Destiny Third

番外編 眠る君に抱く思い
22・微生物
「………」
 じっと、クェスとカーラがオレを見る。
 カーラはともかく、クェスに睨まれるのは何度目だろうか……。
 こうやって彼女に睨まれるのは……。
 幼い頃から知る相手は、自分の姉の様でもあり、叔父のセチス。
 ついでに初恋の相手というおまけ付きなので…とてつもなくやりづらい。
「……全く。そう怯えなくたって良いわよ」
 ふっと息を抜いてクェスは微笑む。
 怯えてるつもりはないが……、恐々としていた事は確かで…。
 微笑んでいるクェスに何事かと視線を向ける。
「単なる過労。何を言われると思ったの?」
「ん〜嫌みとか」
「言って欲しいなら言うわよ。たくさん」
 それは勘弁して欲しい。
「過労と言うよりも…風邪だと思うよ。過労に伴う風邪といった方が正しいかな?」
 千瀬を見てカーラが言う。
 その言葉にオレは納得する。
 千瀬が望む望まないにかかわらず、二度も天塔の八姉妹とやり合うことになった。
 能力の覚醒、記憶の再生、PSIの使用などで疲れているところを抵抗力が弱まって風邪をひいたと言うところだろう。
「抵抗力の低下というのもあるだろうが……ウィルスの抗体がまだ出来ていなかったかもしれないな。似た惑星形態といえど、あちらにあってこちらにない。こちらにあってあちらにないというのもあるだろうから」
 そうカーラは言う。
 ちなみに、カーラは医師免許を所持している(カームも当然)。
「今はゆっくり休ませることだ。ゆっくり休んでいないのだろう?」
 言われてみれば、そうだ。
 千瀬とずっとそこら中動き回っていたような気がする。
 無理矢理こっちに連れてきてしまった……時から彼女の中ではストレスがたまって……それが今爆発しているのかと思うと、なんだか申し訳ない。
「まぁ、二、三日休むと良いわ。デューク・シェルが見つかったらあたしたちは動かなくちゃいけない。あいつの考え。それはとんでもなく嫌な予感がする。これが終わったら、休暇あげられるから」
「私たちはそれを止めなくちゃならない。それが使命だ」
「分かってる……」
「まぁこれが終わったら、休暇あげられるから」
 そうクェスは言って、カーラと二人で出て行く。
 まだ、千瀬は眠っている。
 オレは、千瀬を連れてきてしまって良かったのだろうか……。
 時々そんなことを思う。
 一度、千瀬の星に行ったときに彼女を手放せばと思った。
 でも、それが出来ないのは誰であろうオレがよく分かっている。
 オレがフラッシャーで千瀬がライアだとかそう言うのはあまり関係ない。
 ただ、オレが手放したくないだけなんだよな……。
 何てこと……千瀬に聞かれたら……。
「って………聞こえてる〜〜〜」
 千瀬を見れば今まで布団から顔を出していたのに今は布団の中に潜っている。
「ガイ〜〜なんかテレパス繋がってる〜〜なんで〜〜〜?」
 あ………。
「意識的にシンクロしたせいかな?一度シンクロするとその後も無意識でかかるって聞いたことがある」
「ん〜〜じゃああたしの思考もガイにバレバレなの〜〜?」
「そうかもな」
「それ困る〜〜」
 確かに。
 でも、大丈夫。
「オレからシンクロを掛けたから意識的に切れば問題ない」
「ホント?」
 少し、布団から顔を出して千瀬が聞いてくる。
 読まなくても分かる、不安だって目が訴えてる。
「あぁ。今、切るから」
 意識の奥を探して、シンクロを切る。
 もう、大丈夫かな?
「なんか、がやがやしたのがなくなった」
「聞こえなくなった?」
 のぞき込むように聞けば、こくんと頷く。
「まだ、熱があるな」
 額に手をやれば千瀬の体温を感じる。
 俺の手より温かいのだから、まだ熱は下がっていないのだろう。
「ガイの手……冷たくて気持ちいい」
「そうか?オレの手はあまり体温低くないぞ?……って事はまだ高いって事か……」
「そうかも、まだ頭の中ぼーっとしてる……」
「過労もあるって言ってたな。とりあえず、デュークの件が終わったら休暇にしてくれるって」
「ホント?」
 オレの言葉に千瀬は喜ぶ。
「あぁ。どこ行きたい?どこか行きたいところがあったら言って。オレはゆっくり休めるところがいいと思ってるんだけど……」
 どこがいいかな。
 久しぶりにオレの実家に帰るのも悪くない。
 パルマ星内だけど、あそこは温泉地だから、千瀬もゆっくり休めるだろうし。
 風呂……長風呂だしな……。
「ん〜、どこでもいいかな?ガイが知ってるところならどこでもいいよ。そうだ、いろんな景色見てみたい」
 いろんな景色?
「そう。ガイが知ってる景色。ガイが見たことある景色。あたし、知らないもんね」
 千瀬……。
「どうしたの?ガイ。あたし変なこと言った?」
 オレが返事しない事に不安になったのか千瀬は聞いてくる。
「そんな事ない。オレで良ければ案内する」
「ありがとう」
 そう言って千瀬は微笑む。
 家に、帰りたいと言うかと思った……。
 でも、言わなかった。
 それは、彼女の中で何かの覚悟にも似た何かがあると言う事だろうか。
 このアルゴル太陽系にいるという……。
「千瀬」
 オレは彼女に問い掛ける。
「………」
 返事がない。
 彼女はもう眠っている。
 当然だ、熱があるんだから。
「ゆっくりとお休み……。オレは、ココにいるから」
 そう言えば微笑んだような気がした。
 いつか聞いてみたい。
 勝手に連れてきたオレを許してくれるのかと……。
 連れてきたもなにも、帰らせてくれないくせに何言ってるんだと言われそうな気がするけれど。
「……それでも、オレは、君を愛している……」
 なんて、眠る君を見ながらしか言えない自分に思わず苦笑した。
Copyright (c) 長月梓 All rights reserved.