Destiny Third

大統領府
9・バイオハザード
「それで、状況は?」
 マリーチがリアさんに問い掛ける。
「その件に関して、大統領はレイナとカーツを呼び出したわ」
「俺がイスアを持ち出したせいか?」
「その通りだぜ?ガイ」
 と突然人が割り込んできた。
 銀髪で青い目の……ガラが悪そうな男の人。
「か、カルロ」
「お前がそいつに乗ってるおかげで面倒な事になっちまってな。まぁ、お前ら……ってっこらレムネア放せ!!!俺はお前の上官、フィストだっつーの!!!」
 カルロと呼ばれた人は突然乱入した黒い髪の男の人に捕まっている。
「ありがとう、レムネアそのまま捕まえていてね」
 何だろう、緊張感がないこの目の前で繰り広げられてるコントみたいなのは…。
「気にするな、いつものことだ」
 ってガイは言うけど。
 っていうか、……どういう事なんだろう。
 モニタの前に座っている彼女が言ってる事は。
「リア、ウィルとクェスが行方不明というのは?」
「あたしもよく分からないの。今緊急で飛び込んできた情報だから。アドルからの情報によれば管制モニタから突然消えたらしいわ。ウィルはセクロスに乗っていた」
「セクロスはウィルの個人船だ」
「えぇ、そのことはリンとリッドが確認してるわ。でも、ここでの問題は、ウィルが何に乗っていたかじゃないの」
「俺が、イスアに乗ってること……か」
「えぇ」
 それは、問題なの?
 ガイに問い掛ければ
「昨日も言ったと思うがこの船はパルマのアンクル専用、つまりウィルとクェスの専用船だ。本当だったらティラナである俺たちは使うことが出来ない」
「……ウィルさん達の行方不明の原因かも知れないと思われてること?」
 あたしの言葉にガイやモニタの向こうのリアさんも頷く。
「そんな……。イスアはウィルさんに言われて乗りこんだだけで」
 ガイがウィルさんと別れ際に受け取った船の鍵(電子キー)は間違いなくイスアに乗り込んだ時に使われた。
 イスアに乗ったのはあたし達の意志じゃなくって、ウィルさんの意向によるものだ。
「ウィルの行方不明の原因があなたたちだなんてプリマスの面々は誰も思っていないわ。ただ……」
「納得いってない連中がいるって言うわけか…」
 言葉を止めたリアさんの後を続けるようにガイは言った。
「ともかく、レイナ、カーツの二人と合流して。P1869-3、ここはレイナが指定した合流ポイントだから」
「……分かった」
 ガイが頷いたのを見てリアさんは通信を切り、船内は静かになる。
「……大丈夫なの?」
 理奈がこっそりと聞いてくる。
 分からないと首を振る。
「文句を言ってる連中って言うのはどうせ政府高官だろうな」
 マリーチがため息をつきながら言う。
「…バヌア・シェイドあたりか?」
「だろうよ。元々やつはプリマスを大統領直轄にしとくのが気にくわなかったやつだろうし?」
 そう言葉を交わしながらマリーチとガイは作業を始める。
「バヌア・シェイドって?」
「大統領補佐官。次期大統領って噂の高いやつ。ついでに黒い噂の絶えない、黒ーい政治家。『パルマ宇宙開発センター』の総元締め」
「???!!!!」
 説明してくれたマリーチの言葉にあたしと理奈は顔を見合わせる。
 パルマ宇宙開発センターってあたしと理奈を狙ってる(本当かどうかわかんないけれど)という組織だよねぇ……。
「パルマ宇宙開発センターって言うのは、最初はただの開発組織だったんだけど……。いつの間にかバヌア・シェイドの私的会社になっててね。なんだかいい会社そうな名前って言うのは名ばかりって言う感じでさぁ……。会社はパルマにある訳じゃないんだ…」
「どこにあるの?」
「パルマの衛星、シウス星。実態をつかみたくても、大統領次官殿がバックについてるからおいそれと調べられないし…っと。ガイ設定終了したぜ?」
「こっちも終了だ」
 計器を確認して、ガイは言う。
「ガイ?」
「どういう状況か、確認しなくちゃならない。とりあえず、パルマに戻るぞ」
 あたしの問い掛けにガイはそう言った。

「……本当にイスアに乗っていったのね」
 一日かけてパルマ星上空『P1869-3』に到達した後、レイナとカーツと合流した。
 黒みがかった青の髪と茶色い目を持つカーツ・トーナ。
 レイナのパートナーなんだって。
 ちょっとだけレイナのパートナーってどんな人なんだろうって思ってたのよね。
「リアから、聞いたと思うけど……。ウィルとクェスの二人がレイス星上空で忽然と姿を消したわ。セクロスのレイス領域に進入は確認してるんだけど……」
 言いにくそうにレイナは言う。
「テレポートとした可能性は?」
「機体諸共のテレポートは聞いたことないなぁ」
 ガイの問い掛けにマリーチが答え、カーツも頷く。
「あり得ないの?」
 人のテレポートが出来るのなら船のテレポートも出来そうなんだけど…。
「人が持ち運べる範囲の物しか一緒にはテレポートは出来ないわ。船体はもてないでしょう?」
 まぁ、そうだよね。
「テレポートの原理は説明されているけれど、それを船体でということは無理だわ。テレポートは、人の能力で空間と空間を直接つなげているのだから」
「そう、なんだ」
 レイナの言葉にあたしは頷いた。
「千瀬、今の分かったの?」
「………わかんないけど、納得するしかないでしょう?」
 理奈の言葉にあたしはそう答える。
 ここで質問してますます混乱するよりはましだと思う。
「完全な状況不明か…」
「えぇ。アンクルは及び、ティラナは全員、マインに集合。あたしとカーツはティラナ代表と言うことで大統領に会いに来たってわけ。そして、ガイ・シルア及びルイセ・エシル。あなたたち二人に大統領より召集がかかったわ」
「……分かってる。……大丈夫か?」
 ガイはレイナの言葉に頷いた後、あたしを見る。
「あたしは平気だけど……。ガイの方こそ、平気?」
 ガイはあたしに平気って聞くけれど、ガイの方が平気じゃないような気がする。
「……俺の事は、気にしなくてもいいから……」
 そう、ガイは言う。
 心配するなというよりも、する必要ないと言われている感じがする。
「マリーチとアリーナは、イスアに残っていて。大統領に説明した後に、マイン星に行くからすぐに行けるようにしておいて」
「りょーかい。……レイナ」
 軽快にレイナの言葉マリーチは答える。
 それを聞いてあたし達はパルマへとイスアの転送装置で降りていった。

 ………何だろう、この感じは………。
「ルイセ、どうしたの?」
 ふと、レイナに問い掛けられる。
「え、大丈夫……」
 あわてて答えた言葉に、レイナはクスッと笑う。
「何?その返事?」
「え、そうだね…。変だよね」
 そう言ってあたしはもう一度パルマタワーを見上げる。
 首都を見渡すことの出来るパルマタワーはとても高く、最上階まで見ることが難しい。
 そのタワーに前も来たはずなのに、どこか違う印象をあたしは受けた。
「どうかしたのか?」
 あたしの様子を不思議に思ったのかガイはあたしに聞いてくる。
 あたしの足はパルマタワーの前についてから一歩も動いていない。
「ガイ、彼女はESP?」
「いや、系統とすればPSI所持。計ったらPSI波の方が大きかったな。もしかすると、レア能力者かもしれない」
「両方所持の?」
「たぶん」
 ガイとカーツの言葉を聞きつつ、パルマタワーから感じる…そうだ、何かを感じてるんだ……。
「ルイセ、行くわよ」
「……レイナ、なんかいやな感じがする」
 そう、いやな感じ。
 こう、全身に冷気を感じてるような…。
 たとえば、突発的な事故が起こる直前に似てる。
「ガイ、カーツ、二人とも感じる?」
 そのレイナの言葉に二人は顔を見合わせ首を横に振る。
「先天的な何かかも知れないわ。ルイセには予知能力があるのかもね」
 まだ分かってないあたしの能力に関してレイナはそう言う。
「ともかく、ここにいても仕方ないわ。行きましょう」
 レイナの言葉にあたしは頷く。
 先を行くレイナとカーツの後にガイに促されあたしはタワーの中に向かう。
「大丈夫だ…」
 そう、ガイは言ってくれた。
 その声は今までになく優しくて、ほっとした。
 エレベーターに乗って最上階に向かう。
「…ルイセ、大丈夫?」
 うつむいたあたしにレイナは問い掛ける。
「うん、何とか…」
 不安というか、恐怖…、そう恐怖は何故か襲ってくる。
 何が起きるって言うんだろう。
 この後。
 カナは、こういうの気がつくの早かったっけ。
 本当に予知してたし。
 事故が多かったけどね。
「……レイナ、ルイセのいやな予感って言うのが当たったかも知れないぞ」
 最上階到着直前、カーツがレイナに言う。
「どういう事?」
「……バヌア・シェイドが来ている」
 カーツの代わりにガイがそう言う。
「…………それだけでしょう?だったら、関係ないわ」
 カーツの視線とガイの言葉をレイナは振り切って、最上階に到着したエレベーターを先に降りていく。
 大統領の部屋を開けると、大統領ともう一人、そこにいた。
 漆黒の髪なのに、ひどく赤い…血の色のような瞳が印象的な人。
 ガイの目も赤いけど、ガイは赤褐色って言うか、光線によって赤に見える感じがするだけなんだけど。
「ミリオン大統領、パルマ星ティラナ、ガイ・シルア及び、ルイセ・エシルを連れて参りました」
 レイナの言葉に大統領は頷く。
「ガイ・シルア。宇宙船イスアを持ち出した件、説明を願おうか」
 でも、声をかけてきたのは大統領じゃない人。
『奴がバヌア・シェイドだ』
 あたしをかばうように立っているガイがテレパスを使ってこっそりと教えてくれる。
 触れていれば、一応テレパスが通じるあたしとガイ。
 ちなみにちゃんと使い方を覚えれば、触れなくてもテレパスが通じるようになるそうだ。
「申し上げます。フィスト、ウィル・ラーマより鍵を預かり受けたとそれ以上報告できる物はございません」
「では、ウィル・ラーマとクェス・アジールが行方不明は全く知らぬと、そう言うわけだな?」
「はい」
 バヌア・シェイドの言葉にガイはそう応える。
 聞いてきた、バヌア・シェイドは納得いってないようだった。
「シェイド、これでも納得はできないか?」
「いえ、納得いたしましたよ、大統領」
 慇懃無礼に答えるバヌア・シェイドはふとあたしの方を見る。
「時にガイ、私はお前のパートナーを紹介してもらえてないような気がするんだが」
「申し訳ございません。ですが、我々は大統領直轄のプリマスの一員。私の一存では答えしかねます」
 ガイはあたしを隠すように体を動かす。
「まぁ、いいだろう。それは、そのうちいやでも手に入る」
 ふと言った、バヌア・シェイド。
 それ?
 って何だろう。
「バヌア、お前まだ『それ』にとらわれていたのか!!!」
「とらわれる?何を馬鹿なことを言っているんだい、カオス・ミリオン。この世界は『それ』によって支配されている。それにとらわれるのは当然だろう?」
「ふざけるな。『それ』はお前達の妄想だというのが分からないのか」
「お前達?カオス・ミリオンよ。お前も同胞だと言うことを忘れたか?」
 突然、あたし達をよそに始まった大統領と補佐官の口論。
「この世界は『それに』支配されている。『それ』は我々には必須。お前はそれを理解してないと言うのか?」
「必要だとどうして言える。我々はそれの支配から逃れることが悲願じゃないのか?」
 どういう事?
 何の話をしているのか少なくともあたしには理解出来ていない。
 あたしだけじゃない、ガイやレイナ、カーツの顔にも困惑の色が広がっている。
「だから、私は手段を選ばないことにした。手始めに、この中枢を壊すことに」
 え?
「私は、力を手に入れたのだよ。同胞カオス・ミリオンよ」
 その声が合図の様にどこかで爆発音がした。
「このビルを破壊するつもりか。バヌア・シェイド」
「さて?」
 何が面白いのかバヌア・シェイドは顔に笑みを浮かべる。
「大統領、このビルが機能しなくなっている。いや、人の気配がなくなっていく…」
「どういう事、カーツ」
「分からない」
 レイナの言葉にカーツは首を振る。
「…毒をまいたな、バヌア・シェイド。このビルの人々がそれを吸って倒れていっているんだ」
「ガイ、それは本当なの?」
 ガイはレイナの言葉に頷いて再び視線をバヌア・シェイドに向ける。
「なんて事をしたんだ!!バヌア」
「中枢を壊すと言ったでしょう?カオス」
「…っっっ」
 そして、銃を向けるバヌア・シェイド。
「後はお前を殺せばすべて丸く収まる。連邦政府は間違っている事を何故気付かない。すべてそれを見つけなくてはすべてが壊れるのだよ。それではごきげんよう」
「お父様!!!!!!!!!!!!」
 レイナの悲鳴をかき消しながら、拳銃はその口から火を噴いた。
「脱出するぞ、ガイ」
「あぁ、分かってる」
 カーツはガイに声をかけてレイナの元に向かう。
 レイナは凶弾に倒れた大統領のそばにいる。
「イスアにテレポートするぞ」
「でも……」
「下にエレベーターで下りることは出来ない。すでに機能不全に陥っている。毒の種類がなんだか分からない以上、ここにいるわけにはいかない」
 そうあたしに言ってガイは大統領の方を見る。
「カーツ、大統領の様子はどうだ」
「一命は取り留めている。今の段階では何とも言えない。一刻を争ってもおかしくない」
「分かった」
 そうしてもう一度あたしの方をガイは見て、
「テレポートの仕方を教える。もっとも、俺はESP所持者だから参考になるかは分からないけれど。短距離ならやったことがあるから。ここから、イスアをイメージするんだ。中の様子、マリーチ達があそこにいると、そこに行くとイメージするんだ」
 そう、言う。
 あたしに……出来るの?
 そんな不安をよそにガイはレイナに目を向け問い掛ける。
「レイナ、テレポート出来るな?」
「ちょっと待ってよ、ここはどうするつもり?」
「レイナ、ガイがルイセに言った言葉聞いてなかったのか?毒の種類が分からない以上、ここにいたら俺達まで危険だ。それに、大統領の命だって危ない」
 反論しようとしていたレイナはカーツの言葉に渋々ながらも頷く。
「テレポートはイスアでいいのね」
「あぁ、俺達でフォローする」
「待って、俺達って…」
「俺は元々ESP所持だけど、母さんはPSIもESPも持ってる。デュークは、知っての通りだ」
「じゃあルイセはテレポート出来るの?まだ、PSIに目覚めたばかりでしょう?その彼女にやらせるつもり?」
「千瀬なら大丈夫だ」
 そうガイはあたしの方を見ながら言う。
「今、言ったとおりにやれば大丈夫。マリーチの波形は俺が伝える」
 そしてガイはあたしの手に触れる。
「大丈夫だ」
 ガイの声が静かにあたしに落ちていくような気がして、イスアのマリーチと理奈の不安げに会話しているのが見えたような気がした。
「大丈夫なのね?」
「あぁ、問題ない」
 少し不安そうにあたしを見るレイナにガイはそう答え、あたしはゆっくりと頷いた。
「では、大統領を保護し宇宙船イスアにテレポート後、マイン星に向かいます」
 そう、レイナは言った。
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