Destiny Third

天塔の八姉妹
6・ファーストコンタクト
「ここが…」
「天塔の一つ、炎の塔」
 あたしと理奈は、ただ唖然とその何の変哲もない石造りの炎の塔を見上げた。
 ガイとマリーチも唖然とではないけれどその塔を見上げている。
 アルゴル太陽系には、天塔と呼ばれる高い塔が4つある。
 その昔、まだアルゴル連邦政府が発足した頃、連邦に反する組織があった。
 それの名前は知られていないのだけれども、彼らを率いた八人がいる。
『天塔の八姉妹』。
 彼らは八姉妹と共に最後まで抵抗し続けた。
 その抵抗していたところが、天塔と呼ばれる高い塔で八姉妹はそこを占拠していたために、『天塔の八姉妹』と呼ばれるようになった。
 のだ、そうだ。
 で、理奈とマリーチが一緒なのは、炎の塔のあるここがコラム星のため。
 プリマスは所属している星でないと自由には動けないんだって。
 他の惑星に行くときはその惑星のプリマスが一緒でないとならないらしい。
 で、コラム星のプリマスはフィストのカーラ・ムアさんとセチスのアドニス・ウラルさん。
 とティラナの理奈とマリーチ。
 フィストとセチスは長官と副官だから動くわけにも行かないので、理奈たちが一緒に来たってわけ。
 ちなみに、炎の塔の由来は、コラム星のが古代語で炎と言うことから。
 最初聞いたとき炎まみれの塔かと思ってどきどきしてたんだけどね。
 何の変哲もない石造りの塔でした。
 って、教えてくれたの、ほとんどがマリーチなんだけど。
 ガイってば相変わらずあんまり教えてくれない。
 そりゃ必要最低限の事は教えてくれるんだけど。
 私がテレパスブロックかけられるようになったおかげでガイ限定のサトラレ状態にならないようになったのはいいけれど、逆に不便になったのは何でだろう。
 で、何でここに来ているのかというと、ウィルさんに塔の調査を命令されたためだ。
 一応って言うか、ウィルさんはあたしとガイの上司だもんね。
「ガイ、塔の調査ってやっぱり中に入るんだよね…」
 塔を見上げているガイに聞いてみる。
「…そうじゃなきゃ調査の意味がないだろう」
 確かにそうなんですけど。
「どうやってはいるの?」
「マリーチ、入り方は?」
 ガイに聞いてみても分からないらしくてマリーチに聞く。
「………」
「マリーチ?」
「と、ともかく探してみよう!!」
 マリーチも知らなかったらしい。
「で、探すってどうやって」
「………」
 さっきから探してんだよね。
 実は、塔についてからまず周辺の調査。
 入り口探すついでに。
 塔の周囲はちょっと大きい家一軒分ぐらい歩く。
 特に問題ないので塔の内部に入ろうとしたんだけど……そう、結局入り口が見つからなかったのだ。
「ここ、どうやって昔の人は入ったの?」
「さぁ。入ったって言う記述は見たことないな……」
 見たことないって………。
「でも天塔の八姉妹は、ここを拠点にしたんだよねぇ。じゃあ彼女たちはどうやってこの塔に入ったの?」
「さぁな。それが分かれば苦労はしない。当時の記録は、ここを拠点にしてたというだけで他には書いてない。だからこその調査だと考えれば問題ないと思うけどな」
 確かにその通りだけどね。
「でも、ウィルさんの命令は、この塔の調査。実際問題、再調査って事なんだから入り口を見つけないことにはねぇ」
 気楽にマリーチは言う。
 理奈は塔をぺたぺた触り中。
 ………って理奈、何してるのよ。
「あのね、わたしはESP能力者なんだって。ほらエスパーってテレパシーとか得意じゃない?だから漫画みたいにサイコメトラー理奈!!!なんてどう?」
 理奈は相変わらずこの状況を楽しんでる。
 でも、そんな簡単にうまくいくのかなぁ?
「………あれ?」
 小さく理奈が声を上げる。
「理奈、どうしたの?」
「なんか、変、ちょっと熱い」
 そういって理奈は塔から手を離す。
 理奈が触ってた所は赤く色づいている。
 っていうよりも、まるで石が焼けたみたいに赤くなっていた。
「ここが、鍵?」
 とマリーチが触れる。
 でも反応なし(ちなみに、マリーチはPSI能力。(PSI能力に特化している))。
「俺じゃだめみたい」
 そういってガイと変わる。
 ガイは、理奈と同じESP能力者だからなんか変わるかも。
 赤く染まった石の前に立ったガイは何のためらいもなくその石にふれる。
 次の瞬間、すーっと消えるように石が消えて、塔がぽっかりと口を開けるように入り口が出来た。
「ど、どういう仕掛け???」
 入り口を理奈がぺたぺたと触ってみても何の変哲もない。
「おそらく、この塔がESPを発生させる塔なのかもしれない」
 え?どういう意味?
「ESPかPSIの力で入り口を隠してるって事だね。そうじゃなきゃ見つけられないのかもしれない。理奈とガイのESPに反応して入り口が開いたようなものだからね」
 なるほど。
 とはいえ、急に開いたものだから怖くて中に入れない。
「特に、何も起きないようだから中に入っても問題ないと思うけど?」
 思わずしがみついていたあたしをガイは冷ややかに見下ろす。
「それに怖がる必要もないだろう?」
 う、ついでに、読まれた……。
 くっつくと聞かれるのうっかり忘れてた。
 さっき読まれないのってちょっと不便かもって思ったの前言撤回。
「千瀬、何か感じる?」
「何かって?」
「ほら、千瀬って霊感体質だし」
「理奈、あたしは霊感体質じゃないわよ!何も感じるわけないでしょう?さっさと中に入って調査するわよ!!!」
 みんなを放ってあたしは中に入る。
 全く、理奈ってばいっつも言うのよね。
 あたしは霊感体質じゃないのに。
 中に入って気付いたのは、塔の中は何となく温かいこと、空気が澱んだりしてはいないことだった。
 ふつう、誰も立ち入っていないのなら、空気は埃っぽく澱んでいるはずだ。
 なのに、この塔の空気はそんなことを全く感じさせなかった。
『…………』
 な、何?
 今、何かを感じた。
「不用意に中にはいるな」
 そう言いながら、ガイが中に入ってくる。
『……。………』
 あ、また。
「問題はないと言ったけれど、用心する事に越したことはないんだからな?」
『………』
 ざわついてる。
「…千瀬?」
「や、やだ、千瀬」
 ガイと理奈があたしの方を見て驚いてる。
「な、何?」
「今、ぼーっとしてたよ」
 ぼーっとっていうか……。
「何かいるの?」
「わ…わかんないけど…」
 何かを感じるような…。
「視線は感じるかも?」
 なんてふざけてマリーチが言った瞬間だった。
 ふっと、入り口からの明かりが消える。
「入り口…消えた?」
 そして…。
「ようこそ」
 現れた人。
「っっっっっっ!!!」
 驚くまもなく、その人はスッと現れた。
 燃えている火のような赤い波経つ長い髪に、涼やかな水面の青の瞳。
 相反する色を持った女の人が本当に音も立てずに現れたのだ。
「この塔に人が入るのは何年ぶりでしょう」
 唖然としているあたし達をよそに、その人は話を続ける。
「この塔に居続けることは寂しいこと。私の名はカーシャ・フィーナ。あなた方の来訪を心より歓迎いたします」
 そう言って彼女、カーシャ・フィーナは微笑んだ。
 彼女が名前を言ったとき、ガイとマリーチが息をのんだのが聞こえた。
「どういう事?」
 ガイに触れて聞いてみる。
 テレパシー使えないけど、ガイはあたしの考えてくれること読んでくれるから。
 あ、やっぱり便利かも。
「…天塔の八姉妹の名前」
 ……………は?
 天塔の八姉妹って………昔の人よね。
 本人?
「って、千瀬、幽霊?」
 ガイが言ったことに理奈が過剰に反応する。
 そんな事…あり得ないでしょう?
 だって、幽霊の感じしない……。
 塔に入ったときに感じた気配には似てるけど……。
「あなた方をご案内いたしましょう。姉もあなた方の訪れを楽しみにしています」
 あ、姉?
「カーシャ・フィーナの姉と言えば、レオナ・カチュア…だけど」
「姉の名前をご存じでしたか?」
 そう言って彼女は微笑む。
 ふんわりとした長い髪に微笑む様子は可憐ととらえがちかもしれないのに、どこか得体の知れない何かを感じて急に恐怖を感じる。
「ご案内いたしましょう、姉の所へ」
 へ?
 驚くまもなく、あたし達が見ている景色が一変する。
 遠くまでこのコラム星独特の荒涼とした大地が広がり、遠くにはコラムの首都が見える。
 あたし達がいるところは、塔の1階ではなくおそらく最上階の広間なのかもしれない。
「姉さん」
 カーシャが中央に座っている人物に声をかける。
「どこに行っていたカーシャ」
「お客様よ、姉さん」
 そう言ってカーシャの言葉に中央に座っている人物…金色の瞳に濡れ羽色の髪にとがった耳がすごく特徴的なその人…レオナ・カチュアはあたし達に視線を移す。
「どうして連れてきた」
「だって入ってきたから」
 カーシャの言葉にレオナはため息をついてあたし達に聞いてきた。
「ここには何用か?」
 彼女の気配はとても鋭く、もう一つ見せた塔の気配にひどく似ていた。
 そしてそれ以上にとても強くあたしはその気配と雰囲気に気圧される。
 彼女の質問に答えたのはガイだ。
「ここには調査に来た」
「調査か…昔、どこかの誰かも調査に来たが…中にまでは入らなかったな。どちらかといえば入れなかったといった方が正しいか。入ってきたのはお前達が初めてだな」
「教えてほしい、あんた達は何者だ?」
 ガイの質問にカーシャは優美な笑みをたたえたまま、レオナは表情を変えずにいる。
「レオナ・カチュアとその妹カーシャ・フィーナといえば、天塔の八姉妹の末の双子。天塔の八姉妹の名前が出てくるのはアルゴル歴60年、今から3000年以上も前の話だ」
 さ、3000年以上昔????
 そ、そんな昔の事なの?。
「だから」
 ガイの言葉にレオナは素っ気なく返し、
「あんた達はその双子なのか?って事だよ。人が3000年以上も生きているはずがない」
「私の一族は長命種だ。だから1000年以上生きながらえている」
 マリーチの問い掛けにそう答えた。
 長命種……?
 1000年以上も人って生きるものじゃないよねぇ。
 いや、だからって3000年ってぇ!!!
「1000年近く、生きるレグルト原種の話は聞いたことあるが…レグルト原種自体、すでにおとぎ話のはずじゃあ。それに、3000年以上なんて聞いたことがない」
「私たち天塔の八姉妹は特別。だから3000年以上生きることが出来る」
 レグルト原種?
 聞いたことのない名前にあたしと理奈は互いに顔を見合わせる。
 ここに着いてから聞いたこと名前や信じられない事が次から次へとやってきて驚く間もない。
「レグルト人の先祖に当たる。レグルト人はパルマ星とスカル星の中間距離に当たる場所にあるアルゴル連邦政府より唯一独立しているシウス星に住む人種だ。もっともレグルト人は長命種ではない」
 あたしがつかんでいるから声が聞こえたのか、ガイがこっそりと教えてくれる。
「他の姉妹は?」
「さぁ、私たちはここを出ない。だから、姉たちがどうあるかも私たちは知り得ない」
 淡々とレオナは言葉を紡いでいく。
「出来うることならば、教えてくださいませ。姉たちがどうあるかを」
 レオナの言葉の後をカーシャが続けた。
 そしてあたし達はまた再び塔の入り口へと戻ってきたと言うより、戻された。
「………結局、この塔には天塔の八姉妹がいたって事でいいのかなぁ」
「それが、かなりの重要問題ではあるけどな…」
 あたしのつぶやきにガイが答える。
 そっか…1000年以上も前に生きてた人だもんね…。
「それを政府……俺たちやプリマスががつかめていなかった事…だもんなぁ……。姉さんや、シャルがなんて言うか」
 ため行き着いてマリーチが嘆く。
 あ、ちなみに、姉さんって言うのはコラムのプリマス、フィストのカーラ・ムアさんの事で、マリーチの実のお姉さん。
「はぁ、ウィルは知っていたのか?」
「だから再調査を命じたって事?あの人だからあり得そうだけどさぁ」
 マリーチとガイは考えながら開いている入り口から外に出る。
 その後をあたしと理奈。
「でも、すっごいきれいな人達だったね」
 レオナとカーシャの事を思い出しながら理奈は言う。
 そう言えば、ガイが二人は双子だって言ってたけど……。
 似てなかったよね。
 全然。
「似てない理由は、姉の方にレグルト原種の血は色濃く表れるからだよ」
 背後から聞こえた声。
 振り向いた瞬間にガイに後ろに引っ張られる。
「ガイ、何するのよっ」
 あたしの声をよそにガイは前方をにらみつける。
「やぁガイ。久しぶりだね」
「カルス……」
 ガイはそこにいた人を睨みながら、あたしを背後に隠す。
 そこにいたのは金髪の赤い目…金髪って所を抜かしたらガイはこの人に似ている気がする。
「その名前で、俺の事を呼ぶのはお前ぐらいだよ。ガイ」
「何しに来た」
「別に。ただお前がここに来たと聞いたから会いに来ただけだよ」
 そう彼は微笑んで言った。
「それに、君にも会いたかったしね」
 と背後から聞こえる声。
 前には姿がなく、もう一度振り向けばそこにいた。
「初めまして。俺はガイの兄。デューク・シェル。カルスというのは、幼名みたいなものかな?」
 そうガイとは全く違うほほえみを見せた。
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