Destiny Third

女神の覚醒
17・防衛機能
『星が謳う。
 星が願う。
 女神の覚醒めを。
 女神の誕生を。
 星が願う。
 願いが叶うその時を』

 歌が聞こえる。
 延々と同じ歌が聞こえる。
 ノイローゼになりそうでいや。
 でも、何だろう。
 変な感じ。
 意識がなくなってくような……。
 今、いつだか何時だか、どのくらいここにいるのかも分からなくなってる気がする。
『セダチ』
『セパセオ』
 ついでに呪文のような地響きのような低い声が聞こえる。
 聞こえなくても、いつまでも耳に残ってうっとうしい。
「随分と、しぶとい……」
 うつぶせでベッドの上で寝ていたら、髪が引かれたような気がして、顔を声をする方に向ける。
 ……ホントは、顔なんて上げたくなかったんだけど。
「何してるのよ……」
 デューク・シェルが、勝手にあたしの髪をすくい上げていた。
「離して」
「……やっぱり、しぶとい……」
 そう言ってデューク・シェルは口元に笑みを浮かべる。
 ……会話が成り立っていない。
「しぶといって何がよ……」
「自分が何者か、自覚している?」
 自覚?
「何者って、あたしは………竹内千瀬……よ」
 そう、あたしは、竹内千瀬。
 って、何で再確認してるのよ。
「千瀬、君は自分が何者か曖昧になってきていることに気付いてないのかい?ちなみにこのアルゴル太陽系では君はルイセ・エシルと呼ばれることもある。正確に言えば、そちらの方が正しいのかも知れない」
 付け足しのように『もう一つの名前』をデューク・シェルは言う。
 曖昧?
 自分の事が?
 そんなことあるわけないじゃない………?
「もう少しのようだね、君が我らの女神として目覚めるのを」
 な、何を言ってるのよ、デューク・シェルは。
「君は、ライアなんだ」
「ライア?」
 デュークの低い声が、どこかに落ちて、シミのように広がっていく。
 ライア………?
「そう、君はライア。女神ライア。パルマ歴に最初に女王となった女性。パルマ歴はアルゴル歴より以前の時代。今からおおよそ、4000年以上の事さ」
「……」
 あり得ない。
 そう思っているはずなのに……。
 どこかで否定出来ない。
「君はもう少しで覚醒する。その時を待っているよ」
 そう言ってデューク・シェルはすくい上げていた髪に口づけをして、部屋を出て行った。
 時間の感覚とか……、何となくもうろうとしている意識とか……は。
 あたしが『ライア』として目覚めようとしているからなのかな??
 目覚めるってどういう事?
 あたしの意識とかなくなっちゃうの……かな?

*******

「な、なんでいるのよぉ〜〜〜」
「あ?何言ってんだテメェ。ヴァルートあるの気がつかなかったのかよ?」
「止まってるヴァルートに気がつくわけないじゃない。それどころじゃなかったんだしぃ!!」
「んなぐらい、気付けボケ」
「あ、あんたにボケって言われる筋合いないわよぉ!!バカルロ!!!」
「その口の悪さ直せっていつも言ってんだろうが。リア」
「カルロには言われたくないわよね、リアも。ねぇレムネア」
「た、ターナ…。止めてくれれば良かったのに」
「あら、私も心配だったのよ」
 結局、わたし達スカル星に行った面々は当初の予定通り、マイン星に戻ってきた。
 シャルさんに言われて入った部屋で、リアは突然中にいた銀髪でサファイアブルーの瞳の男の人と喧嘩を始めたのには驚いたけど。
「マリーチ、あの人誰?」
「銀髪の人?」
 うん、なんかすっごくガラ悪そうだけど。
「あぁ、スカル星のアンクル。フィストのカルロ・クリフ。リアがさんざん、バカルロって言ってたのはあの人だよ。ほら、リアから通信が来たときに出てきただろう?レムネアに押さえつけられてた人」
 そう言えば、なんかそんな人がいた気がする。
 その時のやりとり見て、コント見てるみたいって千瀬が言ってたっけ。
「で、あの栗毛色の髪の人がターナ・ブレア。カルロのパートナー、セチスだね」
 ふーん。
 なんかすっごく優しそう。
「怒ると怖いよ、ターナは。スカル星のプリマスはターナで保ってるようなもんだって前リアが愚痴ってたよ」
 へぇ。
「ちなみにヴァルートはスカル星のアンクル専用船ね」
 いろいろ覚えなくちゃならない事あって大変だなぁ。
「そう、無理して覚えなくても良いよ。ちゃんと俺がフォローしてあげるからね」
 ありがと、マリーチ。
「ガイ」
 不意にカルロさんがガイを呼ぶ。
「レイナからだいたいの事は聞いた。大統領にも頼まれちまったから動かねぇ訳にはいかねぇ。ここでの一番の問題はテメェだ。自分のパートナー取り戻す気はあるか?」
「当然、そのつもりだ」
 カルロさんの問いにガイは即答。
 ちゃんと考えてくれてるんだ、千瀬のこと。
「テメェはテレパシストだから他人の気持ち読むことなんざ、朝飯前だ。まぁ、俺のは読むのは無理だろうけどな」
 マリーチが言うには、カルロさんはサイキッカー。
 PSI能力が高いと強固なテレパスブロックがかかるみたい。
 だから感情読むことが出来ないみたい。
 サイキッカーのマリーチもガイに感情読まれたことがないんだって。
「あんたに言われなくても、俺は千瀬を取り戻すと決めた」
 そう言いながらガイはカルロさんをにらみつける。
 そしてカルロさんはその視線を楽しそうに受け止めている。
「あらあら、冷静なガイも意外と情熱家だったのね?」
 ターナさんはなんかどっか違う次元でガイとカルロさんのやりとりを見つめてる。
 大丈夫……なのかな?
「良いだろう。今はテメェのテレパス能力は惜しいからな。リアじゃちょっと弱い。テメェのテレパス能力は高さはウィルの次だ。リア、ティラナを全員この部屋に集めろ。ターナ。シャルとカーム、それから大統領を連れてこい」
 その声にリアとターナさんは部屋から出て行く。
「シウスに潜入はそれほど難しい事じゃねぇ。問題はテメェのパートナーがどこに捕まってるかだ。アンクルは俺とターナしか動くことができねぇ。ウィルのバカとクェスが二人そろって行方不明って言う問題があるからな。ったく、面倒なことになっちまったよ」
 そうカルロさんはしみじみと呟いた。

*******

「大丈夫ですか?」
 ふと声を掛けられ目を開ければ、エスナ・ジョーカーが居た。
「エスナ…さん」
「大丈夫ですか?」
 もう一度問い掛けられてあたしはゆっくりと頷く。
「気分が悪いようだったら言ってくださいね」
 体中のだるさに頷くことも億劫だけれども、彼女に分かるように頷く。
 そんなあたしを見て安心したのかエスナ・ジョーカーは部屋を出て行く。
 ホントに大丈夫?
 そんなことない。
 何もかもが消えていく様な気がする。
 ここはどこなんだろうとか、どうやったら逃げ出せるんだろうとか、そんなことどっかに忘れてきているような気がする。
 あたしは、誰?
 そのうちそんなこと思いそうな気がして怖い。
『セダチ、セパセオ』
『ライア』
『ライア』
『ライア』
 声が一段と強く聞こえてくる。
 頭が痛くなりそう。
 眠ったら聞こえなくなるかな?
 目をつぶったら一気に意識が深く引きずり込まれるのが分かる。
 眠ったらだめだってなんか分かる。
「ガイ……助けて……」
 引きづり込まれる意識の中でふと、思った。
 気付いてくれるかな?
 ガイは………。

*******

『私が守るわ。これは私のまいた種。私の責任だものね。だから、安心して眠って』

 声が聞こえる。
 どこか、安心した。

「ライア様」
 その声に彼女はゆっくりと目を開ける。
「お目覚めになりましたか?」
 声をする方に目を向け、彼女はそこにいた人物に心当たりがないのか訝かしげに眉をひそめる。
「これは申し遅れました。シウス星の女王であるあなたの執事、バヌア・シェイドにございます」
「了解した」
 出にくい声を我慢して彼女は呟く。
「見事な御髪ですな。過去は呪われた色と言われておりましたが、あなたが纏うと神々しい」
「ありがとう」
「礼など滅相もございません。我らが女王、女神を敬うのは当然のこと」
 意気揚々としゃべる男に彼女はこっそりとため息をつく。
「女王が、目覚めたか?」
 その部屋に現れた男には彼女を見てそう言う。
「見物だな」
 そう皮肉下に笑って部屋を出て行く。
「デュークの言葉など気になさらぬよう。私はあなた様の戴冠式の準備がございます」
「戴冠式?」
「そうでございます。ライア様。あなたは我らが女王なのです、王冠はかぶってこそのものでございますぞ」
「……分かった。お前に任せよう」
「は、ありがたき幸せ」
 そう言ってバヌア・シェイドは部屋から出て行く。
 部屋の窓から見える景色は彼女の心になんの感情も浮かばない。
 ただ、窓の外を見るばかり。

『時間を少しだけ。もう少しだけ、そしたら助けてあげる。あたしはあたし、あなたはあなただもの』

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