Destiny Third

正しい想いの行方
16・未来的遊技

「ウィル、知ってたの?」
「まあね。ライアの能力値の他にフラッシャーの能力値もデータとして残っていたから」
「呆れた。それ、何で言わなかったの?」
「言う必要あるかい?クェス。知る必要のない記憶だよ。これらは」
「でも、私たちは全てを知った」
「知ったからってどうこうなる訳じゃない。他愛もない記憶だろう?これらは」
「そう、願ったもの。当事者にとっては他愛もない記憶。だが、他の者から考えたら、たとえばどうだろうか?」
「パルマや、天塔の八姉妹って意味かい?アドニス。君が言いたいのはそれだけじゃないって解ってるよ」
「なら良い。オレは、あいつが何を考えてるのか解らないんだからな」
「同感だね」

「理奈、誰がどこにいるのか解る?」
「えっと、ガイとマリーチはまだ2本先の通路の方にいるよ」
 理奈の言葉にあたしは今の状況をなるべく冷静にと焦りながら………考える。
「どうして、こうなっちゃったのかな?」
「それは……千瀬がちゃんと認めないからでしょ?」
 認めないってどういう事よ。
「ガイは…って事。ガイをって事の方が良いかな?」
 と理奈は言う。
 ……認めてないって言う訳じゃなくってそんなんで良いのかって事なんだけどなぁ。
「同じ事だよ」
 と理奈は笑顔を見せながら言う。
「……千瀬、来る」
 理奈の声がせっぱ詰まる。
「理奈、逃げるよ」
 あたしは理奈の手をつかんで
「どこに?」
「どこかに!!!」
 テレポートを掛けた。

「あ、逃げられた」
「…………テレポートが遅すぎる」
「え?オレのせい」
「他にないだろう」
「ガイは、捕まえたくないの?」
「オレは正確に言ってる。……ここから距離300。北西だな」
「……確かに正確だよ。お前の索敵能力は」

 なんで、こんなことになってるんだろう。
「ガイ達はどこ?」
「ここから南東の方角にいるよ。距離は300メートルぐらい?」
 遠いんだか、近いんだか…わかんないな…。
「もうちょっと逃げた方が良いのかなぁ」
「逃げる範囲は、プリマス基地2キロ周辺だからぁ……行ってみる?」
「そうだね」
 理奈の言葉にあたしは頷いてもう一度テレポートを掛けた。

「ルイセとアリーナは」
「ガイとマリーチから逃げ回ってるわよ。結構よくやってるわねぇ」
「マリーチもガイも能力はトップクラスだから…。その二人から逃げ回るのは至難の業だけど……」
「って、最初にあの二人を組ませるって言ったのレイナだと思うけど?」
「クリスだって賛成したでしょう?」
「その通りでしたぁ。あたし達さぁ、巻き込まれたって言うじゃない?」
「そうね」
「それでも、関係ないって思うのよね。あたしのあたしの気持ち。あたしがバーツのこと愛してるって事は変わらないもの。それをあの娘は解ってないのよ。それを解る必要はあると思うのよね」
「それは、同感だわ」

「まいた?」
「ん~~多分」
 あたしの言葉に理奈は考え込む。
 あたしは今ガイとマリーチから逃げ回っている。
 理由は突然クリスが言い出した。
「追いかけっこしよう」
 って。
 鬼ごっこはプリマスの特殊訓練なんだそうだ。
 パートナーではない人間と組んで(能力は重なってはいけない)パートナーから逃げるっていう……。
 必須能力(ESP者は索敵、PSI者はテレポート)を高める必要性があるという。
 ガイと目を合わせたくなかったあたしの気持ちをクリスは気付いたのかな?
 私は、気付いてしまったのかも知れない。
 だから好きになったの?
 違うって言いたいんだけど、そうじゃないって言いたいんだけど……。
「千瀬」
 って呼ばれたときあたしは思わずガイから逃げちゃったんだ。
 どうやって顔を合わせればいいのか解らなくって。
 あの時ナユタとリニアが見せた記憶はあたしだけで、他のみんなは違うものが見えたらしい。
 各個人違うものが見えたって言うんだからなんだか面白い。
 ライアは、フラッシャーといることを願った。
 あたしは、ガイの側にいたい。
 ガイは、……そうなの?
 解らなくって逃げちゃった。
 そしたら「じゃあ、鬼ごっこしましょう」
 なんてクリスが言い出したのよね。
「千瀬、あたしは巻き込まれたなんて思ってないよ」
 不意に理奈が言う。
「どうして?」
 ライアが願ったからみんなも過去の記憶を持ってるんでしょう?」
「リニアが言ったでしょう?誰しもが願う他愛のない想いだって。あたしもマリーチと一緒にいたいって願ったから、あたしは今マリーチと一緒にいられるんだと思うの。願いが叶うって想いが強ければ強いほどかなうんでしょう?みんなもそう願ったんだよ。好きな人と一緒にいたいって。思い出したのは千瀬のおかげ。誰も千瀬のせいだなんて思ってないよ」
 理奈はそう言って笑顔を見せた。

「ガイは、どう思う?今の状況」
「………今の状況?」
「そう。千瀬ちゃんはライアで、自分はフラッシャーでって事」
「お前はどうなんだよ」
「オレ?オレはオレでしょう?オレがカイルで、理奈がリースだろうが関係ない。オレは理奈が大切なだけ。ただそれだけだし」
「そんなこと理解してる。オレはオレだ。ただフラッシャーの記憶を持っているだけ。ただフラッシャーだったというだけ。千瀬も同じだ。千瀬は千瀬。ただライアの記憶を持っていて、ただライアだったって言うだけ」
「だったら、千瀬ちゃんにそう言いなよ。絶対彼女は誤解している。自分のせいで迷惑掛けてるって。確かにパルマに彼女は連れてかれた。ライアとして。俺たちが彼女を助けようと思ったのは彼女がライアだからってわけじゃない。彼女はお前のパートナーで俺たちの仲間だから。だろ?」
「そう……お前の言うとおりなんだよ」
「お前が解ってるんだったらオレは良いんだけどさ。お前が誤解してたら、それこそ千瀬ちゃんがかわいそうだ」

「あら?フェリス、リア。捕まったの?」
「………レムネアとアドルのコンビネーションには勝てないもの」
「あらあら。シンクロ率はガイ、マリーチコンビよりレムネア、アドル組の方が高かったって事か」
「まぁ、そう言うことだな。レイナ、クリスお前達の方はどうだ?」
「バーツはあたしから逃げるのが得意だもの、なかなか捕まらないわよ」
「あたし達がバーツとカーツの二人を捕まえられないのは、クリスから逃げてるバーツのせいだってわけか」
「ちょっとレイナぁ、そういう言い方ないんじゃない?」
「事実でしょう?」
「そ、それはそうだけど………」
「それにしても、前もそうだったなんて面白いわよね」
「確かに、言えてる。結局あの3人でつるんでるのよね」
「で、クリスが追いかけてルイセとアリーナが逃げるって訳か。で」

「ルイセ、アリーナいるんでしょう?」
 そう言ってリアが上を向く。
 ばっちり目があってしまった。
 集合場所はもちろんマイン星のプリマス支部。
 捕まったらそこに連れてこられる。
「いつの間にココに来たの?二人とも」
 あたし達に気がついたのか皆上を向く。
 そこにいたのはリアとフェリスにその二人を追いかけてたレムネアとアドル。
 それからレイナとクリス。
 ちなみに、あたしと理奈がいるのはプリマス支部の入り口の屋根の上。
「リア。マリーチとガイを出し抜く方法ない?」
「………レイナ、カーツとバーツを見つけた」
「行くわよ。距離、1000を保つわよ」
「了解」
 突然、レイナとクリスがテレポートをしていってしまった。
「えっ、どうすればいい?」
「簡単だ。逃げるより捕まえろ」
「攻撃は最大の防御って言うねぇ」
 と、レイナとクリスがいた場所にバーツとカーツがテレポートしてくる。
「どういう事?」
 理奈がバーツとカーツの言葉に首をかしげる。
 ……あれ?何でレイナとクリスが逃げてるんだろう。
「攻守逆転?してるの?」
「そうとも言うな。レイナとクリスは俺たちと距離を一定に保ってる。おそらく隙を探しているんだろう」
 だからここから逃げたって事?
「この鬼ごっこはどっちかが捕まったらおしまい。逃げてるだけじゃ意味がない。だから、二人とも頑張ってマリーチとガイを捕まえてね」
 とカーツが楽しそうに微笑んだ。
 か、カーツってこういう人?
「カーツはウィルと同じぐらいのくせ者だ」
 ガイの声。
「千瀬」
 解ってる。
「あっちゃー。逃げられちゃった」
「そうのんきに言ってる場合じゃなくなったよ。ガイ。この鬼ごっこのポイントを彼女たちに伝えたから。これからはガイ達が逃げる方だね。バーツ、クリス達がポイントを取ったよ」
「……本格的に来るつもりか?あいつ」
「だろうねぇ」
「のんきだよなぁ。カーツは」
「レイナの癖オレは知ってるからね」
「成程。癖を知らない分俺たちは分が悪いってわけか」
「何を言う、先読みはガイにまけるよ」
「だと、良いけどな」

「……攻守逆転……」
 バーツのいった言葉を反芻する。
「出来そう?」
「あたしだけじゃなくって理奈も考えて」
 なんで理奈はあたしだけに考えさせるんだろう。
「あたし考えるの苦手だもん」
 そうでした。
「で、どう?バーツいってたよね。クリス達は一定の距離を保って隙を探してるって」
 うん。
 隙、どうやって見つけるんだろう。
「見つけるんじゃなくって……作るんじゃないの?」
 そういった瞬間、理奈の後ろで光が走る。
「な、何?」
「…………レイナが、カーツに向かって何かを放ったみたい。PSIっぽいよ」
「レイナはPSI所持者じゃなくってサイキッカーだったよね」
「バーツと、マリーチもそう。ついでに千瀬もね」
 …………ということは……。
「今のは直接PSIをぶつけたって事になるよね」
「うん」
 攻撃しても良いって事だよね……。
「千瀬……?」
「逃げてるのは、性に合わないわよね、やっぱり。ココに来てからずっと逃げてる気がするの。そろそろ反撃したいって思わない」
「あ、あのね。多分、レイナが使ったのは怪我しない奴だと思うの」
 いや、もうこの際だから思いっきり攻撃したい。
 せっかく、使えるようになったんだし。  多分。
「それじゃあ、まずいと思うよ?」
「じゃあ、どうやって隙作るのよ!!」
「うーん。断続的にいろんな所にテレポートして近づいてくって言うのはどう?」
 めちゃくちゃ大変そう。
 そんなことあたし出来るのかな。
「やってみれば出来るかも」
 って言うか、テレポートするのあたしなんだけど。
「それもそうだね」
 あぁ、理奈ってば解んないで言ってる!!!
「でも、このまま逃げ続けてもダメなのは千瀬解ってるよね」
 突然理奈はまじめな顔をしてあたしに言う。
「逃げ続けちゃだめ?」
「さっきと矛盾してる」
「それはそれ、コレはコレじゃダメ?」
「ダメだよ。そしたらこれいつ終わるの?あたしは平気だよ。マリーチがカイルだって。あたしが、リースだって。カイルがリースを好きだって。リースがカイルを好きだって。あたしがマリーチのことが好きだって事は変わらないよ。第一、あたしはマリーチを初めて見たときから好きだったもん」
「それは、そう思わされてたって事にならない?」
 生まれ変わりでそう決められてたから、好きになった。
 そういうことと違うの?
「どうして?あたしは、あたし。リースがどう考えてたなんかあたしは知らなかったよ。確かにこの人だって思ったかも知れない。でもそれはマリーチをカイルだって認識したって事とは違う。ねぇ、千瀬。千瀬は難しく考えすぎだと思うよ?千瀬は千瀬じゃないの?ねぇ、ガイのこと好き?」
「好き………。けど」
「けどとかいらない。あたし千瀬は前からガイのこと好きだと思ってたよ?ガイが千瀬の事を千瀬って呼ばなかったことあったじゃない。あの時すっごくショック受けてたよね?それってガイの事好きだからじゃないの?名前呼んで欲しいって思ったんじゃないの?」
「……すごく寂しいって思ったけど……」
「パルマタワーからイスアにテレポートしてきたときものすごく嬉しそうな顔してたよね。それってガイが名前呼んだときでしょ?」
 理奈の言葉にあたしは頷く。
「それってガイのこと好だからじゃないの?どうでもいい人に名前呼ばれるのはどうでも良いけど、どうでも良くない人に名前呼ばれなくなったり、名前呼ばれるようになったりでいちいちショック受けたり、喜んだり普通しないよね」
 うん……。
 理奈の言葉はもっともだ。
 あたしはガイに名前呼ばれなくなってすごく寂しくって、ガイに名前呼ばれてすごく嬉しかった。
 その事だけで一喜一憂してた。
「それって千瀬がライアだって言われてパルマに連れてかれる前の事でしょ?あたしね、千瀬はいつ気付くのかなって思ってた。あたしはマリーチに一目惚れしたからいいけど、千瀬は知音さんのこと好きだったじゃない?だから落ち着くまで見守っていようって思ってた……。まぁ連れてかれたりするのは予想外だったけどさ」
 知音の事……そういえば好きだったんだっけ。
「…今まで知音の事思いもしなかった……」
「千瀬……」
 見上げれば雲一つない真っ青な空が見える。
「マイン星の空って綺麗だね……」
「そうだね」
「ずっと分かんなかったんだ。どうして良いのかって。みんな、あたしのせいじゃないって言うけれど。それでもあたしのせいだと思った。でもそれってなんか自分勝手だよね。勝手に悲劇のヒロインになったつもりでいた気がする。思い出したんだ今」
 そう、思い出した。
 あたしがシウス星にいるときにずっと聞こえていた声。
「『あたしは私。私はあたし。だけど違うもの』ってあれはライアがあたしに語りかけてたんじゃないかって。それってあたしはライアでライアはあたしだけど。あたしとライアは違うって事だよね」
「そうだね」
 理奈とは違う声が右隣から聞こえる……。
 ふっと見れば、苦笑いしてる理奈に後ろから抱きついてるマリーチ。
「ごめんねぇ、千瀬。気付いてたんだけど……」
 り、理奈の裏切り者~~。
「はい、千瀬ちゃんと理奈の負けだね」
「お前なぁ……」
 あたしの左隣からはガイの声…。
「じゃあ、俺たちは先に行くね」
 逃げるか!!
 どうする?
「千瀬」
 声と共に後ろから抱きしめられる。
「ウィルが大地の塔で言った言葉忘れたのか?お前は」
「だ、大地の塔で言った言葉?」
「『ライアの願いに振り回されている』って奴」
 ……覚えてるよ。
「じゃあ、理解は?」
 理解?
 願いに振り回されてるんでしょ?
 それが他愛のない願いだって事誰も分かんないで。
 ものすごいことがおこるって思って。
 他愛もないのに。
「そう、他愛もない願いだ。千瀬がライアだって事だってそれは他愛もないことだって思わなかったのか?」
 ……他愛もない事??
「そう、お前は分かった振りして分かってないだろう?お前はライアだって事も、でも違うって事も。それも他愛もないことだって事を」
 え、えっと……。
「大げさに考えすぎるって事だ。ライアだろうが何だろうが関係ないだろう?全部他愛もない小さな事なんだって事」
「だって……」
「混乱してるだけだろう?ずっと。この星に来たときから。それはまぁ……オレのせいだって思ってるけど……」
 混乱してるのかな?
「オレから見れば十分混乱してるよ。だから全部無理して理解しようとしなくて良い」
 ガイの言葉に涙があふれてくる。
「千瀬、オレは君が好きだ。でもそれは、オレはオレがフラッシャーだから千瀬がライアだから言うんじゃない。オレはオレが君が好きだからそう思ってる」
 何て答えて良いのか分からない。
 ガイの言葉は嬉しくて、あたしは泣きやむことも出来ずにガイの方に体を向けて、その胸で泣いてしまう。
 そんなあたしをガイは優しく抱きしめてくれる。
「ガイ、あのね」
 何て言って良いのか分からない。
 どうやって言ったら、あたしの気持ちが伝わる?
「千瀬の気持ちは知ってるよ。だから焦らなくてもいい」
 知ってるって………。
 あ、大地の塔で告った気がする……。
「って、何でそんなにガイは冷静なのよっっ」
 顔を上げたら、真っ赤な顔しているガイと目があった。
「ガイ……顔が赤いよ?」
「当たり前だろう?状況考えろ」
 あたしから視線を外してガイは言う。
「あ、あはははは」
 あたしはガイに抱きしめられてるんだった。
「涙止まったな」
 そう言いながらガイはまだ涙が残っているあたしのまぶたをぬぐう。
「そういえば、そうだね。ガイ、ありがとう」
 今なら、言えると思った。
 ちゃんと
「好きだよ。ガイのこと」
 そう言って思わず照れてしまった。
「それだけか?」
「それだけ?」
 って?
 思わず悩んだあたしのほほにガイは手を寄せて困ったように微笑む。
「オレだけかな?」
「何が?」
「分からなければいいよ」
 そういって笑う。
 銀色の髪が太陽に輝いてさらさらとなるようにあたしの顔に降る。
 赤い瞳が閉じられて……。
 気付いたらあたしの唇はガイのそれと重なっていた。
 柔らかく優しい口づけ。
「ガイ……」
 キスされた事実に思わず放心してしまった。
「参ったな」
 ガイはあたしを抱きしめてそう呟く。
 あたしの頭一つ上から聞こえるその声は甘やかでとても優しい。
「これじゃ離したくなくなる……」
 って何言ってるのよ~~。
「ガイ、あのね~~」
『ね、だから言ったでしょう?同じだけど違うって』
 どっかから声が聞こえる。
『だいたい、あたしはもうちょっと大胆だから』
 ってそんなツッコミもどうなんだろう。
『言ってみれば同じ魂って事。同じだけど違うって事。あたしじゃないから理解は遅いか』
 ってこの声、ライア?
『そうよ。あたしはライア。初めましてって所かな?でももうさよなら。もう大丈夫みたいね』
 えっと……いわゆる幽霊って奴。
『そうとも言うわよねぇ。アハハハハハ』
 幽霊に取り憑かれてたんですか?あたし。
『守られてたって言ってよ。シウス星でずっと声掛けてたんだけどなぁ』
 じゃあ、聞こえた声はライア?
『その通りです!!!あそこに呼ばれて行ったらあなたがいて。またそんなことやってるんだあって思ったらむかついてね~』
 いや………この人こんな人?
『まぁ、これで一安心よね。じゃあ、行くわ』
 ……ありがとう、ライア。
 突然の声は突然聞こえなくなる。
「千瀬、そろそろ戻るか?」
 ガイが、名残惜しそうにそんな風に言う。
 今の声はガイに聞こえなかったみたい。
 ライアとの邂逅。
 その時間はほんの一瞬だったみたい。
「千瀬?」
「何でもない。ちょっと考え事」
「そっか…。で、戻る?」
 ガイはまだココにいたそう。
 あたしも、居たい気分だけど。
「戻らないと、誰かが探しに来そう」
 そう言えば、ガイは嫌そうな顔をする。
「それは言えてるな……。とはいえ…戻ったら戻ったで……」
 からかわれるのは目に見えてるって奴?
「そう」
 でも、戻らないとそれこそだと思うし。
「確かにな。まぁ、戻るか。オレ達が一緒にいるって事はマリーチ達が先に戻ってるって事で分かってるだろうし……。話す時間をもらえたと思って……」
「そうだね。これから離れるってわけじゃないもんね」
「そうだな」
 お互いに顔を見合って微笑みあって。
 なんだかすっごく幸せなんだけど。
 戻ったらからかわれるけど、今は、もうちょっと浸ってたいかな。
 なんてね。

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