1章・5部 イオニア公国ミケーネ山
……なんか蒸し暑くない?
ここはいったいどこ?
「ここは……イオニア公国フィレオ山脈」
フィレオ山脈?
サガの言葉に疑問を持ち『ファルダーガートラベラーズガイド。イオニア公国篇』を取り出す。
フィレオ山脈…風の神サラがいるミケーネ山が存在するフィレオ山脈。
全体的に高度は高く、真夏でも平均気温が20度を下回る…。
ってサガ、ここ山の中じゃないわよ。
「バカ!!」
な、何よぉ。
バカっていきなり言わないでよ。
「あそこに見える山脈がフィレオ山脈だって言ってるんだ」
…別に怒らなくたっていいでしょう。
「…ふぅ。ミラノ…オレはお前をサラに会わせたくないんだ…」
サガが急に言う。
…どう言う意味?
「サラは…………何でもない」
そう言ってサガは言葉を止めてしまう。
あぁもー!
急に話すの止めないでよぉ。
「ともかく、ミケーネ山に行こう」
という強引な押しきりかたでその話は終ってしまった。
うーむ。
突然頭上に影がふる。
見上げるときれいな白鳥が旋回していた。
「水の女神セアラ……」
サガの言葉に白鳥は降りてくる。
そして、人間の姿になった。
「誰かと思ったら…サガ、久しぶりね。あら、あなたはミラノ・フォリア・ウォールスね。初めまして、私は水の女神セアラよ。今からどこに行くの?お二人さん」
セアラの言葉にサガは
「………の所に」
とかなり小さい声でボソッと言う。
「……?ハーン、サラの所に行けってガイアが行ったのね。サラがいるかあたしが見に行ってあげる。いたら覚悟しなさい」
「…はい」
とセアラ様の言葉に力なくサガは返事をする。
「……まだ気にしてるの?サラの事」
「そんな事はない」
少しの沈黙の後のセアラ様の言葉にサガはすばやく反応する。
けど…どこか悲しそうだ。
「まぁ、いいわ。私は先にミケーネ山の頂上に行ってるから後からいらっしゃい」
そう言ってセアラ様は白鳥となりミケーネ山の頂上へと飛び立った。
「……セアラは…姉のような人だった」
サガ?!
ふとサガの様子を見るとどこか寂しそうでもあり悲しそうでもあった。
「さぁ、そんなことより行くぞ、ミラノ。いざ、ミケーネ山へ」
気を取り直したのかサガが言う。
「ミラノ、返事は」
返事…ふぁーい。
「なんだ?その気の抜けた返事は。これからお前の事すこし鍛えなきゃならないんだぞ。せっかくガイアやファイザ様から貰った呪文を無駄にするつもりか?」
………急にサガが熱血になる。
いやよ、こんな熱血教師みたいなの!
サガの性格ってこんな奴なの?
「そうだよ、ミラノちゃん」
ふと、聞きなれた声が頭上からする…。
見上げてみるとちょうど近くにある木の上からラテスが見下ろしていた。
「ラテス、どうしたの?」
「心配になってね。どうしてもサガとミラノちゃんが二人っきりになると、この熱血バカのしごきの制裁がミラノちゃんを襲うからってガイアがよこしたの」
そうなの?
「…ガイアがそんな事言うはずないだろう。ラテス、貴様が望んで来たんじゃないのか?」
「あら、わかっちゃった?」
……なっ、何なのよぉ。
「ともかく…ラテス、貴様の口出しは許さないからな」
「はいはい……。しかし、似て来たねサガも、スウェルナイトマスターに」
「………………まずい…」
まずい?
「まずいと思うなら熱血はやめる事だね」
とラテスの言葉にサガは落ち込む。
「ねぇ、スウェルナイトマスターって、どんな人?」
「今のサガに輪を掛けて熱血な男。青春とか汗をかくっていう事に生き甲斐を感じてて、それを他人にも強要するっていう有り難迷惑な人物なんだ」
ラテスは感慨深そうにいう。
今の話を聞いてて、ラテスも被害にその熱血の被害にあったみたいね。
何はともあれ、あたし達3人はミケーネ山へと向かったのでした。
「違う、違う、そうじゃない。ホラ、腰が引けてる」
う…えーん。
サガの鬼。
今、あたし達3人はミケーネ山のふもとにあるナフラシアの森の手前の草原にいます。
目の前には3体のコボルト。
犬(雑種だらけの犬って感じ)みたいな顔しててねぇ、ちゃっちぃ剣持ってるの。
『光の剣』ならあたしでも倒せる相手。
ところがサガのやつ。
「『光の剣』じゃなくてロングソードで倒せ」
だーって。
ファナより鬼!
「エーイ!」
快心の一撃!
見事、コボルト一体にヒット。
コボルトは消滅してしまいました。
この世界、死んでしまうと元の肉体は霊都サルバトスって所に召喚されちゃうんだって。
ま、ともかくコボルトはまだ2体も残っている。
「…ガイア・ウィル・ドム地の奥底に眠りし鉱石よ、今やりとなりて、敵を貫け、ダイヤモンドシャベリン!」
?!
驚いた瞬間、コボルト2体の足下から鋭い何かが飛び出しコボルトを突き刺す。
「今のがダイヤモンドシャベリンだ。大地の女神ガイアの名前をスペルに入れる事で大地属性の呪文になる」
そう言いサガは一息つく。
「しかし、一体を倒してホッとするんじゃない!」
そして、怒られる。
ふぇーん。
「ま…初めてにしては上出来だろう。ミラノ、ナフラシアの森に入るんだから気を引き締めないととんでもない事になるぞ」
……森の中が危険だって言うのは何となく分るけど…このナフラシアの森って風の神サラのお膝元じゃない。
なのに、どうして?
「ミラノちゃん、山から邪悪な気が発せられている事に分るかい?」
…何となく…だけど分るよ。
「このミケーネ山には、山頂のサラの神殿から風にのってサラの聖なるきがナフラシアの森に伝わる。するとこの森は穏やかな森となる。直接サラのきがあるからね、ところがだ…」
そこで言葉を止めたラテスの後をサガが引き続ける。
「ミケーネ山の中腹…というよりふもとに近い所に一ケ所洞くつがある。その洞くつは地下から吹き抜けになっていて…そこからでる妖気…破壊神の名を取ってゾルフィアスのため息って呼ばれてるんだけど…それが、ナフラシアの森を覆ってしまうんだ。しかし、サラの聖なる気が流れているため妖気は押さえられて低級モンスターしかあらわれない。ところが…」
サラ様がいない時は弱いモンスターも強くなってしまうって訳か?
「その通り、今回はサラがいない。だから気を引き締めようってわけ」
とラテスが言う。
「さて、ダイヤモンドシャベリンは覚えたな」
………え?
「土の属性呪文ダイヤモンドシャベリン」
あぁ、さっきサガが使った奴ね。
「おい、使った奴ねってのんきに言ってる場合じゃないだろう。それでも、お前は勇者か?今までの話を聞いてなかったのか?今、神殿にはサラが不在なんだぞ、分かってるのか?」
サガが凄い剣幕で言う。
分かってるけど、そんなに怒鳴らなくても、そんなに怒らなくたって良いじゃないのよ!
「サガ…少し落ち着け。何を焦ってるんだ?いつものお前らしくないぜ。…ふぅ、サラからの伝言だ。『当分、お前の目の前に現れるつもりはない』って。じゃあ、オレはしばし退散させてもらうよ。ミラノちゃん、ちゃんとがんばるだぜ」
と、ラテスは言うだけ言って消えてしまった。
あっけに取られるあたし達二人。
「…えっと…サガ…ごめんね」
間が持てなくて、取りあえず謝る。
話すきっかけ見たいなもんかな。
「謝る必要なんてないだろう」
と、素っ気無くサガは言う。
「……だって…」
「だって…じゃない。…オレもどうかしてた。お前のせいじゃないんだから。気にしなくていいよ、ミラノ」
「うん」
「それより、ここからはナフラシアの森だ。気を引き締めて行くぞ」
「うん」
気を取り直し森に入ろうとした時だった。
「そう言えばお前呪文レベルいくつ?」
「……さぁ…」
と、サガにいきなり聞かれ悩む。
呪文レベルなんて……知らん!
「さぁって……ふぅ。土の属性はレベル1として光の呪文は……」
「レベル3だよ。ミシェーヌの塔で封印といてるから」
ラテスが突然現れる。
「ラ、ラテスいきなり出てこないでよ」
「ごめんごめん。サガに言うの忘れてたんだよ。じゃ、ほんとの本当にバイバーイ」
急に出て来て急に消えるラテス。
……本当のラテスって一体何者なんだろう。
「そうか…レベル3か……。ライトニングアローが使えるな。森の中に入ったら早速実践だ」
え…えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
「えぇぇぇじゃない。ハイは?」
「はーい」
ともかく、あたし達は森の奥へと入ったのでありました。
でもすごーく不安だ。
「ふーむ」
森に入って少ししてからサガは腕を組んで唸った。
何度かのスライム(スライムグミ:スライムの一番弱い奴。グミ状)との戦闘の後…。
「魔法の方が力はあるなぁ…。ライトニングアローの威力は悪くないし、ダイヤモンドシャベリンもするどい。その上のダイヤモンドアローもすばらしい。剣は……始めての割りにはまぁまぁかな」
あたしの技量をサガは総括する。
ほめられたのでちょっと嬉しい。
「…剣は仕方ないとしても、魔法はもう少し実践してみよう」
ほめられた後にまた実践………。
辛いわ。
『ガサッ』
草影に音がする。
もしかして、またスライム?
『…プヨーン』
あぁー、またスライム(正確にはスライムグミ)。
「ライトニングアローを使って光属性をレベル4まで上げよう」
えぇ、そう簡単にあがるもんなの?
「ミラノ、あぶない!」
え、いやあああああああああああああああああああ!
ス、スライムが襲って来たー!
「ルーン・ファイザ太陽神の炎よいでよ!スターライトファイア」
とっさに一番覚えているスターライトファイアを唱える。
すると炎に包まれたスライムは溶け出した。
………ドロドロだぁ…。
いやぁん。
「…ったく。大丈夫、もう解けた」
思わずしがみついたあたしをやさしく撫でながらサガは言った。
「スライムは粉砕するより、溶かした方が本当は良いんだ分裂する心配がなくなるからね。けど、そんな事で怖がってたらどうするんだ?これから」
……どうしよう。
「ま、良くやったよ」
ホント?
「あぁ」
ポンとあたしの頭の上に手をのせ言う。
「さ、先を急ごう」
サガの言葉に頷きあたし達は先を急ぐ。
が、モンスターばっかり出てくる。
スライムだけとか、スライムとコボルト見たいなやつ。
サガの話だとゴブリンだって。
コボルトが妖気を浴びたやつがゴブリン。
くそぉ、ちょーむかつく!
「…さすがに多いなゴブリンが。こんなに多いって事は…キングゴブリンがいる可能性がたかいな」
キングゴブリン?
「あぁ、ゴブリンの王さま」
ゴブリンの大きいやつかな?
多分。
「あぁ、ミラノ…近いぞ」
サガの言葉に一気に緊張する。
あたし達は風下にいるのか風上の方から声が聞こえてくる。
そろそろ草むらに隠れながらみると…。
「ゴブリン5体にホブゴブリンが2体…ちょっと多いなぁ。どうするミラノ」
……どうするってサガ、あたしに聞かないでよ。
「いいか、ミラノオレはホブゴブリンに集中するから光の呪文しっかりと使うんだよ」
サガの言葉に頷く。
「よし行くぞ!」
サガは果敢にホブゴブリン2体に向かって行った。
実質的にはホブゴブリン1体。
って事は…あたしがゴブリン5体とホブゴブリン1体に向かわなくちゃならない訳……みたいね。
くそー。
しゃあない、やるか。
「ルーン・ファイザ・アバタール・ミラ 光り輝ける太陽とその神太陽神ファイザよ、その自らの光を炎とかえ我に力をかしたまえ。スターライトファイア!」
呪文の詠唱が終るとゴブリン5体とホブゴブリン2体にダメージを与える。
ふぅ。
ゴブリン5体はなんとか消えた。
が…ホブゴブリンは効いてないようだ。
なんで…。
……なんで効かないのよぉ。
「ホブゴブリンには魔法が効かないよ」
ラテスが突如現れて助言する。
「ホブゴブリンはみての通り大型のゴブリンでね。力が強くって少し知力が高く魔法を使えるものもいるんだ。全体的に魔法に免疫があるからきかないんだよ、眉間を剣で狙うといいよ。じゃあね」
そういってラテスは消えてしまう。
ホントに神出鬼没だ。
「たああああああああああああああああ!」
光の剣を取り出し、気合いと共にあたしはホブゴブリンの眉間に剣を打ちこ…めなかった。
逆に剣をとめられてしまい、今、絶体絶命の所で踏ん張っています。
でも、どうして良いか、わかんないよぉ。
何とか持ちこたえもう一度、眉間に剣を打降ろすが今度は弾き返されてしまった。
「ミラノ、大丈夫か?」
ホブゴブリンを一体倒したサガはもう一体(あたしが戦ってる奴)に剣を向けながら言う。
「サガ、眉間が弱点だって」
何とか、それだけ言う。
跳ね返された時腰を打ち付けたらしい。
『ズブ』
と言う醜い音の後ホブゴブリンの断末魔。
「ぎゃおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおぉぉぉぉ」
なんとか、ゴブリングループを倒しおわる。
「ふぅ。良かったねサガ」
と、安堵した時だった。
「しっ」
サガが急にあたりに注意する。
「ど、どうしたの?」
あたしの疑問に答えず、サガは呪文の詠唱に入る。
「何か………ロノーム・ガイア・ダイヤモンドアロー!」
あたしのすぐ横をダイヤモンドアロー通過する。
こ、怖いじゃないのよ。
「…さすがだな。やはり、『スリーナイツ』のファラスナイトのナンバー2と言われただけの事はある」
と、サガのダイヤモンドアローが向かった場所から一人の人物が現れる。
マントを身に付け茶色のさらさらの髪に茶色の瞳。
「誰だ、貴様は」
サガが喧嘩腰に聞く。
けど、けど、ファラスナイトのナンバー2って?
「……貴様って言う言い方は邪険すぎないかい?」
そういい彼はサガに無造作に抜いた剣を向ける。
「ファラスナイトに剣を向けるとは良い度胸だな、魔法剣士」
魔法剣士?
「魔法剣士とは魔法を使う剣士の事だ。スウェルナイトの別名でもある」
じゃあ、彼は、スウェルナイトなの?
「いや?スウェルナイト用の剣を帯刀してないから…違う」
サガはそう言い私の疑問に答えてくれる。
「参った。オレの名前はアレキ……いや、カイ・ゼルス・クセイルという一介の魔法剣士だ」
「…カイ・ゼルス・クセイルか…。オレの名前はサガ・カミュー・ルマイラ…と自己紹介しなくても知っていたな」
サガはそう言い不敵に笑った。
「一応、ファラスナイトのサガとは有名だからな」
サガとカイのやり取りを聞いていてあたしは疑問を持っていた。
カイが自分のこと名乗る時に最初にアレキって言ってたのだけど…その後訂正してカイって…。
本名じゃまずいてことかしら?
何か、聞くに聞けない。
「それでは、ファラスナイトのナンバー2と神託の勇者様」
そう言ってカイは何処かに消え去ってしまった。
「…あいつは何者だ?オレの事を知ってるのはまぁいいとしても…ミラノが神託の勇者だって知っていた…」
サガは不審がる。
あたしは、さっき疑問に思っていたカイの本名は別?という事をサガに言ってみた。
「……確かに……アレキ…アレキ…?!」
サガは何かに思い当たる。
「いや…まさかな…」
そのまさかが本当の事だと言う事に気がつくのはだいぶ後の事…。
今、ふーって思い出したんだけど。
「サガ、ファラスナイトのナンバー2って」
と、聞くとサガは爽やかに答える。
「ファラスナイトマスターになれる位の実力の持ち主だって事」
と。
ちょっと、そんなにあっさり答えないでよう。
んーもう。
その後あたし達は順調に進んで行き、ミケーネ山に辿り着いたのである。
その頃、とある場所で…。
「見つけたのに逃がすなんてナンセンスですわ」
先程のカイの後ろに一人の女性ベル・サンド・フォンティーンが現れる。
「……ベル……か」
「えぇ、そうですわ。アレキいいえカイ・ゼルス・クセイル。ホルム様に名前を変えた事、御報告なさらなくてよろしいのかしら」
「おれは、昔からその名前だ。ホルム様も御存じでいらっしゃる」
「ふん、そうかしら」
意地悪く言うベルにカイは冷たく言う。
「こんな所で油を売ってるよりパリの事追い掛けた方がお前はいいんじゃないのか?」
「あの勇者にパリが接触したんですのよ」
「なんだって」
驚きのあまりカイはベルの方を向く。
「そうですわ、ネイより実質的に先に接触を」
「ネイは…人質をとった時よりもか?」
「えぇ、第一の神託の人物ウォールナイトをさらった時よりも」
ベルの言葉にカイは黙り込む。
そして、ベルが聞こえない位の声で一言呟いていた。
「……ファナ……」
と。
その消え入りそうな声はエアリアル(大気の精)しか気がつかなかったと言う。
「遅い、遅すぎるわ。もう着いたっていい頃じゃないの?それなのに何故?どうして、まだ来ないのよぉあの二人は!」
と、セアラ様が神殿で叫んでいる頃あたし達は山頂目指してひたすら登っていた。
「…ひぃぃぃぃ。もう、登れないよぉ!!」
「…6回目」
サガはそう呟くとさっさと登って上の方で待っている。
「あぁーん。こんなにか弱い少女を一人置いてかないでよぉ」
と、あたしが言うと…
「同じような文句6回目」
……いちいち数えないでよ。
くそー。
何であたしがこんな山なんて登らなくちゃならないのよぉ!
「それは、セアラに逢うためだ。ほら、ミラノ頂上だよ」
そう言いながらサガは手を貸してくれた。
「うわぁー」
頂上に辿り着いたあたしは、思わず感嘆の声をあげる。
目の前には緑色をした大理石で造られた神殿が、目の前に広がった草原に佇んでいたからだ。
「風の神サラの神殿でもあり、古代神火の女神セリアの神殿でもある。ここは元々は火山でね、今は死火山らしいよ」
サガがそう言い寂しそうに神殿を見つめる。
『ドキッ』
な、何?今の『ドキッ』は…。
サガの寂しそうな横顔に惚れてしまったのか?
「遅いわよ、サガ、ミラノ。いつまであたしを待たせる気?」
物凄ーく怒ってる声が神殿の方から聞こえる。
その方向を見ると水の女神セアラ様が仁王立ちで立っていた。
それを見てあたし達は慌ててセアラ様の元に走りよる。
「申し訳ありませんでした…セアラ様…」
「サガ、他人行儀はやめてっていつも言ってるでしょう」
サガの様子を見てセアラ様はにっこり微笑む。
「それから、ミラノもよ」
え、あたしも?
「当たり前でしょう、太陽の兄様やガイアはなんて言うか分らないけど、あたしは様付けなんて嫌いなの。いいわね」
といい、にっこり微笑む。
それにしても美人だなぁ…。
グランブルーのあふれるばかりの髪とうるんだ瞳、水の女神と言われる様子をセアラは持っていた。
だから思わず言ってしまったの。
美人ですねって。
「ありがとうミラノ、でもね、神々の中で一番美人な女神様を私は知ってるわよ」
「…誰だっけ…」
「忘れたの?サガ。古代神風の女神エイリアよ。さ、雑談はここまでね。ミラノ契約をしましょう」
と、いきなりセアラは言う。
「どうしたのミラノ。魔法の契約よ」
「……でもガイア様とかファイザ様とかとしてるし」
「何、バカな事言ってるのよ」
へ?
あたしなんかバカな事言った?
「誰か言わなかった?全ての神々と魔法の契約をしろって」
そう言えば、…ガイア様が言ってたような気がする。
「ね、さぁ、神殿の中でしましょう」
セアラの先導でサラ様の神殿の中に入る。
「さぁ、契約しましょう。ミラノ、神殿の主が帰ってくる前にね」
その、セアラの言葉にサガは驚く。
「神殿の主って…まさか」
「そのまさかよ、サガ。もう少しでサラが帰ってくるわ。あなた達がもう少し早く着いていればもう少し話せたんだけどね。ミラノ、契約するわよ」
セアラの切羽詰まった言葉にあたしは頷く。
「水の神アーシャと絶対神トルーアから絶対神シーアンの名において水の女神セアラが命ずる。今、我が力フォリアと共に契約する」
セアラが契約の呪文を唱えると力が流れ込んで来た。
「ふぅ…さて、ミラノ…困った時は私の事召喚してもいいわ。そのための呪文を一つ教えてあげる。ただし、水のある所じゃないと使えないわよ。呪文はセルフ・ライン・セアラ…よ……?!」
セアラがビクッと身体を震わせ神殿の外を見つめる。
「セアラ!!」
「分かってるわ、サガ。セルフ・ライン・セアラ・ニア・忠実な下僕、水たちよ我が命により転換の泉となれ」
セアラが呪文を唱えると、水が顕われる。
「早く、この中に入ってこの泉の先に行けばファナとカーシュの二人に会えるはずよ。早く行ってサラがくる前に」
…でも、サラ様と契約しなくていいの?
「ミラノ、行くぞ!」
と、言いながらあたしの手を引きサガはあたしを泉の中に引きずり込む。
その寸前あたしの視線の中に入って来たのは一頭のユニコーンだった。
「………お帰り、サラ」
セアラの前に一頭の純白の一角馬…ユニコーンが入って来た。
純白と言うより銀色の毛並み…。
静かに人の形を象っていく。
プラチナブロンドのさらさらの髪にブルーの瞳。
少年から大人に変わるぐらいの年の瀬を感じさせる…それが風の神サラ。
「今のサガでしょ?あと、連れていた女の子、あれはサガのもの?」
子供っぽく言うサラにセアラは姉のように言う。
「サガのものじゃないわ。あの子は私達が選んだ勇者よ」
「ふーん」
と、セアラの言葉にサラは面白そうに呟くだけだった。