Destiny Third

願う者と望む者の相違
18・瞬間移動

「私は私であって、あなたじゃない、
 あなたはあなたであって、私じゃない。
 ずっと一緒にいたいって思うのは私の気持ち。
 幸せだから、次も、その次も。その先も、いつも。何度でもと、願うだけ。
 でも、私であってあなたであって、私じゃなくってあなたじゃないけど。
 きっと同じく思うのよ」

*******

 目が覚めて、涙が出る。
 あたしのであってあたしのじゃない声が聞こえるとき、あたしは正気に戻る。
 いつも必ず泣いてるけど。
 正気……であってるのかな?
『ライア』って呼ばれる時じゃなくって、元の、あたしの本当の名前。
 千瀬だったりルイセって呼ばれたりする時に戻る。
『私、守るから』
 そう言った声に似ている。
 …いつまでここにいるんだろう。
 どうやったら抜け出せるんだろう。
 体力がない気がして起き上がるのにも億劫。
「大丈夫だ。心配するな」
 不意にガイの声を思い出す。
 ガイが、あたしのこと千瀬ってちゃんと呼んでくれた時に聞いた声はすごく優しくて。
 呼んでくれたのが嬉しかったし、意味もなく安心出来た。
 確か、理奈やマリーチが居る船にテレポートするときだったっけ……。
 自分の気持ち「ちゃんと名前呼んで欲しい」って言った後、ガイの態度が変わったんだと思う。
 あたしの名前呼んでくれるときの声の調子が違うって気がついた。
 前は義務として呼んでたような気がする。
 だから、ガイはあたしのことを千瀬じゃなくってルイセって呼ぶようになったんだと思うし。
 それを思えばなんだかすごく嬉しい気がする。
 それが理由とかそう言うんじゃないけど、今無性にガイに逢いたい。
 ここに来てからどのくらい経ってるのか分からない。
 変な声聞こえてくるし。いつも暗いし。
 アルゴル太陽系に来てからずっとガイの隣にいた。
 日付の感覚なんてなくなってもおかしくないような場所に居る今、すごい怖い。
 ガイが居ないだけでこんなに恐怖も不安も感じるなんて思いもよらなかった。
 きっと、眠るときがすぐそこに来ている。
 眠ったら、あたしは、あたしでなくなり、ガイに逢いたいという気持ちが消えていく。 
 なくなって欲しくないのに、目をつぶって眠りに向かうとき、少しずつ意識が消える気がした。


 そして、私は眠る。
 そして、目覚めたときはすべてを忘れて。

*******

 カルロさんに集合を掛けられて、会議室に集合したわたし達。
「おい、ナユタ。なんでテメェまで居るんだよ」
 その中にナユタの姿を見つけて、カルロさんは文句を言う。
「ナユタは関係者だ、カルロ。彼女は私がシウスより脱出するときに手助けをしてくれたのだ」
 とナユタの代わりに答えたのは大統領。
「そう言うこと。じゃあ、俺が進めても良いかな?」
 とシャルさんがカルロさんに言う。
「シャル、テメェー」
「それを返事として受け取ろうか。テレパス値が最弱のカルロ・クリフ?全く、同情するよターナには。テレパス値が最弱のカルロとアンクルを組んでるんだから」
「そんなことないわ。確かにカルロのテレパスは最弱だけれども、私とはちゃんと相互テレパスが可能だから不便はないわ」
 シャルさんの嫌みにも似た言葉にターナさんはにっこりと微笑んで返した。
 ………会議、いつ始まるのかな……。
 なんか、この人達の会話を聞いてたら、いつまでたっても始まらないような気がするよ。
 これってもしかしていつものこと?
 マリーチに視線を向けたら、苦笑して頷いてくる。
 いつものことなんだ。
 千瀬の事助けられるのいつになるんだかって思わず、不安になっちゃう。
「状況を説明しておこう」
 不意に大統領が口を開く。
「その前に、どこまで現状を把握している?」
 大統領は、ガイに視線を向けた。
「千瀬…ルイセがライアの生まれ変わりだと言うこと。『パルマ』はライアを必要としていると言うこと。それ以外は何も」
 ガイの言葉に大統領は分かったと頷く。
「お父様、ライアはおとぎ話ではなかったのですか?」
「そう、おとぎ話でもあり、歴史の一つでもある」
 レイナの問いに大統領はそう答える。
 アルゴル太陽系の人なら誰でも知る、『ライア』。
「今から3000年以上も昔、この星の暦がアルゴル歴ではなく、パルマ歴だった頃の話だ……」
 ライアのおとぎ話。
 スカル星からマイン星に戻るときに少し聞いた。
 光の女神。
 この星をあらゆる災厄から世界を守った女神ライア。
 その話はおとぎ話としてアルゴル太陽系のあちらこちらに散らばっているという。
「星を守り、星を救い、星を統治した女王。彼女の願いは星の軌道を変え、星はその願いを叶えたという。実際の所は、彼女はその願いを叶える術を知っていたと考えた方が良いだろう。ライアはパルマ歴1300年代後半から半世紀女王として君臨している」
「証拠……れ、歴史書があるのですか?」
 カームさんの言葉に大統領は頷く。
「本家………レグルト人からしたら王家と言うべきか………にそれは伝わっている。その時代、パルマは混沌とした惑星だった。魔物と呼ばれるモノが我が物顔でパルマにはびこり、王家や、ライアはそれを鎮圧するために尽力していたとある。ライアは星を守り、自らの願いを叶えた。『パルマ』がライアを信仰するには十分な理由だろう」
「『パルマ』がその名前を名乗るのはライアがその昔統治していたからという意味なんですね」
 カームさんの言葉に大統領は頷く。
「ライアの願いとはなんですか?」
「それは、分からない。彼女しかその願いをしらないのだ。ただ『ライアの願いを叶える』としか記されていない。『パルマ』は彼女の願いを都合良く自分たちの願いに利用しようとしている。彼女の願いがなんなのか分からずに」
 そう大統領は言い、顔をしかめる。
 これで、パルマが『ライア』を必要としている理由が分かった。
 じゃあ、もう一つ。
「千瀬が、ライアとして連れて行かれた理由は?」
 ガイはそのもう一つ疑問について大統領に聞く。
「彼女が生まれ変わりとして認められたのだろう」
「その理由が分かりません。どうやって生まれ変わりと分かるのです」
 あっさりと答えた大統領にガイはなおも食い下がる。
「彼女の名が後世に名を残しているのはある一つの発見からだ。彼女は転生の法を見つけた。そして後の世に転生すると、そう言い残した」
 その言葉に会議場内は騒然とする。
 訳わかんない。
 どうやって転生したって分かるの?
 それが何で千瀬だって分かったの?
「彼女は自分がそうであるという証拠を残した。自分のESP値とPSI値だ。これの波形は同じモノは存在しない。だが転生した者は自分のそれと同じだと。後の世に、『ある人物』がそうであると認識した者がいた。人物名は伏されていたが、それからその頃の軍事資料にその人物が『ライア』だと認識されたという。軍事資料の一部分に記されていただけだから軍事関係者ということだろうが……それ以上は分からない。だがその『人物』のESP値とPSI値は『ライア』のそれと同一だった。ここからは私の予測以外にない。ルイセのそれはライアと同一だったのだろう。だから彼らはアルゴル太陽系外にまで出て彼女を探しに行ったのだろう………」
 大統領はそう言って目を伏せる。
「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「構わないよ。ガイ」
「……大統領は、千瀬がライアだと言うことをご存じだったのですか?」
「いや。私はライアの存在を否定したからね。調べようとは思わなかったよ。だから、まさかこんなことになるとは思わなかった。ガイ、君に謝らせてもらうよ」
 そう言って大統領は頭を下げた。
「お、お父様!」
「だ、大統領!!!」
 その行為に再び会議場内は騒然となる。
 だ、大統領が頭下げるってよっぽどの事じゃないの?
「いえ、大統領が悪い訳じゃないんですから」
「でも、気が済まなかったからね。私の独りよがりのようなものだと思ってくれても良いよ」
 そう言って微笑んでしまった大統領にガイは頷く以外になかったみたいだった。

 結局、千瀬を助けるための作戦会議なんてあってないようなモノで。
 スカルからマイン星に戻るときに考えた案『テレパスの索敵で千瀬を探して、テレポートして連れ戻す』というなんだか強引な案が採用された。
 千瀬はプリマス支給のIDのペンダント持ってるはずだからそれである程度の場所の特定。
 これは発信器みたいなモノにもなってるんだって。
 だから行方不明になっても大丈夫。
 ちなみに、パルマのアンクル、ガイのおじさんであるウィルさん達をそれで探せないのはウィルさん達が何らかの形でその機能を消してるからだそうだ。
 ちなみに、このペンダントが発信IDだって知ってるのはこのIDをもらったプリマスの面々と長官である大統領だけ。
 バヌア・シェイドはこれが発信IDだっていうのは知らないから、千瀬がこれをまだ身につけているのなら、居所を見つけるのは簡単だろうって。
 ただ問題は、シウスの電波状況らしいんだよね。
 ふつうは、惑星付近に行けば反応が出るはずなんだって。
 でも、妨害電波とか出ていたりすると見つけづらいみたい。
 ちなみに、IDからでる電波を受信するのはアンクル専用の船にしかついてない。
 イスアで行っても良かったみたいなんだけど、本来の持ち主ウィルさんとクェスさんがいないから全機能ガイが使えるようにするにはちょっと時間がかかるそうで。
 今回の責任者のカルロさんが持つヴァルートでシウスに行くことになった。
 ……すぐに、見つけられればいいな。
 千瀬が連れてかれてからなんだかんだで二日、経ってるんだよね。
 でも、大統領の話では一日でも惜しいとみたい。
 何故かって言うと、千瀬を女神だと主張するなら、女王としての儀式を行うという。
 どんな儀式なのか詳しくは教えてもらえなかったけれど、催眠術で操ってしまうらしい。
 下手したら強制催眠で人格消去なんて言うのも。
 千瀬が千瀬じゃなくなっちゃうなんて。
 だから、急いで助け出さなくちゃならないのよ。
 今は千瀬を助け出すためにわたしも出来ることしなくちゃ。
「ターナ、お前は索敵の準備だ。クリス、サポートに入れ。アリーナ、お前も出来るんだってな?ルイセの親友ならお前もクリスと一緒に索敵補助に入れ。レイナお前は王城の内部を知ってるな?バーツ、マリーチ、ガイ、お前達三人はレイナの指示に従いテレポートの準備だ。レムネア、リア。お前達はオレと一緒に、ガイ達が戻ってきてからの脱出の為にヴァルートの発進準備を。アドル、フェリス、カーツ。お前達はレーダーに気を配れ」
 シウス星の重力圏内に入る前にカルロさんが全員に指示を出す。
「結構、的確な指示なんですね」
 思わず関心。
 こう素早く指示を出来ると言うことは、全員の能力を把握しておかないとだめなんだと思う。
「そうよね。カルロって、見た目あ〜んなだけど、こういうときはフィストになるだけはあると思うわ」
 わたしの言葉にクリスが頷く。
「あんまり期待しない方がいいわ。カルロは戦闘にしか役に立たないから。他の所は情けないのよ」
 うわ、ターナさん、きっつーい。
「相変わらず、き、きついわね」
 そう呟いたクリスと思わず顔を見合わせる。
「ターナ、聞こえてんだよ」
「あら、ごめんなさい、カルロ。本当のところ暴露しちゃって」
「ターナ、テメェーのそう言うところはむかつくんだよ」
「カルロに対してだけじゃないでしょう?」
「あぁ、だから質が悪いんだよ」
 ため息ついて言ったカルロさんに対してターナさんはクスクスと笑う。
「この二人、いつもこんな風だから気にしない方が良いわよ」
 あっけにとられてしまったわたしとクリスにリアが背後からこそっと教えてくれる。
「分かってるけど、分かってるんだけどね……外見にだまされるのよねぇ」
 そう言うクリスの気持ち分かるなぁ。
 ターナさんってすっごい穏やかそうな外見してるんだもん。
「じゃあ、ルイセを探しましょう。アリーナ、あなたはルイセのESP波探せる?」
 ESP波???
 えっと、千瀬からいつも感じてた気配の事かな?
 だとしたら、分かるよ。
「シウス星の大気圏内に入ったら、探してね」
 ターナさんの言葉にわたしは頷く。
 千瀬、絶対に見つけてあげるから待っててよ。

*******

『探してるの』
 誰を?
『あの人を』
 あの人?
『そう、フラッシャー』
 フラッシャー?
 誰、その人。
「フラッシャーはライアの恋人だった人間だよ、覚えてないのかい?」
 ライアの髪を掬いながら、デュークは言う。
「お前は……自分は、フラッシャーだと、私の恋人だと言うのか?」
 ライアは顔を上げデュークを見る。
「さぁ?ここにはフラッシャーを呼び起こすシステムがない。君が探してくれる以外にないんだよ」
 すくい上げた髪に唇を寄せながらデュークは彼女を見る。
「早く、目覚めて。思い出せ。ライア」
『フラッシャーは恋人』
 それは聞いた。
『私の大切な人。ここにはいないわ。ここの音を消してあげる。その時にここから逃げればいい』
 そんなこと出来るの?
『私には必要ないから。あなたは私で、私はあなただけど。違うから』

*******

「大気圏内に突入、各計器異常なし」
「ID探索レーダー発信。電波障害なし。反応はまだありません」
 千瀬の気配をまだ感じない。
「理奈、千瀬は?」
 ガイの問いにわたしは首を横に振る。
「そうか……」
 わたしの行動に落胆したのかガイは短く呟いてうつむいてため息をつく。
「ガイ、一つ聞いて良い?」
「あぁ」
 何を聞かれるのか分かってるのかも知れない。
 でも、わたしは聞かなくちゃ。
「千瀬のことどう思ってるの」
 わたしの問いにガイはわたしを見る。
「ねぇ、どう思ってるの?」
 ある意味核心ついてると思う。
 でも、聞かなくちゃだめ。
 千瀬は……たぶんだけど…ガイのこと好きになってると思う。
 ここに来て、頼れる人がガイしかいないっていう状況だったとしても。
 最初のガイは、正直言って頼りないって言うよりも頼れない人だと思った。
 頼っても助けてくれない人。
 だから、頼れない。
 でも千瀬のことちゃんと名前で呼ぶようになってから(いきなりルイセって言ってたときはどうしようかと思ったけど)雰囲気が変わった気がする。
 頼れない人じゃなくって、頼ったら助けてくれる人に変わってきてた。
 そのうち言わなくても助けてくれるようになれば良いんだろうけど……。
 マリーチみたいなまめな人じゃないからむりだよね。
 でも、それなりに今は千瀬をちゃんと気遣ってくれてるんだなぁって思った。
 それが、分かりづらかったりするけど。
「聞いたらちゃんと教えてくれるよ。ガイが分かってあたしが分からないわけに行かないでしょうって言ったら教えてくれるようになったんだ」
 そう笑って言った千瀬が忘れられない。
 何って言うかすっごいかわいかったんだよね。
「……大切な人……じゃ、だめか?」
「まぁ、良いよ。それでも。そう言ってくれてありがとう。千瀬を取り戻したら言ってあげて」
 わたしの言葉にガイは穏やかな顔を見せて頷いた。
 よし、千瀬を探すぞぉ〜。
『あなたは私で、私はあなた。同じって思われるけど、違うから』
 あっっ。
「千瀬の気配がする」
 不意に感じた、千瀬の気配。
 えぇ?
 どこだろう、うーんとっっ。
 千瀬、どこ?
「クリス、理奈とシンクロしてみて。まだ理奈ははっきり探索出来ないんだ」
「それ早く言いなさい!!!アリーナちゃん、手、貸してくれる?」
 手?
 クリスに言われて手を差し出す。
「ありがと」
 にっこり微笑み、クリスは目を閉じる。
 その瞬間、不意にいろんな気配が入り込んでくる。
 千瀬の気配もどこだか分かる。
 でもちょっと遠い。
「シンクロの仕方は後でマリーチに聞いてね。ここから中心部の方かな?っていうか、あたしよりぃ、ターナの方が的確だと思うんだけどなぁ〜〜」
「大丈夫、分かったわ。レイナ、ここから3000の距離。何があるの?」
 な、何でターナさんは分かったんだろう。
「ターナは相手の気配さえとれればすぐに距離が測れるのよ。アリーナちゃんも出来るようになるわ。あたしは汎用だからちょっと難しいんだけど、バーツとシンクロすれば可能なのよ?」
 シンクロって確か……能力アップするために人と同調するって事だったよね。
「ここから3000なら王城だと思う。カーツ、ID反応は」
「まだでない。イスアならもうこの時点で反応するけどヴァルートだからな」
「つべこべ言ってる場合じゃねえだろう。2000の位置まで近づくぞ」
 ……どういう意味だろう。
 なんでイスアなら3000の位置で反応してヴァルートだと2000なんだろう……?
「それは所属惑星によるものよ。ルイセのIDはパルマ星だからパルマ所有のイスアの方が強く反応出るように設定してあるの」
 成程、納得したよ。
「2000に到着。ID反応あり。レイナ、場所を表示する」
 降りてきたモニタに、ID反応が出ている。
「場所は…王城の中心…ね…。アリーナ、場所分かる?」
 えぇ?場所?
 えっと、千瀬の場所千瀬の場所………。
「王城の地図は出せる?千瀬のESP反応を感じるところを見つければ問題ないと思うわ。IDじゃはっきりとした場所までは分からないものね」
「進入したときのデータで良いなら」
 ターナさんの言葉にアドルがモニタに表示する。
「レイナ、王城の地図はこれで?」
「えぇ」
 地図とここから見えることの出来る王城を照らし合わせる。
「距離を縮めて、比率を合わせろ」
 ヴァルートが移動し、比率が合う。
『ココにいる必要はないの。ココにはいないから』
 千瀬の気配。
 今度ははっきり分かる。
「レイナ、千瀬はココにいるよ」
 わたしは地図を指す。
 そこは、王城の右の塔最上部。
「……そんな……」
「レイナ、どうしたの?」
「ココは、もう、間に合わないかも知れない…」
 何が、間に合わないって言うの?
「ちょ、ちょっとまって。ID移動してる。彼女移動してるみたいよ」
 え?
 IDが表示されている画面を見れば確かに移動している。
「テレポートしてる。短い距離だけど、断続的にしてるわ」
 千瀬、なの?
 わたしは確認するために千瀬の気配を探す。
 王城の右の塔?違う。
 門の前?ココも違う。
 IDを追う。
 これ、千瀬の気配。
 千瀬だ、このID所持千瀬だよ。
「ガイ、千瀬向かってきてる」
 わたしはガイに知らせる。
 するとガイは嬉しそうな顔を見せてくれる。
 その顔を見たクリスはものすごく驚いているけど。
「ありがとう。迎えに行ってくる。マリーチ、バーツ。よろしく」
「了解」
「オレは飛ばすだけだ。方向はマリーチ、お前に任せる」
「いやだなぁ、その放任」
「つべこべ言ってねぇで、さっさと済ませてきやがれ。ESP反応もPSI反応も低い。催眠状態だって言うこと忘れてんじゃねぇよ」
 マリーチとバーツののんびりした会話(クリスに言わせたらいつものこと)にカルロさんの怒鳴り声が落ちた。
「待って、ココに転移して来る人がいるわ」
 とターナさん。
 って、千瀬の気配も近づいてくるよ。
「………やはり、プリマスの方々でしたか」
 突然現れた赤い髪の女性。
「千瀬っっ」
 その人は千瀬を支えて、ココまでテレポートしてきたみたい。
「彼女を、こちらに」
「お願いします。この方を」
 彼女からガイの腕に寄りかかるように倒れた千瀬の顔は青い。
「ガイ、彼女を急いで医療室に」
 その言葉に頷いてガイは千瀬を抱えて医療室に向かう。
「クリス、わたしになんか出来ることある?」
 ガイの後をついてわたしはクリスに問い掛ける。
「手伝ってくれる?」
「…何が出来るか分からないけど。千瀬はわたしの親友だから」
「じゃあ、手伝って。マリーチ、補助に入って。バーツも」
 後をついてきたマリーチとバーツはクリスの言葉に頷く。
「催眠除去、しなくちゃならないの。あたしも完全に出来るか分からない。アリーナちゃん、ガイと一緒にあなたは彼女の名前を呼んであげて」
 その言葉にわたしは強く頷く。
 ヴァルートはマイン星に戻るために方向転換をしたらしい。
 飛ばしても3時間以上はかかるという。
「千瀬、早く戻ってきて」
 わたしは強く祈る。
 こんな遠くで何やってるんだって、思うかも知れないけど。
 千瀬は思ってないかもしれないけど、わたしはちゃんと千瀬のこと親友だって思ってるから。
 いつかまた、二人でコンサートとか行こう。
 かなわない夢かもしれないって分かってるけど。
 でもどこか行こうっていう事は出来るよね。

『もう大丈夫。でも忘れないで、私はあなた。あなたは私。だけど違うから。フラッシャーを探して。彼はあの人だけど、あの人は彼だけど、違うから。安心して』

Copyright (c) 長月梓 All rights reserved.