パルマ星のプリマス機関
4・タイムパラドックス
「今からどこにいくの?」
宇宙艇レニアスから降りてすぐに、あたし達は別行動になった。
理奈はマリーチやレイナと一緒に、パルマの中心部にそびえ立つパルマタワーに向かう。
中心部から結構離れている宇宙港からはっきりと確認出来るぐらいに、パルマタワーは大きい。
「先に、あの3人はパルマタワーにいる大統領に会いに行く。マリーチやレイナの担当惑星はパルマじゃないから」
「担当惑星って?」
「仕事しているって言っただろう。このアルゴル太陽系に存在する惑星を自治区として分割しているんだ。その自治区の中心となる惑星は五つあって、レイナはレイス星でマリーチはコラム星と言うふうに」
理奈はマリーチのパートナーだったからマリーチと一緒のコラム星って事よね…。
「そこで何をしているの?」
「持ち込まれる案件の調査や解決。一応、大統領直轄の組織だから。大統領からの依頼って言うのもある」
………。
なんか、あんまり分かったようで分かんないような………。
理奈達が大統領に会いに行ったのはそう言う理由?
「ねぇあたし達は、大統領に逢わなくて良いの?」
「俺たちはパルマ星の所属だから、先にパルマ星の本部長官の所に行く。」
とガイは言った。
………。
何の本部?
なんとかやっていけそうだ……なんて思ったけど、何となく撤回したくなってきた。
ガイの説明、分かんない。
何をすればいいのかって言うよりも、あたしはどうなるのって言うほうが大きい。
あぁ、どうなるんだろう。
そうこうしている内に、ガイの言う『パルマ星の本部の長官』が住む家というか、言ってみれば官邸っていうか、そういう所に到達した。
デザイナーズマンション風のすっきりとした、二階建ての白い家。
エントランスから中に入れば、やっぱりすっきりとしたインテリアがさりげなくおかれていた。
「あら、ガイ。お帰りなさい」
そして現れた女の人。
紺色の髪に紺色の瞳をした女性。
あれ?今、お帰りなさいって言わなかった?
「ねぇ、ここに住んでるの?」
「……あぁ」
あたしの答えにガイは短く答えた。
「あなたが、ルイセ・エシルさんね」
と目の前の女性はあたしの事をそう呼ぶ。
あぁ、そうだった。
あたしは、この世界では『ルイセ・エシル』っていう名前だったっけ。
「あ…はい」
戸惑いながらもその言葉にあたしはうなずく。
「初めまして。私はパルマ星『プリマス』の副官。クェス・アジールよ」
「初めまして」
………『プリマス』って…何だろう。
「クェス、まだそのことは説明してないんだけど」
「ちょ、ちょっと。何やっているの?あなたは。はぁ、ウィルの怒る顔が目に浮かぶわ。ともかく、二人ともいらっしゃい。長官が待ってるから」
クェスさんはそういってどこかへ向かう。
「はぁ………。千瀬、こっち」
「え、わ、わかった」
あ…ガイ…あたしの名前、呼んでくれてる。
ガイの後を着いて、家に上がる。
玄関から靴脱がないってなんかやっぱり妙な気分。
先に行ったクェスさんが待ちかまえている部屋の前までやってきた。
「ウィル、入るわよ」
そういってクェスさんは扉を開ける。
そこは執務室らしく、豪華な執務机がおかれていた。
そのテーブルの前には部屋にあったクリーム色のソファ。
インテリアを選んでいるのはクェスさんなのかな〜なんて思ってみる。
「やぁ、初めまして。君がルイセ・エシルちゃんだね」
マリーチ同様に軽さを持った濃い茶の髪と目を持ったその男の人はあたしに向かって人の良い笑顔を見せる。
「僕は、パルマ星『プリマス』の長官。ウィル・ラーマ。君の上官になるんだよ。一応、ガイの叔父なんだけど」
ガイの叔父さん。
……信じられない!!!
この人がガイの親戚だなんて。
ガイの無表情に対してにこやか過ぎる。
「で、ルイセちゃんは、説明どこまで聞いた?」
ウィルさんの問いにあたしは思わず考える。
どこまでって…………。
確か、ガイ達が所属する組織に所属して、ガイと一緒に何かするって言うのしか聞いてない。
「仕事内容とかは?」
「………?」
仕事どんな事するか聞いてない。
「ガイ、君は彼女に説明したのかい?」
ウィルさんの問いがガイに向かう。
「ざっと」
「ガイ、僕は、常に君に言っていると思うが。何も分からない人間が、ざっと説明を聞いてすべてを知ると言うのは不可能だという事をいつも君に言っているだろう?」
「………」
「ガイ、理解出来る人間なんて極々一部しか居ない。一を聞いて10を知ることの出来る天才や、君のようなテレパシストぐらいだ。そんな人間は100人中一人いればいいだろう。ガイ、考えて君は人と接するべきだ」
ウィルさんの言葉にガイは何も言えないでいる。
「ルイセちゃん」
ウィルさんがあたしの事…を呼ぶ。
「ガイは、テレパシストだから、相手の考えを読み取る事が可能だ。それがガイのコミュニケーション下手を加速させたのだと思う」
「ウィルのせいもあるわよね」
クェスさんがそういうとウィルさんは参ったという顔を見せる。
「僕だけじゃないと思うけど」
「そうね、マリーチ君もそうだけど、あなたもその一因よね」
「クェス〜〜」
「失礼しました。続きをどうぞ、ウィル長官」
クェスさんは可笑しそうにウィルさんに続きを促す。
「えっと………つまり………何て言うか…。ガイを頼んだよ」
そういって柔らかい笑顔を見せたウィルさんにあたしはしっかりとうなずいた。
「じゃあ、少し説明しようか。僕たちの事、僕たちが何をしているのかという事」
気を取り直したのか、ウィルさんはあたしに分かりやすいように説明を始めた。
「僕たちはアルゴル連合政府大統領直結の捜査機関に所属しているんだ。その捜査機関の名前が『プリマス』って言うんだけど、大統領からの指示でしか動く事が出来ないんだ。最も大統領の指示があればどんな所にも入る事が出来る特殊な捜査機関だね。たいした事は出来ないんだけど、それなりにいろんな特殊犯罪などはすべて介入可だったかな?」
ウィルさんの言葉にクェスさんはうなずく。
「プリマスはね各惑星ごとにあるんだ。と言っても、本惑星のみで衛星にはないんだけど。ここは本惑星の一つパルマ星だから僕たちはパルマ星の『プリマス』になる。ここまでは大丈夫」
ウィルさんが聞いてくる。
本惑星……って何だろう。
「本惑星は、入居者が周りに比べて早かった星の事。中心惑星ともいうかな?」
不意の疑問にガイが答えてくれる。
「あ、ありがとう」
中心惑星ってさっきガイが言ってた事だよねぇ……。
コラム星とかレイス星とか………。
そういえば、航路図みたいな、立体映像をレニアスで見たけど、あの目立ってた五つの星の事かなぁ。
多分、そうだよね。
あとでガイに聞いてみよう。
「大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です」
「それほど、しっかりと覚えなくても大丈夫だよ。コミュニケーションは下手くそだけど、ガイは優秀だからね」
「ウィル、褒めているのか?けなしているのか?」
「ガイ、僕は君の上官。一応敬称はつけるべきじゃないのかな?」
「申し訳ありません、ウィル長官」
………仲わる〜〜。
「いつもの事よ。気にしてたらしょうがないの」
なんてクェスさんは平気な顔で微笑む。
いいのかなぁ〜〜。
「話続けるよ。で、僕はこのパルマ星プリマスのフィスト、長官と思ってくれて良いよ。クェスはセチス、同じく副官で大丈夫。ガイと君はそこの捜査員と言う形にある。一応、権限はあってね、長官や副官の不在時の特権移行が行えるティラナかな。まぁあまりそういう所は、気にしなくてもいいよ。今の君に必要なのは、ガイとともに行動し、プリマスの行動に馴れる事だから」
「はい」
ウィルさん(ウィル長官って呼んだ方がいいのかな?)の言葉にあたしはうなずいた。
「とりあえず、いったん話はここで中断して次は大統領に会いに行かないとね」
「分かった。PSIに関しては……オレが説明する」
「………説明不足にならないように」
「分かった」
そしてガイに連れられ外に出る。
「なんで大統領に会いに行くの?」
「プリマスの認定証を受け取り。ID証は大統領から受け取るから。あとは…千瀬達を連れてくるように命じたのはウィルじゃなくって大統領だから」
なるほど。
だから、理奈達は大統領に逢いに行ったのね。
車と言うか、空飛ぶ車!!!で、あたし達は大統領が入るパルマタワーに向かった。
パルマタワーのエレベーターで一気に最上階まで向かう。
大統領がいる最上階は100階。
そこまで1分とかからないらしい。
案内の人が教えてくれた。
『プリマス』の権限ってホントすごい。
今乗っているエレベーターは大統領専用エレベーター!!!
そのエレベーターをIDを見せただけで乗れるんだから。
ガラス張りになっている窓からは外が見える。
早さが丸分かり。
一気に上っていく。
遠くまで見渡せる景色の中には宇宙港が見えて、そこから何機もの宇宙船が離着陸を繰り返している。
………なんか、遠くまで来ちゃったな。
空飛ぶ車とか宇宙船とか見ちゃうと…ここが地球じゃないんだって気付かされた。
静かに加速を落としエレベーターは最上階に着いた事を示す。
入り口の扉が開くと、そこはすぐに大統領の執務室だった。
「ミリオン大統領、報告が遅くなりました」
待ちかまえていた男性にガイが伝える。
「ウィルの方から連絡は来ていたよ」
そういって顔を向けるその人は灰色の髪の男の人。
年はいくつぐらいなんだろう。
声の感じからして50ぐらいのような気がしないでもない。
「レイナからも話は聞いているしね」
「そうですね」
ガイの言葉に大統領は静かに微笑む。
そしてあたしに目を向ける。
「君が、ルイセ・エシルだね」
ウィル長官に言われた同じ事を大統領にも聞かれる。
「固くならなくても良い、君はまだこの星に来たばかりで馴れていない事もあるだろう。私は、アルゴル連邦政府の大統領。カオス・ミリオンだ」
そういって強い意思を見せた瞳の色が誰かに似てる。
緑みがかった茶色。
つい最近、見た気がするんだけど。
「大統領はレイナの父親なんだ」
大統領が何かを探している間にこっそりガイが教えてくれる。
へぇ〜〜、ってレイナがこの人の娘!!
あぁ、なんかそんな感じ言われてみればするような気がする。
「ルイセ、これがID証だ」
そう言って大統領が直接渡してくれる。
ID証???
なんか、綺麗な宝石にしか見えないんだけど。
ちょっと大きいペンダントトップにしか見えないID証と一緒のチェーン。
「一応ID証。貸して」
言われるままにガイに貸す。
「こうすると、ID証が現れる」
そう言ってペンダントトップの金具の所を押すとパカっと開く。
そこに現れた小さなID証。
重要機密らしいのでかなり小さい。
「これならなくすなんて事ないからね。支給が始まったのはつい最近なんだ」
大統領の話を聞きながらあたしはペンダント開けたり閉めたり、ついでに身に付けたりしてた。
「プリマスに所属している人間は全員が能力者だ。ルイセ、これから君はガイとともに行動するわけだが、だからって、不安にならなくても良い。君のデータはESPがすでに目覚めていると出ている。無理に、その能力を伸ばそうとしなくても良い。すぐに使えるようになる」
そう大統領は言った。
そっか……ESP……超能力って言う奴の事忘れてた。
大統領は大丈夫って言ってたけど、超能力の事もよく分かんないんだ。
本当に大丈夫かなぁ……。
「一人で考え込む事はない。ちゃんとガイもそれからパルマ星の長官であるウィルや副官のクェスもいるんだから」
なんて柔らかい笑顔を見せられたけれど、やっぱり不安になった。
「因果応報…か」
背中から掛かる日差しを受けながらその明かりで本の目を向けていた、男は不意につぶやく。
「ウィル?」
それを彼の同居人でもあり公私ともにパートナーの彼女が声をかける。
「クェス、いつのまに」
「ノックしたのだけれど、また、本の世界に没頭していたの?」
クェスの質問にウィルは苦笑する。
「否定は出来ないけどね。ところで何か用かい?」
「ミリュズ(プリマスの情報係の事)から連絡が来たの。これがその書類よ」
「ありがとう…」
クェスから渡された書類にウィルは目を落とし、一つ息を吐く。
そして書類を机の上に乗せて窓の外を見る。
「クェス、一つ質問しても?」
「構わないわ」
ウィルの言葉に、クェスはゆったりと微笑んでうなずく。
「君は、もし時間を自由に動き回れるとしたらどうしたい?」
「…過去や未来に行ってみたいという事?」
クェスの言葉にウィルは静かにうなずく。
「そうね、興味がないわけじゃないけれど…」
「行ってみたいとは思わないって事かな?」
「そうなるわね」
そう答えた後、クェスはどこか泣きそうな顔でウィルを見つめる。
「どうしたんだい、クェス」
「…そのことを考えるのは…あなたの癖…ね」
「習慣、いやライフワークとでも言ってくれないか?」
「ライフワークだったの?」
ウィルの言葉にクェスは嫌みを交えながら言う。
「ひどい言い方だなぁ」
クェスの言葉にそういわれる事を分かっているかのようにウィルは答える。
「ウィル、あなたは過去を変えたいの?」
静かな部屋にクェスの言葉が響く。
ウィルは笑みを浮かべたままクェスの言葉を黙って受け入れる。
「ウィル」
「因果応報」
そして笑みを浮かべたままそうつぶやく。
「さっきも、つぶやいていたわよね」
「変えられる物なら変えてみたいさ。たとえ、この身を滅ぼすタイムパラドックスだとしてもね」
「ウィル…」
あっさりとつぶやいたウィルの言葉にクェスはかける言葉が見当たらない。
「相手は星の我儘。まともに受け合ったらこっちが倒れるだけだよ。深刻になる必要はない」
「確かに、そうね…。ウィル話は戻すけれど、彼女どうする?」
「あの分じゃ僕たちもフォローに回らないとならないねぇ」
「ガイがあんなになったのはあなたのせいでもあると思うんだけど」
クェスの言葉にウィルは困ったように微笑んだだけだった。