本星へ
3・重力
「君が千瀬ちゃん?」
理奈が一度自分がいた部屋に帰り、次にあたしの部屋に戻ってきた時に男の人を一緒に連れてきた。
愛想のいい笑みを浮かべた藍色の髪と瞳の人。
「オレの名前は、マリーチ・アルファ。聞いてるかもしれないけど、君の友達の理奈ちゃんのパートナーって所かな?」
と言って笑みを浮かべる。
理奈が、かっこいいって浮かれるのも分かる気がする。
「ガイ、彼女のアルゴン名は?」
同じく戻ってきたガイに聞く。
「ルイセ・エシル。聞かなくても知ってるだろう?」
「それは、そうでした。千瀬ちゃんはアルゴン名聞いてる?理奈ちゃんには教えたけど」
「一応」
マリーチの言葉にあたしはうなずく。
「ふ〜ん。まぁ、ガイにしてはした方か」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味でしょう?」
と軽く笑う。
「で、いろいろ説明したの?」
「いろいろ、って?」
「そりゃ、オレ達の仕事とか、肝心な『ESP能力』とかその他もろもろ」
「今、する必要のあることか?」
「だから、相変わらず、説明不足だって言ってるんだよ。ガイは任務の時も人に説明しない。お前にはテレパスあるから人の考えなんて簡単に読めちゃうだろうけど」
「簡単には読んでない」
「話をずらすなよ。だいたい、お前だったら納得できるわけ?どこに行くのかも分からない。何をするのかも分からない。何されるのかもしれない。っていう状況。お前だったら不安もなしにいられるって事かよ」
「確かにそうかもしれないけどっ」
「確かになんて付けなくったってそうなんだよ。今、一番不安なのは、間違いなく説明不足のお前のパートナーになった千瀬ちゃんだよ。これだけははっきりと断言出来るね」
そう言うだけ言って、マリーチは理奈を連れて部屋を出る。
「…マリーチの奴…。勝手なこと………。勝手は…オレか…」
俯いてガイは何かつぶやく。
「…すまない、千瀬。オレは…マリーチの言うとおり、説明不足のことが多い。……だから……今、知りたいことを、今答えられる範囲で答える」
そしてあたしの顔を見て言う。
面長の顔にサラサラとした銀の髪が流れ、すっとした涼やかな目元と瞳は遠目でははっきりしたことが分からないけれど、茶色がかった赤に見える。
……結構、って言うか、かなり綺麗な人…だよね。
まじまじって見ると。
「千瀬?」
「あ、ごめん、聞きたいことだよね」
えっと…なんだろう…。
…って言うか、なんであたし達言葉通じてるんだろう。
宇宙人に日本語しゃべる人いるの?
コレ、一つ目にしよう!!!
「基本的には同じ言語系統なんだろう。オレ達が今しゃべっている言葉は現パルマ語と言ってアルゴル星系の中心星でもっとも話されている言葉で、アルゴル星系ではほぼ標準語になっている」
他の言語もあるけど、日本語(現パルマ語)が標準語だから通じてるわけか…。
じゃあ、日本語は読めるのかな?
「あの文字は読めない。簡略化された物から、複雑な物まで有ることに驚いた」
簡略されたのがひらがなあとかで複雑なのが漢字ってやつ?
じゃあ、あたしはこっちの物は読めないのか。
「他に質問は?」
じゃあ、2つ目っ。アルゴル星系って、どこにあるの?地球からどのくらいの距離?
「アルゴル星系は亜空間航行の時間がほぼ24時間だから…。24光年ほどだな。アルゴル星系では空間移動の原理は解明されていて、24光年なんてそう有る距離ではないけど……」
24光年………?
確か、光の走る速さって…秒速でと、確か、地球7周か8周かで……。
それ×…分の時間の日にちの…………。
えっと……1光年が光が1年で走る速さで……。
えっと……かなり、と、遠いよぉ。
「遠いって言っても、この宇宙艇レニアスなら一日で行き来出来る距離だからさほど驚く程の物じゃないとおもうんだけど…」
今、この宇宙艇レニアスならって言ったわよね。
じゃあ、他の機体だとどうなるんだろう。
考えるの良そう。
いくら、この船だと一日で着ける距離だって言ったって、遠いことには変わりない。
24光年。
地球から見える星だとどこら辺だろう。
「了解した。10分ほどで行く」
不意にガイがつぶやく。
「何…したの?」
「テレパス、。ESPに対しても疑問を持ってるだろう?」
「そりゃあ、聞き慣れない言葉だもん」
「じゃあ、超能力は?」
超能力ってあの超能力?
透視とかテレパシーとか。
「そう。アルゴル星系では地球と違って各個人に存在する能力として認知されている。もっとも、それを自在に使いこなせるとなるとごくわずかにはなってくるが…。俺が持っているのは守備型のESPで一番ポピュラーなテレパスとそれの発展型の思考サーチ」
ガイがあたしの考えを読んだって事はそう言うことなのね。
「何度も読んで…すまない。その事に関して謝りたい」
「別に…大丈夫。それより、呼ばれてるんでしょう?行かなくて大丈夫なの?」
「もう、行く。俺が戻ってくる間、窮屈かもしれないけれど、この部屋からでないで欲しい。これからちょっとまずいことが起きるから」
そう言ってガイは部屋を出ていく。
マリーチが外で待っていたらしく、理奈がガイと入れ違いで入ってきた。
「理奈」
「教えてもらった?」
「一応。ざっとって感じだけどね」
「いい人だと思うよ」
「それは、分かる」
理奈の言葉にあたしはうなずいた。
「レイナ、状況は?」
「今のところ問題はないけれど。」
計器には出ていない感じをレイナは答える。
レイナはガイと同じ思考サーチを所持している。
「レーダーが捕捉した。識別信号は、例の『パルマ』」
「もう数分で、火星と月の直線航路に入る。どうする?」
「……今の状況じゃ振り切るしかないわよね。時間を使いたくないし。このまま本星に向かいたいんだけど」
「了解、座標軸を合わせながら最大船速で直線航路に入る。その瞬間に亜空間ワープ。管内にエマージェンシー第2次戦闘態勢。重力制御稼動」
のんびりと外の景色って言ったって真っ暗闇なんだけど、その闇を見ながら話している間に警報らしき物が鳴り響く。
「千瀬、何だろう」
「さぁ?」
その瞬間だった。
一気に船が加速をしたのは。
「な、何?」
「わ、分かんない」
窓を見ると月が見えた。
「…千瀬」
「……うん」
理奈の呼びかけにあたしは小さくうなずく。
加速したって事は…あたし達は本当に地球から違う星に向かってしまうんだ。
そう考えている間に、一瞬でそれらは背後に消えていく。
流れるように消え、船は加速度を増していく。
「千瀬、わたしは、後悔はしない」
幻のように消えていく景色を見ながら理奈は強く言う。
「千瀬は?」
「……後悔なんてしてもどうにもならないような気がするんだけど」
「……それ言ったらお終いだってば」
「そうだね」
あたしの言葉ににっこりと笑って理奈は扉の方に向かう。
「理奈、部屋に戻るの?」
「違う、マリーチがここにいてって言ったけど、ちょっと探検してみたくなったって言うか、千瀬も来ない?」
「平気なの?」
「大丈夫だってば」
不安いっぱいで聞いたあたしに理奈は好奇心旺盛な笑顔で答える。
扉が開いて一歩外に踏み出した瞬間に理奈が叫び声をあげる。
「理奈?」
「きゃあっ千瀬、助けて〜」
えぇ?
何が起きたのよぉ。
近寄ってみれば理奈は廊下であたふたしていた。
浮かんで。
え?
「さっきはこんな事なかったのにぃっっ」
もしかして無重力って奴?
「理奈、部屋に引っ張るから手出して」
無重力なのは廊下だけって感じで部屋の中は重力があるみたい。
理奈の手をつかみ、部屋の方に引きずり込む。
「きゃあっっ」
理奈は一気に重力がかかったのか、あたしの方に落ちてきた。
「ち、千瀬、大丈夫?」
だ、大丈夫じゃないっっ。
「何やってるだい?二人とも」
上から声がかかり、見上げてみれば、部屋に戻ってきたマリーチとガイの二人。
「部屋からでないようにって言ったはずだったんだけどなぁ」
「だ、だって探検したくなったんだもん」
「探検する程広い船じゃないけどね」
ばつが悪そうに答える理奈にマリーチは苦笑いしながら理奈を立たせる。
「大丈夫か?」
部屋に入ったガイはあたしに手を差しのべる。
「多分」
手を借りて立ち上がるといたい。
あぁ、もう理奈のせいだっっ。
「ごめん、千瀬」
「大丈夫だから」
理奈の言葉には苦笑いで応えるけど、やっぱり痛い感じ。
「無重力下にある人間をいきなり重力下に戻すのは無謀だな」
ガイは呆れ気味にあたしに向かって言う。
皮肉げに聞こえるのは気のせいだろうか。
「ガイもそう言うなって。何も知らないんだから。これから知っていけばいいって事だろう?」
「分かってるけど」
「説明が足りない、ガイ・シルア君。パートナーを得て君はもう少し説明不足を解消するべきだと僕は思うよ」
「……ウィルの真似か?」
「よく分かったじゃん。ま、今言ったとおりだよ」
そう言ってマリーチと理奈の二人は自分たちの部屋に戻っていく。
「が、ガイ?」
「千瀬、ちょっと」
あたしの手をつかんでガイは廊下に出る。
突然あたしの体は浮遊感を覚える。
コレが無重力?
「バランスを取れば、無重力下での行動はそう難しくない。少し無重力になれてみるのも良いかもな」
気が付いた。
ガイって説明不足って言うよりも、コミュニケーションが苦手だけなのかもしれない。
だから、最初になんて言っていいか分からなくって、説明とか先延ばしにしちゃうんだ。
「ありがとう、ガイ。教えてくれて」
「……っ。気にしなくっても……別にっ、構わない……」
お礼を言いながらガイは何かに照れたのかそっぽを向いて顔を赤くしたのはスゴく分かった。
最初はガイって綺麗で感情があまり見えなかったんだけど、今の表情見たら、なんとかやって行けそうだ。
なんてのんびりと思っていた。