Destiny Third

偶然の奇跡
10・シンクロニシティ
「ルイセ、船の様子は見える?」
 テレポートを開始する前、レイナがあたしに問い掛ける。
「理奈とマリーチが会話してるのが」
 ガイの話じゃ、テレポート先の様子が見えれば、出来たも同然だそうで。
 ガイと繋がっているせいなのか、船の様子がはっきりと見える。
 もしかするとマリーチと理奈が何をしゃべってるのか分かるぐらい。
 脳天気な会話じゃないって言うのは、理奈の様子からでも分かる。
 そんな会話だったら理奈は絶対にヘラヘラと笑ってるはずだから。
「じゃあ、問題ないわ。船に向かうイメージを」
「マリーチ達の会話を邪魔するような。と言った方がいいかな?」
 レイナの言葉の後を、その場の雰囲気を和ませるような笑顔を見せてカーツは続ける。
 邪魔ってまぁ…いっか。
「じゃあ、行くわよ」
 レイナに言われて頷く。
 ここからイスアに行くイメージ。
 そこにいる感覚。
 ふと、空間がとぎれイスアのブリッジの内部が目の前に現れた。
「………………レイナ、頼むから、テレポートの前はテレパスしてほしかったんだけど」
「ガイがしたんじゃないの?」
「お前なら気付くと思ったんだけど」
「だからぁ、そう言う考えやめろよなぁ」
 テレポートは成功し、あたし達は無事にイスアに到着したみたい。
 驚いたマリーチとあっけにとられている理奈の顔を見てあたしはほっと息をつく。
 けれども、マリーチはすぐに表情を険しくする。
 血にぬれている大統領を見たから。
「理奈」
「うん」
 マリーチは理奈に声を掛けて動き、どこからかストレッチャーを取り出し大統領をその上に寝かせる。
「最大船速でマインに向かう。それでいいんだったよな」
「……ありがとう」
 そう言ってレイナはカーツと一緒に大統領を乗せたストレッチャーと共にブリッジを出る。
「…何かあったのかは後で聞くからさ、まぁ、想像はつくけど。ともかく、今はおまえら二人も休んでおけよ…」
「……あぁ…。千瀬、行くぞ」
「う、うん…」
 ガイに促されるようにあたしはブリッジを出る。
「…ガイ、マリーチはバヌア・シェイドがいるって事予想してたのかな?」
「可能性としては考えていただろうな…」
 ガイは静かに息を吐くように呟く。
「……そっか………。大統領、大丈夫かな…」
「マイン星には、治療能力に長けた人がいる。名前はカーム・ロナ。マイン星プリマスのセチスだから着いたら逢うことになるよ。あの人がいるから大丈夫」
「そっか…」
 じゃあ、レイナは少し安心かな…。
 そして無言で一つの部屋の前に行く。
 そこはイスアであたしにあてがわれた部屋。
「少し休むといい」
 そう言ってガイは扉を開ける。
 部屋の窓のロールカーテンは開けられていて漆黒の闇と惑星群が見えた。
「ガイ、あのね………」
「………何?」
「名前、呼んでくれてありがとう」
 あの時、レイナにテレポートの話をしたとき、ガイは、あたしの事を千瀬って呼んでくれた。
「嬉しかったんだよ。…こんな時に何考えてんだろうなんて思ったけどね……」
「……呼べなかった、理由は……後で話す」
 どことなくとぎれとぎれだから不思議に思って顔を見れば、
「ガイ、顔真っ赤」
「おまえ……。ふつう、そう言うことは言わないものじゃないのか?」
「えぇ?そうかな。なんか貴重かなって思ったんだもん」
「あのなぁ、俺は鉄面皮の能面じゃないんだ。表情ぐらい出す」
「そ、そうだよねぇ」
 なんか意外だったからなぁ…。
「千瀬」
「何?」
 呼ばれて振り向けば、ガイの指が顔に触れる。
「……放っといたら、また文句言われるのかな?」
 へ?
「千瀬、部屋に入って」
 ガイの言葉にあたしは言われるままに部屋に入る。
「ベッドに入って横に」
 え?何言ってるのこの人〜〜〜。
「疲れてるのが見え見えなんだよ」
 う〜〜。
 確かにそうだけどっっ。
 文句言うのもなんかしゃくなので黙ってベッドに入る。
「泣きそうな顔してる。泣いたっていい。千瀬にとって、いろいろありすぎてるから。…それは、俺のせいでもあるから。千瀬は俺に文句言う筋合いあると思う。それほどのことを俺はしてるだろうから…」
 そう言ってガイはうつむく。
「一つ、聞いていい?」
 あたしの問い掛けにガイは頷く。
「どうして、あたしと理奈を、ここに連れてきたの?やっぱりパルマに狙われているって言うだけじゃ納得いかないんだ」
 今なら、教えてくれるようなそんな気がした。
 この一件で、ガイとの距離が縮まった気がするし。
「……………」
 ちょっと、どうしてそこで視線そらして無言なのよ!!
「絶対怒るだろうから」
「怒らないわよ。単にあたしは理由が知りたいの」
 怒るような理由でもあるのかな?
 ガイはたっぷり時間をとった後に小声で答える。
「………………偶然」
 は?
 小声だから、聞こえない。
 いや、聞こえたんだけど。
 まさか、冗談だよね。
 偶然だなんて。
「『パルマ』が地球に行っていることには調査が入っていた。開発センターって名前がつけてるんだからそう言う物かと最初は誰もが思ってたけれども、その後に『何か』を探していることに気がついたんだ。当時、俺とマリーチには…パートナーがいなくて、ウィルやカーラの命令であちこち走り回っていた。そんなとき、『パルマ』が何を探しているのかを調べに地球に行ったときだ…。微弱なESP波を関知した。そのティラナやアンクルのパートナー決定はこのESP波のシンクロ率による。このシンクロ値が俺とマリーチのESP波と合致した。それが千瀬と理奈だったというわけ。『パルマ』が千瀬達を探しているって言うのに気がついたのはその後だったわけ何だけど…………」
 そ、そう言う理由だったわけ?
 でも、アルゴル太陽系内だってそう言う人いてもおかしくないんじゃないの?
 わざわざ地球で見つけることないだろうし。
「アルゴル星系内にはいなかったな。俺とマリーチのESP値は特殊だし。話したよな、俺の母親はESPとPSIを持っていたって。ほとんどそう言う人間はいない。けれどまれに存在するんだ。そう言う人間の血を引いてる場合、ESP値でシンクロする率が格段に低くなる。一生に一度会えればいい方だ。カーラとアドニスはレアケースのもっともたる物だよな。あの二人はそろってPSIとESPを所持してる」
「ガイのお母さんは、プリマスに所属してないの?」
「してないよ。あの人はふつうの専業主婦。父さんは官公庁で働いてる。プリマスと関係があるといえばあるかもしれないけど」
 少し寂しそうに言いながらガイは外を見る。
「納得したかな」
「まぁ、それなりに……」
「そうか……。怒ってないよな」
「うん」
 怒るとか怒らないとかそう言う問題じゃないような気がする。
 たくさんの星の中で、地球があるのは偶然の奇跡だって言われてた。
 たとえば、アルゴル星系があるのも偶然の奇跡だというなら。
 あたしや理奈がガイとマリーチにあったのも偶然だけど、奇跡的な事なのかな?
 それは分からないけれど、それでもいいかななんて思う。
「これからマイン星に行くんだよね」
「あぁ」
 あたしの問いにガイは静かに頷く。
 泣きたいけれど、本当に泣きたいのはあたしじゃないのは分かってるけれど。
 それでも、感情が泣くに変換されて来ているから。
「ガイ、泣きたいから胸ぐらい貸して」
 それぐらい言っても平気だよね。
 起き上がって冗談交じりに言ってみれば
「そうだな」
 そうガイは苦笑をしてあたしの腕を引く。
 あたしはガイの腕の中にすっぽりと収まってしまった。
 ど、どうしよう。
 冗談で言ったことが、本当になってる。
「千瀬、ごめんな…巻き込んで」
 ガイのくぐもった声が聞こえる。
「何が?」
 そうとぼければ、
「いろいろ」
 とガイは答えてくる。
「別にいいよ」
 何かまだ言おうと思ったけど、今はこの腕の中が温かくて、もう今は何も言わなくていいと思った。
「大統領、助かるといいね」
「そうだな…」
 それでも、悲しい事なんてない方がいいと、願わずにはいられないけれど。

 アルゴル歴3897年 
 大統領府パルマタワーの機能不全及び大統領行方不明の知らせはアルゴル太陽系すべての惑星に伝わった。
Copyright (c) 長月梓 All rights reserved.