1章・7部 魅入られた皇帝
「カスピが帝国軍に襲撃され壊滅状態です」
との知らせを受けたのはまだ太陽が登り切らないうちだった。
その知らせを持って来たのはタクラ様の弟子の一人（彼もシンガー）。
カバネルを旅している途中に巻き込まれたらしい。
それが三日前の事…。
ともかく私達はタクラ様のお力でカスピに着いたのだ。
破壊された街カスピ。
初めてこの世界に来た時の面影がまったく存在していなかった。
破壊された家々、まだ消えない炎、疲れ切った人々の表情。
賑やかだった時の様子をまったく見れない。
子供達もおびえ街はスウェル（魔法使い）、ファラス（賢者）、ウォール（僧侶）と騎士達が忙しそうに走り回っていた。
そして、破壊された聖城…。
一応の外観はとどめているものの…あちこちに風穴が吹いている。
いつ崩れてもまったくおかしくない状況だった。
「ファナ様…アイル様は宮殿にまだおられます」
街で復興にあたっていたウォールナイトの一人にそう告げられてあたし達はここに来たのだ。
「何故、兄さんはまだここにいるのだろう」
ファナはふと呟く。
シャル様やエト様は既に街の東にある城に移動していた。
そこで全ての指揮をとっているのだ。
しかし、アイル様だけはこの聖城に残っているのだ。
『ポロン』
静かな宮殿にピアノの音が響く。
この曲はベートーベンの悲愴（2楽章）。
三大ソナタの一つであたしがもっとも好きな曲の一つ。
「…兄さん…」
そう呟くとファナは走り始めた。
それにあたし達も続く。
一つの部屋の前でファナは止まる。
ピアノはそこから流れてくるようだ…。
開けるのを躊躇しているファナを横目に見ながらあたしは扉を開けた。
「……アイル様」
と、アイル様の傍らにいた女性が呟く。
そこに存在していた風景は私が予測していたものとまったく違っていた。
床一面に敷き詰められた落ち着いた赤い色の絨毯。
その上にはクリスタルのグランドピアノが一台にその前に座っているアイル様と女性…。
「…タリア…」
ファナは呟く。
その時私は知った。
アイル様の側に常にいたスウェルのタリアさん。
あたしを迎えに来た女性。
「どうぞこちらへいらしてください」
タリアさんの言葉に私達は二人の側に近寄った。
「タリア……兄さんはどうしたの？」
「声が出せなくなりました」
ファナの質問にタリアさんは沈黙を続けたが意を決してそう言った。
その言葉を聞いたあたし達は絶句してしまった。
「アイル様…」
いたたまれなくなり、あたしが出した声は、思いもかけずアイル様の名前だった。
その声に反応しアイル様はあたしの心の中に直接に話し掛けて来た。
『勇者ミラノ…私はここに残る事にしました』
「どうしてですか？あなたはスウェルマスターなのに」
そう投げかけるあたしにアイル様は悲し気な顔を向ける。
『スウェルマスター…。それは私には辛い枷だった。スウェルマスターが何になる。何故チレニアの侵攻を防げなかったのか…』
アイル様は悔しそうに言う。
『スウェルマスターのくせに私はカスピの住人を守れなかった。私は二度とカスピが進行されないようにするために結界を張らなくてはならない』
……。
「それに…私が手伝います」
タリアさん？！
「ミラノ様、御安心ください。カスピは私達が守ります」
タリアさんは何もかも承知しているかの様に言う。
何が承知なの？
何が安心なの？
「ファナ様…アイル様のお言葉を伝えます。何も案ずるな…です」
「タリア……」
タリアさんの言葉に…今までのあたしとタリアさんのやり取り果てはアイル様とのやり取りを見て、ファナは全てがわかったかのようにうつむく。
「ここから出てください…そしてチレニアに向って」
…？！どう言う事。
「チレニアの皇帝はロマを復活させようとしています。それにはこのカスピの街に張られている魔法陣が邪魔なのです…。その為にもチレニアを…チレニアの皇帝を…」
その言葉に頷きあたし達は城を後にした。
アイル様のピアノを聞きながら…。
悲し気なベートーベンの月光を聞きながら。
場内に響き渡る低音の三連符…。
月光はベートーベンが月の光に感動したピアノ曲。
でもアイル様の月光は物悲しかった。
そして、あたし達四人が城外へでた時だった。
月光の終りと共に城が崩れたのだ。
「兄さん……兄さーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん」
じっと我慢をしていたファナの絶叫。
言葉が何も出てこなかった。
と言うより何かを言おうとしても出てこなかったのだ。
泣き崩れてしまったファナを見て慰めの言葉も出てこなかったのだ。
何と言っていいのか、まったく判らずに…。
「………。ファナ、タリアがさっき言った言葉覚えているか？」
「…！？」
泣いているファナにサガが静かに声をかける。
「何も案ずるな…だったな…。タリアは全て承知でアイル様の言葉をお前に伝えたんだ。お前の事もアイル様の事も全て分かっていてそう言ったんだ。一番辛いのはお前じゃないんだぞ！！」
「サガ、やめて！！残される方だって辛いわよ。それはサガも分かってるでしょう？」
いきなりサガの頬を叩いてしまったがそんな事はどうでもいい！！
今はファナの事を放っておく事しか出来ない。
何の慰めもほしくない。
ただ突然、何の別れの言葉もなしに死んでしまった事がショックなのだ。
「ミラノ…サガ…カーシュ…少し、一人でいさせてほしいの。悪いけど…」
そう言いファナは走る様にどこかへ立ち去ってしまった。
「『スリーナイツ』各部署の影のナンバー１と言われたお二人さん。アタナイト（聖騎士）の影のナンバー１はどうしましたか？」
ふいに後ろから聞こえる声。
「ゼファーか…何しに来たんだ」
「冷たいなぁ、サガは」
そう言い、その人物は私達の前に現れた。
「サガ、カーシュ、久しぶり。『スリーナイツ』、ファラスナイトのナンバー２のゼファー・アマデウス・リンツただいま参上致しました。なんてね、あなたが勇者ミラノ様ですね。三聖人が雨水の聖城でお待ち致しております」
と、ロングヘアーのファラスナイトが言う。
「おい、ゼファー。ナンバー１のゼルはどうした…」
と言うとゼファーは俯き言う。
「『スリーナイツ』のマスター達は…他の地域に行っていてどうしようも…」
『スリーナイツ』のマスターすなわち『スリーナイト』の事なのですが…。
サガとカーシュに聞いた話マリウス・クロード・ジルベールがスウェルナイトでゼル・ムステル・キングストンがファラスナイトで唯一紅一点がウォールナイトのキラ・リミット・トリニダート…だそうだ。
「この三人がいればカスピはこんな事になるはずなかったのに…」
と、ゼファーは悔しそうに言う。
「過ぎ去った事を悔やんでも仕方ない事だろ！！それでもゼファーお前は、ファラスナイトのナンバー２か？しっかりしろ」
と、カーシュの怒り。
始めて見た、カーシュのまじな顔。
「ともかく、カーシュ。三聖人の所に行こう。あの…ゼファーさん、ファナの方は大丈夫なんですか？」
と聞くとゼファーは大丈夫だと頷いた。
でもって取りあえず、あたし達は雨水の聖城に向ったのだ。
「お待たせ致しました、エト様、バキア様。勇者ミラノお連れ致しました」
と、ゼファーは言う。
「ありがとうゼファー、君はもう戻っていいよ」
と、バキア様が言うとゼファーは静かに敬礼をし立ち去っていた。
雨水の聖城。
近くに滝があり、その滝が無数の細かい滝で出来ていてそこからちなんでつけられたらしい。
その聖城に三聖人のお二人ファラスマスターのバキア・ニトラ・コリーン様とウォールマスターのエト・メリーニ・バダム様がいらっしゃった。
「アイルの事は何も言わないでほしい。あの宮殿に残りたいと自ら思っての行動なのだから」
とエト様は悲しそうに言う。
「ここから、北にアナトリア山脈があるのは知っているね。そこからチレニアに向って欲しい」
「…ってバキア様アナトリア山脈って言ったら物凄く北じゃないですか！チレニア帝国との国境ですよ」
サガの抗議にバキア様はゆっくり頷く。
そんなに遠いのかなぁと思わず『ファルダーガートラベラーズガイド』の中にある地図を見ると……。
ぎょ！？
何、この遠さは！！
ここがインド付近だから…えっとモンゴル当たり？？
「凄く遠いですよバキア様！！」
「もちろん分かっている」
あたしの言葉にバキア様は頷く。
あまりの素っ気無い態度にあたし達はどうしていいか戸惑ってしまった時だった。
「では方法は一つしかありませんね。バキア様」
との声と共にファナが入って来たのだ。
「大丈夫？」
そう聞くとにっこり微笑んで頷く。
痛々しい…微笑みだったが。
「で、その方法とはなんだい？」
「現在遺跡になっている廃都リラの奥深くにあるといわれる空間転移の扉」
「…廃都リラ？」
ふと疑問に持つあたしにバキア様が本当に簡単に教えてくれる。
「昔は聖都リラと言われた場所。今の聖都リラはその廃都の隣にある」
と。
「そう、百聞は一見にしかずと言うでしょう。見て来なさいミラノ。サガ、カーシュ、ファナミラノを頼んだよ」
と、言う訳であたし達は廃都リラに向う。
でも遠いよぉ。
「さて、空港に行きますか」
空港…ッスか。
なんか…今一つこの世界の感覚がつかめず戸惑うあたしの感情を取り残し飛行機に乗り込み一路廃都リラへと飛行機は向っていく。
ファナの説明によると廃都リラにある空間転移の扉からアナトリア山脈にあるカルナークの湖にいけるらしい。
カルナークの湖って？
「美しき女神が生まれた所と言われその女神の産湯でもあったと言われる。その湖は水の女神セアラの所に続いているのよ」
ファナの言葉に地図を覗くとカルナークの湖からチレニア帝国側にミレトス川が流れていた。
「もしかして、ここにセアラがいるの？」
と聞くとサガは頷く。
そうこうしている間にあたし達は聖都リラに着いた。
「ここが聖都リラ…」
イタリアのローマを思い浮かばせるような佇まい。
マルマラ共和国のドレステン、ラプテフ王国のショルドにあるようなビル郡ではないローマ帝国を思い浮かばせる…そんな佇まいだった。
聖都リラ…ファルダーガートラベラーズガイド聖都リラ篇よると…。
昔（フォース暦982年）にカバネルは東西に分裂したと言う。
西は国都カスピを中心としたカスピウィーク。
そして東は聖都リラを中心とした神聖リラ。
それから330年後の1310年、今までのいざこざから第一次カバネル戦が勃発する。
リラの将軍、ハウラー・エル・エスコリアル（リラの三傑の一人）対『スリーナイツ』のエマ・ムルド（ファラスナイトマスター）との戦い。
それから5年後1315年第二次カバネル戦。
リラの皇帝ルーリック（カバネルのモリッツ家の長男ルーリック・サン・モリッツ）と三聖人のミシェル・ド・ラトランティック（スウェルマスター）の戦い。
そして最終戦1320年第三次カバネル戦、双方の総力戦の後、神聖リラが和解案に応じたため終戦。
そして、リラはカスピウィークと併合し正式にカバネルとなる。
リラはその後２００年間廃都と化した。
で一生懸命復興に力を注ぎ聖都リラとなったらしい。
「さて、行くか」
600年程前に思いを馳せていた頃カーシュに急に話し掛けられる。
行くって…どこにだ？
「おまえ、本気で言ってるのか？」
サガが目を丸くして言う。
何が……。
「ミラノ、空間転移の扉に行くに決まってるだろう！！！」
ひぇぇぇぇぇぇ。
サガが怒る。
「分かってるわよ、サガ。そんなに怒らなくてもいいでしょう！」
サガの怒鳴り声に釣られ私も怒鳴ってしまう。
「二人とも、いい加減にしなさい。空間転移の扉に入ったらすぐにカルナークの湖なんだから。そこからミレトス川を下って水の女神セアラに協力を仰がなくちゃならないのよ！」
とうとうファナまで怒り始めた。
「……着いたぞ」
カーシュの言葉に一気に静まる。
目の前には小さな神殿。
「ここが空間転移の扉に続く神殿」
その声が合図となったのかみんなで神殿内部にそして空間転移の扉を潜ったのだ。
気が着いた時には目の前に霧がかかった湖が広がっていた。
「ここが…カルナークの湖。現代神の中でもっとも美しいといわれる水の女神セアラが生まれた所だ…」
セアラが？
「そう、ここには彼女の母親が住んでいる」
と、サガが言った時だった。
「誰じゃ？我が住みし水辺に居るものは…」
と、水の中から一人の女性が現れた。
「ウンディーネ…」
そう、サガは言った。
「おや、サガではないか？久しぶりじゃのぉ」
と、水の中から現れた女性は言う。
「…って言う事は水の女神セアラ様の母親水の精霊ウンディーネ…」
ファナが言う。
水の…精霊？
母親って創造神オリアじゃないの？
「後で詳しく教えるけどセアラ様とタクラ様とサラ様は創造神オリア様の子供じゃないんだよ」
と、カーシュが小声で教えてくれる。
その会話を聞いていたウンディーネは驚いた風だったけど静かに言う。
「では主が勇者ミラノか？セアラから聞いておる。シーアンはまだ勇者選びなんぞしておるのか…。これじゃあオリア様も御苦労じゃのぉ」
とウンディーネは言い霧が晴れ渡ったカルナークの湖の湖畔よりあがる。
霧が完全に晴れたカルナークの湖。
あたりには山々に囲まれその湖はひどく透き通っていて空の青が反射して深みを増していた。
「さぁ、セアラが待っておる。この湖を出ればすぐにチレニア帝国じゃ。ミレトス川を下っていけば。セアラのおる聖地ステーストに着く」
そう、ウンディーネはあたし達に教えてくれた。
取りあえず、あたし達はセアラのいる聖地ステーストに向ってウンディーネがくれた船にのって川を下って行ったのだ。
「…困ったなぁ…」
ふと、いきなりのサガの呟き。
何、何が困ったの？
「確かに困ったなぁ…」
「そうねぇ…」
そのサガに同調するファナとカーシュ。
なになになになに？
何が困ったの？
「ミラノ、トラベラーズガイドで聖地ステーストを調べてみなさい」
と、ファナ。
聖地ステースト…と。
聖地ステースト、古代大地の女神アルスの神殿で現在では現代神である水の女神セアラの神殿。
そのために現在は水中に没している。
…………？！
って事は？
まさか、水の中？
「その通り。水の女神セアラ様の神殿は水の中にある！！」
ど、どーするのよ。
「だから困ってるんだろぉ」
あたしが非難するとサガは頭を抱え込む。
「ともかく、聖地ステーストまでこのまま川を下りましょう」
「ファナの言う通り、ここで考えていても仕方ない。いいアイデアはそのうち浮かぶって」
と言うポジティブなファナ＆カーシュにつられあたし達はそのまま川を下ったのだ。
ミレトス川は起伏に富んだ川でなく、緩やかな流れでウンディーネに貰った船が結構良く快適な川下りを満喫いていた。
そのはずだった……。
『ペチャ』
と言う音と共に何かが船に登って来ているのを気付いた時にはもうサガ、ファナ、カーシュの三人はすでに臨戦体制に入っていた。
ちなみにあたしは、怖くてどうしようもなかった。
しょうがないよね。
「しょうがないよね、じゃない！相手はリザードマンだ。ミラノお前でも充分戦える相手だ。光の剣使ってもいいから行け！ミラノ。リザードマンを倒せ！」
無茶苦茶なサガの言い方にファナ達は笑うが…こっちは笑うどころじゃなぁい！！
「文句を言ってないで、行け！」
サガの怒りに仕方なくあたしは、よじ登って来た『とかげ人間』リザードマンに立ち向かう。
光の剣対普通の剣。
剣の差はある。
ただそれだけ……。
経験値は全然違うのよぉ。
それでも一生懸命剣を降り降ろすと見事ヒット……が。
『ビィィィィィィィィィィィィィィィィン』
全身を駆け巡る痺れ…。
やっぱり…むりだにゃー。
『……』
ふと…声が聞こえる。
『ミラノ、聞こえるか？。私だ、火の女神タクラだ。呪文を教える。ファイアーボール。威力は最強クラス。ただし、熟練度をきちんとあげる事」
とタクラ様に教わった呪文ファイアーボールの詠唱に入る。
「（ミーン）・タクラ・コール・（ムーン）（全ての力の源よ 火の力よ我が手に集まり給え）ファイアーボール（この中は抜かしても大丈夫）」
至近距離からのファイアーボールにリザードマンは一発で倒れた。
ホッとしたのもつかの間どこから声が聞こえてくる。
「誰？私の神殿近くでタクラの魔法を使ったのは！！！我が僕の水達よ我が命に従い彼の者を我の所へ連れて参れ」
その瞬間、あたし達は船ごと水の中へと引きづり込まれてしまったのだ。
気が着くと目の前には仁王立したセアラがいた。
「どうしたの？」
そう聞くとセアラはじっとあたしを睨んで言う。
「あなただったのね、ミラノ。私の神殿近くでタクラの魔法を使ったのは。
そうよねぇ、サガは火の魔法使えないし、ファナは聖騎士だし、カーシュはあたしの頭上で使うはずないものね」
と、一人納得する。
「ねぇ、セアラどうして使っちゃダメなの？」
「当たり前でしょう！ここは水の地なのよ！！私がいる所なのよ。水の聖地には水の精霊がたくさんいるのよ！なのにタクラの魔法なんか使って…。タクラの魔法なんか…タクラの魔法なんか！？…分かった、タクラがそそのかしたのね。そうよ、そうに決まってるわ。あのこって昔からそうなのよ」
「悪かったな」
タクラ様の声が聞こえる。
「……？タクラ！あなた、どうしてここにいるの？水はダメでしょう」
「これは、私の影。ホント、人の文句ばっかり言って…油断も隙もないから困る…」
「………一時休戦休戦ね。今はやる事がある…。その為に自ら苦手な場所に来ているんでしょう」
セアラの言葉にタクラ様の本体が現れ静かに微笑む。
少し落ち着いたのちセアラとタクラ様があたし達に告げた。
「神々が選びし勇者ミラノとそれに追従する3人に告ぐ。我らが剣を持ちて大いなる災厄を打ち砕け…。絶対神シーアンからそう神託が下ったのよ。ミラノ…あなたは『光の剣』と『大地の剣』を持ってるわね。サガに『大地の剣』を渡して」
そのセアラの言葉に『大地の剣』サガに渡す。
「そして、ファナあなたには私の『氷の剣』を」
セアラはそう言い彼女の背後にある『氷の剣』をファナに渡す。
「カーシュ、お前には『炎の剣』を…」
タクラ様の言葉に『炎の剣』現れカーシュの元に行く。
「それを持って…チレニアの皇帝であって皇帝でないものを倒しなさい」
…？！
セアラの言葉の意味が判らない。
皇帝であって皇帝でないもの？
「チレニアの皇帝はすでに人ではありません。人の姿をした化物です」
人でない……。
「正しく言えば、既にチレニアの皇帝は殺されている。彼の魂が既にとある場所にいる事が分かっている。ただしさまよえる魂として…」
と静かにタクラ様は言う。
「だから……チレニアの皇帝を倒すと言うよりさまよう魂を救って欲しいって言った方が正しいかもね」
セアラ様はそう言って微笑まれた。
その言葉にあたし達は皇帝の魂を救う決意をしセアラの力によって皇帝の元へと向ったのだ。
チレニア帝国国都チリア内部 トスカーニャ宮殿。
セアラのトスカーニャの宮殿内部にある神殿にステーストから転移したあたし達は皇帝のいる元へと向う。
宮殿内部にはさぞかしモンスターがうようよいるんだろうなぁなどと同じみなRPG見たいな事を考えていたのだが…。
人が誰もいなかった。
「不気味ね…誰もいないなんて」
「あぁ…あからさまで怪しすぎるな」
と、ファナとサガの会話。
確かに怪しすぎる。
なんかどっかかにワナでも張られてそう。
「でも、案外まじでいなかったりして」
「そんな訳ないだろう！！」
脳天気なカーシュの言葉にサガは怒り出す。
あたしもサガの言う通りでどっかに誰か隠れてそうな気がしてしょうがないのだ。
でも、それは取り越し苦労だったらしく、皇帝の間に行くまでにまったく誰にも会わなかった。
「……もしかするとみんな逃げたのかもな。皇帝は人じゃないんだろう」
カーシュの言葉にあたし達は納得した。
皇帝の間の前に辿り着くと何かが中から聞こえた。
『プシューーーーーーーーーーーー』
何かが息吐く音が聞こえる。
異様な物だと言うのが人の呼吸ではないそれから感じる。
扉の向こうにどんなものが待ち構えているのか……。
「開けるぞ」
カーシュの言葉にあたし達は頷く。
それをみてカーシュは一瞬、躊躇しながらも扉を開けた。
その瞬間息を飲んだあたし達。
見た事がある3人の前にいる猛獣…化物？
ライオン、ヤギ、ドラゴンの頭にライオンの上半身とヤギの下半身にしっぽが蛇……。
「魔法合成獣…キマイラ…だ」
カーシュが驚愕しながら言う。
「その通りよ、カーシュ」
う…その声はネイ…。
見た事があると思ったのは 『暗黒集団”魔界衆”』のうち二人だからか…。
一人は高ビーなネイ・ラパス・サンラファエル。
もう一人は…パリ・ドルドーニュ・カストル。
そして…もう一人は。
「久しぶりですね…。ミラノさん。あなたにこうやって会えるとは思いませんでしたよ」
……あたしを知ってる。
「…あなたに会った時はトルニオと名乗ったはずですよ…私は、ホルム・トルニオ・リュクセルと申します」
トルニオ………まさかドレステンの。
「その通りあの時は御苦労さまでした」
「御苦労様って…あなたがやったのね。その為にジェルファは苦しんだのよ。いったい何を考えているの『暗黒集団”魔界衆”』って…」
「何を考えている？ファナさんそんなのただ一つしかないじゃないですか。ロマ様の復活以外ありませんよ」
ファナの言葉に平然とホルムは言う。
その時だった。
キマイラがあたし達に襲って来たのだ！！
「あぁ、やはり制御は聞かないらしい。皇帝の脳を移植したのに」
え…？
今、ホルムはとんでもない事を口走った気がする…。
「移植とはどう言う事だ？！」
「そのままですよ。偶然の産物からできてしまったキマイラに皇帝の脳を移植させ魔法で制御していたのに…。この分じゃもう皇帝の姿に戻る事はあるまい」
そう言い残しホルム達は消えてしまった。
「とう！」
三人が消えてしまった余韻に浸っていたのを現実に引き戻したのはファナの声だった。
「ミラノ、キマイラは魔法が効かないから『光の剣』で戦え」
と、サガはそう言って『大地の剣』をたずさえてキマイラに向っていく。
そして、私は『光の剣』をファナは『氷の剣』をカーシュは『炎の剣』をたずさえてキマイラに向っていった。
ともかく大きいキマイラ。
ぞうさんと同じくらいの大きさ。
でもしばらくするとキマイラは横に倒れ、青白い炎を出しながら燃え始めた。
その様子を呆然と直視しているあたし達。
『ハーハッハッハッハッハッハ…』
低い声が聞こえる。
高飛車な笑い声。
「ミラノ…どうした？」
不安げにしているあたしにサガは静かに声をかける。
サガには今の笑い声聞こえていなかったの？
ファナとカーシュを見ると…まだ直視していた。
あの、笑い声はあたしだけ聞こえたの？
どうして…？
『大いなる強き勇者とその者に追従する三人よ。我はチレニアの皇帝。我が魂を解放してくれてありがとう。礼を言う』
キマイラが燃え尽きるとき皇帝の魂はあたし達にそう言って静かに消えていった。