Destiny Third

意識下の透明
14・ホログラム
 スカル星。
 古代語で水の星と言われるこの星は海の星と言われるマイン星同様、水が多い。
 海の割合が大半を占めるマイン星とは違い、ここは真水、が多い。
 宇宙から見てもそれがすごく分かった。
 この星は湖と川に占められているのだ。
「ずいぶん、熱心に見てるわね」
 窓から外を眺めていたら、リアが声を掛けてきた。
「うん、緑が多いなって思って。緑が多いから水も多いんでしょう?」
 水の星って名前がつくぐらいはあると思った以上に、真水を作る素、緑が生い茂っているのがよく分かった。
 スカル星は水の星という以上に緑の星なのかも知れない。
「そうね、緑の古代語という説もあるわね。スカルは。でも、古代語で水というのは聞いたのね。ちゃんとガイ、教えた?」
 少し不安そうに聞いてくるリアにあたしは頷いた。
 ………ガイ、いろんな人に言われてる。
「それほどガイは他人に言わない人だったの?」
「いろんな人に言われる?」
 苦笑を浮かべながら言うリアにあたしは頷く。
 ウィルさんやシャルさん、マリーチにレイナにそれからカナも言ってたっけ。
「カナって?」
「お姉ちゃん。なんか……テレパシストみたいで」
 ホントあの時は驚いた。
 ガイも驚いてたもんね。
「ルイセの能力の複雑さはそこにあるのかもね。基本はPSIメインの攻撃タイプだけど、サブメインにESPの予知が入ってるってレムネアが言ってたから。攻撃と予知は共存出来るはずなんだけど、なかなか持ってる人いないのよ。あれば便利なのにね」
「リアは、テレパシスト?」
「レムネアから聞いたの?。そうよ、ガイと同じぐらいの強さがあるわ」
「リアは大変じゃなかった?」
 ガイはいろんな人のいろんな声が聞こえてくるから結構苦労したみたい。
 今は逆手にとって利用してるみたいだけど。
「レムネアに早い時期に逢ったから。そんなことなかったわよ」
 へ?
 どういう意味だろう。
「聞かなかった?能力者には相性があるって」
 相性……?
 もしかしてシンクロ率とかそんなことかな?
「まぁ、科学的に言えば、そうなるわね。あたしは本当に早い時期にレムネアに逢えた。相性が合う人と早い時期に出会うと、能力は押さえることが出来る。特にテレパシストやサイキッカーはね。で、ガイとマリーチは問題児だったの。あの二人能力特化型でレアタイプだったから。まぁ、マリーチは何とか押さえてたみたいだけど」
 そう言えば、ガイ…言ってたっけ…。
 俺とマリーチはESP値が特殊だって。
「だからルイセとアリーナが見つかってほっとしてる。ガイのことよろしくね。っていろんな人に言われてると思うけどね」
 そうリアはにっこり微笑んだ。
「ルイセ、スカルレニアの湖よ」
 森の上空を飛んでいるとひときわ大きな湖が見えてきた。
 海の様に大きいこの湖はスカル星最大の湖、スカルレニア湖。
 空の色を綺麗に反射させ水色に光っている。
『全員、至急メインブリッジに集合してくれ』
 スピーカーからレムネアの声が響く。
「どうしたのかしら?」
 リアは首をかしげる。
 どことなく驚いているレムネアの声。
 あたしとリアは急いでブリッジに向かった。
「どうしたの?」
 ブリッジにはいると全員集まっていて降りているメインモニタを見つめている。
 そのモニタは湖の様子が映し出されている。
 ……………?
 あれ?
「………どういう事?」
 モニタの様子を見たリアはため息をつきながらレムネアに聞く。
「出迎えの意味らしい」
 っていうか、何で湖の上に人が立ってるの?
 床に引きずるぐらいの長さの黒髪の女性が湖の上に立ってイスアをまっすぐに見つめているのだ。
「あれは、ホログラムだって」
 驚いているあたしに理奈が教えてくれる。
「最初見たときわたしも驚いちゃったんだけどね。マリーチがサーモグラフィで熱源反応なしで、それで分かったの」
 人の体の温度を調べたのね。
『ようこそ、ティラナの皆様』
 スピーカーから彼女の声が入ってくる。
『水の塔はあなた方の来訪を歓迎する』
 と彼女は微笑む。
『私の名は、シエル・ルシファ。天塔の八姉妹の六女』
 そう言って彼女は姿を消し、ちょうど彼女が居た所から建物らしき物が出てくる。
「水中にあるって言うのは本当だったのね」
「じゃあ、あれが水の塔。水柱か………」
 塔と言うには足らない2階立てぐらいの建物が、あたし達の目の前に姿を現す。
「塔っていう感じの高さないね。なんかふつうの家ぐらいの高さな感じ」
 理奈の言葉にあたしは頷く。
 レムネアの水柱って言うのが気になるけれど。
「近づいてみれば塔という意味が分かるよ」
 マリーチの言葉にあたしと理奈は首をかしげる。
 イスアはゆっくりと水の塔の上に降り立ち、あたし達はイスアから降りる。
「千瀬すごいよっっ」
 理奈は塔の端から下をのぞいている。
「何?」
 理奈の言葉通りに近づいて下を見たら、水の奥底まで塔が立っているのが見える。
 浅い湖かと思ってたのに、この湖はとんでもなく深い湖で、透明度が高いみたい。
「スカルレニアの湖はアルゴル太陽系中一番の透明度を誇る湖で、その深さも世界一だと言われている。普段は、水中に没しているこの塔を見つけられたのは、この透明度のおかげなんだ」
 あたしの後を追ってきたガイが教えてくれる。
『皆様』
 どこからともなく声が聞こえる。
 振り向けば中心より少し外れた所にシエル・ルシファの姿が現れていた。
 また、ホログラムなのかな?
『ここが、内部への転移装置となっている。こちらに来られることを姉共々待っているぞ』
 そう言って彼女は消える。
「一体、どういうつもりなんだろうねぇ?俺たちを誘導して」
 シエル・ルシファの態度にマリーチは言う。
「油断するなよ。何が起こるか分からない」
 そう言ったレムネアの言葉に頷き、あたし達は転移装置を使った。

「テレポートは封じてないようだな」
「あぁ」
 レムネアの言葉にマリーチは頷く。
 あたし達は転移装置で無事中に入れた。
 みんなバラバラになってはぐれたらどうしようって思わず不安になったけど、そんなことなくて安心した。
「ここは、塔の最上部の様ね」
 リアが窓の外を見ながら言う。
 窓から見える景色はまだ水上だった。
「でも、天塔の八姉妹はどこにいるのかな?」
 がらんどうの塔の中は人の気配なんて全くしない場所。
「ここが、外部への転送用だとして………。内部への転送装置はどこにあるのかしら?ガイ、なんかわかんない?」
「無茶を言うな。今、入ってきたのに分かるわけないだろう」
「炎の塔の扉開けたのあなたでしょう?だったらここも分かるんじゃないの?」
「だったら形状を話すからお前も見つけろ」
「何それ横暴!!」
 ちょ、ちょっといきなり。
「リア、ガイ、二人ともなんでそんな険悪なのよ?」
 最初から話す口調がけんか腰のリアとガイの二人。
「レムネア、」
 リアを止めてもらおうとレムネアの方を視線向けてもレムネアはそこら辺を探検中。
 もう、何で気にしないのよぉ〜〜。
 あたしじゃ、どうして良いかわかんないわよ。
「あぁ、気にしない方がいいよ?ガイとリアは幼なじみだから。会話はいつも喧嘩口調なんだよねぇ」
「あの二人の喧嘩はいつもだからな?」
 しみじみ言うマリーチとレムネアにあたしは何て返事していいのか分からない。
 それよりも。
「あの二人、……リアとガイ……幼なじみだったの?」
 リアもガイも何も言わなかったよ…?
「え?リアの奴も言わなかったんだ…。あの二人同種だからな……。テレパシストって言うのは聞いた?」
「うん」
「それは言って何で肝心なこと言わないかねぇ、レムネアは」
「え、俺?」
「っていうか、最初に機会あるとすればレムネアでしょ?ガイの奴が言うとおもうか?」
「………済まない。ガイからてっきり聞いてるものだと……」
 マリーチの責めにレムネアがあたしに謝ってくる。
 というか、レムネアが悪い訳じゃないし……。
 たぶん。
「まぁ、あの二人はとりあえず、後で問い詰めるって事で放っておいてさぁ、あたし達はあたし達でこの先の道探そうよ?リアもガイもテレパス、強いっぽいし?」
「理奈、あんた分かるの?」
「ん?何が?」
 何がって……。
「理奈は、索敵可能かもね?リアとガイのテレパスレベルが分かるんだから」
「そうかな」
 理奈はあくまでも脳天気にマリーチの言葉に応える。
「ね、千瀬。ガイにはあたしが質問攻めにあわしちゃうから、心配しないで」
「……ありがと、理奈」
 理奈って脳天気だけど、結構頼りになるんだよね。
 楽天家だからそう簡単に落ち込まないし。
「まぁ、アリーナの言うとおり、後からの方が良いかもな。ああいう状態のリアは殺気立ってるから下手なこと言わない方が良いし」
 リアを熟知しているレムネアが苦笑しながら教えてくれた。
「ともかく、探すか」
 その言葉にあたし達はさほど狭くもない部屋の内部を動き始めた。
『天塔の八姉妹へんぴなところ住みすぎ!!』
『フレア、一応反乱軍の拠点も兼ねてるわけだし』
『っていうか、リリア、どうしてあんたまでモーターユニットに乗ってここまで来てるのよ』
『だって……アリッシュが……』
 突然聞こえて、聞こえなくなった声。
 何、今の会話……。
「理奈、聞こえた?」
「う、うん」
 あたしの問いに、理奈は戸惑いながらも頷く。
「千瀬も聞こえたのか?」
「ガイにも聞こえたの?」
「っていうか、あたしにも聞こえたわよ?」
 ガイもリアも理奈もあたしにも聞こえて、マリーチとレムネアはというと
「もちろん、俺たちにも聞こえた?モーターユニットって言えば、アルゴル大戦の前後の頃の話だぜ?」
「あぁ」
 アルゴル大戦って?
「前に話しただろう?連邦政府に反抗した者達がいたって。その反乱は最初はすぐに収まると思った。だが『天塔の八姉妹』が出てきたために、各地で連邦政府に不満を持つ者が反旗を翻し、アルゴル太陽系全土を巻き込んだ戦争となった。それが『アルゴル大戦』」
 だから『天塔の八姉妹』が居たとされる塔がいろんな所にあるわけか。
「で、モーターユニットって?」
「簡単に言えば、人型の機動兵器。同種にアーマーユニットって言うのもある」
 ……えっといわゆるロボットアニメに出てくるロボットみたいな感じかな?
 すごいな、アルゴル太陽系。
 地球にも来れるはずだよね、そんなの作れる技術があるんだもん。
 でも、今の声は何だったんだろう……。
「今のは、この塔の記憶ね……。ルイセ、ちょっといい?」
「何?」
 リアがあたしのそばに来て何かを探す。
「ガイ、これ?」
 そして床の紋章を指さす。
「あぁ。そのようだ」
 それが内部への転送装置?
「たぶんね。ルイセのPSIに転送装置が反応して記憶を聞かせたのかも知れない。複雑な配列……ね……。レグルト人のESPブロックは見たことあるけれど、レグルト原種のESPブロックがここまで複雑とは思いもしなかったわ」
 そう言ってリアは立ち上がる。
 すると、ふつうの床が光り始める。
「転送装置よ。これでどこまで行けるか分からないけど、とりあえず乗ってみましょう?」
 リアの言葉にあたし達は頷く。
「千瀬?どうしたの?」
「へ?何が?」
「なんか、顔が青いよ?」
 え?
「何かを感じてるのか?」
 心配そうにガイはあたしの顔をのぞき込む。
「…大丈夫だけど?」
 何ともないけど?
「少し青いけれど……体調は悪くない?」
 うん、大丈夫だよ?
「ともかく、先に進みましょう?。話し終わったらテレポートで出ればいいし。レムネアもマリーチも得意だし。ガイ、ちゃんとルイセのこと見ててよね」
「リアに言われなくてもそのつもりだ」
 余計な心配を周りに掛けてしまったけど………。
 寒気とかないからまぁ大丈夫か。

 転送装置に乗るとすぐに次の場所に出た。
 そこにはさっきのシエル・ルシファと彼女の黒と対比するような金をまとった女の人。
 でもそれよりも目を引いたのは彼女たちの後ろの窓。
 この階は確実に水の中みたいで、きらきらと水が反射して太陽の日差しが差し込んでいる。 
 ただ…魚が居ない。
 死の湖……?
 思わず考えて寒気を覚えた。
 ただ、今この周辺に居ないだけだよね?
「お待ちしていました。プリマスの皆様。私は、ルフィー・シリウス。天塔の八姉妹の五番目ですわ。レオナとカーシャの二人にあったそうですわね?元気だったかしら?」
 金色の髪にとがった耳、光る金色の瞳。
 ルフィー・シリウスは金色を纏っているという表現が似合う女の人で笑い方は少女のようで。
 どうしてか不気味に感じる。
「聞きたいことがある」
「、あなた、お名前は?」
 ガイの問い掛けに、ルフィー・シリウスは一瞬、息をのんだような気がしたけれど、何事もなかったように逆に聞いてくる。
「私たちは名乗りましたわ。どうぞ、お名前を教えてくださいませ」
「俺は、ガイ・シルア。パルマ・プリマスのティラナだ。聞きたいことは、お前達天塔の八姉妹とシウス星を拠点としている『パルマ』の関係だ」
 ガイの声を目を閉じて聞いていたルフィー・シリウスは目を開けてにっこりと微笑む。
「簡単ですわ。彼らの望みと私の望みが一致したこと。彼らは女神を欲しています。私たちは女神の排除」
「女神?」
 っていうか矛盾してない?
 ほしがっているパルマと消したがってる天塔の八姉妹って。
 同じ望みじゃない気がする。
「不思議そうですわね」
「姉様。そんな説明じゃ、分からない」
「そうですわね。はっきりとお答えしますわ。私たち天塔の八姉妹には欲しい者がございます。それのそばには女神がある。女神を排除するには『パルマ』が女神を確保すればいい。ね、私たちと『パルマ』の利害は一致してますでしょう?そのためには『彼ら』への協力は惜しみませんわ」
 そうルフィー・シリウスはにっこりと微笑む。
 肝心なこと、結局分かってない。
 パルマがほしがっている女神。
「パルマタワーで、バヌア・シェイドが『それ』は我々には必須と言っていた。大統領は『それ』はお前達の妄想と言っていた。『それ』というのは、レグルト人の間で信仰されている何かだろう。『それ』が『女神』だとするならば、レグルト人が信仰している女神ということになる……」
「問題は女神がなんだか分かってない事か。レイナなら知ってるかな?」
 あたし達が考えているそばで天塔の八姉妹はほほえみ続けている。
「知っても意味ありませんわ。女神は必要ではありませんもの。それにもう見つけたそうです」
「見つけた?」
「えぇ?」
 ガイの問い掛けにルフィー・シリウスは満面の笑みを見せる。
「側に女神は必要ないのですわ」
「そう、女神は『パルマ』に必要」
 背後から声が聞こえる。
 後ろを振り向けばそこにはデューク・シェルが居た。
「カルス……」
「協力感謝するよ。天塔の八姉妹」
 そしてあたしは突然、デュークに羽交い締めされた。
「ちょ、ちょっとっっ離してよ!!」
 デュークはあたしより離れてたはずよっっ。
 なんでいきなり羽交い締めにされなくちゃならないの?
「たとえそれが偽物だとしても、疑わしきは消去せよ。それが姉妹の望みでね。俺たちは君を『それ』と決めたんだ」
 それって何?
 女神って事?
「彼女を離せ」
「お断りする。暴れては困るしね」
 と言葉を最後にあたしの意識は急激に落ちていく。
「千瀬がなんだって言うんだ!!!」
「お前には分からないよ。『それ』の重要性を。ウィルは知ってるようだけどね」
 それを最後に声が聞こえなくなった。
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