「ハンデの意味はあるわ。ロシュにするのは従騎士としての封印よ。彼は魔法国家のスペルナイトマスターだったって言うのは知ってるわね。それも封印する。スペルナイトマスターは魔法を補助として使用する魔法騎士の事。ロシュは単純にあなたと『剣技』だけで戦いたいと言っているの。それでも不満?」
「納得、出来ねぇけど。魔法国家に代々伝わるって言う剣技って言うのも気になるしな。その条件で構わないですよ」
ミアの言葉にゼンは楽しそうに答える。
「シェリー」
そして、あたしの名前を呼ぶ。
「何、ゼン」
ゼンの方に顔を向けると、ゼンは顔を近づけてきた…。
って……何???
「…中にいるって事、多分、気付かれてる」
そして小さな声であたしに言う。
『中にいるって事』ていうのは…シュウ以外いないわけで。
「気付いてるのって…ミア?」
視線だけをミアの方向に向ける。
その様子はミアも他の皆も気付いていない。
もう、ゼンとロシュオールの試合の行方に興味が移っているからだ。
ディルなんか『リオス・アルダーク』が実際に使われるところが見れて嬉しそうだし。
「どうして分かったの?」
「……ロシュオールって奴が、オレにと試合がしたいって言ったとき。巫女もオーケーしただろ?オレは何でって思ったけど。こいつが」
手で髪の毛をかき上げるように顔を隠し、一瞬だけシュウの表情が表に出る。
それってすごくまずいんじゃぁ…。
「…だからって…ロシュオールはミアの従騎士だよ?大丈夫なの?」
いろんな意味を入れてあたしはゼンに聞く。
「さぁ〜どうだろう。」
皆が移動するのであたし達もついていく。
この神殿内には、巫女を守る従騎士の他にゴルドバを守護する神殿騎士団というのがあって、その騎士の訓練所になっている所に今から向かうらしい。
「正直言ってわかんねーけど」
とすこしだけ不安の表情を見せながら、ゼンは言う。
ゼンの中に『シュウ』がいるってミアが確信したら…ゼンは、シュウはどうなっちゃうんだろう…。
クゼル様の時もそうだ。
あの時、あたしが師匠を止めなかったらクゼル様はシュウをどうしていた?
この試合っていうかやめたほうが良いよ、やっぱり。
……でも、ロシュオールになんて言う?
シュウの事は絶対に言えないし〜〜。
あーーーーーーーー、止める方法がない!!!
「だいたい、おまえ何であいつら知ってんだよ」
突然のゼンの言葉にあたしは戸惑う。
あいつらってミア達の事だよね。
「…ゼン?」
「とりあえず、伝言。何で?だってさ」
シュウからの伝言って……今は関係ないでしょう。
「で、何で?」
しつこく聞きたそうにするゼンって言うか、シュウ。
もう、せっかく心配してるのに!!!!
本人、お構いなしな訳???
「シェリー?」
「…分かったわよっ。町でたまたまなの。ゴルドバに来たすぐに迷って、ランに案内してもらった。それが最初かな?」
「…方向音痴じゃないだろう?」
「…くれた地図がまずかったの」
「ともかく、心配するなよ。もしバレても何とかしてみる」
とゼンは軽く言う。
…何とかしてみるって…、クゼル様と同じパターンにならなければいいけど…。
……って言うか、もうバレるの確実ってやつ?
出来れば、穏便にすめばいいんだけどなぁ〜。
そうもいかないのかなぁ。
もう、すでに訓練所中心部でゼンとロシュオールの二人はもう向き合っている。
「では、二人ともいいわね」
ミアの言葉にロシュオールとゼンがうなずく。
「それでは、始め!!」
その声とともに試合は始まった。
訓練用の木刀を構えるゼンとロシュオール。
どことなく余裕があるロシュオールとないかも?なゼン。
ないかも?何てつけたのは…中身にシュウがいるから。
シュウは昔、魔法剣士だった!!!!
っていうのをいつか聞いた事がある。
遠い昔だったから剣技なんて忘れたけど。
なんて言ってるけど!!!その実は分かんないのがシュウだからなぁ。
実際は覚えてるかも!!!
って断言できないのがつらいんだけどね。
「はぁああああああっっ!!」
ゼンが掛け声とともにロシュオールに仕掛けていく。
そのゼンの打ち込みを軽く裁いていくロシュオール。
さすが、巫女の従騎士って言った所か?。
「見事な剣技だ、ロシュオール。やはり、ハーシャ魔法国家始まって以来の剣士だけはある。魔法使われていたら、ゼンは瞬殺だったかもしれねぇな」
…ロシュオールの剣技に驚いているあたしのすぐ隣でクゼル様は言う。
瞬殺だなんて、ひどい事言わないでください。
ゼンは、あたしの幼なじみで剣の腕だっていいんですから。
「ハーシャに伝わる剣技を使ってるんだ、そこら辺の人間じゃかなわねぇぞ」
ホント、いやな事言ってくれる人だよ、この人は。
この人のこの嫌みというか、もう何て言うかそのせいであたしはどれだけ修業から逃げ出したかったか。
「…ん?」
ゼンの方を見ながらクゼル様は疑問符を投げ掛ける。
「どうかしたんですか?クゼル様」
「…いや…気のせいだろうな。シェリー、オレの言葉は気にするな、そんなはずがないのだからな」
そういって、クゼル様は試合の行方を見守る。
どちらかと言えば、ゼンがおされているものの、試合内容は五分五分って感じがする。
幼なじみのひいき目かな?
ゼンの顔を見れば必至でロシュオールの顔を見たら余裕で、…やっぱりロシュオールは手を抜いている様な気がする。
「一度で決めれば良いものを…」
なんてランが言ってるのを聞こえたら、やっぱりロシュオールは手を抜いてるんだなぁ〜って。
「巫女、なぜこんな試合を?」
ランがミアに聞いてくる。
ミアはあたしの後ろにいるから聞こえるのだ。
「…ロシュが言ったからよ」
「それ以外にも、見え隠れするんですが。何を隠していらっしゃるのですか?」
「ラン、あなたは気付かないの?」
……ミアの言葉に息が詰まりそうになる。
それは…つまり…シュウの事…よね。
「何が…ですか?」
「ロシュオールが言った事よ。あなたは分からないの?はっきり言わなくては。ランディール、あなた私の従騎士になってからどのくらいたつ?」
「申し訳ありません。自分には…っ???!!!」
お願いだから…気付かないで。
ラン、ミア、ロシュオール。
「シェリー、大丈夫?」
背後からミアが声をかける。
「…見ているのがつらければ、別にここにいなくても構わないのよ」
ミアはあたしがゼンの試合を見ているのがつらいと思ったのだろう。
あたしの肩を抱いてそういう。
あたしが今不安なのはミア達がシュウの事を気付いて欲しくなくってそれが不安で…。
「大丈夫…だから」
だから、ミアにそういう。
「…おまえの剣技誰に教わった?」
膠着状態に入っているロシュオールはゼンにそう言う。
「一応、いろんな人?」
ゼンは軽口をたたく。
まだ…余裕あるのかな?
……なんて言ってられない。
だって、剣の師匠の事は一応秘密になっているから。
ファーレンで隠遁生活同様に送っている人にゼンは頼み込んで弟子にしてもらったんだもん。
その人の事話さないって事でゼンは修業を許されたんだもん。
ついでにのぞきに言ったあたしも連帯責任だ!!
魔法剣士の修業にはその人のところじゃない所に行ったけど(その人は魔法剣士じゃない)。
実質、ゼンの剣の師匠って言えば、その人かもしれない。
自己流もプラスして。
「まぁ、いいや、我流+いろんな剣技が入ってるからさ。そろそろ、決めさせてもらうぜ」
「そう簡単にはやられるつもりはないぜ?」
「そう言っていられるのも今のうちって奴だよ」
また打ち合いを始める。
……この分なら…大丈夫かな、バレないよね。
…っていうかあたし、この試合の行方より、バレないかなって事ばっかり心配してる。
しかも!!!応援してないし!!!
ディルとヒリカはわーきゃー言いながら応援してるのに。
よし、たまには、じゃなくってここら辺でしっかりと応援しなくっちゃ。
「ゼン!負けないで」
ロシュオールに敵いっこないって分かってるわよ。
でも、やっぱりゼンはあたしの大切な幼なじみ!!
無様に負ける所なんて見たくないのが本音だもん。
「分かってる!!!」
ロシュオールが離れた隙にゼンが答える。
「そんな余裕ないでしょう!!!」
思わず叫んでしまう。
もう、ゼンのバカ!!!!
「シェリーの言う通り、余裕ないんじゃないのか?」
「あんたに言われなくたってこっちは充分、分かってるつもりなんだっつーの!!」
「そうかよっ」
ゼンとロシュオールの打ち合いが始まる。
今度はロシュオールは本気で打ち込んできている。
ゼンは防戦一方で、いつ剣を飛ばされるか分からない。
「ゼンっ」
声をかけていても、やっぱり今はもう見守るしかなくって。
いろんな事。頭の中がぐちゃぐちゃ。
この試合の行方もそうだけどって言うか、もう今は大ケガしないでいて欲しいって言うのが一番。
「くそっっ」
「なかなかの腕前だったぜ」
「勝ったつもりで、言うんじゃねぇよっ」
「こっちは、もう勝ったつもりって言うか、勝ってんだよ!!」
その瞬間、ロシュオールはゼンの剣を弾き飛ばし、ゼンののど元に突きつけた。
「な?」
「くっ」
「そこまでよ!!」
ミアの声が訓練所に響き渡る。
いてもたってもいられずにあたしはゼンの元に近寄る。
「ゼン、大丈夫?ケガしてない?」
「大丈夫ったら大丈夫かな?打ち身とかは結構してっかも」
そういって腕を出す。
見れば、所々青あざがついていたりして、ホント、もう見たら泣きそうになった。
「真剣だったらやばかったかも?」
そういってゼンは笑ってすぐに驚く。
「ど、どうしたの?」
「おまっ何泣いてんだよ」
「へ?」
間抜けな声を出して顔を触ってみれば、濡れてる…って事に気がついたら涙が出てる事に気がついて、終いには大泣きしていた。
「しぇ、シェリー。お前なぁ」
「ふぇ〜〜〜良かったぁ」
出てきた言葉に自分で気がついた。
シュウの事もそうだけど、やっぱり今の試合もすっごく心配だったて事。
何となく頭の中の比重がシュウの事バレないかって方が多かったんだけど、ゼンが今笑ってるのを見て、ホントに不安だったんだって今わかった。
あたしってばなんて薄情な幼なじみなんだろう。
「あぁもう、お前、泣くなって。シェリー」
そうやって困りながらもゼンはあたしを抱き寄せてあやすように頭をなでる。
「子供扱い」
「泣いてる奴が何言ってんだよ」
「だってぇ〜〜」
そういってやっぱり涙がいっぱい出てきた。
「ゼン・ウィード、あなたの封印を解くわよ」
「あ、あぁ」
ミアの言葉にゼンがうなずく。
ゼンから離れると、ロシュオールはもう封印を解除したのか、『リオス・アルダーク』を帯刀していた。
「ミア」
「ロシュは、それほど非情じゃないわよ」
あたしの泣き顔を見て、ミアは困ったように言う。
「わ、分かってるわよっっ」
でもやっぱり不安だったんだもん。
仕方ないじゃない。
「ゼン・ウィード、我が名と神の身許において、汝に掛かりし封印を解除する」
ミアが十字を切るようにゼンの肩と頭とおなかに触れながら唱えた。
「ロシュオールの戯れに付き合わせて申し訳なかったわね。その件に関しては謝るわ」
ミアのその言葉に後ろにいたロシュオールはきまり悪そうに頬を掻く。
「……でも、ずいぶん私も見くびられたものだわ。巫女失格かしら?」
ミアはゼンをにらみ付けながらきつい口調で話しかけた。
どういう…事??
「何がおっしゃりたいのですか?」
「…簡単でしょう?シオドニール・シュバイク。ずいぶんと私の前に簡単に現れてくれたわね。次にあったらあなたを許さないと私は言ったはずよ」
「…オレは、シオドニール・シュバイクじゃないですよ」
「本気で言ってるの?」
ゼンはミアの言葉にひるまずにミアをまっすぐに見て言う。
どうしよう…。
結局バレちゃったてっ事よね。
でも今ここであたしが動揺したら、ゼンがシュウをかばっている意味がなくなる。
前回のクゼル様の一件は何だか出てきちゃったからあれだったけど、今我慢してくれれば、ごまかせると思う。
クゼル様とかディルとか、ヒリカが何か言わなければ。
「シェリー、彼から離れなさい。彼は今は『ゼン・ウィード』って名乗っているかもしれないけれど、最悪と恐れられた『魔王シオドニール・シュバイク』なのよ。そばにいては危険なの」
「ミア、何言ってるの?」
「シェリー、あなたこそ、何言ってるのよ」
ミアはあたしの言葉に戸惑う。
ゼンの中にシュウがいるなんて言っても分かってくれないから、言わない。
わざわざシュウを危険にする必要もないからともかく黙るけど。
離れるのはいや。
「ミア、ミアが言ってる事、あたしにはよく分かってないけど、ゼンはあたしの大切な幼なじみなの。ずっと一緒にいたの。ミア、…あたしはゼンと一緒にいるって決めたの」
そう、一緒にいるって決めたんだもん。
シュウが魔王だって知っても、シュウも大切な幼なじみには変わりない。
だから、
「ミア様、ごめんなさい」
「シェリーっ。…どうして、っっ」
ゼンの手を握ってあたしはその場を動こうとした。
「シェリー、ゼン、ゴルドバの神殿騎士団を敵にまわすつもりですか?」
「おまえっ」
振り向けば、シュウが表に出ていた。
「どうしてだよっ、何で出てきた」
「シュウ、どうして」
あたしとゼンの言葉にシュウは顔色を一つ変えない(ゼンとシュウが同一人物とは思えないぐらいに)。
「ゼン、シェリーを危険にさらすつもりですか?ただでさえ、私といるという事でシェリーの危険は上がるのですよ。対処する事は可能ですが。危険は出来るだけ排除しておきたいのですよ」
「だからって……」
ここで、巫女であるミアや従騎士のランやロシュオールの前でばらさなくたって…。
「どういう事…」
「そういう事だ。ゼン・ウィードという肉体の中にゼン・ウィードとシオドニール・シュバイクが同一次元で存在している」
ミアの戸惑いにクゼル様が答える。
「クゼル王、あなた、知っていたのですか?」
「知っていたというよりも。知ったという方が正しいだろう?シェリーを問い詰めたら、あのバカが突然、出てきたんだからな」
「なぜ、止めなかったんですか?」
「…『悪い人じゃない』って言われたらどうしようもないだろう」
「…そんな…シェリーが…そんな」
ミアがクゼル様の言葉に俯く。
「分かってたんだけどな…、シェリー、お前に初めて会ったときさ」
俯いてしまったミアのかわりにロシュオールが話しかけてくる。
「お前のピアスにさ、シオドニールの魔力があるから。最初にお前に会ったのランだろう?ランなんか、帰ってきたとき血相変えてまくし立てるしさ」
「血相変えてなどないし、まくし立ててもいない。お前と一緒にするなロシュオール」
「まぁまぁ。だからさ、オレもランもそれからミアも心配だったわけさ。ずいぶん、お前も丸くなったんじゃねぇのか?」
起こっているランをなだめながらロシュオールはシュウに話しかける。
「どういう意味ですか?」
「シェリーに、魔法守護かけてる事だよ。昔だったら絶対しない事だろう?」
「当然でしょう?彼女は私にとって守らなくてはならない者。私の目が届かない時は魔法守護をかけるのは当然だと思いませんか?」
「へいへい。シェリー、お前は、こいつの事知ってたのか?」
ロシュオールの言葉にあたしはうなずく。
「知っててさっきみたいな事言ったんだな?」
「うん」
さっきみたいな事『あたしはゼンと一緒にいる』って言うことをさしてるのが分かってもう一度うなずく。
「ミア、どうする?」
「ロシュオール、このまま放っておくのか?」
話を進めようとミアに声をかけたロシュオールにランが驚く。
「決めるのはオレじゃねぇさ。ミアだって事、ランお前も分かってんだろう?」
そう言ってロシュオールはミアを見る。
ミアはまだ俯いている。
スーッと…天から光がミアに入り込んでいったような気がした。
天って言っても、この部屋には天井に明かり取りの窓はない。
「シェリー」
顔を上げて、ミアがあたしの事を呼ぶ。
「構わないのね?あなたは、シオドニール・シュバイクといても」
さっきまでの感情はどこに消えたのか、ミアは穏やかに微笑んであたしを見つめる。
「構わないよ。シュウもゼンも大切な幼なじみ。一緒にいるって決めたんだもん。放ってなんておけない」
ミアの視線を避けないであたしもミアをまっすぐに見て言う。
「分かったわ。好きにしなさい」
そう言ってくれた。
ありがとう、ミア。
なんか、良かったな。
これからも、ゼンとシュウと一緒にいられるんだ。
ホッとしたら、なんか疲れがどっと出てきた気がする。
今日はいろんな事ありすぎ。
ディルとヒリカに生命狙われて、盗賊退治なんかもしちゃって、クゼル様が出てきて、ついでにゴルドバの巫女に謁見なんて。
「シオドニール・シュバイク。シェリーに何かしたら今度こそ許さないから」
ミアがシュウに向かって言う。
今度こそって前何かあったのかなぁ〜。
聞いても教えてくれなさそう。
「あなたに言われずとも分かっていますよ。シェリーは私たちが必ず守りますから。誰の手も借りずにね」
「相変わらず、いやな男!!」
「どうとでも。失礼しますよ。シェリー、行きますよ」
シュウはディルとヒリカもせき立てて神殿から出ようとする。
「わ、分かったって。ミア、ロシュオール、ラン、また逢ってくれる?」
シュウを追いかける前に振り向いて3人に聞く。
「当然でしょう?何をバカな事言ってるの。私たちは友達なんだから」
ミアは苦笑しながらそういってくれた。
ロシュオールもランもうなずいてる。
「ありがとう!!じゃあ、またねっっ」
そういってあたしはシュウを追いかけていった。
「ミア?」
訓練所の戸口にたって見えなくなるまでシェリー達を見送っているミアにロシュオールは声をかける。
「…ランは?」
「先に戻った。クゼル王は、あの人は気ままだからな。どうするんだか…。引き止めたほうが良かったかなぁ」
「そういうわけには行かないでしょう?やっぱり」
ロシュオールの言葉にミアは苦笑しながら答える。
クゼル・ライエンはシェリー達が訓練所から立ち去ると同時に姿を消した。
彼の今後の行動はミアが考えている事とほぼ同じ事だと気がついて、ミアはため息交じりの息を吐く。
「何が見えた?」
「…何も…」
ロシュオールの差すものを理解してミアは首を振る。
そして俯いたミアをロシュオールは静かに抱き寄せた。
「今は、あの子達のこの先が暗い物ではない事を祈るだけだわ」
「…そうだな…。じゃあ、オレはいつもの通り、祈るミアを守るからな」
「ありがとう、ロシュ」
ロシュの言葉にミアは静かに礼を言った。