ファルダーガー

  1章・6部 トリポリタニア合衆国  

「キャアアアアアアアアアアアアア!」
 いきなりサガに引きずり込まれたあたし。
 浜辺に落ちて砂だらけ。
 もう…やだぁ。
「何が嫌なんだ。…着いたぞ」
 着いたってここは?
「さぁ…?」
 さぁ…ってサガ。
 あんたこの世界の住人でしょう?
「知らないものは知らない。オレだってこの世界の事熟知している訳じゃないんだぞ。お前だって自分の世界の事全部知ってるのか?」
 ……それを言われるとちょっと…困る。
「…ったく。ここはトリポリタニア合衆国だと思うよ。海がエメラルドグリーンだからリバール浜かな?」
 と、サガはさらりと言う。
 なんだ、知ってるんじゃないの。
「ここには来た事があるんだ」
 と、言う訳で、ファルダーガートラベラーズガイドトリポリタニア合衆国篇を取り出す。
 リバール浜、トリポリタニア合衆国の首都ドアールの近くにある美しい浜辺。そこから一番近くに火の女神タクラの住むマンシー草原がある。
「ねぇ、サガ、あの草原がマンシー草原?」
 西の方に見える草原をさす。
「あぁ、あの草原はとてつもなく広くて海の上からで見える所もある。そのうち首都であるドアールを飲み込んでしまうと言う噂がある程の草原だ」
 ふーん。
「さぁ、ドアールに行こう。このすぐ近くだ」
 サガに導かれ、あたし達はドアールの中に入った。
 トリポリタニア合衆国、首都ドアール。
 この国は開拓国でほとんどの人が移民なんだって。
 世界の首都の中で2番目に人口が多く都市の中でも4番目の人口の多さを誇る。
 ちなみに首都で一番人口が多いのはラプテフの首都ショルド。
 都市ではツーロン(カバネル)、ショルド(ラプテフ)、ソルヴェイ(トマスビル自治区)だそうです。
「キャー!!マレイグ!!」
「クロン!!」
「チェス!!」
 絶叫、歓声が遠くから聞こえてくる。
「………何だろう」
 ふと呟くとサガは足早に歩き出し高台で立ち止まり、
「……なんてラッキーなんだ。ワール・ワーズのライブを野外でやってるなんて…」
 と、呟く。
 ワール・ワーズ?
 そう思った瞬間、凄く通る歌声が聞こえて来た。
「帰れない、このまま君を、帰せない抱きしめたいから。優しさが邪魔になる程臆病な僕を演じる…(song by TMN:大地の物語作詞小室哲哉)」
「この歌は、大地の物語。ソングマスターの能力がもっとも発揮される」
 そんぐますたー?
「ワール・ワーズのボーカル、マレイグ・グリーノック・マザーウェルのクラスだ。吟遊詩人である彼はリアルシンガーの最高位ソングマスターというクラスを魔道士でもあり自らもソングマスターである火の女神タクラから貰ったんだ」
 サガは思いっきり崇拝の目で歌を歌っているマレイグを見る。
 心底ワール・ワーズと言うグループに惚れてるって感じ。
 あ、歌が変わった。
「Don't wally 地球上で今は二人だけだよ。月明かり照らされて口付け重ねていく…。(song by TMN:We Love The Earth作詞小室哲哉)」
「あそこでギターを引いているのがコーラスもやるクロンメル・ロスレア・エール。彼のクラスは盗賊なんだ。クロンはピアノも引けるんだよ」
 へぇ。
「…君に会うために生まれた 愛するために生まれた We Love The Earth
いつか 二人だけの Good Vibreation(song by TMN:We Love The Earth作詞小室哲哉)」
「そして、キーボードを引いているのがリーダーのチェスター・ファルマス・マーゲイト。チェスのピアノは人の心を掴む能力がある」
 サガは本当に幸せそうに見ている。
「凄い人気だろう、ワール・ワーズは。全世界にファンがいるんだ。世界中で知らない人は生まれたばかりの赤ん坊ぐらいだろうって言うくらいの有名人だ。ちなみにラプテフ出身」
 確かにサガの言う通り物凄い人気だ。
 しかも、あたしまで感動して来た。
 もしかして、サガに感化されてしまったのか?
 雰囲気にあたしが飲まれてしまったのか…。
 でも、いいわ。
「しかし、ソングマスター最高位のマレイグだが欠点があったんだ」
 何?
「3人が揃わないとダメだって事さ。マレイグ一人じゃ本来のソングマスターの力が発揮されない。ただの吟遊詩人になってしまう。もちろん、クロン一人でもチェスが一人でもだめなんだ」
 ふーん。
「じゃあ、三人が揃って始めてソングマスターってこと?」
「…そうだね」
 サガはあたしの言葉に頷く。
「君の School Days 大切なときだよ 君の Praivate Time わかっているさ 君の Friends of Yours 大切なものだよ 君の Dad and Mam 素敵な大人さ 何もすてるものはない 何もこわすものもないさ
 もしも二人暮らし出しても 今夜のような夢を見せてあげるよ
 君だけが間違いじゃない 君だけが不安だらけじゃない
 何もかも頼っておくれ Maybe I can Contorol Your Mind
 捜し求めた Our Lovers 100億の Starlight Kiss In The Night
 We Are 21ed Century Boy 僕らのためさ
 We Aer Inferior To Each Other We Surrender Everyday
 We Aer Inferior To Each Other We Surrender Every Night(song by TM NETWORK:Erectric Prophet〜電気仕掛けの予言者〜作詞小室哲哉)」
 ライブが終ってしまった。
 思わず聞き惚れてしまった。
 高く、低く、遠くまで通る声。
 その声は、誰かに…一人一人にメッセージが届く程の力強さ。
 あまりにも切ないのに力強い。
 相反する力がマレイグの歌声にはある。
 そして、チェスターとクロンメルの奏でる楽器がその演奏する曲がマレイグの歌声をより強くする。
 だから、世界中の人々はワール・ワーズの魅力に引き込まれるんだ…。
 もちろんあたしもその一人だね。
「ミラノ、オレからはぐれるなよ」
 へぇ?
「いいな!」
 サガの強い口調に頷くが…一体何?
「マレイグからの送信をキャッチした。今から、ワール・ワーズの楽屋に忍び込む」
 サガの突拍子もない言い出しに目が点になる。
「マレイグからの送信をキャッチしたってどう言う事よ!!」
 訳も分らず戸惑うあたしにサガは言う。
「いいか、ミラノ。ワール・ワーズはソングマスターって言ったよな。彼等は歌にのせてメッセージをある特定の大勢はもとよりある特定の人物に送る事ができるんだ。あの三人はオレの事を見つけてメッセージを送ったんだ」
 とあっさりと言う。
 でも、でも、ワール・ワーズの楽屋に忍び込むって……。
 そう言うのっていいの?
 抜け駆けって言うんじゃないの?
「大丈夫、名前を言えば入れる」
 名前を言えば入れるって…………サガってワール・ワーズとお友達なの?
「いや」
 いやって………。
 何の面識もないのに入れる訳ないじゃないのよ!
「お互いに名前は知っているって言う間柄だ」
 ファンが帰る中をあたしとサガは立ち止まっている。
「そんなに心配しなくても大丈夫」
 そう、サガはにっこり微笑む。
 サガのその微笑みに安心したのかワール・ワーズの楽屋にサガと共に向かった。
 ……はずだった。
 ふぇーん、はぐれちゃったよぉ。
 あまりの人の多さにあたしはサガの姿を見失ってしまったのだ。
「ミラノ!」
 サガの声がどこからか聞こえる。
 しかしその瞬間だった。
『ガツン』
 そう言う風に聞こえた音と共にあたしは多分頭に物凄い激痛を感じ気を失ってしまった。

「……情けないな。一人の女も守れない様じゃ」
「まったく。しかもオレ達のライブの会場で…」
「これは、君の落ち度だよサガ」
 サガの座っている目の前に3人の男がいた。
 赤茶色の髪を無造作にのばした男。
 サングラスが特徴的な黒髪の男。
 そして、線の細い金髪の男。
 そう、彼等こそがワール・ワーズのメンバー、マレイグ・グリーノック・マザーウェルとクロンメル・ロスレア・エールとチェスター・ファルマス・マーゲイトの三人である。
「もっと、最悪なのは自分の目の前でさらわれる事だ!ところで、サガ、彼女は勇者なのか?」
 マレイグに言われサガは頷く。
「フラウ様がかいた女の子と同じ顔だった?オレは見えなかったんだけど」
 クロンメルが言う。
「ボクが見た限りじゃ結構似てたと思うんだけど…マレイグはどう?」
 チェスターがマレイグに聞く。
「あぁ、似てた。サガ…心当たりはあるのか」
「何が?マレイグ」
「……サガ……勇者をさらった奴に決まってるだろう!!」
 サガの様子にマレイグは半分怒りだす。
「あぁ、もちろん。あいつは、『暗黒集団”魔界衆”』の一人パリ・ドルドーニュ・カストル…」
 と、サガは言った。

 気がつくと、あたしはベットの上で寝かされていた。
 拘束はされてないようだ…。
 しっかし、不意をつかれたとはいえ……なぁんか、情けないなぁ。
 視線を感じ、起き上がると一人の女の子が部屋の隅でじっとあたしを見ていた。
「あのお、何か用ですか?」
 なんか、のんきな質問。
 でも、この娘と前に会ってるような気がする。
「…あのさぁ、名前なんて言うの?」
 あぁ、あたしってぼけた事聞いてる。
「あたしは、ラリー。ラリー・ニザナ・ヨーク」
 と彼女が言った時一人の男性が入って来た。
「ラリー、少し出かけてくる。…あぁ、お嬢さん、目が覚めたんだな?」
 この人も…見た事ある。
「オレの名前は、パリ・ドルドーニュ・カストル。前に一度会っているはずなんだが…」
 前に…一度………。
 あ?!
 マルマラで会った二人組!
「そうだ、勇者ミラノ。オレは『暗黒集団”魔界衆”』の一人。あの時は挨拶がおくれて申し訳ない」
 『暗黒集団”魔界衆”』…?
 ふと疑問に思う。
「ラリー、少し出かけてくる」
「どこに?」
 ラリーがパリの言葉に反応する。
「すぐに帰ってくる。安心しろ」
 パリの大きな手がラリーの頭を撫でる。
 ……。
 なんか、いいなぁ。
 幸せそう。
 パリが出ていくと、あたしとラリーが後に残された。
「一つ、質問したいんだけど。どうして、ここから逃げ出そうとしないの?」
 ラリーが唐突に質問する。
 え…。
 うーん、急に言われても……。
「んーあたしここがどこだか知らないし、下手に逃げて外はモンスターでうじゃうじゃだったら嫌だし」
 あぁ、こんなんで勇者がつとまるの?
 みたいな台詞はいてるー。
「…ここはイメルダの廃城。ドアールからさほど遠くない森の中にある…」
 こんなあたしに素直に教えてくれたラリー。
 この娘ってネイやカイとは違う雰囲気がある。
「あのさぁ、あなたもロマの復活を望んでるの?」
「違う」
 ……?
 あなたも『暗黒集団”魔界衆”』の一人じゃないの?
「私は、違う。私は、パリの後についてるだけ」
 と、言いうつむく。
「…ロマを復活させるって『暗黒集団”魔界衆”』は言ってるわよねぇ。あなたはそれについて何も思わないの?」
「え?!」
 あたしの言葉に思いっきり動揺したラリー。
 うーむ、核心に迫ったらしい。
「パリは『暗黒集団”魔界衆”』を名乗ってるんだからロマを復活させられるって思ってるわ。ロマが復活したらとんでもない事になるっていろんな人が言ってる。それについてあなたは何も思わないの?」
「……」
 畳み込むあたしにラリーは何も言ってはくれない。
 よし、話題をかえよう。
「ねぇ、あなたはどうしてパリといるの?」
 と聞くとラリーは照れながら話し始めたのだ。

 〜ラリーの回想、ラリーの語り〜

 今から、6年前の事。
 私はもともとトマスビル大陸(トリポリタニアの東の方の大陸。アフリカにあたる)マシュー草原の周囲に住んでいる遊牧民の一族の者だ。
 マシュー草原は大陸の南の方にあって、カバネルやリグリアに行くには、空路と海路以外は、トマス砂漠と言うこの世界最大の砂漠を通らなくてはならない。
 マシュー草原には私達の一族以外にもたくさんの遊牧民がいるがすべてトマス砂漠を通っている。
 そのトマス砂漠はところどころオアシスがあってそこを通らなくては砂漠を渡り切るのは容易ではなかった。
 私が10才の時だった。
「ふぇーん、怖いよぉ。かあさま、とうさま」
 私は迷子になってしまったのだ。
 私の一族はニザナと言う一族で、にラリーは私の名前、ニザナは一族ヨークは私の父の名前で私の一族の者はすべてニザナがつく。
 すこし、歩いていると目の前にオアシスが広がった。
 砂漠を移動するものにとってオアシス、そして水は命そのものだ。
 オアシスが見つかった頃はすでに陽が傾き始めていた。
 私は無我夢中で燃えるもの、燃やすものを捜し始めた。
 砂漠の夜はとても冷えるからだ。
 火を興し、その側でうとうとと眠り始めた時だった。
『ガサッ』
 ふと背後で音がした。
 火に誘われてきたモンスターか砂漠に住む何かかと思い身構えながら振り向くと一人の男の人が立っていた。
 それが…パリだ。
「一緒に暖まってもいいか?」
 そう言うパリに私は頷いた。
「その赤い髪と、緑の瞳。もしかしてニザナ一族のものか?」
 と、私を見たパリの言葉に私は頷く。
 なぜならその特徴はニザナ一族のみの特徴。
 赤い髪は創造神オリア様の豊穰を意味し、緑の瞳は湖の色、アルタミラの湖を示す。
「何故、ニザナ一族の者がこのトマス砂漠に」
 パリは心配そうに私に聞く。
「……親とはぐれてしまった」
 そう言う私にパリは優しく微笑んでくれる。
「そう言えば、名前を聞いてなかったな。オレの名前はパリ・ドルドーニュ・カストル。カバネルで魔法剣士になった」
「私の名前はラリー・ニザナ・ヨーク。あなたは、カバネルから来たの?」
 簡単な自己紹介の後、私が質問するとパリは静かに頷いた。
『パチパチ』
 静かな砂漠の夜にたき火の音だけが響く。
 思わず、私はパリをじーっと見つめてしまった。
 銀色のきれいな髪にサファイアブルーの瞳。
 カバネルの魔法剣士であると言う特徴ある剣。
(正確にはカバネルの学校を卒業した魔法剣士が持っているレイピアの事でである。スウェルナイト(カバネル所属の魔法剣士)が持っている剣はスウェルソードと言う片手剣で全長80センチの剣である)。
「オレに何かついてるか?」
 ふとパリが私に言う。
 じっと見つめていたのを気付いたらしい。
 …いや、もっと前に気付いてたのかも知れない。
「なぜ…こんな所まで来たの?」
 質問をしてしまう。
 普通の質問をしてしまう。
 というか、私はパリに興味を抱いてしまったと言う方が正しいかも知れない。
「旅を…しているんだ」
「カバネルから」
 何のために。
 思わず聞いてしまう。
「何のために…か。オレ自身も分かっていない。アルタミラの湖に行ってみようかと思っているがどうなる事か。変更は多い方が楽しい。予定通りに進んでもつまらないからな」
 とパリは楽しそうに言う。
 当てのない…目的のない自由な旅。
 その日の気分次第の旅。
 どんなものだろう。
 私は旅をした事がない。
 砂漠とマシュー草原の中を移動して過ごしている。
 それを毎日くり返している。
 ふと興味が湧いて来た。
「パリ、私に教えて。今までパリが見て来たもの。国や街を。私は全然知らない。私、この砂漠より上には言った事ないもの。いっつも砂漠と草原の間を行ったり来たりしている。街っていったらソルヴェイしか…」
 と言うとパリは驚く。
「あぁ、そうか。アルタミラの近くにはソルヴェイがあったんだ」
「ソルヴェイがどうかしたの?」
「ラリー、ソルヴェイは世界3大都市(人口の多い都市)の一つなんだ」
「えぇ?!」
 私はそれまで知らなかったのだ。
 ソルヴェイが世界で3本の指に入る程の人口の多い都市だとは…。
「ラリー、オレが見て来たもの全部教えてあげるよ。ラリーオレが知ってる事も。まず、ソルヴェイはカバネルのツーラン、ラプテフのショルドについで三番目に人口が多い。そして、ソルヴェイは都市国家として形成されているとしでもあるんだ」
 その話からパリは私にいろいろな話をしてくれた。
 世界最大の川の話や世界で最も美しい白亜の宮殿の話、絶対神シーアンの神殿やジャングルに埋もれたままの太古の昔に栄えた都のことを。
 そして、彼が生まれ育ったマルマラ共和国のこと…。
 そんな話を聞いていたらいつの間にか東の空が白々と明るくなっていた。
「月の女神アイファの眠りは夜が明ける事を示すって聞いた事がある」
 パリの言葉に頷く。
「一晩中話していたのか。どうする、ラリーお前は草原に戻るか?それとも…」
 パリは一瞬ためらった後言う。
「オレと一緒に旅をしないか?」
 と。
 私は突如言われて驚く。
 期待はしていたが…本当にそう言われるとは思わなかった。
 行ってみたい、旅をしてみたい。
 でも、もう村には帰れないかも知れない。
 その時ある言葉を思い出した。
 私を可愛がってくれていた村の長老様の言葉だ。
「ラリー、御主は好奇心が旺盛じゃのぉ。いつか、御主が村を出る事になってもわしはとめん。ただ一つだけ約束してくれ。全ての事を鵜呑みにしてはならん。自分の考えで行動するのじゃ、他人に流されんようにな。自分の行動で運命は決まると言う事を忘れんように」
 という言葉。
 私がパリと出会う事は運命だったんだ。
 そう思った時、私はパリに行くと答えていた。

  〜ラリーの語り終り〜

「それが…パリとの出会いだった」
 そうラリーは言った。
「ラリー、あなたパリの事が好きなのね」
 そう言うとラリーは頬を染める。
 んー図星だったらしい。
「何故…わかった?」
「だってあなたがパリとの出合いを話している時凄く幸せそうなんだもん」
 そういとラリーは顔を真っ赤にする。
「…その通りだ。私がパリと一緒にいるのはロマを復活させたいからじゃない。パリの…パリの側にいたいから…」
「だったらロマが復活してもいいのね。パリと一緒にいられるなら世界が大惨事になってもいいのね。パリと一緒にいられるなら」
「そんな事…誰もそんな事言ってない」
 私の言葉にラリーは言う。
 パリの側にいたいって言う事は…そう言う事しか…。
「違う!パリはロマの復活を望んでない。私にそう言ったもの」
 ラリーはそう叫ぶ。
「違う?何が違うの?あなたの言い方じゃあなたは世界に何が起っても構わないっていう風に聞こえるわよ。それにパリはあなたに本心を伝えてない。伝える訳ないじゃない」
「…どう言う事よ」
「パリはロマが復活する事を望んでここにいる。あたしをさらったのがその理由になるわ」
 そう言うとラリーは何も言わなかった。
 …何も間違った事を言ってないわよね。
 そうよね…間違ってないよね。
 落ち込んだラリーを見てるとまるであたしが悪いみたいじゃないのよぉ。
 その時だった、ドアが開き予想もしてなかった人物が入ってきたのは。
「サガ!」
 そう、さっそうと現れたのはサガだった。
「悪い、ミラノくるのが遅くなって。さぁ、行くぞ」
「うん…でもどうやって」
 あたしの疑問に答えるように一人の人物が入ってきた。
「パリ…」
 そう言ってラリーはパリの元に駆け寄る。
「どう言う事?パリ」
「ラリー、サガに…彼に借りができてしまった。借りたものは返さなくてはならない」
 と、パリはラリーを見つめながら言う。
「さ、ミラノ行くぞ」
 サガに促され、あたしは部屋を出る。
「ラリー、さっき言った事は謝らないわよ」
 と、ラリーに残して。
 その言葉を聞きラリーはパリにしがみつく。
「どうした…ラリー」
「パリらしくない、あんなにあっさり帰すなんて」
「本当にそう思ってるのか?」
「え?」
 パリの言葉にラリーは驚く。
「本当にそう思ってるのか?ラリー」
「まさか…」
 ラリーの言葉にパリは言う。
「ただで帰すつもりはないよ」
 と、パリは不敵に呟いたのだ。

「一気に火の女神タクラの所まで行くぞ」
 そうサガに森の中で言われる。
 イメルダの廃城がまだここから見える位置にある。
 パリへの貸しは何だったか教えてくれない。
「ミラノ気をつけるんだ。あの男のことだ、絶対ただでは帰さないだろう。オレが言ったのはお前のことだけだからな」
 そうなの?
「サガ、パリとは知り合いなの?」
 疑問に思い聞いてみる。
「知り合いって程でもない。カバネルの魔法学校で会ったぐらいだ。もっとも、オレは長いこと学校にいたわけじゃないしな」
 ふーん。
 もしかすると噂では知ってるぐらいなのかなぁ?
「早速でできたか…。しかもここにいるはずなのないモンスターだ。サイファ・トール・タクラ ファイアーボール」
 火の玉をモンスターの中心に投げ付ける。
「こいつらにかまっている暇はないからな」
 そう言いながらも、もう一回火の玉を投げる。
 サガって魔道士向きかも。
 そう思いサガに聞いてみる。
「どうしてサガは魔道士にならなかったの?」
 そしたら呆れられてしまた。
 なによ、ほとんど知らないあたしにそれはないんじゃないの?
「ふー、オレは聖魔騎士。魔法剣士とは違うから聖魔騎士になったの」
 でも、魔法剣士と聖魔騎士の違いって回復魔法が使えるか使えないかの違いでしょう。
「違うよ、魔法剣士の特徴は剣に魔法をかけるけど聖魔騎士は魔法を剣に掛けない代わりに強力な呪文も使えるってわけ」
 ふーん。
『ガサ』
 草むらに音がする。
 立ち止まっていたあたし達に一気に緊張が走る。
 次の瞬間だった。
『ガォー』
 との声と同時に狼がたくさん出てくる。
「プレイリードック…厄介だぞ、こう複数で出てこられると…」
 プレイリードック、狼の一種で群れで夜行動する、そうだ。
「まずいなぁ」
 サガが弱気になってしまった。
 ちょ、ちょっとサガー。
「夜のプレイリードックは危険なんだ」
 じゃあ、どうするのよ。
 このまま死ねって言うの?
 そう言ってる間にもプレイリードックはいかにも襲ってきそうな勢いだ。
「そんな事言ってないだろぉ!」
 えーい、頭に来た。
「ガイア・ストール・ギア 地の奥底に眠りし鉱石よ 今 槍となりて 敵を貫け ダイアモンドシャベリン」
 すると地中よりダイアモンドが飛び出しプレイリードックを貫く。
「良くやった、ミラノ走るぞ、この先がマンシー草原だ」
 と、サガは今まで弱気だったのが嘘のように元気になる。
 なんか…あたし修行させられていた感じ。
 ともかく、あたし達はマンシー草原にあるタクラ様の神殿へ向ったのだ。
「日は登り…月沈む」
 ん?月は登り日は沈むだったかな。
 この際どうでもいい!
 だって。
「サガ!お腹すいたー!」
 そう、私、今、べりーべりーはんぐりー。
 だって、昨日の夜から何にも食べてないで一昼夜。
「もう少しで火の女神タクラ様の神殿だ」
 と、いうサガの言葉に騙されてずっと歩き続けているのだ。
 しかも熱いよぉ。
「熱いのはタクラ様の神殿が近いせいだ」
 あ、やっぱり火の女神だから?
「そのせいもあるが、創造神ドルーア様のせいでもある」
 なんで?
「ドルーア様は火を作った方で…あそこは元々古代の創造神であるドルーア様の神殿だったから」
 と、サガは寂しそうに言う。
 その寂しそうな声を聞き、あたしは古代神は絶対神シーアンに封印されたと言う事を思い出した。
 シーアン様ってどういう方なんだろう。
 そう思った瞬間、ただ草原が広がっていた風景が一変した。
 なになになにー!
「サガ、あんまり遅いから、迎えに来たぞ」
 と、良く通る低いアルトの声と共にいきなり目の前に現れる女の人。
 あたりを見回すと神殿内部のようだった。
 と言う事は…。
「始めまして、勇者ミラノ。私が火の女神タクラ」
 どひゃー。
 ゴウジャスの一言でしか言い表せない女の人が火の女神タクラ。
「さぁ、私と契約をしよう。ミラノ、あなたにはやってもらわなくてはならない事があるのだから」
 というタクラ様の言葉にあたしはタクラ様の近くに行く。
「ワール・ワーズの三人には逢った?あのこ達はきっとあなたのいい味方になってくれるはず。なんと言ってもこの私の弟子だからね」
 そう言った後タクラ様は歌うように呪文の詠唱を始めた。
「スーキ・トーイ・ミーナイ・タクラ 私の声 今 聞け。私の力、彼者に分け与える」
 すばらしく美しい声が神殿内にこだまする。
 しかもここちいい声。
「さぁ、ミラノ終った。今日当たりファナ達が来るはずだからゆっくり休むと良い」
 と、タクラ様が言った時だった。
「着いたー!なんかやけに遠かったよな」
「仕方ないでしょ。幻惑の霧がかかってるんだもの。幻火の炎よりは、ましでしょ」
「そうだけどさぁ…」
 と、入り口にいる二人。
「カーシュ!ファナ!」
 と、あたしは呼び、二人の元に駆け寄る」
「ミラノ、やっぱり来ていたのね。良かった、ほっとしたわ。ガイア様の所に行って正解だったみたいね」
 と、ファナ。
「ミラノ、お前サガと一緒で何ともなかったか?大丈夫だったか?」
 と、カーシュ。
「大丈夫だよ、カーシュ。サガ、優しかったよ」
 と言う訳で久しぶりにファナとカーシュに会う。
 ……もしかすると神託受けた4人が一同に介すのってもしかして始めて?
 サガとカーシュとファナの三人は初対面じゃないから意気投合しちゃうのも、やっぱ昔なじみの強さってやつかな?
 ともかく、その夜はタクラ様の神殿にお泊まりする事になったのだ。
 その間、あたしは三人に知らない事をみっちりと教え込まれたのは言うまでもない…。
 でも、明日になってると忘れてるかも知れない。
 そんなのんきな状態のあたし達に次の日とんでもないニュースが飛び込んできたのだ。
「ミラノ…今はまだ頼まないわ…。いろいろな事がこれから起るから」
 炎の部屋でタクラは一人そう呟く。
 それはまるで次の日に飛び込んでくるニュースの内容を知ってるかのように…。

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