Destiny Third

火星と月の直線航路
2・遺伝子操作
「状況は?」
 灰色の髪の女性は、オペレーティング席に座っている二人に声を掛ける。
「今のところは、平穏と言った所」
「そう、お父様の心配は…はずれると良いけれど。所で、結果は?」
 その言葉に藍色の髪の男は黙り込む。
「今、解析中」
 代わりに答えたのは銀の髪の男。
「早く出してね」
「了解」
 灰色の髪の女性の言葉に二人は静かにうなずいた。

『早く…いって…』
 何?
『逢いたかった』
 逢いたかった?
『逢いたい』
 逢いたい?
 誰に逢いたいの?
『君に』
 あたしに?
『君に 大切な ……』
 何???

 目を開けるとそこは病室みたいで殺風景だった。
 あたし、何でこんな所にいるんだろう。
 結局あの後、何もなかったのかな?
 起きあがって気が付く。
 さっきの服のままだ。
 ……ここ、病院じゃないの?
 そう言えば、そんなに病室行ったことないけど、薬くさくない…。
 見渡しても何もない部屋の窓にかかってるのはロールカーテン。
 開ければ、どこか分かる?
 どこか、不安を持ってあたしはカーテンを開けた。
「……ここ……何??」
 な、なんなのよー!!!!!
 何で真っ黒なの?
 窓の外は真っ暗な闇。
 そして光る点がいくつも。
 ……ここ、どこ?
 窓に顔を付けて、下の方を見ても同じような暗闇と光る点。
 窓はあかないようになっている。
 強度はかなりあるみたい。
 飛行機、とはなんか違うようなきがする。
「起きたようね、竹内、千瀬さん?」
 シュンと音を立てて扉が開く。
 そこにいたのは灰色の髪の女の人…っていうか女の子って言うか。
 年はあたしとそう変わらないような気がする。
「あたしはレイナ・メモリー。ここは宇宙船『レニアス』の内部」
 今、なんて言った??
 宇宙船って言ったよね…?
「まずは、あなたに乱暴をしたことをあのバカ二人に変わって謝るわ。一応、あたしはあの二人の監督役だから」
「あ、あのっ」
「何?」
「なんんで、あのっ」
 なんて、言っていいか分からないわよっ。
「もしかして説明聞いてない?」
「説明?!」
 説明って『迎えに来た』っていうのが説明?
「迎えに来たって言うのしか聞いてない」
「……ますます最悪。なんであの二人はどうしてきちんと説明しなかったのよ」
 そう言って、灰色の髪の彼女、レイナはちょうどあった椅子に座る。
「きちんと説明するわ。あたし達はあなた達が住む太陽系とは違う星系から来たの」
「ちょっと待って、今、あなた達って言ったわよね。理奈は?理奈は無事なの?」
「彼女も一緒よ。言ったはずよ。あなた達を迎えに来たって」
 そう言えば、言ってたかも。
「話続けてもいい?」
 彼女の言葉にうなずく。
「あたし達は、アルゴル星を中心とした星系から来たの。二人が言ったことはある意味正しいわ。簡潔に言えば、『迎えに来た』って言うのは正しい」
「迎えに来たってどういう事?」
「あなた達は、ある組織に狙われているの」
 ある組織?
 狙われてるって?
 なんか怪しい。
「信じられないのも無理ないわ。でも、これは本当の事よ。通称パルマと呼ばれる『パルマ宇宙開発センター』という組織があなた達を狙っていることが調査の結果判明したの」
「でも、あたし達が狙われている事はあなた達には関係ないんじゃ」
「そうね…。あの組織は、宇宙開発センターと名乗っているけれど、裏ではかなりの事をやっている。アルゴル連合政府を転覆させようと言うぐらいのね。あなた達をあの組織が狙っているのは事実。あなた達を保護すればあの組織の壊滅への糸口がつかめるコレでも、関係ないって言える?」
「……」
 その言葉に何も言えなかった。
 でも、何であたしと理奈が狙われるんだろう。
 その理由は、レイナでも分からないようだった。
「レイナ」
 シュンと音を立て、扉が開く。
 姿を見せたのは銀色の髪の人。
 しかも、声はあたしに『こんな事をしたい訳じゃないんだ』って言った人と同じ声の人!
「ガイ、来たわね」
「コレ、さっき言った結果」
 ガイとレイナに呼ばれた彼はレイナに何かを渡す。
 壁に近寄りレイナは渡されたそれを入れると空中に映像が現れた。
 ホログラフィック???って奴?
 とはちょっと違うみたい。
「特殊気体を使ったスクリーンよ。ある一定の形をとどめることが出来て人体に無害であると言うことからスクリーンとして利用されているわね。コレの便利な所はどこから見ても同じく見えると言うこと。裏表の存在がないの。」
 何かのデータが映し出されているスクリーンを見ながらレイナはあたしに教えてくれた。
 よっぽど、変な顔していたのかな?
 って言ったって、こんなの始めてみるし。
「この表示されているデータはあなたのものよ。身長、体重、健康状態と言った肉体に直接関わる物から視覚として検知不可能な物まで表示しているの。申し訳ないけど、あなたのことは調べさせてもらったわ」
 そう言ってレイナはスクリーンを見つめる。
「遺伝子に異常はなし。破損、改造等が見あたらないから遺伝子の状態は純正という事ね」
「そのわりにESP値は高い」
「本当ね。純正でここまで高いのは初めて見た」
 …いーえすぴーってなんだろう。
「でもあの惑星でESP値をあまり観測出来なかったけれど。それは彼女が特殊って事?」
「おそらく、彼女の血筋がESP値を高くしているんだろう」
「ふーん。まぁ、単一惑星内での能力所持者のESP値は高い方が多いから。その分、希少価値で少ないけれど」
 レイナの言葉にガイはうなずく。
「千瀬、放ってごめんね。本星に付くまで時間はあるけれど、これからの事を説明するわ。あなたは、このガイ・シルアと共に行動してもらうことになるの」
 理奈は?
「彼女は『マリーチ・アルファ』って言うのと行動することになるわ」
「何で?」
「あたし達は『パルマ』という組織を追っているって言ったわよね」
 レイナが何を言いたいのか分からないままうなずく。
「その『パルマ』を追うためにあたし達はある組織に所属しているの。って言うよりも、ある組織が『パルマ』を追っているって言った方が正しいわね。あなたは保護を理由にあたし達が所属している組織に所属してもらう事になったの」
 って事は、じゃあ、この銀髪の人…ガイ・シルア…はあたしの『ボディーガード』って事?
「正確に言うとパートナーね」
「パートナー???」
 意味が分からなくって悩むっ。  パートナーってどういう事?
「組織から送られてくる命令を一緒にこなす人間って事よ」
 ……保護??
 って言うこと、この人達意味知ってるの?
「これは、上からの命令なの。ガイ、後はよろしくね」
 そう言ってレイナは呆然となったあたしとガイをおいて部屋から出ていく。
「何から、聞きたい?」
「…意味、わかんなくって、あったまぐちゃぐちゃ」
 思わず、不機嫌に返してしまう。
 意味が分かんないよ。
 なんであたしはこの人達に保護されるの?
 なんであたしは保護されたっていうこの人達と『命令を一緒にこなす』って言うことは『危険?な任務』もあるって事?な事しなくちゃならないの?
 訳、わかなんないよ。
「…すまない。……ともかく状況を説明しておく。この船は後数時間後に月と火星の直線航路に入る。そこからワープ走航に入り、本星までは1日で付く。そこまでは理解出来たか?」
 柔らかく言う目の前の人にあたしは静かにうなずく。
「本星に付いたら、君は、『ルイセ・エシル』と呼ばれる」
「なに、それ」
「竹内千瀬の古代アルゴン語に翻訳するとそうなるってだけ。俺ももう一つある。翻訳前の名前は、幼名って事が多い。ほとんど使うことはないけどな。分かったか?」
 俯いたあたしに驚いたのか、この人は声を柔らかくして問いかけた。
「うん、分かった」
「ともかく、君は、俺と組むことになる。その事も理解したか?」
「うん」
 どんなことするのか分かんないけど。
「ねぇ、理奈は?」
 ふと、理奈の様子が気になった。
「理奈?あぁ、もう一人の方か、彼女だったら今マリーチといる。心配しなくても…」
 そう言ったときだった。
「千瀬っっ!!!」
 扉が開いて、理奈が大声であたしを呼びながら入ってきた。
「良かったぁ、千瀬、起きたんだね?」
 そう言って理奈はあたしの側に近寄ってくる。
「理奈」
「わたしが起きたとき、千瀬、まだ起きてなくって。千瀬大丈夫?」
「大丈夫だよ」
 あたしの言葉に理奈はニッコリと笑う。
「聞いた?」
 ガイの方をちらりと見て、理奈は言う。
「うん、まぁ」
「なんか、大変なことになっちゃったよね」
「ホント…だよね」
「千瀬の勘やっぱり当たってた」
「理奈。あたしじゃなくって、カナでしょ?」
「でも千瀬も、感づいてたじゃない?」
 勘づいてたってあれは…。
 何となくそう思っただけだし。
「でも、千瀬の勘も当たったって事で、スゴいよね。千瀬」
「ほめられてもあんま嬉しくない」
「そっか…。でもさぁ、なんか楽しそうじゃない?」
 は?
 理奈の言葉に思わず止まる。
 楽しそうって何が?
「いろいろな事件の捜査?って言う奴をわたし達するみたいなの」
 するみたいなの…って。
 事件捜査が何で楽しそうなのよ。
「だって、秘密組織に潜入なんてしたことないし。だいたい、一介の女子コーセーがそんなことできるわけないじゃない?それに、狙われたことないしぃ〜」
 合ったら、怖いし、トラウマってるって〜〜。
「だから、おもしろそうだなって」
「あのさぁ、さっきまで怖がってたのはどこの誰よ〜」
 帰り道の途中に心細そうにあたしの後ろに隠れてたのはどこの誰よっ。
 カナの予言とあたしの感知?に怖がってたのは誰よっ。
「だってぇ、マリーチ、かっこいいんだもん」
 は?
「だ〜か〜ら〜、わたしのパートナーのマリーチ・アルファさん、かっこいいんだよっ。紺色の髪に、紺色の瞳っっ。そのね、瞳がすっごく綺麗なのぉ〜」
 ……理奈〜〜〜。
「それで〜この際だから、流れに身を任せてみるのも良いかなぁって思ったの。いろいろ、聞きたいこと、知りたいこともあるわけだし?」
 現実をしっかり見てるくせに妙に楽観的な理奈の言葉に思わず頭を抱えたくなる。
「だから、千瀬も、いろいろ考えるのやめて楽しも?」
 理奈の言葉に溜息をつきつつも、言うとおりだと言うことに気が付いた。
 このまま帰っても、あたし達は『狙われている』らしいから(彼らの言葉を信用するとしたら)危険なのは一緒。
 理由を知らないまま危険にさらされるよりも、ある程度分かっていて危険の方がまだ納得出来るのかもしれない。
 気持ち的にはマシかもね。
 この人達が敵でない限り」
「……敵じゃない……。無理矢理連れてきておいて、言うのも何だけど」
 と、ガイは言う。
 ………。
 ……って言うか、あたし、今思ってたこと口に出してない。
 な、何で分かるのよぉ〜〜。
「俺は能力者。君たちの世界で言うなら超能力者、エスパーと考えてくれて良い。今のは能力の一つテレパスの上位能力の思考サーチ」
「はい?」
「詳しくは、本星で説明する」
 そう言って、ガイは部屋を出ていってしまった。
 ………だから、何ナノよぉぉ?
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