Destiny Third

世界の終焉
28・最高の兵器

「お前は何を考えている」
 男は彼に言う。
 立ちこめる煙。
 火薬の臭いに混ざってむせかえるような鉄の……いや、血のにおいがあたりに漂う。
「何を…と言うと?」
 彼は男を見下ろしながら問い掛ける。
「……全てを…破壊して……だ……」
「全て、不必要だから」
 彼を見上げながら問い掛ける男に彼は笑顔を見せて即答する。
「不必要?だと」
「そう、全て。不必要。ライアも、ライアを信仰する『パルマ』もそれを利用する政府も、それを憎む天塔の八姉妹も。全て不必要だから」
「彼女はこの星の礎。女神は、この星の願い。この星の中心を守るものだ。その彼女を不必要と言うな」
「では、問いたい。何故、彼女を取り戻さない。彼女はすでにライアとして覚醒した。記憶も所持した。彼女はライアだと言っても過言じゃない。ここで催眠まがいに洗脳しようとしていたときとは違う」
「………女神は……」
 男は彼からそらさずににらみつけていた視線を外す。
「そう、お前は知っている。女神は幻想だと。彼女は存在しないものだと。ライアはこの星が作り上げた虚像。ただ転生の秘術にひかれた政府が彼女を女神扱いした結果。そして彼女の願いに振り回された結果。お前はそれを連邦政府中枢に入って気がついたんだ」
「………その通りだ。私はそれをしった。だが止められなかった。彼女は女神。我々を導く女神」
「導く?彼女が導いたのはお前たちレグルト人じゃない。このパルマ星を故郷とし各惑星に散らばっていったパルマ人だ…。もっとも今ではアルゴル人と呼んでいるが」
「…………」
 彼の言葉に男は応えない。
「生きることを認めて貰っただけで女神とは笑える」
「それだけでも十分とは思わぬのか?お前は」
「だから、不必要なことだ。今のオレには、生きるも死ぬも。この世界全てが不必要なんだよ…、バヌア・シェイド」
 そう言って彼は唇をゆがませる。
「……デューク・シェル……。お前は何を望む」
「世界の終焉。………」
 デューク・シェルは微笑む。
「お前は……何を………」
 バヌア・シェイドは息を飲む。
「残念としか言いようがない。世界の終焉を見ることができないのだから……」
 倒れているバヌア・シェイドを見下ろしながら、デュークは微笑む。
 バヌア・シェイドのすでに光の消えた瞳が捉えるものに答えを出せる者はいない……。

******

「最悪だな」
 モニターに映し出されている映像を見てウィルさんは言葉を吐いた。
 その映像には怯えた人々、まだ火の消えない壊れた建物。
 黒ずんだ何かは……血の後だろうか。
『それは、オレの台詞だ』
 ワイプの様に下の角にシャルさんが現われる。
「先日の一件で、シウス星に向かったミリュズが取ってきた映像だ』
 シャルさんが言う先日の一件っていうのは、天塔の八姉妹に情報がばれているって言う一件の事かな?
「バヌア・シェイドと接触させるために向かったのに、この有様ってやつか…」
『そうだ』
 苦々しくシャルさんはウィルさんの言葉に応える。
『まったく、何でこんなことになったんだか。ウィル、クェス、バヌア・シェイドは死んだ。この一件はこれで終了と大統領がおっしゃっていた。シウスの一件はお前たちパルマ・プリマスに任せるとのことだ』
「……了解。その方が都合が良いしね」
 ウィルさんはそう答える。
『どういう事だ?』
「まぁ、それは秘密と言うことでいいかな?」
 画面越しに詰め寄るシャルさんにウィルさんは笑顔でかわす。
『ウィル』
「シャル、無理よ。ウィルの隠し癖は今更直らないわよ」
 問い詰めようとするシャルさんをクェスさんが止める。
『ともかく、事後処理は任せる!!』
「了解」
 そう言ってウィルさんはシャルさんとの通信を切る。
「ウィル、デュークの居場所は?」
 ガイがウィルさんに問い掛ける。
「一応、聞いてみたよ。だけど、存在すらつかめないって。バヌア・シェイドをサイコメトリーする以外にはないだろうって。彼の目。彼が最後に見たもの……。それでも足取りをつかむのは難しいだろうねぇ」
 ため息をついてウィルさんは机に肘をつく。
「バヌア・シェイドはデュークに殺されたと考えた方が間違いないだろうね。そして、『パルマ』を破壊したのはデューク・シェル。カーラには言い難いけれどね」
 ウィルさんはそう言って今は出掛けてこの場にいないカーラさんを慮る。
「でも、どうしてデューク・シェルは『パルマ』を破壊したんですか?」
 それはちょっとした疑問。
 彼が破壊する理由は?
 バヌア・シェイドと仲違いしたから?
 それだけじゃちょっと弱い気がする。
「必要なかったから……だろうね。彼は深いところまでパルマと関わっていなかっただろうし。単なる天塔の八姉妹のパイプ役を引き受けただけに過ぎなかったんだろうね……彼は、天塔の八姉妹と接触したことがある人物だったのだから。実は僕が大地の塔を見つけることが出来たのにはそう言う理由がある。デュークが調査の為に迷い込んだのが大地の塔なのさ。そして彼は天塔の八姉妹と出会った。そして何らかの目的を持った。それは、僕にも分からない」
 ウィルさんはあたしの疑問に答えてくれた。
 デュークの望みはパルマにない…。
 そう言えば、あたしシウス星でデュークにあった。
 何か…言ってったっけ……何も、言ってなかったような気がする。
「ともかく、今は待機以外にないね」
 ウィルさんはそう言った。

 時間だけが過ぎていく気がする。
 いや、これが初めての平穏なのかな?
 あたしの部屋をパルマのプリマス支部の中に貰った。
 結構前に。
 ずっと、ココに来られることほとんどなくって。
 なんだかまともに初めているって感じ。
 今の所、他の用事もなくて暇って感じ。
 ちょっと前までは地球で日本で女子高生やってたのに。
 暇な毎日をどう楽しく生きようかって考えてたのに。
 今は、違う星で生活してるなんて。
 違う星……か。
『…………』
 呼んでる………。
『……』
 誰が……?
 誰を……?
「……?」
『………』
 ……呼んでるの?
「千瀬っっ」
 突然、腕を捕まれる。
「ガイ?」
「何しようとしてたんだ」
 え…何って……っっ!!
 ガイの問いに我に返れば、あたしは部屋の窓をはけ放ち身を半分窓の外に乗り出していた。
「部屋に来てみれば、窓から飛び降りようとしていたんだぞ?」
「気がつかなかった……」
 気がついたせいで心臓がどきどき言ってる。
 あと少しガイが呼ぶのが遅かったら、あたしは窓から転落していたかも知れない。
「大丈夫か?」
 ガイが心配そうにあたしをのぞき込む。
「うん……」
 聞いてみようかな、ガイに。
「誰かが呼んだの」
 誰があたしを呼んだんだろう。
「誰が呼んだんだ?誰がお前を呼ぶんだ」
 ガイが声を少しだけ強めて言う。
「そうだよね…誰も呼ばないよね。ガイは、ココにいるのに」
 何で…呼ばれたと思ったんだろう。
 ガイに腕を伸ばして彼にすがりつくように抱きつく。
 そうだよ、『ガイ』はココにいるのに。
「呼ばれているのか……」
 ガイが呟く。
「痕跡……。呼んでいる……のか……。オレたちを……。カルス……」
 ガイを見上げれば窓の外の立ち並ぶビル群ではなく、その向こうの遠くどこかを見つめているような気がした。
 そして静かに目を閉じる。
「…………残骸を見つけてもしょうがない……。これ……か………。捕まえた」

「ガイが見つけたようだね。うーん、血の濃さには負けるかな」
「あなただって叔父でしょう?」
 クェスの言葉にウィルは首を横に振る。
「兄弟とはまた違うよ。テレパスの干渉度はシンクロ率とは別に血が濃ければ濃いほど強い。その件もあってプリマス発足時は兄弟姉妹または家族でアンクル、ティラナをつとめていたと言うしね。プリマスに血縁関係者というものが多いのはその時の名残だと言うね」
「成程ね。で、どうなの?」
「まぁ、これも情報の内。と言うよりも、気配も感じたしガイの能力の作動を感じたからね」
 クェスの言葉にウィルは一方を見つめて応える。
「場所も特定出来た。呼んでるんだね。彼は」
 そうウィルが静かに呟いたときだった。
「ウィルっ!」
 アドニスが飛び込んできたのだ。
「カーラを止めてくれ!デュークのテレパスを感じて飛び出して行ったんだ」
 その言葉を聞いてウィルは立ち上がる。
「カーラが先だったか」
「のんびり行ってる場合か!!」
「大丈夫、今ガイが足止めしてる。その間にオレたちも向かおう」
「押し切られてたらどうする」
「そうだね、千瀬が居るしね……。千瀬も呼ばれてるし……。まぁ、その前にテレポートしようか」
 苦笑いを浮かべてウィルはクェスとアドニスに声を掛けた。

「カーラ」
「それでも、私は行くと決めたのだ」
 ガイの声にカーラさんはそう答えた。
 今あたし達はプリマス専用の宇宙港にいる。
 飛び出したカーラさんを見つけてあたし達はやってきたのだ。
「姉さん、アドニスが心配するだろう?」
「そんなことぐらい予想済みだ」
 彼女に追いついたのはレイセンを動かそうとカーラさんが躍起になっていたとき。
 カーラさん達が乗ってきたレイセンはアドニスさんが制御キーを持っているので動かせないのだ。
「あいつが、私を呼んだのだ。行くのは当然だろう?」
「だったら、あたしも行きます。デューク・シェルはあたしも呼んでる」
「千瀬、何言ってるの?危ないよ?」
 カーラさんの言葉に応えたあたしに理奈が言う。
 分かってる。
 でも、呼ばれたの。
 あれはデュークが呼んでる、今はそんな感じがする。
「危険とか、そう言う問題じゃない。今デュークの狙いがなんだか分からないんだぞ」
 うん、ガイの言うことも分かってる。
 でもこのままじゃいつまで経っても終わらない気がする。
 この一件、あたしが原因で始まったとまでは言わないけれど、深く関わっているんだから、あたしも決着を付けなくちゃいけないと思う。
「デュークの狙いは分かっている。ルイセ、それにはあなたを連れて行くわけにはいかない」
 どういう事?
「カーラ、何を聞いたんだ」
 その声と共にウィルさん達がテレポートしてきた。
「アドニス。言ったら、レイセンを動かしてくれるのか?」
「返答による」
 そう答えたアドニスさんにカーラさんはうつむく。
「………だいたい予想はついてるよ。デュークは僕と同じだったからね」
 同じ?
 どういう事だろう。
「デュークはウィルと同じ研究をしていた。と言えば、分かるかしら?」
 ウィルさんの研究を側で見ていたクェスさんが疑問に答えてくれる。
「以前、千瀬には言ったね。『この星に生まれた人間は全て『星の我儘』に左右されている』と。もっとも、星の我儘というのは単なる他愛のない願いだったわけだけれども……。星の我儘は星の理を変えることの出来る事象だと信じていた人間が居る。それが全く別物だと、自分が信じていた事柄が覆されたときはどうだろう。真実を追っていた僕はそれに納得が出来た。だが、それに納得できない人間もいる」
 天塔の八姉妹も納得できない人間の一部。
 納得できずにその対象をフラッシャー一点に絞った。
 彼女たちが何も信じられなくなってしまった結果なのかも知れない。
「デュークも、納得できない人間の一人だというのか?」
「星の我儘さえなければ、世界はもっと変わっていたんじゃないのだろうか。それがデュークの口癖だった」
「デュークの狙いは?」
「世界を変えること。無茶苦茶だと思うかも知れない。ばかげてると言うだろう。でも本気でデュークはそれを思っている……。アド、制御キーを」
 カーラさんはアドニスさんに制御キーを求める。
「……行かせたくないっていう気持ち分かってながら言うんだな、君は」
 アドニスさんはカーラさんに制御キーを渡しながら言う。
「済まない、アドニス」
「その代わり、僕も行く。カーラだけじゃ危なくて仕方ない」
「と言うわけで、結局、全員で移動だねぇ」
 と突然言ったウィルさんにカーラさんとアドニスさんは驚いた。
「言っただろう?僕たちはこの件を唯一知ってる者達だって。決着付けるためには全員で動かなくちゃならないんだよ」
 そう言ったウィルさんにあたし達は頷いた。

「方角は?」
 パルマ上空でウィルさんはガイに問い掛ける。
 イスアでデュークの居るところに向かうことになったため、方向制御システムの前にガイが居る。
「コラムの衛星アルタ。……ってウィルは見つけたんじゃないのか?」
「正確な方角までは無理だったよ。やっぱりガイとカルスは兄弟だからね。血の濃さには負けるんだよ」
「方向制御。目標コラム星、衛星アルタ」
 ウィルさんの言葉にため息をついてガイは船をアルタの方角に向ける。
「アルタってどんな星?」
「衛星だからね。それほど大きくはないよ。荒れ地で人が住めないって言われてる」
 へぇ。
「アルタか……」
 カーラさんが小さく呟く。
「カーラ?」
「あの地は元々流刑地だったとカルスから聞いたことがある」
 カーラさんがデュークの事をカルスと呼ぶ。
 それだけで、カーラさんがどれだけデュークにこだわっているのかが分かる。
『カルス』はデュークの昔の呼び方。
 ガイぐらいしか呼ばないとデュークが言っていた。
 そのガイですら、デュークと呼ぶときがあるのに、カーラさんは今そう呼んだ。
 カーラさんはもしかすると、デュークと恋人同士だったのかもしれない。
「大昔の話。それすらもすぐに終了になったという話だ」
 ウィルさんはくだらないと言いながらカーラさんの話に言う。
「あぁ、デュークもそう言っていた。遠い昔の話だと……。ただの戯れに話したとそう言った。そして、その次の日デュークは姿を消した。……気にしすぎだというのか?デュークが姿を消す前の日に言っていたアルタの過去。そして今、アルタにいる……事実」
 そう言いながらカーラさんは窓の外を見つめる。
 そこには赤い星コラムとその隣にある衛星が現われていた。
「あれがアルタ?」
 あたしの小さな問いにガイが頷く。
「デュークに聞いてみなくちゃ分からないよ。もう着くんだ、すぐに分かる」
 アドニスさんの言葉にカーラさんは頷いた。

 衛星アルタは赤い星と呼ばれるコラム星よりももっと赤かった。
 赤茶けた大地の色。
 この星にはわずかな草とわずかな水しか存在しないという。
「この星の平均気温は40度。乾期と雨期しか存在せず、今は乾期らしいな」
 ガイがそう教えてくれる。
「平均気温が40度なんて暑いね。ここに流された人はどんなこと思ってたんだろう」
 理奈が静かに言う。
「うん」
 なんと言葉を返して良いか分からずあたしはただ頷いた。
 流された人は何を思ってたんだろう。
 デュークは何を思っているんだろう。
 考えても意味のないことだと分かっているけれど。
「ガイ、デュークはどこにいる」
「この星の北極点に」
 ウィルさんの言葉にガイは応える。
 北極点……、その方向に意識を向ければ何かを感じた。
「千瀬」
 ガイがあたしを呼ぶ。
「何?」
「何でもない」
 そうガイは言った。
 北極点もあまり景色は変わらなかった。
 ただ気温は低いと思った。
 少しだけ肌寒い。
「世界は狂っている。それともオレが狂っている?どちらだと思う」
 彼はあたし達が来ると分かっていたのだろうか。
 その場所には半壊しているコンクリートの建物と瓦礫と大きな岩があった。
 デュークは大きな岩…よく見ればそれは何かの銅像の台座かなにかで。
 もっとも銅像はすでに存在しておらず、その場にデュークは腰を下ろしていた。
「デューク、お前は何がしたいんだ?」
「さぁ、オレにもよく分かっていない。ただ、振り回されるのには飽きただけ」
 と彼はカーラさんの問いに答え視線を宙にさまよわせる。
「デューク、お前は星の願いが他愛のない願いだと知ったな」
「そう、他愛もなく下らない願い」
 ウィルさんの言葉に皮肉気な笑顔を見せてデュークは答える。
「だったらお前は何がしたい?変えることの出来ない事象と知ったのに」
「何がしたいんだろうな。永遠に共にいたいと願った願い。確かに他愛もないだろう。だがそれを『全てを変えることの出来る事象』に作り替えた者をお前は知っているのか?」
「………知っている。彼らも知らなかっただけだ。『願い』を」
「だから、下らないと言っているんだよ。ウィル」
 そう言ってデュークは視線をあたしに向ける。
「女神は下らないと思わないか?その星でシウスの『パルマ』の連中につかまって洗脳されて、天塔の八姉妹には命を狙われて」
「思った事なんてない」
「じゃあ、思わせてやろう。このオレが」
 そう言いながらデュークは銃を取り出し、あたしに向ける。
「デューク」
「カーラ。そしてアドニス、君達にはこの星に来て欲しくなかったよ。ココは、連邦政府の闇だ」
「君は分かっていたはずだ。プリマスである以上政府の闇に触れると言うことを。僕たちは闇に近いものだと」
「だから、それを認めろと?」
 アドニスさんの言葉に応えるデュークの声が低くなった気がした。
「サイコブロック!!!」
 クェスさんの声に反応してサイコブロックを掛ける。
「きゃあっっ」
 次の瞬間強い衝撃があたし達をおそった。
「世界は狂っている。だが、オレも狂っているのだろう。だから、世界はなくすべきだと思わないか?願いは下らない。世界を変えるには世界をなくす以外にない」
「デューク、君は潔癖すぎた」
「かも知れない。けれど、それは手っ取り早い」
 デュークが起こした念動波によって巻き起こった砂煙はようやく消え、視界が開ける。
「デューク、……お前……」
 そして、それを見たウィルさんが言葉をなくす。
「………世界に終焉を……。天の裁きを」
 背中に羽をしょった彼は、御使いにでもなったつもりなのだろうか。
 だが、その羽はあまりにも出来損ないで。
 コウモリの羽をはやしていた。
「天使というより、悪魔みたいだね」
 理奈が言う。
「……数年前に使われたパルマの研究所……。あそこを利用したのはカルス、お前なのか?」
 天塔の八姉妹の残りが居たあのヘビがいっぱい出てきた研究所。
 二、三年前に使われた後があるって言ってたけど……、デュークが使ったの?
「その通りだよ、ガイ。オレはあの研究所で力を得るために利用した。見事なものだろう?コウモリの羽を移植して、PSIとESPも増強させてあるんだ」
 そうデュークはうっとりとした表情で翼に触れる。
 悪魔が、翼に触れているようで、不気味さを覚える。
「世界を変えてどうしたいの?」
「救う。それ以外にないだろう?ライア」
「その羽じゃ世界を滅ぼしてるようにしか見えないわよ」
 天使の羽なら世界を救うって言う言葉にも納得できるけど、悪魔の羽じゃ、滅ぼしてるのと一緒のような気がする。
「構わないだろう?世界は一度滅ぼされる。その世界に生きる人間にとってはオレはお前の言うところの悪魔なのだから」
 嬉しそうにデュークは言う。
「まずは、女神……。この世界の下らない因習を断ち切らせて貰おう」
 そう言って彼は銃をもう一度構えあたしに向ける。
「この世界に、女神はいらない」
 そう言って劇鉄をあげる。
「ふざけないで、あたしは女神なんかじゃない。勝手に女神にしないでよっ」
「だがもう遅い。お前は女神としてシウスに降臨してる」
 引き金を引く。
「何を惚けてるんだ」
 ガイに腕をひかれ引き寄せられる。
 すれすれの所を弾がすり抜けていく。
「デューク、私にはお前を止める義務がある」
 カーラさんがスライドを引き銃を構える。
「……カーラ。お前なら分かってくれると思った」
「分かる?何を分かれと言うんだ。世界を滅ぼすことをか?世界が狂っていることをか?世界が間違っているというのなら、私も間違っているのだろう。だがお前も間違っているのだろう?」
「そうオレも間違っている。だから世界を滅ぼすんだ。知らないで欲しかったよ。お前とアドニスだけには……」
 PSIが増大しているのが分かる。
「ESPが増大している……」
 ガイがそう呟く。
 PSIとESPが増えているのなら、どうなってしまうんだろう。
「暴走か………。デューク、そのままでは君は自滅を迎えるだろう」
「そう、だろうな。だが、世界は滅ぶ」
 ウィルさんの言葉にデュークはこともなく応える。
「星と同化させているのか?」
 マリーチの言葉にデュークは何も応えず笑顔だけを見せる。
「だとしたら、押さえる以外ないだろう。クェス、マリーチ、千瀬ちゃん、PSIの方は任せた。ガイ、理奈ちゃん、僕たちはESPを押さえる。バランスはアドニスに任せたよ?羽がそれを担っているはずだ」
「了解。そして、カーラ」
 アドニスさんがカーラさんに視線を移せば彼女は頷くことで答えを見せた。
「じゃあ、始めるよ」
 ウィルさんの言葉であたし達はデュークの力を押さえる。
「カーラ。世界の終焉は美しいだろうね」
「世界は終わらない。私たちはその先も願っている。デューク、お前もそうじゃないのか?」
「願い?その先?オレはそんなこと考えたことないよ。ただ終焉だけを願っていた。だからオレは力を得た。この羽に星と同化させる能力を植え付けた」
「その為のミュータント研究所か……」
 銃声が一発響く。
「か、カーラ」
 デュークの羽に開いた一つの銃創。
 再び響く銃声。
「うっ。君は何をするんだ」
「お前を止めると私は決めた」
 もう一つの羽にも穴が開く。
 星の力が落ち着いていく感じがする。
「あなたは知らない。あなただって願っていたはずのことを」
「女神っっ」
 再び、あたしに銃口を向ける。
「千瀬っ」
 ガイがあたしをかばう。
「だから、下らないって言うんだ」
「だから、終わりにしよう。カルス」
 ガイは言う。
「終わり?何を終わらせるんだ?世界を?世界をか!!!」
 カーラさんが羽を打ち抜いた為に大地との同化は収まったけれど、大地に向かって流れていた力はデュークに逆流してしまっていた。
「そう、世界を。兄さん、あんたの世界をだ」
 ガイはいつ銃を持っていたのだろうか。
 あたしを胸にかばいながらその姿を見せないように目隠ししながら、ガイは引き金を引く。
「!!!!!!!!!!!!!!」
 響き渡る断末魔。
「サイコブロックが間に合わないっっ」
 クェスさんの言葉を聞く。
 次の瞬間、ものすごい力で飛ばされたのだけは分かった。

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