Destiny Third

女神の因習
15・対話・通信
「テクツ」
「セパセ」
「アスネシ」
「キダン」
「セダチトリュスヌスホタエマミ」
「ハユ」
「アスネシ」

 低い振動のような声が地響きのように聞こえてきて、気持ち悪くなってあたしは目覚めた。
 暗い部屋。
 と思ったけど、カーテンの隙間から見える外は暗い。
 もしかすると夜なのかも知れない。
 さっきから聞こえる『セダチ』って言葉と『アスネシ』って何?
 呪文……?
 みたいだよね、なんか……。
「お目覚めになりましたか」
 そっと、声が聞こえてくる。
「誰っ?」
 驚いて声を上げれば、静かにと制される。
「私は、エスナ・ジョーカーと申します。今しばらくのご辛抱を。必ずここよりお救いいたしますから」
 赤い髪の女性があたしの目の前に現れて言う。
「………お救い?」
 どういう事?!
 ……………あれ?
 なんか……。
「お忘れになりましたか?あなたがどなたで、ここがどういうところかと言うことを」
 あたしが誰で、ここはどこ?
「ルイセ・エシルさん?いえ、竹内千瀬さんとお呼びした方が良いのかもしれませんね。あなたにはその『竹内千瀬』という名前が深く刻まれている」
 エスナ・ジョーカーはあたしの手を取って言う。
 あたしは…竹内千瀬…。
 ……そうだっ。
 あたしは、スカルの水の塔でデューク・シェルに羽交い締めにされた後、眠らされちゃったんだ。
 デューク・シェルは『パルマ』と繋がっている。
『パルマ』があるところはパルマ星の衛星、『シウス』。
「ここは、シウス?」
「その通りです、ここはパルマ星の衛星シウス星、あなたはデューク・シェルの手によってここに連れてこられました」
「どうして……」
「レグルト人の悲願の為です」
 エスナ・ジョーカーは悲しげにあたしに言う。
 レグルト人の悲願?
 って何?
『それは我々に必要なのだ』
 バヌア・シェイドはそう言った。
 天塔の八姉妹は『女神』とさんざん言ってた。
 だからガイは天塔の八姉妹の言う『女神』はバヌア・シェイドら『パルマ』が望む『それ』だと推測した………。
「女神?って何?女神を手に入れることがレグルト人の悲願だって言うの?それがあたしだって言うの?」
「……………」
 彼女はあたしに何も言わない。
 どうして、そこで黙り込むのよ。
 あたしが何だって言うの?
 あたしはただの地球人で、ガイやマリーチに連れてこられて帰りたいのにそれでも帰すわけに行かないってまで言われてカナにはあたしはガイの側にいるべきだなんて言われたのよ。
 そのあたしが何だって言うの?
「……アルゴル星という星を中心にこの惑星系列はできました。そして最初に人が生まれたと言われるパルマ星。そこに女神が生まれました」
「その女神の名前は、『ライア』。というのだよ」
「バヌア・シェイドっっ」
 エスナ・ジョーカーの言葉の後をつなげるように紡いでバヌア・シェイドは入ってきた。
「何のようです。彼女には私が説明する役目のはず。早く出て行きなさい」
「私はお前にそんな役目を命じたつもりはないが?」
「いえ、代々の女王の面倒はわがジョーカー家の役目のはず。レグルト王家に連なるあなたが知らないはずはないでしょう?」
「何を言う。王家はとっくにここから逃げ出した。それを忘れたお前ではあるまい?」
「だからと言って即位前の新女王に分家のあなたが近づくのは許されません。早く出て行きなさい」
「まぁ、仕方がない。だが、覚醒したらこうはいかぬぞ?エスナ・ジョーカー」
「言われなくても分かってるわ…」
 エスナの言葉を聞いてバヌア・シェイドは出て行く。
「女王って何?」
「この惑星の女王。『ライア』は女王であり女神である」
 わけがわかんない。
 自分がどういう状況なのか分からない。
 何を聞いて良いのか分からなくてあたしは黙った。
 そしてエスナさんも口を開かない。
 静かな部屋にはどこからか聞こえてくる地響きのような『セダチ』って言葉と『アスネシ』っていう言葉がサブリミナルて言うか洗脳?の様に聞こえてくる。
 この音、どうにかして聞こえなくするには絶えず音を出す…、つまり何も思いつかないけれど、とりあえずは、状況をちゃんと説明してもらう以外ない。
「エスナさん、ちゃんと説明してください。女神って言うのは何ですか?私はどうなるんですか?パルマは、エスナさん達は何をやろうとしているんですか?」
「………女神は、この星の運命を変えるもの。ライアは、世界の理を変えました」
「理を変える……」
「運命をねじ曲げ、世界を変えたのです」
 運命をねじ曲げ世界を変える。
「それが『星の我儘』なんですか?」
 ウィルさんが言ってたことはそう言うことなのだろうか。
 星の我儘というのは『ライア』が変えた運命なのだろうか。
「……いえ、ライアが願い星がその願いを叶えたと聞きます。彼女の願いは世界の理を変え、運命をねじ曲げた。それこそが星の我儘だという人もいる」
 ………今ひとつ、よく分からない。
 じゃあ、『パルマ』の望みは?
 ライアが願いを叶えてもらおうと祈るとき、自分たちの望みを叶えようというのだろうか……。
「『パルマ』は何をしようとしているんですか?星は女神の願いしか叶えないんですよね…」
「そう、星は女神の願いしか叶えない」
 あたしの問いにエスナさんはそう断言する。
 今、いやな感じがした。
『セダチ、アスネシ』  絶えず繰り返されている言葉は、嫌でも頭の中に入り込む。  まさか…。
「女神を洗脳して、自分たちの願いを叶えようっていうんですか?」
「近いと思います。彼らは、世界は間違っていると思っている。女神が世界を救うと思っている。だから『パルマ』に女神は必要だと」
 なんか、極端過ぎるとおもうんだけど……。
「それほど、レグルト人に取って女神は重要なのです」
「……ナユタは、星の願いが叶うって言ってた。じゃあ、星の願いってなんですか?」
「…ナユタ?」
 あたしの言葉にエスナさんは眉をしかめる。
「マイン星のプリマス支部局にいるレグルト原種です……」
「そう、生きていたの」
 そう言ってほっと息をはくエスナさん。
 その様子はまるで知り合いみたい。
「知ってるんですか?」
「えぇ、カオス・ミリオン様方をこの星より逃がすとき、共に協力してくれた少女です」
「カオス…様?」
 エスナさん今、カオス・ミリオン様って言ったよね……。
 それって大統領の名前……じゃあ……。
「大統領は、レグルト王家の者でした。レイナ様が時期女王となられるところを阻止するために、カオス様方はこの星を抜けたのです」
 大統領と、レイナってレグルト人だったの?
 それだと納得できる。
 バヌア・シェイドが大統領に『お前達?カオス・ミリオンよ。お前も同胞だと言うことを忘れたか?』って言ったこと。
 水の塔でみんなで女神のこと考えてたときにガイが『レイナに聞けば分かるかな』って言ったこと。
 これで納得がいった。
 レグルト人だったんだ。
「大統領は女神の存在を否定していました。レグルト人は、星の意志と女神の願いは同意と考えています。いえ、この太陽系全体の人間がそう考えているでしょう。大統領は、それは因習だと考えられる方でした。この星で、女王の存在は絶対以外の何者でもない。でも、この星は、女神に囚われている。『パルマ』がそれを強くした………。そのため、バヌア・シェイドはあなたを女王として、目覚めさせることにしたのです」
 エスナさんはあたしから目線を外して言う。
 だから、どうしてあたしなの?
「それは、君が適格者だからさ」
「っ。デューク・シェル?……」
 テレポートで入ってきたのかデューク・シェルは突然現れた。
「適格者って何?どういう事?」
「女神の適格者。過去には存在しなかった適格者。一人だけいたそうだけど…、でも今は君がその適格者。まぁ、言い方を変えれば、女神…『ライア』の生まれ変わりと言ったところか?」
 う、生まれ変わり?
「女神の因習…。それは転生を信じるバカな『パルマ』の信仰の事さ」

「『パルマ』はライア=女神を必要としているのですわ。だから彼が連れて行った。彼女は生まれ変わりですもの」
「千瀬がそのライアだって言うの?」
 わたしの問いに、ルフィー・シリウスは頷く。
「なんで?千瀬はわたしと同じ地球人だよ?どうして別の星の人間の生まれ変わりなの?」
 そんなのあり得ない。
「あり得ないとか、あり得ない事とか関係ないのですわ。ただ、その事だけが事実としてあるだけですわ。ライアが誰であろうと、私たちには関係ない。ただ『あの人』に近づかなければいいだけ。あなた方も同じでしょう?彼女がライアであろうと関係ないのでは?」
 それは…そうだけど。
 だからって、千瀬が……。
「じゃあ、デューク・シェルは、お前達とどういう関係だ」
「彼は協力者と申しましょうか?私たち姉妹と、『パルマ』のつなぎ役。では、お話はここで終わりですわ。私たちはあの方の覚醒めを待つだけ。それは、お姉様方に任せましょう。………お待ちしてますわ………」
 にっこりルフィー・シリウスは微笑んで、次の瞬間にわたし達は外へ移動していた。
「強制転移。かなりのサイキッカーって所か?ルフィー・シリウスは」
 マリーチはルフィー・シリウスの能力について関心してる。
「なんてのんきに言ってる場合じゃないでしょう?千瀬が連れてかれちゃったんだからっっ」
「分かってるよ、言われなくたって。状況結構やばげだし」
 そうマリーチはガイの方を見ながら言う。
 ガイは…うつむいてる。
 千瀬が居ないこと、ガイなりになんか考えてるのかな?
 マリーチが言うには、ガイは千瀬のことちゃんと考えてるみたいだし。
 そうだと良いなってわたしもそう思うし。
「リア、レイナ達と連絡とれた?マイン星だから…もしかするとクリスがシャルの船使ってるかも?」
「あたり。今、『ルミエナ』に連絡取ったら、バーツが出てきてこっちの事情を話したわ。マイン星に戻って今後について話し合うって」
「ねぇ、すぐに千瀬のこと助けにいけないの?」
『パルマ』とのつなぎ役って言うデューク・シェルに連れてかれたって事は、千瀬は『パルマ』があるシウス星に居るんだよねぇ?
 場所が分かってるならどうして?
「理奈……、前にも言ったよね?パルマは大統領の補佐官であるバヌア・シェイドがついている。簡単に手出しはできないって」
 ………そうだけど、じゃあ、千瀬はどうするの?
「助ける。理奈、俺はちゃんと千瀬を助ける」
 ガイはわたしをちゃんと見て答える。
「ちゃんと、取り戻すよ。千瀬を」
「ガイ、お前」
「そのためには準備しなくちゃならない。千瀬がシウス星のどこにいるのかも見当がつかない。それほどシウス星は閉鎖的な星だ。その為にもマイン星に戻ってレイナと合流しなくちゃならないし、……大統領にも話を聞かないとならない」
 大統領とレイナは…レグルト人。
 ついさっき、わたしは聞いた。
 千瀬はその事を知っているのかな?
 暗黙の了解っぽいから聞いてないかも知れない。
 千瀬……大丈夫かな。
 無事だといいな。
「でもどうやってシウス星に進入する?姉貴が一回進入してるけど…。あん時はウィルとクェスがいたし…」
「カルロの協力は無理だろうな?…この際アンクル抜きで俺たちティラナだけでやるのはどうだ?」
「そうだな、俺かリアはウィルと同じぐらいのレベルだし……、索敵なら理奈が大丈夫だろう」
「人のパートナー勝手に当てにするのはやめてくれない?」
「他に索敵いるか?クリスには……貸し作りたくないんだが………」
 と、ガイ達はどんどん話を進めていく。
 でも、わたし索敵??人捜し?できたっけ?
 この分だったらすぐにでも千瀬、助けられるかもっっ。
「ちょ、ちょっと待ってよ!!!勝手に話先に進めるんじゃないわよ。このままイスアで行くつもり?今度こそ、カルロが乗り込んでくるわよ!!!」
「それは…まずいな」
「一応、PSIブロック掛けておくから、乗り込まれないようには……」
「そう言う問題じゃなぁい!!!!!」
 ガイのつぶやきと、レムネアの言葉にリアは今まで押さえ込んでいたらしい怒りを爆発させる。
「大丈夫なの?」
「まぁ、平気じゃない?でもカルロに乗り込まれたらちょっと困るよねぇ」
 とマリーチは苦笑しながらリア達の喧嘩を眺めている。
 って言うか、それよりカルロって誰?
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