Destiny Third

取り巻く周囲
5・恒星
 パルマタワーからあたし達はクェスさん達がいるプリマスの事務所に戻ってきた。
 事務所で正しいのかな?
 あそこに住んでるみたいだけど、事務所兼って言うのは間違ってないと思う。
「お帰りなさい」
 帰ってくればクェスさんに迎え入れられた。
 帰ってくるの分かったのかな?
「クェスは領域感知の能力者。テレパスの亜種みたいなものだ」
 だって。
 ガイはあたしの心を読んで答えてくる。
 それとも聞こえてくるのかな?
「普段は聞こえない。大抵ブロックが掛かってるからな。千瀬はまだテレパスブロックができてないから」
 ………って勝手に聞いてるんじゃない。
「勝手に聞いてる訳じゃない。聞こえてくるだけだ」
「そう言うの勝手にって言うの」
「へ理屈だろ?」
「ガイ!!!!!!!」
 あたしとガイの喧嘩にクェスさんが声を上げて止める。
「いい加減にしなさい!!!あなたねぇ、彼女がまだ何も知らないって分かってないでしょう?さっきのウィルの説明だけじゃ無理って言うのあなた分かってない訳?」
「……」
「ガイ、彼女はあなたと違うの。違う所から来たの。全く何も分からない状況でいきなり何の説明もなしであちこち引っ張り回されてるの。肝心のあなたは状況を全く説明しない。彼女が知ってるのはウィルがいった事と大統領がおっしゃった事だけよ」
 そのクェスさんの言葉にガイは俯く。
「ねぇ、ガイ。あなたは想像つくか分からないけれど、あなたが彼女のように、昨日今日会ったばかりの人に簡単に自分が考えている事知られたらどう?」
「………」
「経験した事ないから分かんないなんて言わないでよね。あなた以上のテレパシストがいるって事忘れてるでしょう?あなたの思考なんて簡単に読んじゃう人がいる事忘れてない?」
「…………思い出した」
 ぶすっとした表情でガイは呟く。
「ねぇ、ガイ、知る事と理解する事は別物だわ。まずは、彼女の知らない事を教える事。能力の事、『プリマス』の事、あたし達がいるこのパルマを含むアルゴル太陽系の事」
 クェスさんは笑みをたたえて諭すようにガイに言う。
「それからあなたの事。まずは彼女があなたのパートナーだと言う事を理解しなさい。あなたが望んだのでしょう?」
 ………ガイが望んだ?
 どういう事?
「…クェスっっ」
「違うの?」
 ちょっと、ガイが望んだってどういう事?
「ガイっ」
「……っっっっっ別にそういう意味じゃない」
 そういう意味じゃないってどういう意味よ。
 意味が分かんない!!!
「はぁ、ともかく、ガイ、ルイセちゃん、あたしとウィルは出掛けるから!!!!」
 へ?
「どこに行くんだ?」
「ちょっとやぼ用。あたしとウィルで行かなくちゃならない感じなのよ。もぉ、ウィルってば何やってるの?」
 そう言ってクェスさんは廊下の奥の部屋を見る。
 クェスさんがここにいたのはあたし達を迎える為ではなく出掛ける為なのだと気付いた。
 って………その間、あたしガイと二人っきり???
「だからな、ガイ。オレ達がいない間、ちゃんと彼女に教えておく事」
 そう言いながらウィルさんが奥から出てきた。
「待たせて悪かったね、クェス」
「大丈夫よ。ウィル」
 そう言って微笑み合う二人はなんだかお似合いな感じがして見とれてしまう。
「じゃあ、ガイ。帰る前には連絡入れるよ。ちゃんと教えておく事。ルイセちゃん、君にも頼んでおこうかな?」
「何を…ですか?」
 ウィルさんの言葉に首をかしげる。
 頼みたい事って何だろう。
「ウィル」
「ガイ、君は口を挟まない」
 何か言おうとしたガイを制した後、ウィルさんは言う。
「君にはね、ガイにコミュニケーションの取り方を教えてやって欲しいんだ。ガイはテレパシストだから、簡単に人の気持ちを読み込んでしまう。それって実は結構面倒な事でね、嫌な事まで入ってきてしまうんだよ。だから、ガイがテレパシストだと言う事を、心を読んでしまう事を怖がらないで欲しい。これは、教えてやって欲しいって言うんじゃなくってお願い…かな?」
 そう言ってウィルさんは微笑む。
「じゃあ、後は頼んだよ」
 そう言って、二人は行ってしまった。
 ウィルさんが言うこと。
 難しいなって思った。
 なんていっていいのか分かんないんだけど…。
 取り合えず、心の中でぐだぐだ考えるのは今はやめにしておこう。
「千瀬」
「何?」
「こっち」
 誘われるようにガイの後を付いて行く。
 付いた所はウィルさんやクェスさんがいた執務室。
「何から話す?」
 ガイは部屋にあるコンソールをいじりながら聞いてくる。
 ふわっと現れる立体映像。
 そこに出てきたのは、宇宙船レニアスで見た『アルゴル太陽系』だった。
「とりあえずは、この太陽系の話からしようか…。ある程度の知識は合った方がいいから」
 ガイの言葉にあたしは頷く。
「この中心にあるのがアルゴル星。古代語で輝く星と言う意味を持つ。千瀬がいた地球の太陽と同じ役目を持つ。この恒星を中心として、ここから水の惑星スカル、豊穰の惑星パルマ、炎の惑星コラム、大地の惑星レイス、神秘の惑星ラミア、海の星マイン。各惑星の名前は全て古代語なんだ」
 古代語…ってこの世界ってどのくらい古いんだろう?
「一応…5000年ぐらい昔と聞いた事あるけど…」
「……ガイ、あたしが口に出した事に答えて」
 ガイはヤッパリあたしの心の中を読んで答えてくる。
 便利だけど……洗いざらいのぞかれるのは正直いい気分じゃない。
 あぁ、ホント、ウィルさんの願い通りにうまくいくのかなぁ………。
「ヤッパリ、先にテレパスブロックを習得しないとダメか…。このままじゃ誰にも読まれるぞ」
「そ、そんな事言ったってしょうがないじゃない」
「分かってるよ。PSIだってESPだって知らなかった人間がそう簡単にテレパスブロックを覚えるとは思ってない。だから、直接目覚めさせる。オレが出来るかどうか分からないけど」
 …ガイ…。
 えっと、もしかして、ちゃんと気にかけてくれてる…の…。
 そう思いながら見つめれば、ガイは気付いてしまったのか恥ずかしそうに目をそらす。
「ガイ…ありがとう」
 口に出して、目を見ながら言う。
 ウィルさんからお願いされたもんね。
 コミュニケーションの仕方教えて欲しいって。
 そう言えば、ガイがテレパシストで人の心も読めてしまう(って言うか人の心さんざん読まれてしまったので『目』を合わさないようにしちゃったんだっけ。
 目を見せたら読まれそうな気がして。
 関係ないのにね。
「別に…礼はまだ言わなくてもいい。取り合えず、簡単に説明する。能力には非攻撃型のESPと攻撃型のPSIに別れる。大統領が言っていたの覚えてる?君はESPの能力には目覚めているって言ったのを」
 …そう言えば、言ってた気がする。
「その能力はオレが近くでテレパスを自動的に使っていたせいだ。それに引きずられるように千瀬の能力が目覚めたと言う事になる」
 な、なるほど。
「だからって、完全に目覚めてる訳じゃない。本来はゆっくりとやるのが普通なんだけど、このままじゃ埒が明かないから強制的に目覚めさせる」
「ど、どうやって?」
 強制的って、ちょっと怖いんですけど。
「念波を送り込むだけ。オレは、基本的にESP波の人間だからESPしか目覚めさせるのは無理だけれど。テレパスとテレポートが出来れば上出来だな」
 そう言ってガイは椅子をとり出し
「少し、気分が悪くなるかも知れないから、座って」
 とあたしを椅子に促す。
「それって倒れるかも知れないって事?」
「…まぁ、そういう事」
 そう言ってガイはあたしの額に手をかざす。
「怖がる必要はない。念波を送って目覚めさせるだけだから、そしたらすぐにテレパスが目覚める。そうしたらテレパスブロックの仕方もすぐに分かる。始めるよ」
 ガイの言葉に頷き、目を瞑る。
 何が起きるのか分からなくって怖いからぎゅっと。
 そして、ガイの手がかざされている額に何かが触れた瞬間だった。
 おと、オト、音、sound、ton、sonido、buruit、suono…………。((日本語(平仮名、カタカナ、漢字)、英語、ドイツ語、スペイン語、フランス語、イタリア語)
 音の洪水。
「何よこれー」
「千瀬、今聞こえてる音は全て周囲の意識だ。壁を作るイメージでテレパスをブロックしろ。じゃないと」
 じゃないと何よ〜〜〜。
 脅したまま止めないでよ〜〜。
 かべ、カベ、壁、wall、wond、pared、mur、parete…………。
 ………あれ?
 音が、消えた?
「千瀬?」
 ガイがあたしの方を不安そうに見てる。
 もしかして、気付いてない?
「…あたし、大丈夫かも」
「の、様だな。何とか間に合ったみたいだ」
「間に合った??って?」
 何?どういう事?
「テレパスが開放されたまま周囲の意識を聞き続けると、精神が崩壊するんだ」
 ………ってなんでそういう事先に言わないのよ!!!
 文句を言おうと立ち上がった瞬間、ふらっと立ちくらみ。
「千瀬っ。急に立ち上がるから…」
 なんか〜気持ち悪い〜〜〜。
「当然だ、念波を初めて受けた奴が平気でいられるはずがない」
 む〜〜〜、そういう事ぐらい先に言ってよ〜〜〜。
「言う前に立ち上がっただろう?」
 そりゃ、そうだけど…………?
 なんか読まれてない?
「今、オレが支えているからな」
 確かに、ガイはあたしを支えててくれてる。
 でもどういう事?
「千瀬のテレパスブロックは、まだそれほど高くないって事。接触すればテレパスで読み取れるんだよ」
 と事も無げにガイは言ってくる。
 それって問題じゃない、離してよ〜。
「また、倒れるぞ」
 だってだってせっかくテレパスブロック出来るようになったのに、読まれたら意味ないじゃない〜。
「っ……ごめん」
「……?」
「だから、ごめん。…初めてだって事分かってるんだけど、どうしても、なんていっていいのか分からないんだ」
 あたしを支えたままガイは言う。
「ちゃんと、教える。意識の集中の仕方も、オレが教えられる事は教える。せっかくパートナーになったんだ、中途半端にしない。だから、泣くなよ」
 ガイはあたしの涙を見てそう言った。
 なんで泣いたのかあたしにも分からない。
 パニックを起こして、その反動が来たのか…。
 それともこの一日二日で変わってしまった自分を取り巻く環境に戸惑ったのか。
 それを両方合わさってしまったからなのか…分からなかった。
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