「ガイ、千瀬ちゃんお帰り」
パルマのプリマス支部に戻るとウィルさんにそう出迎えられる。
パルマに戻るのも正直久しぶりだった。
ラミア星の事はマイン星から移動したようなもので、ずっとパルマには戻ってなかったもんね。
懐かしいという所までは来てないけれど、これからもココにいるんだと言うことを考えると、少しだけ帰ってきたんだって言う気持ちになる。
パルマと言えば、パルマ・タワー。
大統領を連れ出した後どうなったのかというと……バヌア・シェイドが流したガスは即効性のある毒ガスではなく睡眠ガスで大量に吸い込むと死に至る可能性のある物だったらしく、死亡者はガスの発生した場所にいた数名の人間だけだった為、大混乱という所までにはならなかったみたい。
聞こえた爆発音はガスの発生場所からの物で、大量吸引させるための破裂だったようだ。
もっとも、大統領の怪我で政治の場での混乱はあったので大混乱に近い物で間違いないようで。
今は、ようやくその落ち着きを取り戻しつつあると言った所かな？
「バヌア・シェイドのIDの件は確かに失念していたと思うよ。奴が情報を引き出していたという可能性も否定できなくはない。だが、それの情報を天塔の八姉妹に与えるかというのを考えると…それは別問題だろうね」
「バヌア・シェイドと天塔の八姉妹は仲が良くない」
「そう。ライアという共通の目的の結果が彼らにとって失敗に終わってしまったからだ。ライアが覚醒し自力でフラッシャーの側に戻ったためにね。」
図らずも天塔の八姉妹レムル・デュナンとピアス・アルティアの近くにいたウィルさんはそう言う。
「パルマは現状ではそれほど動きがないようでね」
「どうしてですか？」
「おそらく、バヌア・シェイドに求心力がなくなったためだと考えて良いと思うよ。せっかく出現したライアに逃げられてしまったんだからね」
じゃあ、天塔の八姉妹の先読みは？
「ん〜、強力なESPやPSIというエルナの予想はあまりにも突拍子もないね」
「じゃあ、他に何がある」
「バヌア、シェイドのIDはまだ生きている……。ん〜〜、僕の予想も突拍子ないねぇ……」
片肘ついてウィルさんは言う。
「何がだ……」
「けど、ないとは……言い切れないねぇ」
そう言いながら、ウィルさんはガイの方を向く…。
「ウィル……まさか」
「そう、おそらく彼がそのIDを使っている。聞き出すのは難しくないだろうしね」
そう言って、ウィルさんは厳しい表情を見せた。
*******
金色の髪は、黒髪の彼女の心を引きつける。
青年が持つその色は、彼女の金色の瞳と同じ。
同じが故にひかれる。
そして穏やかな時を身に纏う彼に彼女はひかれた。
「 」
低い声で彼は彼女を呼ぶ。
目を書類に落としたまま、彼女が居ないことなど微塵にも思ってない態度で彼女を呼ぶ。
「どうかなさいましたか？ 様」
「一つ、聞きたい」
そこでようやく顔を上げる。
金色の髪に端正な顔立ち、そして目立つ赤い瞳。
彼女を魅了して止まないその全てに彼女は見とれる。
「別にたいした問題じゃない」
そう言って口を笑顔に変える。
その声すらも彼女を魅了させる。
それに魅了されているのは彼女だけなのだ。
誰も、彼に心を奪われない。
それが彼女にとって満足なのだ。
誰も知らない彼を自分のみが知っているという優越感にも似た何か。
それを感じると彼女は幸せになる。
「どうやら、ばれたようだ」
「それは一大事ではないのですか？」
「言っただろう？たいした問題じゃないと」
彼女の不安を消すように彼は穏やかな態度を崩さない。
「彼らはどのみち捜すことになるのだから。彼らとしても『あれ』等は邪魔で。我々にとっても同じだろう？」
彼はいたずらっ子のように微笑む。
それは彼女と彼の開きを如実に表しているようで彼女は少し不愉快になる。
「不満なのかい？」
「何故？」
「君の顔はそれを見せている」
そう言って彼は立ち上がり彼女の側に向かう。
「 様っ」
「 、君だけだよ。俺には」
そう言って彼は彼女の床まで届く長い黒髪を軽く取り、そこに口づけをする。
「……見て、星が落ちるよ」
宵闇を切るように星が走っている。
彼の言葉に彼女は窓の外を見る。
「忘れないで？星が落ちても、俺が居なくなっても」
「あなたを何故忘れなくてはならないのですか？私は、いつまでもあなたの側に」
そう言う彼女に彼は満足そうに頷いた。
*******
「ありがとう、ルイセ。ESPとPSIの方は安定したようだね」
コーヒーを差し出せばその人はあたしを覚えていたらしく、そう声をかけてくる。
「はい。その節はご迷惑かけました」
「いやいや、目覚めたばかりの場合はしょうがないんだよ。気にしなくても良いよ」
と眼鏡の奥の瞳と共に笑う。
プラチナブロンドの短めの髪に青い瞳、眼鏡のフレームは銀色のこの人……アドニス・ウラルさん。
コラム星のプリマスでセチスの人。
理奈とマリーチの上司。
に、何でコーヒーを出してるのかと言うと、突然やってきたからだ。
コラム星の面々が、アンクルの二人にもちろん、理奈とマリーチも。
「ウィルとクェスはすぐに戻るはずだ」
「ありがとう、ガイ」
そう言って紺色の瞳と髪を持つ、マリーチにどこか似ている彼女はガイにぶっきらぼうに言う。
彼女がマリーチのお姉さんで、アドニスさんのフィスト、コラム星のプリマス、カーラ・ムアさん。
「全く、レイセンがあるから何事かと思ったじゃないか」
そう言いながらウィルさんとクェスさんが部屋に入ってきた。
「で、何の用だい？カーラ」
「…………」
ウィルさんの言葉にカーラさんは何も応えず逆にうつむく。
「読んだって良いんだよ？」
「……読まなくても分かるだろう？」
カーラさんはそう言ってウィルさんを顔を上げずにらみつける。
「参ったねぇ……。まさかカーラが動いてくるとは予想もしてなかったよ」
「何を冗談を」
「カーラが動くのは時期尚早だと僕は言ったよ」
ウィルさんとカーラさんの間にはいるようにアドニスさんが言う。
「アド」
「ウィルに言われると予想していただろう？彼があそこにいたのを知っているのは僕たちだけなんだから」
アドニスさんの言葉にカーラさんはうつむく。
「アドニスの言うとおり、彼女たちの裏に『彼』が居ることを知るのは僕たちだけだ。だが、それすらも予測でしかない」
「分かってる……」
「今は、残りの半分を捜すことに専念しよう……。わざと情報を流すのもいい。彼女たちは僕たちが望む望まないに限らず捜しているのだから」
ウィルさんはそう言った。
「天塔の八姉妹の居場所が分かったらどうするんですか」
「私が行く」
理奈の疑問にカーラさんが即答する。
「ん〜……場所によるよ？」
「コラムかパルマにおびき寄せればいい。そうすれば問題ないだろう？」
「それは、そうだけど……」
カーラさんの言葉にウィルさんは何も言えなくなってしまう。
「少し落ち着いて、カーラ。彼が居るとは限らないのよ？」
諭すようにクェスさんはカーラさんに向かって言う。
「分かってる……。分かってる、クェス」
そうクェスさんの言葉に応えたカーラさんの声はとても苦しいそうで、何も言えなくなってしまった。
ウィルさんは、結局カーラさんの意見をとりパルマにある場所に呼び寄せることにした。
ただ、彼女たちが来るか全く分からないけれど。