Destiny Third

その願いの真理
21・宇宙ステーション

 アルゴル歴60年末。
 天塔の八姉妹と名乗る者達が発足したばかりのアルゴル連邦政府に対し、突如としてシウス星の独立を宣言した。
 それは事実上の宣戦布告ともとれる内容であった。
 その内容に賛同した一部の連邦政府に不満を持つ者達が彼女たちの下に集い、反政府運動の組織『シュラトス』を作り出し連邦政府に攻撃を仕掛けたのある。
 それに対しシウス星の独立自治政府は天塔の八姉妹及び、反政府組織『シュラトス』との関連性を否定。
 連邦政府はそれを受け『シュラトス』及び天塔の八姉妹との排除に踏み切ったのであった。
 明けて61年。
 反政府組織『シュラトス』は連邦軍に押され天塔の八姉妹の拠点に集結しつつあった。

******

「セシル博士、セシル・シルビア博士。コンビネーション機の修正に関して少々お聞きしたいことがあるのですが」
 銀色の機体のコクピットに座る銀色の髪を持つ白衣を身に纏った彼に下から整備士が声をかける。
「その件なら、担当のサディエス・クラブに任せてあるぜ。俺じゃなくって奴に声をかけろよ」
 冷たく響く声でセシル・シルビアは整備士を突き放した。
 セシル・シルビア。
 アルゴル連邦政府が天塔の八姉妹に対する切り札として制作したミランシリーズの設計者。
 サウンドシリーズの制作者として名高いハウロス研究所の所員だった人物で、サウンドシリーズでは基本OSの設計、ミランシリーズでは機体及びOSの設計も行っている天才博士である。
「シルビア」
 リフトに乗って声をかけてきた男にシルビアは顔を上げる。
 アリッシュ・シグマ。
 クイーンレイピアのメカニックであり、彼自身もハウロス研究所におりゼノン・バスの改良型後継機のビリネ・バリトンのテストパイロットでもある。
「何のようだ?」
「随分愛想悪いねぇ」
「テメェに愛想良くして何がある。用がないなら向こうにいけよ。テメェにはインテセリアを任してんだ」
「それはありがとう。って言うよりも、リリアからの情報」
 そうアリッシュは面白そうな笑顔を見せる。
 だが、シルビアはそんなアリッシュに気を止めることなく作業を続けている。
「フレアがクイーンレイピアに着任するそうだ」
 一瞬、その手が止まる。
 だが、気にもせずに作業を続けるシルビアにアリッシュは小さくため息をつく。
「階級は少尉。所属はこのクイーンレイピアのユニット部隊。これで我がクイーンレイピアの稼働ユニットは4機となったわけだ。それにしちゃ試作機とかいろいろありすぎだと思わない?」
 格納庫に存在する整備されている機体を見てアリッシュはため息をつく。
 この格納庫にあるのはセリアシリーズと名付けられたミランセリアとインテセリア。
 サウンドシリーズの傑作といわれる射撃中心のミリアン・アルトと接近戦が主なサウザン・テナー。
 サウンドシリーズのプロトタイプ、バイオン・ソプラノ。
 それの量産型ゼノン・バス。
 そしてアリッシュがテストパイロットを務めるビリネ・バリトン。
 全部で7種存在している。
 ちなみに、ゼノン・バスは量産型なので1機だけではない。
「別に、おもわねぇな。ミランセリアとインテセリアはオレが完成させるつもりだった。アルトとテナーはコンビネーションを目的とした機体だ。テナーに乗れるのがブレイクだけでも、アルトは必要なんだよ。バスは予備だ。ソプラノは少し手を入れたかった。ただそれだけだぜ」
「ふーん。ミランは誰が乗るの?まぁ、フレアかシエラだろ?あの二人は特級にいたからな。こんな癖がある機体、特級の人間じゃなきゃ乗れやしないか」
「シエラはインテだ」
「最高傑作は恋人が乗るってわけか」
「…………」
 アリッシュの言葉にシルビアは悪態もつかず黙り込む。
「お前さぁ、普段は口が悪いけど、こういうときは素直に黙るよな」
「無駄じゃねえの?オレとフレアがそう言う仲だって言うのは誰もが知ってる」
「……ナチュラルに言えるお前がうらやましいよ。ともかく伝えたからな。リタ・フレア少尉。当艦のユニット部隊に配属されるって」
 アリッシュはため息をついてリフトから降りた。

 連邦宇宙ステーション パルマ星 マラテヤ

 各惑星の中心点に配備されている宇宙ステーションは連邦軍の軍事拠点でありそれらは3つ存在している。
 パルマとコラムの中心点にあるマラテヤ。
 スカルとマインの中心点にあるベルツーア。
 ラミアとレイスの中心点にあるシエラプリモ。
 万能戦闘母艦クイーンレイピアは現在、パルマとコラムの中心点であるマラテヤに配備されていた。
「本日より、貴艦クイーンレイピアに配属となりました、リタ・フレア少尉です。ジャック・パラス艦長、シュバイツ・マルロー大尉、よろしくお願いいたします」
 まっすぐな視線。
 先を貫くような力強さを持ち昔のままだと、シュバイツはそう感想を持った。
「あぁ、リタ・フレア少尉は特級出身で以前はクイーンランスに所属だと聞いている」
「はい。それが何か」
「大したことじゃない。ランスとレイピアは同型艦じゃないからな、迷うこともあるかも知れない…。その時は遠慮なく廻りの者に聞いてくれ」
 最新鋭の戦闘母艦であるこのレイピアは新造艦でありながら連邦軍が所持する艦の2号艦の位置づけである。
 それはこの艦がユニット搭載数が他の艦に比べ多く、実行部隊の役割も持ち合わせているためである。
 ジャックはこの艦が新造されたときに、昇進しこの艦の艦長となった新米でもあるのだ。
 他の艦の艦長よりどこかなれてないのはそのせいだろうとフレアは納得した。
「この艦のユニット部隊隊長はブレイク・スペード中尉だ。シュバイツから聞いたところによると、昔ながらの知り合いだそうだな」
「はい。特級に入る前でしたが、同じ士官学校で学んだ仲です」
 フレアはシュバイツに視線を移し笑顔を見せる。
「ブレイクやシュバイツとつもる話もあるだろう。ブレイクの所にはシュバイツに案内させよう」
「お心遣い感謝いたします。では、失礼いたします」
 ジャックの居る艦長室をフレアとシュバイツは共に出る。
「フレア……久しぶりだな」
「ホント……。それに、懐かしい顔がそこかしこにあって…みんな、この艦に乗ってるとは思わなかったわ……」
 フレアは着任早々、通信オペレーターを務めているカウラ・シエニやスピカ・ミシアの二人に出会い驚いたのだ。
「カウラやスピカだけじゃない…、シエラやリリア、それにアリッシュ。それから…………」
 そこでシュバイツは言葉を止める。
「シュバイツ?」
 シュバイツは視線を一点で止めている。
 その視線の先は通路から窓ガラス越しに見える格納庫で、見れば記憶のある銀色の髪が見える。
 その銀色はひどく目立つ。
 フレアの心を波たたせる色。
「シルビア……?」
「そう、セシル・シルビア博士も乗っている……」
「誰も言わなかったわよ」
「誰も知らないさ。いや、ほとんどの人間が知らない。天才博士セシル・シルビアと特級の天才パイロットリタ・フレアが恋人同士だなんて。知ってるのは俺たちぐらいだ」
 士官学校時代、彼らは目立った。
 特級クラス行きだと噂されていたシエラ・トラスやリタ・フレア、艦長候補生としていたシュバイツ・マルロー。
 元々有名だったアリッシュ・シグマ、そして天才と称されていたセシル・シルビアがいるグループだった。
 その中でシルビアとフレアが話しているのをみたことがある者は早々居ない。
 居たのはグループ内だけだった。
 恋人同士というのも知るのも彼らだけだった。
 それだけ二人に接点はなかったのだ。
「どうせ、格納庫に行くんだ、その時に二人だけで話せ。お前が乗るミランセリアはセシル・シルビアの最高傑作だからな」
「……ミランセリア……てっきり、ビリネ・バリトンだと思ってた」
「お前に、シルビアが変なのを乗せると思ったか?どんなにしてもあいつはお前が一番なんだよ……」
 シュバイツの言葉にフレアは何とも言えない表情を見せる。
「何だよ……」
「その言葉、シュバイツからじゃなくって、シルビアから聞きたいわ……」
「本人に言えよ」
「言ってる。って言うか言わせる」
 フレアの相変わらずの物言いにシュバイツは苦笑いを浮かべた。

「相変わらず野蛮な人だ」
 青紫色の髪と金色に光る瞳を持つ彼女はその様子に何か汚らわしい物をみるかのように一瞥をくべる。
「相変わらず?私は貴方たちに会うのは初めてよ?」
 ユニットは塔の外に放置しフレアは大地の塔と名付けられたこの塔で天塔の八姉妹と名乗る者達と対峙していた。
 シルビアがそこにいるからだ。
 そこにあつらえられているベッドに眠っている。
「ピアス……ライアの記憶はまだ戻っていないうようだな……」
「レムルお姉様。ライアは、記憶をなくしているようですわ。フラッシャー様は覚えていらっしゃるというのに……フラッシャー様が不憫でなりませんわ」
 青紫の髪……レムルを呼んだ金髪に青灰色の瞳を持つ妹…ピアスはそう涙を袖でぬぐう。
「記憶って何よ。そんなの私には関係ないわ」
「関係ない?お前がそう言っても私たち天塔の八姉妹には関係があるのだ」
「そう、私たち天塔の八姉妹は、フラッシャー様をお慕いしておりますの」
 レムルとピアスはそう言ってシルビアに近づく。
 シルビアは何故か動かない。
「ふざけたこと言わないで!!!」
 フレアの叫びに周囲にひびが入る。
「シルビアを返しなさい」
「フラッシャー様は渡さない」
「何度言ったら分かるの?フラッシャーって300年ぐらい前に死んでる人よねぇ?あたしが言ってるのはフラッシャーじゃなくってシルビア、セシル・シルビアの事よ!!」
「何を面白いことを……あの方はフラッシャー様ではありませんか。ライア」
「何度言えば、分かるの?あたしはライアじゃない!!!」
 フレアの叫び声に反応して火花が散る。
「貴方たちがシルビアを連れて行こうとしても。どこに行こうとしても。絶対に私の側に連れ戻すって。私は、彼を愛してるの。前にも言ったわよね。覚悟しろって。だから、天塔の八姉妹。あんた達だけは、絶対に許さない!!!!シルビアは私の物。誰にも渡すつもりなんてない。覚悟するが良いわ。私はただのユニットのパイロットと違う。特級研を出た人間。こんなことだって出来るんだから」
 そう言うフレアの手の中で高熱が発せられる。
「『邪魔な物は排除する』それが貴方たち天塔の八姉妹の信条だったわよね。だったらこっちもそうさせて貰うっっ」
 フレアはそう言うと同時に電撃を発生させ、それを天塔の八姉妹に向かって放った。

「随分と、派手にやらかしたじゃねぇか」
 いつもと変わらない皮肉めいた笑みを浮かべ、シルビアはフレアに近づいてくる。
 あたりは焼けこげた臭い、塔の外にはユニットの残骸。
 激しかった戦闘の惨状が広がっている。
「他の連中はどうした?」
 ついさっきまで天塔の八姉妹とやり合っていたフレアは身につけた物はぼろぼろとなりあちこちにすす焦げた後を作っているのをシルビアは不快そうに見る。
「好きで…やった訳じゃない。………リリアはアリッシュと先に艦に戻った。ブレイクとシエラは他の所にいる。……捜すのに時間がかかったわ…」
 そう言いながらフレアはシルビアに触れる。
「フレア、このやけど痛くねーのか?」
 赤くなっているやけどにシルビアはフレアが痛みを感じないようそっと触れる。
「だいたい誰のせいだと思ってるの?」
「わりぃ…」
 愁傷に謝るシルビアにフレアは戸惑い
「別に……いい……。取り戻せたんだから……」
 とあまり言いたいことも告げられない。
「フレア?そういや……お前昔からの口癖だったな」
「口癖?」
 シルビアの言葉にフレアは心当たりを捜すが見あたらない。
「『シルビアは私の物。誰にも渡すつもりなんてない』ってことある事に言ってたじゃねえか。それをまた聞くとは思いもしなかったぜ?」
 シルビアは言われた時を思い出して苦笑いを浮かべる。
「当然でしょう?あなたは私の物。どこかに行くなんて許さないわ……」
「……思い出したって訳じゃねえのか……」
「どういう……意味?」
 フレアはシルビアの何気なく呟いた言葉にとまどいを隠せない。
 思い出した訳じゃない。
 と言うよりも、何を思い出すというのだろう。
「……笑わないで、聞くか?」
 フレアから視線を外してシルビアは問い掛ける。
「何を…?」
「良いから黙って聞け。今から……そうだな300年以上も前の話だ……」
 300年前と言えば、まだアルゴル太陽系はパルマしか人が住んではいなかった。
 アルゴル太陽系の歴史はパルマから始まる。
 なので、正確に言えば、確認された人類はという注釈がつく。
 そして、光の女神と呼ばれる人物が居た。
「……彼女は光の女神。女神は転生の法を見つけた。次でも共に生まれ変わるために。特殊な電波とエネルギー値。それが一 致した物は女神だと……彼女はそう言った」
 歴史を語ると言うよりも、シルビアの語り口調はおとぎ話を話している様で、フレアは戸惑う。
「後の研究により、その値はESP値とPSI値だと言うことが判明した。女神の能力はかなり高いものでなかなか合う人間が存在しなかった………」
 シルビアの話にフレアはついて行けない。
「何言ってるって顔をしてるな?俺らしくねぇとも思ってんだろ?俺だってそう思ってる。お前が思うのも無理はねぇ」
 自嘲気味に笑い、シルビアは話を続ける。
「あの女神の話は軍関係者やそう言う能力を研究している人間にとっては興味深い話だ」
「あの話は本当だっていうの?」
「じゃなきゃ、パルマ政府は存在してねえ。当時の王族がその後にパルマ政府を発足させたっていうからな。資料だって残ってる。もっともそいつはお偉方しか見られねぇがな。その資料にはESP値及びPSI値も載っている。もっとも、当時はその名称は存在せず、さっき言ったとおり特殊な電波とエネルギー値……思脳波と念力値と言われてたが。その当時から能力に関する研究はされていたらしい」
 資料はリカルドに頼んで見せて貰ったのだと思い出したように付け加える。
「女神は転生の秘術を見つけた。さすがにそんなことは信じられねえ。第一その方法が見つかってない。もっとも、見つけたとしてもそれをどうしたいかって言われたら困るが……。女神の言葉を信じるのならば、そいつは転生しても同じ能力値を持っていると言う……。女神の能力値は類を見ないぐらい高い物だった。だがそれは軍にとって有益な能力値……」
 言葉を止めてシルビアはフレアを見る。
「その為に軍は特級研を作り出した。特殊能力クラス。名目は通常の士官学校のエリートのみが入れるクラスだが……」
「本質は……女神の能力値を持つ人間を捜すクラス……」
 フレアの言葉にシルビアはゆっくりと頷く。
「お前が、その能力値を持っていることをしった上層部は驚いたと同時に女神の存在を信じざるを得なかった。そしてこの星が巻き込まれた運命を知った。『星の願いは転生して叶えられる。それは他にとって我儘と捉えられるだろう』女神が生まれ変わりの存在を示したときに語った言葉だと記録に残っている。その願いは何なのかはっきりしていない。軍上層部はそれを都合の良いように理解していた。だが、それが覆された。女神の生まれ変わりが存在しても星の願いは何なのか、それが分かってねぇからだ」
 どこかバカにした口調。
 フレアはそれを不思議に思った。
「シルビアは、それを知っているの?」
 そしてゆっくりと問い掛ける。
「……くだらねぇ願い……。他の連中が知ったらそう言うだろうな……」
 フレアの言葉にシルビアは遠くを見つめながらそう言う。
 その視線の先は、この星の景色が広がっている。
 荒涼とした大地。
 この星の名前に相応しい景色。
「フレア、女神の側には恋人が居たんだと……」
「……恋人………!?」
 フレアは一瞬何かを見たような気がした。
「その願いは……。星の願いって言うのは星の女神とも呼ばれた彼女の願いだ。単純で他愛もなくってくだらねぇ願い………」
 くだらないと言いながらもシルビアの声は柔らかい。
「願い……。……の願い……」
 シルビアの言葉に何かを見ようとするフレアは見えるようで見えない何かを捜そうとあがく。
「無理に思い出さなくたって良いんだぜ?俺は俺で、お前はお前だ」
 どこか諦めた様子を見せるシルビアの声。
『俺は、常にお前の側にいる。約束しよう』
 どこからか声が聞こえる。
 それが引き金となり彼女の中で『何か』があふれ出る。
 突然吹き出す水の様にわっと吹き出してフレアの記憶に染みこんでいく。
「……側にいるって言ったじゃない……」
「無理に思い出さなくたって良いって言ったじゃねえか」
「二人だけの約束?思い出したんだもの、諦めて」
 苦笑しながら言うフレアにシルビアも笑みを返す。
「下らねぇって思ってたんだけどよ……」
 シルビアはため息をつき髪の毛をかきむしる。
「科学者は信じられないっていう迷信だものね」
「うるさいぐらいに夢にでりゃ、嫌でも信じ込まされるだろう?」
「夢?科学者とは思えない言葉」
「テメェ……。夢だって科学だろ?人は何故夢を見るのか、それはまだ科学的に解明されてねぇからな」
 他愛もない会話。
 他愛もないやりとり。
 未だに火薬のにおいが消えないこの場所で二人は会話を続ける。
「次は、どうする?」
 シルビアは思い出したかのようにフレアに投げかける。
「そうね……」
 何を問われたのか理解しているフレアは妙案が浮かんだとばかりににっこりと笑みを浮かべる。
「何考えてやがんだ?」
「………今度は捜して。私を捜して。三回目の約束はそれね。でそうね…あと三回生まれ変わったら、ずっと一緒にいて」
「ったく無茶なこと言ってくれるぜ。てめぇの望み通りにしてやるよ。フレア」
「約束よ、シルビア」
「あぁ……」

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 星の我儘。
 それは他愛もない願い。
 それを知るものはまだ二人以外いない………。

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