Destiny Third

ナユタ
人工生命
 古代語で海という意味を持つ『マイン』星はその面積のほとんどを海に占められている。
 同じように水という意味を持つ『スカル』星はマイン星と同様な割合で真水が面積のほとんどを占めている。
 地球――パルマとアルゴル星――太陽と同じような距離にあるはずだから物質の量は同じような気がするけれど。
 惑星に含有している鉱物量は違うって言うんだから、世の中は不思議な気がする。
 今、あたしはマイン星にいる。
 大統領の手術は無事に終わった。
 バヌア・シェイドが撃った弾は大統領の体を貫通していて、船での処置が早かったから大統領は助かったようなものだと、手術した金髪にターコイズブルーの瞳を持つ女の人(この人がたぶんカーム様)がレイナに説明していたのをあたし達は遠くで聞いていた。
 大統領のそばにいるレイナとカーツを残し病室から出れば
「では、皆様方は私の後を着いてきてください」
 と一人の少女が待ちかねたように話しかけてきた。
「ナユタ?」
「はい、ガイさんも、マリーチさんもお元気そうで」
 ふわふわの薄い栗毛の髪に緑色の瞳のナユタとマリーチに呼ばれた少女は、ガイとマリーチに挨拶する。
 光彩の黒が妙に印象に残る。
「では、マリーチさん達はそちらへ。ガイさんと、ルイセ・エシルさんは私の後へ」
 分かれ道でマリーチ達と別れ、あたしとガイはナユタの後を着く。
「初めまして。ルイセ・エシルさん、私はナユタ・セレスと申します。私のことはナユタとお呼びください」
 そう言ってナユタは微笑む。
 その様子はなんだか違和感を持った。
 なんだか不思議な感じ。
 彼女の周りだけ時間がないような気がする。
「どうかなさりましたか?」
 ナユタの顔を見て思わず首をかしげてしまったあたしは反対に聞かれてしまった。
「千瀬?」
「何でもない〜です。は、早く行きましょう」
 ガイにも不思議がられてあわてて取り繕って先に進むように促した。
 でも何であんなこと思ったんだろう。
 ガイに聞こうと思ったけど、何言ってるんだって言われそうな気がするからとりあえずやめにして。
「こちらへ、シャル様とカーム様がお待ちです」
 重厚な木の扉。
 近代的な建物なのに、木の扉はなんだか社長室みたいな感じでなんだかおかしい。
 ナユタが扉を開けあたし達は中に入った。
「ようやく来たか。お前を呼び出してずいぶん時間がかかったんだがな」
 と笑顔で言う金髪碧眼の男の人。
 この人が、シャル・ナーガかな?
「で、彼女が?」
「ルイセ・エシルです。正式な能力はPSIがメインのESPが補助であるP/Eと思われます」
「分かった。初めまして、ルイセさん。俺がマイン星のフィスト、シャル・ナーガです。無口でテレパス使えば大概のことは解決できると思っているガイのそばにいると大変だろう?」
「シャルっっ!!!」
 シャルさんのからかいににガイは叫んで遮る。
 ………ガイってばいろんな人に言われてる気がする。
「ガイ、いろんな人に言われてるんだから、直した方が良いよ」
「分かってるよ」
 ふてくされたようにガイは違う方を見るからシャルさんは苦笑してあたしに
「大変かも知れないけれど、君なら大丈夫そうだから。安心したよ」
 と言う。
 あたしなら大丈夫そうだから、安心した……か。
 それって良いって事よね。
「さて、本題に入ろう。ガイ、ウィルの事どこまで知っている」
「どういう意味だ?」
「………ウィルが何を調べて何をしようとしていたか……と言った方が正しいかも知れないな」
 シャルさんの言葉にあたしはガイを見る。
 ガイは分からないという風に眉間にしわを寄せて考え込んでいる。
「ウィルさん、何かを調べていたんですか?」
「それが分からないから聞いてるんだ……。俺はね、ウィルとクェスがレイス上空でいなくなったのはその事が原因だと思っている」
 それを調べてて誰かに狙われたとかって事?
 ガイも同じ事を考えたらしく、ガイはシャルさんに問い掛ける。
「それは…何かを調べていてその最中に誰かに狙われたと言うことか?」
「いや、もっと違う理由だ。イスアは、アンクル専用の調査船だ。アンクルはいわばプリマスにとって最終手段だ。その専用ということはバックアップ機能が多数搭載されている。通信機能だって同意だ」
 通信機能……!
 そう言えば、アルゴル太陽系から地球まで24光年離れているのよね。
 それなのにスカル星のリア・サテラさんと通信出来てたっけ。
 それがアンクル専用って事?
「どんな距離であっても、どんな場所であっても通信が可能。それがアンクル専用の船の尤もたるところだ。ウィルがわざわざお前達に船を使わせたと言うこと。…つまり、俺たちと連絡を絶ちたかった。そう考える以外ない。それでなきゃ忽然と姿を見失った理由がつかないんだよ」
 シャルさんの言葉にあたしとガイは絶句せざるを得なかった。
「だから、何か心当たりはないか?少しでも良い。ウィルかクェス……どちらかといえばウィルの方だろう。何か聞いてないか?」
 シャルさんの言葉はひどく切実だった。
『疑問に思うかも知れないけれど、パルマはアルゴルの中枢。表の大統領も裏のプリマスも機能不全となったら重要問題なんだよ』
 少しだけ不思議そうにしていたあたしに気付いたのか、ガイがテレパスを送ってきた。
『俺は、何も聞いてない。千瀬は何か聞いてないか?』
 って言われても………あれかなぁ?
「あのあたし達が地球に行く前に『星の我儘』っていうのを聞かされたんですけど」
 ………言ってた事と言えば、それしかないよね。
 黄昏時のウィルさんの部屋で、苦笑するクェスさんとどこかあきらめたように
「そう。この星に生まれた人間は全て『星の我儘』に左右されているんだ。我儘というか願いというか。僕はずっとそれを変えたいと願っている。『星の我儘』に左右されるなんて事ばかげていると。でもそれすらも…『星の我儘』なのではないのかと思ってしまうのだけどね」
 と話したウィルさん。
「……『星の我儘』か……。ウィルの口癖だったな。この星は……このアルゴル太陽系は『星の我儘』に左右されている。星の我儘か………。ナユタ、その事に心当たりはあるか?」
 入り口あたりにいたナユタにシャルさんは声を掛ける。
「……歴史が、そうだというのなら。ウィル様は歴史を変えたいのかも知れません。私たちレグルト原種は星の願いを見守る種族ですから」
 え?
 ナユタってレグルト原種なの?
「ガイ、レグルト原種って………もう天塔の八姉妹だけじゃないの?」
「俺も、…レグルト人の祖先がレグルト原種って言うしか…知らない……。シャル、カーラから」
「聞いてる、天塔の八姉妹が生きていた事は。ナユタは最後のレグルト原種だよ。彼女はすでに500年以上生きている。……もっとも、今は生命維持装置で生きながらえているという状況だけどな」
 ……どういう…事?
 生かされてるって事?
 混乱のままナユタに視線を向ければ、彼女はにっこりと微笑む。
「ナユタ?」
「先ほども言ったとおり、私たちレグルト原種は星の願いを見守る役目にあります。そのためには生きていなくてはならない。私は最後の一人。私は瀕死の所をシャル様達に救われ体の大半を機械に変えています。何の憂うこともないんですよ。もうすぐ星の願いは叶うから」
「星の願いって言うのは何だ?」
「私にも分かりません。でも分かるんです。星の願いは叶うと」
 ナユタの言葉にあたし達は首をかしげる以外なかった。
「で、これからどうするんですか?」
「他の連中にはカームが話してる。ティラナには二手に分かれて天塔の二つに行ってもらう。一つはスカル星にある水王の塔。もう一つはここマイン星の海王の塔に行ってもらう。天塔の調査もかねて、八姉妹の確認だ。おそらく全員生きているだろうと思う」
「レイスの大地の塔は後回しなのか?」
「大地の塔のありか、お前は知ってるのか?ガイ」
「………まだ不明って事か」
「その通りだ。天塔の八姉妹の所在と例の『パルマ』と繋がってるか確認だ。いいな」
 そう言ったシャルさんの言葉にガイとあたしは頷いた。

「で、結局、イスアの使用許可は出たんだ?」
 イスアに戻ればそこには理奈達と、地球で通信したときに出てきた女の人リアさんがいた。
「堅苦しい言い方はやめてリアって呼んで。プリマスでは上司でも呼び捨てで良いんだから」
 と言われても、上司を呼び捨てにするには今ひとつ抵抗があるわけで。
「こっちはレムネアでいいから」
 と同じく通信の時に銀髪の男の人を押さえていた人が出てきた。  黒髪に緑目をしたレムネア・ジード。 「よろしく。能力に目覚めたばっかりって聞いたんだけど。間違ってるか?」
「んん、間違ってない。自分の能力がなんだかよく分かってなくって」
「俺の見た限り直接攻撃型が強く出てると思う。マリーチの間接攻撃型やESP専門のガイと違って、俺は直接攻撃型だから、困ったことがあったら相談してくれればいい。リアはテレパス重視だけど」
「レムネア、余計なこと言わないの。何もしなくてもレムネアと連絡取れるから便利だって思ってよ」
「あぁそうだな」
 ……………なんかすっごいラブラブ空気を見せられてる気がするんだけど〜。
「さっきから、この調子だから気にしない方が良いよ」
 理奈がこっそり教えてくれる。
「スカル星のティラナコンビはマイン星のティラナコンビについでラブラブなんだよねぇ」
 マリーチがため息をつきながら教えてくれた。
「会ったのか?」
「会った。久しぶりに会ったらかなり当てられた」
「あそこはなぁ………」
 しみじみとガイとマリーチは語り合う。
 いったい、マイン星のティラナってどんな二人なんだろう。
「…そう言えば会ってないティラナって後どこだっけ?」
 ふと理奈が言う。
 えっと、あたし達がパルマで、理奈達がコラム星で、このリアとレムネアがスカル星で。
 レイナとカーツがラミア星だから……。
 残ってるのはあたしはマイン星と、レイス星?かな?
「それで合ってる」
 あたしと理奈の会話を聞いたガイが教えてくれる。
「後で会えるわ。スカル星の水王の塔の調査の後にマイン星に戻ることになってるから」
 そう言ってリアは、イスアの操作を始めあたし達はスカル星へと向かうことになった。
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