Destiny Third

塔の記憶
仮想空間
 マイン星。
 古代語で海という意味を持つマイン星の中でも最大級の広さを持つニー海のほぼ中央にあるニーレタリア諸島の中央部にあるマイナレタル島にあたし達は向かってる(古代語意[ニー:偉大なる、レタリア:王、マイナレタル:海王])
 海王の塔。
 古代語で海という意味を持つマイン星の中でも最大の広さを持つニー海の中央にその塔は立っている。
 正確に言えば、マイナレタルという小島にその塔は立っているんだけどね。
 天塔と呼ばれる4つの塔の一つ。
 あたし達、マイン星のティラナであるあたし、クリス・マーヤと相方のバーツ・アレスと他星のティラナであるレイナ・メモリー&カーツ・トーナ、アドル・エイジ&フェリス・ラミの6人で今その島に足を踏み入れている………。
 そう言えば、バーツのこと相方って言ったら『マンザイシ』みたいで面白いってマリーチの相方のアリーナちゃんに言われちゃったんだけど。
『マンザイシ』って何かしら?
 ダーリンって言うと怒るから相方になったのよ。
 バーツの意向をくんだ形って奴なんだから。
 で、ご案内は、マイン星のティラナ、クリス・マーヤがつとめさせていただきます。
 というわけで、あたし達は高速艇『ルミエナ』を使って、マイナレタルの島に降り立った訳なんだけど。
 ちなみに『ルミエナ』はマイン星のアンクル専用船。
 ガイが『イスア』使ってるなら別に構わないだろうなってシャルから黙って借りて来ちゃった。
「クリス、何黄昏れてるの?」
「黄昏れてるわけじゃないってば。ただこの塔が気になってね」
 あたしとフェリスは降り立った砂浜からそびえ立つ天塔を眺めている。
 他の面々は天塔の周囲を調べに行ってしまったんだけど。
 それほど大きくない島。
 周囲を1キロほど地に砂浜などを残し島ほぼ全面を使って立ち上っている塔は薄く何かもやがかかっているみたいで気持ち悪い。
「もや?」
「そう、もや。フェリスは分からない?」
「うん……、はっきりと見えるわよ。もう塔の模様なんてはっきりと。そう言えば、降りる前に、アドルも同じ事言ってったっけ」
「うーん、カーツにも聞いた方が良いかも」
 あたしの言葉にフェリスは頷く。
 アドルもカーツもそしてあたしもESP能力者。
 残りの3人フェリス、レイナ、バーツはPSI能力者。
 ESP能力者にしか見えないって言うのなら、ESPに反応するバリアか何かがあるのかも知れない。
「あ、みんなお帰り」
 海王の塔周辺を探索していた面々が戻ってくる。
「カーツ、ちょっと聞きたいんだけど。この塔もやがかかってるわよね。なんかこう霞がかっているような」
 気持ち悪いのよねぇ。この感じ。
 塔だけがそんな感じで。
 他の所は抜けるような青空とそれを反射してる海だからもう、水着持ってくれば良かったかも?
「あぁ、アドルと話していたんだ。やっぱりクリスも見えていると言うことはESP反応が強く出てることになるな」
「ちょっと待って?ねぇ、スカル星の天塔ってガイが入り口見つけたんでしょう?」
 アリーナちゃんが最初見つけて、ガイが解除したのよねぇ。
 で、二人ともESP能力者!
「スカル星の天塔の場合はという注釈がつく。ここがそうだとは限らんだろう?」
 そ、それはそうかも知れないけど………。
 バーツの言葉にあたしは反論出来ない。
 じゃあ、この霞みたいなのはどう説明するって言うのよ!!!
「今度は二人組で行動して調べましょう?」
「いや、その必要はないみたいだ」
 カーツがレイナの言葉を遮り、一カ所を見つめる。
「………人?が居るわよね」
「何?」
 あたしの言葉にバーツは驚く。
「クリスの言うとおりだ、そこに人がいる」
 アドルの言葉にフェリスとレイナは驚く。
 ひときわ白く靄がかかっている所。
 そこに人がいるのが見える。
「クリス、そいつはどんな奴だ」
 バーツは見えてないのか目をこらしている。
「あたしや、カーツ、アドルの3人にしか見えてないってことは…ESPバリア掛けてるってわけ?さてリリィ色のお嬢さん?他のみんなにも見えるように姿現してもらえないかしら?そう言えば、リリィってアリーナちゃん達の言葉だと『サクラ』って言うんですって知ってた?」
「クリス、余計なことは言わなくて良い」
 場を和ませるための軽い話題って事で許してよ、バーツ。
「……気がつかれるとは思わなかったわ」
 靄が晴れて『サクラ』色の彼女が現れる。
 言葉通りに髪も、瞳も『サクラ』色に染められている。
「私は、リリィ・イクール。天塔の八姉妹の四女です」
 そう言って彼女は微笑む。
 いきなり本命?
 ここにリリィ・イクールが居るって事はもう一人はスピア・エルフィノね?
「名前までリリィなんて。名は体を表すそのままね」
 場に似つかわしくない感想を持ったらまたバーツが睨んできた。
 睨まなくても良いじゃない、率直な感想よ?
「ご案内します。海王の塔内部へ」
 そう彼女に言われた瞬間、あたし達は靄に包まれてしまった。

「……………クリス」
 あたしの名前を呼ぶ声。
「…バーツね。他の面々は?」
 とあたりを見渡しても白い靄に包まれているだけ。
「全員居るわよ」
 と声と共に現れるレイナと残りの面々。
「どうやらあたし達塔内部に居るみたいよ?」
 フェリスの言葉に見えづらい足下を見てみれば、砂地ではなく石の床の様だった。
「塔内部に入ったとしてもこの靄が動きようがないな。闇雲に歩くのも危険だ」
「そうね、それに、リリィ・イクール。彼女をもう一度捜さないと。あたしたちの目的は天塔の八姉妹にあって『パルマ』との繋がりを確認すること」
 アドルの言葉を受けてレイナはそう言う。
「でも、天塔の八姉妹が『パルマ』に協力する理由が見あたらないのよね」
 フェリスの言葉にあたしは頷く。
 彼女たちがパルマに協力する理由って何かしら?
「『パルマ』の目的と天塔の八姉妹の目的が一緒だからだ」
 …カーツ、……単純過ぎるわよ。
「『それ』をパルマも天塔の八姉妹も求めているんだろう。バヌア・シェイドが言っていた」
 ちょっと、それ聞いてないわよ。
「大統領が撃たれたときにバヌア・シェイドが言ったんだ」
 ……まずいこと聞いたみたい。
「カーツ、『それ』って何だ?」
「さぁ、俺にもよく分かんないさ。パルマタワーでバヌア・シェイドが言ったんだ。この世界は『それに』支配されている、『それ』は我々には必須。ってね、バヌア・シェイドはレグルト人、天塔の八姉妹が原種だと考えると……。『それ』はレグルト原種である天塔の八姉妹も必要じゃないのか?」
 結局、『それ』がなんだかわかんないのよね。
「それって何なんだろう……」
 ………ナユタも原種だったわよねぇ。
 ナユタに聞いておけば良かったかしら。
『たった8人に攻め滅ぼされるほど、この世界は甘くないわよっっ』
 え?
 今、声が聞こえた。
「クリス?」
 バーツがあたしの顔を訝かしげに見る。
 え?今のあたしじゃないわよっっ。
「…何、ここ……」
 一気に靄が晴れて、そこは石造りというよりも機械的になっている場所の様だった。
『スピカ、聞こえてる?』
『聞こえてるわよ、フレア。そっちの様子はどう?』
『問題なし、だいたい、何で前線に出てくるわけ?オペレーター席にのんびり座ってブレイクとラブラブ通信してれば良かったんじゃないの?』
『そのブレイクが心配だったから、あたしまで前線に出る羽目になったのよ。フレアこそ、シルビアさらわれたんだから部屋で泣いてれば良かったんじゃないの?』
『ふざけないで、自分の物取り戻しに来て何が悪いの?』
『フレア、者が物になってる』
『シエラ、妙なツッコミ入れるのやめて!!!』
 そう言う会話が聞こえた後、あたし達の視界に入ってきたのは巨大なロボット。
「……モーターユニット…?いや、アーマーユニットだ…」
 そう呟くカーツ。
「ちょ、ちょっと待ってそれって………3000年以上前の……アルゴル戦役の頃の話でしょう?」
 アルゴル戦役……。
 惑星パルマから他惑星に入植始めた年をアルゴル西暦とするんだけど。
 それから数年、パルマ政府に反旗を翻した連中との戦いをアルゴル戦役と言うのね。
 当時、ロボット…人型機動兵器がはやった時期で、その機体を使ってその戦争は行われてたわけ。
 で、モーターユニットとアーマーユニットって言うのが、その時活躍した機体の種類かな?
 アーマーユニットの方が性能がいいんだって。
 目の前で動いている3機。
 あたし達に気がついている様子はない。
「あれ、何?」
「実体があるようじゃないわね?」
「ホログラムみたいな?」
 フェリスの問いにレイナは首を振る。
「違うと思う。あたしは仮想空間の様なものだと思うけれど…。クリスはどう思う?」
 そしてあたしに振ってくる。
「これは、塔の記憶ね。塔が覚えている記憶。実際にあった事よ」
「読んだのか?」
 バーツの言葉にあたしは頷く。
 あたしはサイコメトリーの能力を持っていたりする。
 一瞬の記憶それを読み取る力。
 バーツとシンクロすると一瞬どころじゃなく記憶に潜り込めたりするんだけどね。
「ESP値とPSI値が強く出てたな……。おそらく、その二つでこの空間を作ってるんだろう」
「じゃあ、アドル何のために?」
「俺たちを動揺させるため…か?それとも?」
 フェリスの問いにアドルは答えながら考える。
「…誰だ!!」
 妙な気配を感じたのか、バーツが声を上げる。
「スピア・エルフィノだな?」
 姿を見せたのは藍色の髪に金色の瞳の女性。
 リリィ・イクールの姉、スピア・エルフィノだった。
 そしてその隣にリリィ・イクールも現れた。
 顔立ちは似ている様だけど、色の違いから双子と言うことを感じさせないスピア・エルフィノとリリィ・イクール。
 色まで似てないのはレグルト原種の特色なんだって。
 姉に原種の特色である金色の瞳が出るってナユタが言ってたわね。
 ちなみにナユタは妹だって。
 姉がどっかにいるはずなのよね。
「よく、気付かれました。ここがこの塔の記憶だと言うことに」
「私たちにこの記憶を見せて、どういうつもり?」
「ただ、知っていただきたいと思っただけです」
 レイナの問いに天塔の八姉妹は答える。
 何を知ってもらいたいの?
 アルゴル戦役の事?
「知りたかったのでしょう?『それ』を」
『それ』ってさっきカーツが言ってたことよね。
「パルマとはどういう関係?」
 あたしの疑問をよそにレイナがスピア・エルフィノに問い掛ける。
「詳しく説明するのは難しいですわ。そうですね、あえて言うならば同じ物を求める同士でしょうか?意味合いは…違いますけれども」
 とスピア・エルフィノはにっこりと微笑む。
「もう、お帰りくださいませ。『それ』は手に入りましたわ」
「待って、『それ』って何?何を手に入れたというの?」
 スピア・エルフィノの言葉を遮ったレイナに彼女は目を向ける。
「聞いては居ませんか?」
「スピア、大統領は同士ではありませんわ」
「リリィ、そうでしたわね」
 双子の間で交わされる会話。
 気に入らないわね。
 あたし達放ってかれるのが一番嫌いなの知らないのかしら?
「勝手にそっちで納得される会話はあまり好きじゃない。はっきりと答えろ」
 あぁ、バーツに先に言われちゃった。
 しかもその口調はけんか腰。
「それはそちらの都合ですわ。では、ヒントでも差し上げましょうか?」
「スピア」
「構わないでしょう?『それ』はパルマが回収した。後は私たちの物を取り返すだけだもの」
「…………」
「何?」
「先ほど言いましたでしょう?パルマと、我々の八姉妹は『それ』を求めていましたわ。でも意味合いは違うと。私たちは『それ』が邪魔なのです。真の物を得るために。彼らはそれが必要。彼らの元にあれば、私たちの邪魔はされませんわ。女神には」
「………女神………」
 って何?
「………そんな………あり得ない。そんなの存在しないって父様は言ったわ」
「そう、だから大統領は我々の同士ではないのですわ」
 スピア・エルフィノはあでやかに微笑んだ。
 そして煙に包まれる…という言葉通りにあたし達は茫然自失のレイナと共に塔の外に出されてしまった。
 今度はPSI能力者にもはっきりと見える本物の靄に塔は隠れてしまった。
「レイナ?どういう事?」
「ごめん、まだ、混乱してる」
 聞いてもそう答えるだけ。
「困ったわねぇ。レイナがこの調子じゃあ。ってバーツ、どうしたの?」
 船に行ったはずのバーツが血相変えて戻ってくる。
「みんな聞いてくれ。今度こそ、本当に困ったことが起きた様だ」
「何?」
「スカル星でパルマが動いたらしい」
 それ、ってどういう事よ!!?
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