風に請いし、大地に願い、水を讃え、火を崇める。
過去より現在、そして未来永劫繰り返される人の営み。
願いは星になり、そして星は我儘に聞き届ける。
「ライア、ここで寝ていたの?」
「……リース……」
木陰で休んでいた赤毛の少女は友人の訪れに目を開ける。
「アイナ先生が探してたわよ」
あきれた調子で言う友人、リースの言葉に赤毛の少女--ライア--はため息をついた。
「ホント?それはまずいよね?」
「当然でしょう?レイリアが怒り狂ってるんだけど、どうするつもり?」
リースが次々と教えてくれる現在の状況にライアは打開するべく考え始める。
「……カイルとフラッシャーは?」
それは打開する為の秘策。
「………ディアスと三人でお出かけ」
「…またとばっちり食うのはあたしじゃない!!!!」
の、はずだったのが、リースの言葉でそれすらも当てにならない。
「………何やったの、あの3人………」
「聞かない方が良いわよ。リース」
「………フェイ様とマシュマー様が怒ってることに原因合ったりする?」
おそるおそるライアに問い掛けるリースにライアは一瞥しただけでため息をついた。
「あぁ、もう何やってんのよ」
「カイルとフラッシャーとディアスじゃ、一番の止め役はディアスだけど………」
「ディアスが乗り出すと、止め役はフラッシャーだもんね……。しかも頼りにならないあおり役…っていった方が正しいぐらいの止め役」
「ハハハハハ」
ライアとリースの間には乾いた笑いしか響かない。
「はぁ、ライアがここにいる理由が分かったわ」
「ありがとう。それにね、ここで声が聞こえるような気がして」
「声?」
「そう、声……」
リースの問い掛けにそう答えてライアはもう一度目をつぶり、耳を傾ける。
「声……ねぇ…………」
リースの言葉は吹き渡る風にかき消される。
ライアは目をつぶったまま規則正しい眠りの呼吸を始める。
「………怒られるのはあたしじゃなくって………ライアだもんね……」
そう呟いて、リースはライアに倣って横になり目をつぶる。
目を閉じれば風に吹かれる木の葉擦れの音が聞こえてくる。
それは耳に優しく、眠りへと誘った。
*******
「レムネア、ルイセのPSIの状況は?」
自室に入ってきた人物にリアはレムネアだと分かっているから振り向くこともせず問い掛けた。
「まずまずって所だな。クェスとガイで強制的にPSIとESPを目覚めさせたらしいから、それの調整に手間取ってるところだ」
マイン星から目的地のスカル星までほど遠くない。
1時間程度で着く距離の間、レムネアはルイセのPSI及びESPの状況を確認していたのだ。
「攻撃型PSIだったよね……。持ってるのってレムネアとバカルロとリンとフェリスとレイナとマリーチと……って考えてたら結構いるねぇ。24人中7人…三分の一か…」
レムネアの方を振り向きリアは思い出すように数えていく。
「ほとんどが単一型じゃなく併用型だからな」
「……各個人の能力って複雑すぎるわよね…」
「理解しやすいようにって種類を増やしてるから余計に複雑になってくんだろうな。でもそれは、リアが頭を悩ます事じゃないだろう?」
リアの様子にレムネアは疑問を持つ。
「そうだけど、ルイセが悩んだらかわいそうよ。それでなくてもガイと組んでるのよ?不幸だわ」
まるで自分の事のようにリアは言う。
「そう思うのはガイと幼なじみのお前だけだよリア」
「だからよ。だからこそ、ガイの馬鹿にはちゃんとルイセのこと分かってあげてほしいの」
リアはガイのいつもの無口で勝手に(テレパスがあるが故に)動いていくいつもの行動を思い出してため息をつく。
彼女はあきれるぐらいガイの状況を理解しているのだ。
自分は幼なじみでしかも同じようにテレパス持ちで。
ガイは積極的に人と関わることをしないがリアは違う。
積極的に人と関わることを覚えた。
反面教師の様なガイが居たせいもあるし、全くその内が読めないレムネアに出会ったからだ。
「そう言えば、レムネアは読めなかったわよね。あたしの救いは早い内にレムネアに逢えたことだわ」
「まぁ、攻撃PSIに特化してる人間はテレパスブロックは高いんだよ。で、リアそれはほめ言葉ってとっても良いのかな?」
「当たり前でしょう?レムネア」
二人は目を合わせて微笑み合う。
「ガイとルイセのことだけど、リアが心配する必要はないよ。マリーチの話じゃ一歩どころか二歩、三歩も前進してるみたいだし。俺も様子見たけれど、悪くなかったし。ちゃんとガイはルイセの事気を遣ってる。喧嘩みたいなこともしてるから?良い兆候だとおもうよ」
「………喧嘩かぁ。だったら、大丈夫……よね。……あたし、心配しすぎなのかなぁ?」
「まぁ、幼なじみを心配するレベルじゃないような気がするけどね?」
何気なしにレムネアが呟いた言葉にリアはレムネアをじっと見つめ浮かび上がった疑問を投げかける。
「………レムネア、ヤキモチ妬いてる?」
「さて?」
苦笑いなのかふつうのほほえみなのか区別のつかない笑顔を見せてレムネアは答える。
「レムネア、誤解してない?」
「してないよ?リアとガイは幼なじみだって言うぐらい知ってる」
レムネアの声音はいつもと変わらない。
「レムネア」
それでもまだ不機嫌なのだ。
とリアは分かっている。
ずっとレムネアと居たためかそれとも自分がテレパシストだからかそれとも……。
「レムネア?」
「何?」
「大好きよ?」
「何で疑問系?」
語尾が上がったリアにレムネアは苦笑する。
「だってレムネアは分かってくれてない気がするの」
「分かってるよ」
「ホント?本当に?あたしはちゃんとレムネアのこと大好きなんだからね」
「あぁ、ちゃんと分かってるよ」
レムネアはリアの腕を引き抱き寄せる。
「ちゃんと俺はリアが俺の事好きだって分かってる。単なるヤキモチだって言うのはリアの言うとおりだよな。それぐらい、俺だってちゃんとリアのこと好きだから」
そう言ったレムネアにリアは嬉しそうに頷く。
『リア、そろそろスカル星につくよ?』
スピーカーからルイセの声が聞こえる。
それでもお互い動こうとしないから、リアとレムネアは顔を見合わせて笑った。
*******
マイン星のプリマスの事務所の一室で椅子に座っている男にこっそりと近づく影があった。
「バーツ?」
金色の髪に若草色の瞳を持つ少女と言う形容が似合うマイン星のティラナ、クリス・マーヤだった。
椅子に座るのは茶色の髪と瞳を持つバーツ・アレス、クリスと同じマイン星のティラナでクリスのパートナーである。
ちなみに彼は今は目をつぶっておりその瞳を見せていない。
「バーツ?」
クリスは最初よりも少し小さな音量で声を掛ける。
彼女はバーツを探してこの部屋に来ていた。
そしたら彼は寝ているのか椅子に座って目をつぶっていたのだ。
「バーツ?」
最初よりも少し大きめの音量で声を掛ける。
起きているならば、返事をするだろう。
もし、寝ているのならば………。
「これは……チャンス、到来ってやつ?」
クリスはいたずらっ子の様な顔を見せバーツにこっそりと近づいていく。
「バーツ」
もう一度呼ぶ。
でも彼は微動だにしない。
「寝てるの?じゃあ、いいわよね」
確認をとるようにクリスはにっこりと微笑み、そっとバーツに顔を近づけた。
「何をしている、クリス」
「ば、バーツ!!!!」
顔に息がかかるくらいの距離に近づいた瞬間、バーツが低音でクリスに声を掛けた。
「き、気がついてたの!!!!?」
「目をつぶってただけだ」
けだるそうに目を開けて立っているクリスに視線を向ける。
「だったら、最初の声で返事してくれても良いじゃない!!」
「起きてることに気付いてると思ったんだ」
「わかんないわよ!!!!」
ちなみに、こう見えても二人は恋人同士である。
「もうちょっと、優しくしてくれても良いと思うのよね」
「何か言ったか?」
「別に」
呟いた言葉を拾ったバーツにクリスはすねて素っ気なく返す。
「それより、出発の準備は出来たのか?」
すねたクリスの機嫌を直すのでもなくバーツはクリスに聞いてくる。
「アドル達はさっきシャルに呼び出されたみたい。たぶんウィルとクェスの事聞かれてるんだと思う」
レイス星のティラナであるアドル達はウィルとクェスが消えた瞬間を知っているのだ。
「そうか……、で……レイナとカーツは?」
言葉を選びながらバーツはクリスに問い掛ける。
二人はマイン星のティラナという立場上、マイン星にやってきた他の星のプリマスを出迎える役目にある。
だから知っているのだ。
意識不明の大統領を伴ってやってきたレイナを。
「……レイナとカーツは大統領と面会中。意識戻ったみたいよ、大統領」
「なら、安心か」
ほっとバーツは息を吐く。
レイナは大統領の娘である。
そんなことはプリマスの面々は全員知っている。
だからそれなりにレイナの様子を気に掛けていたのだ。
「バーツ、これからの予定は?」
「………」
不意に問い掛けたクリスにバーツは訝しげに見る。
「何よぉ?今回のパーティーのリーダーはバーツでしょう?ここはマイン星。バーツはフィスト候補なんだから」
「勝手に役目を押しつけたくせに」
「押しつけてないってばぁ?バーツは頼りになる人間だってシャルに推薦しただけじゃない」
「それを押しつけたと言わないのか?」
「まぁ、言い換えればぁというか、悪い意味に取ればでしょ?」
「押しつけたと言う意識はあるわけか」
「うっっ………根に持ってる?っていうか、怒ってる?」
「別にそれが妥当だと思うし、お前がフィストだと思うと逆に不安だ」
「ひどいっ。それひどい!!!バーツ、それって恋人に言う台詞?」
「本当の事だろう?」
「やっぱりひどい。あたしが思ってるほど、バーツはあたしのこと思ってくれてないんだ。バーツのバカ!!!」
「はぁ」
切れ目のない口喧嘩の後クリスの台詞にバーツは盛大にため息をつく。
「何よ」
「そう思ってるのは、お前だけだ」
バーツはぼそっと呟く。
「ちゃんとはっきり言って。愛してるって」
「く、クリスっっ」
バーツはクリスの発言に顔をかすかに赤らめ、言葉を詰まらせた。
「言って。あたしは言うわよ。バーツのこと愛してるわ」
「…そんなこと言えるかっっ第一」
「うん、アドルとフェリスが入り口で困ってるわね」
とっくに知ってるという風にクリスは言う。
バーツが気がついたのはつい今し方だが、クリスは二人がこの部屋に向かう前から気がついていた(バーツはPSI所持ーEP補助でクリスはESP所持ーPSI補助)
「知ってるなら」
「でも言ってほしいの」
「だからっっ」
「だから?」
部屋の外で入りづらそうにしているアドルとフェリスが気になってバーツは言わない。
それを分かってるからこそクリスは言ってほしいとねだるのだが。
「クリス、その辺で許してあげたら?」
戸が開いて外にいたもう一組がアドル達と共に入ってくる。
「もう、レイナってばぁ、いるんだったらいるって言ってよぉ」
「カーツに気付いてたでしょ?」
「まぁね〜」
楽しそうにクリスはレイナと話す。
「れ、レイナ、もう良いのか?」
「えぇ。大統領はついさっき目覚めたばかりだから、話も手短だったし。もう用も終わったわ」
「そうか」
落ち着きを取り戻したバーツはレイナに言葉を返す。
「じゃあ、とっとと海王の塔に行って用事すませちゃいましょう?」
そう言ったクリスの言葉にその場にいた者は頷いた。
*******
「んっもうっ、ディアスってばどこに行っちゃったのよぉ」
アルフィはふくれっ面を見せながらあてどもなく歩いていた。
ライアとリースはいつの間にかどこかに行ってしまい、暴走3人組と命名されているフラッシャー、カイル、ディアスの3人を探すのは知らぬ間にアルフィの役目になっていた。
「アルフィ、ライア知らない?」
「み、ミルン。あたしは知らないわよ」
アルフィに声を掛けたのはライアを探しているミルンだった。
「分かってるわ。レイリアも探してるの」
ミルンは同じように探しているレイリアの事を出す。
「そ、そう。ライアってばどこに行っちゃったのかしら?っていうか、ディアス達知らない?」
「………リーネやランス達が探してる。フェイ様が大騒ぎみたいだから」
「フェイ様、3バカに関してはかなり怒ってるものね」
アルフィはフェイの様子を思い出すとため息をついた。
「でもまぁ、リーネ達が探してるならディアス達はすぐに見つかるかもね」
「そうね。じゃあ、私はライアを探しに行くわ」
「あたしも手伝う?」
アルフィはミルンに投げかける。
「探してくれるなら」
「了解」
そして、ミルンと別れアルフィは探している振りをしながら目的の場所へ。
「やっぱり、ここにいたわね。ライア。ついでにリースまで」
木陰で眠っているとライアとリースの二人を見てアルフィはため息をつく。
「レイリアだけじゃなくミルンにまで怒られるわよ、ライア」
小さな声でアルフィは言う。
そんな声では聞こえないと言うことをアルフィは十分に承知している。
「まぁ、良いわよね。そのうちミルン達も気付くでしょう」
そう呟いてアルフィは寝ている二人に倣って横になり目をつぶる。
もうすぐ来るであろう二人か3バカか………。
葉擦れを子守歌に変えながらアルフィは意識を深く沈み込ませた。
世界は、まだ目覚めない。
星命の樹は静かに見守り続ける。