ファルダーガー

  1章・4部 ラプテフ王国  

 ふと、気が着くと空には抜けるような真っ青な空と白い雲、そして中天に太陽が存在していた。
 あ、あたし、生きてるぅ。
 起き上がると辺りは瓦礫の山。
 そして、あたしの隣には『大地の剣』が横たわっていた。
 そう言えば、ファナとカーシュはどうしちゃったんだろう。
 ラテスと…あの声の主も…。
「ふぇぇぇ。散々な目にあったよ」
 ラテス!?
「おはよう、ミラノちゃん。無事みたいだね」
 まぁね、それよりカーシュとファナは?
「あの二人は…とっさに唱えた空間転移の穴に入ってどっかにいっちゃったと思うよ」
 と…思うってそんな無責任な…。
「大丈夫、そのうち会えるよ」
 とラテスは無責任に笑う。
 …そういえば、あの声の主は…いったい誰だろう。
 そんなあたしの見透かしたのかラテスが言う。
「ミラノちゃん紹介するよ。三人目の神託を受けた人物ね」
 ラテスの声に現れた人…漆黒の髪に吸い込まれそうな深い青の瞳。
 その深い青の瞳に強く引かれる…。
「こいつは、カバネル聖共和国のファラスナイト、サガ・カミュー・ルマイラだよ」
「ラテス…こいつが本当に勇者なのか?」
 え…?
「ま、見ての通りだよ。絶対神の神託通りだろ?」
「…………………納得がいかないが…ラプテフにいくぞ」
 ………こいつ、ちょーむかつく!
「ミラノちゃん、あんまり気にしない方がいいよ。サガって人見知りするから、初対面の人間が苦手何だよ」
 ラテスがサガの言動にフォローするが……あたしの気持ちはむかついたままだった。

 サンジェース。
 マルマラ共和国西部最大都市サンジェース。
 アメリカのロサンゼルスに似ているような気がする。
 行ったことないけど。
 この『ファルダーガー』があたし達の世界とは鏡みたいなもんだって言ってたから…似ているのかも。
 ところで…ここからどうやってラプテフに行くんだろう。
 地図を見るとラプテフ王国って日本みたいだから…飛行機とかじゃないと大変だと思うし………。
『キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン』
 耳をつんざくような爆音。
 空を見上げると飛行機が……飛んでいた!?
 ちょ、ちょっとまって!
 飛行機初体験がこのまったく訳のわかんない異界の地なの?
 ものすごーく、複雑な心境よあたし。
「離着陸の際は必ずシートベルトを閉めてください」
 と、機内のアナウンスが聞こえる。
 あーん、飛行機初めてなのに…。
「どうしたの?ミラノちゃん怖い訳」
「こ、怖く何かないわよ」
 ラテスにからかわれ思いっきり反論してしまう。
「はいはい。ラプテフまで10時間。アイマスクでもしてぐっすりとお休み」
 ラテスの言葉通りあたしは寝ることにした。
 ラプテフ上空。
 ふと気が着くと、飛行機のブラインドは既に開いて周りの人はそろそろ着陸かという状況にざわついていた。
「ミラノちゃんジュース飲む?」
 ラテスは目が覚めたあたしにいう。
「ラテス…あたしどのくらい寝てた」
「もうぐっすり10時間。だからもうラプテフ上空だよ」
 と、いいにっこり笑う。
 窓から外を眺めると…富士山らしきものが見えた。
 ラプテフにも富士山あるんだ……とのんびり思っていた。
 空港に着陸をし、あたし達は一路そのムカワ空港から出ている電車でラプテフの中心ショルドに向かうことになった。
 ショルドには国王様夫妻がいらっしゃるので会いに行く訳。
 …が、この景色は何?
 日本そのまま。
 この家屋、町並み全て日本を感じさせてしまう。
 ショルド駅でおり王城へ向かう。
 ショルド駅を正面から見た感想…。
「何よ、これ!」
「何って…ショルド駅だよ」
 ……東京駅そのまま。
 ラテスにいわれても信じられない。
 何か日本にいるって感じがする!
 あたしは夢でも見ているんじゃないのか?
 でも、驚くのはそれだけじゃなかった。
 すべて、何もかも。お堀からビル街から…。
 言い出したらきりがないほどラプテフは日本そのものだった。
「ミラノちゃん、あそこに国王へいかがいらっしゃるんだ。お、おいサガ、スタスタと先に行くな。あのお城に住んでいらっしゃる訳じゃなくってすぐ側に宮殿があるんだよ」
 とラテスは江戸城の方を見ながらいう(ショルド城だけどあえて、江戸城というわ)。
 でも、宮殿なんて日本には似つかわしくないわ。
 御所の方がしっくりとくる。
 ………お、お、お、お、おぉぉぉぉぉ!
 一般参賀してる場所だ!
 あそこの窓から天皇陛下御一家が手を振る訳ね。
 ………あたしって結構ミーハーかも……。
 一瞬、思ってしまった。
 しかし、違和感あるわね。
 この、マント!
 マルマラとかカバネルにいた時は思わなかったんだけど…。
 とっちゃえ、この『双龍のメダル』は胸にブローチとしてくっつけてと。
 ふむふむ、結構いい感じ。
「ミラノ、お前マント取ってどうするつもりだ。今から国王陛下に会いに行くんだぞ。正装しなきゃならないのをわかってるのか?」
 サガがあたしの行為に驚く。 
 でもね、マントしてた方がよっぽど失礼だと思うんだけど。
「あのなぁ!」
 サガがギャンギャン喚き立てる。
 なんで、そんなに神経質なのよ!
 正装か……正装ねぇ……。
 正装といえばやっぱり日本人だもん、着物だよねぇ。
 そうよ、着物よ。
 いい考えが浮かんだと思ったが…この世界に着物とはあるのだろうか…。
「サガ、ミラノちゃんの好きなようにさせてもいいと思うよ。この先に衣装の館がある。そこでミラノちゃんが気に入った衣装にすれば」
 さっすが、ラテス。
 と、いう訳で衣装の館。
 皇居に、こんなものがあるのかって思うけど、ここは日本じゃないし(日本に似てるけど)。
 入ってみると…いろんな衣裳だらけ。
 ……貸し衣裳屋さんって感じ。
 捜すとあるものね、いい感じの着物が。
 桜色の下地に桜をあしらったきれいな訪問着。
 これで、サガのこと驚かせてやるんだから。
 早速、衣裳の館の人に着付けをしてもらい、『双龍のメダル』をバックの中に入れ、外に出る。
「…へぇ、ラプテフの民俗衣裳か。ミラノちゃんなかなかなれた足取りじゃないか」
 まぁね、私日本人だし、おばあちゃんに日本舞踊、習ったこともあるし。
「サガ、見てみなよ。ミラノちゃん結構似合ってるよ」
 ラテスの言葉にあたしの方を振り向くサガ。
 その途端凍り付いたように立ち尽くして……。
 何、今の表情…。
「…どうしたの?」
 ふと、聞くとサガは我に返りいう。
「国王陛下にあいに…」
 と。
 サガのあの表情は…恋しい人に出会ったというか…逢いたかった人に会えた…そんな感じの顔。
 謁見の部屋。
「陛下、彼女が絶対神シーアンがお選びになった勇者でございます」
「そうですか、私がこの国の王。サマニ・オイカマナイです」
「………高山みらの…………いえ、ミラノ・フォリア・ウォールスともうします」
 思わず、あっけに取られてしまう。
 似てるんだよね…天皇陛下に……それに。
「…ミラノさん、とても着物がお似合いですね」
 と、王妃様。
 王妃様はシズナイ・カムイとおっしゃるんだけど皇后陛下にちょーそっくり。
 いくら鏡だからってここまで似ていていいのか?
 あたしがあっけに取られている間にサガ、ラテスと国王夫妻はいろいろと会話をしている。
「ミラノさん、なかなか宮殿の中とは見れないもの。どこか見たいとこでもありますか?」
 と、言ってくださる国王陛下。
 ……見たい所と言えばやっぱり江戸城内部でしょう。
「…ショルド城ですね。構いませんよ」
 と、気前よく了解してくれた。
 やっぱりいい人ね。
 ショルド城(江戸城内部)
 この…襖絵はやはり狩野一族の物なのだろうか。
 狩野一族は徳川家専属の絵師だって聞いたことあるし。
「このショルド城はフォース暦15世紀頃から17世紀後半までラプテフを支配していた一族の居城だったんだ」
 とラテスの説明。
 って言うことは…徳川家みたいなものかなぁ。
 確か江戸時代って言うのは1603年から1863年までだったし…。
「ミラノ、行くぞ」
 と、江戸時代に心を馳せているとサガがぶっきらぼうに言う。
 行くってどこに行くの?
「……オデッサ大地。大地の女神ガイアの神殿だ」
 神殿…………………、思わず不釣り合いなギリシャ神殿を思い浮かべてしまった。
 ま、まさか、違うわよね。
「あれ、ミラノ。着物脱いじゃったんだ」
 ラテスが言う。
 さすがにショルド城内部まで着物で行ったもんだから、かなりつかれて降りて来た時、速攻で衣裳の館に飛び込み着替えてしまったのだ。
「………」
 サガが一瞬、寂し気な表情を見せ、あたしは動揺してしまう。
 困る…のよね。
「さ、さ、二人とも。一路オデッサ大地へ向かいましょ。ガイア様がお待ちですよ」
 ラテスに促され歩くあたし達。
 動揺は…少しおさまったけど…やっぱりあの表情に気になってしまった。

 ショルド駅新幹線のホーム
「こだま3号下り110番ホームに入って参ります。危険ですので白線の内側までお下がりください。なお、この新幹線はヌーベル(横浜)、コルト(静岡)、シロタエ(名古屋)、テストフ(大阪)経由オデッサ行きとなっております」
 ホーム内のアナウンスが流れる。
 隣に、違和感のあるひとが立っている。
 スーツと言うか駅員さんの格好をして日本刀を腰に刺している人。
 変。
 あ、でも明治時代は警官は刀を帯刀してたから…本当はそんなに変じゃないのかも。
 でも、一般感覚からいうと変よね。
 袴姿だったら…何気に許せたかも…。
 それでも…おかしいかな。
 ともかく、こだま4号にのり一路オデッサ大地へと向かう。
 三人がけの一番窓側を陣取り外を眺める。
 ヌーベル(横浜)、コルト(静岡)とすぎて遠くに見えるは富士の山。
 富士山だ!!!
 窓に張り付いて眺めるあたしにサガの冷たく一言。
「何やってるんだ」
「何って見れば分るでしょ。富士山観察よ」
 サガがあたしの言葉に文句を言いたそうな顔でいるのをラテスが気付き慌ててとめる。
「サガ、少し落ち着いたらどうだ?さっきから変だぞ」
 ラテスの言葉にサガはそっぽを向く。
「大丈夫なの?ラテス」
 小声で聞くあたしにラテスは頷き富士山について説明をしてくれる。
「あの山は『ファルダーガー』では霊峰フーキ呼ばれていて、ラプテフ一高い山なんだ。そして、大地の女神ガイアの奥宮でもある。しかし、自殺の名所という不名誉な名所も持っているんだ」
 …ここにも青木ヶ原の樹海みたいなのがあるのね。
「ミラノが…知ってる山に似てる訳?」
 サガが、話し掛ける。
 なんか、嬉しい。
「そう、そっくり。それにショルドの駅もショルド城も。けど何か雰囲気って言うのかな、何か違うところあるみたい。どう説明していいか分んないけど…」
『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
 新幹線がトンネルに突入する。
 暗がりの窓にサガの顔が映る。
 なぜか、ジッとあたしの方を見ている。
 な、何だろう。
 思わず、視線をさけるようにうつむいてしまった。
 トンネルを抜けるともう一度、富士山…じゃなくって霊峰フーキが見える。
 …龍太郎、元気かな。
 ふと、幼馴染みの嵯峨龍太郎を思い出す。
 けど…なんで急に思い出したんだろう。
 ま、いいか。

「やっとついたね。オデッサに。さすがにつかれたよ」
 オデッサに到着しました。
 地図で確認すると岡山あたり。
 うーむ、やっぱり日本って言う感じがする。
 違うのに、似ている。
「ねぇ、ラテス。ここからどうやってガイア様の所にいくの?」
 と、聞いたら
「バス!!!」
 参ったね。
 バスだなんて、想像してなかった。
 思わず、冗談でしょう!と叫びそうになった。
 でも、あたしのアルスーンの袋の中には車が入っています。
 何でも入ってるこの袋。
 凄いわ、結構感動もんよ。
「…そうか、その袋には車も入ってたのか。サガ、お前運転な」
「……そんなこと言ってもいいのか、ラテス。オレの運転する車にのっても」
 と、サガの言葉にあたしとラテスは固まってしまった。
 い、今のどう言う意味よ……。
「ねぇ、ラテス。サガって運転、ちょー下手なの?」
「……………………下手って言うのは聞いてないけど……。不安だ」
「………大丈夫よね。大丈夫だよね、サガ」
 と、ラテスを励ましつつ自分をも励ましながらサガに言うと、不敵な笑みを浮かべながら、
「さぁな」
 と、呟きながらサガは既に運転席に座っている
 ふええええええええええええええええん、怖いよぉ。
「安心しろ。この頃オレは安全運転を心掛けるようにしている」
 それが、よけいに怖いのよ。
「ともかく、ミラノちゃん。覚悟を決めて乗ろう」
 ラテスは諦めてしまったのか後部座席に座る。
 チョ、ちょっと待て!
 何でラテスが後部座席であたしが危険な助手席なのよ。
「そんなに嫌なら、自分で運転するんだな」
 う…サガって冷たい。
 しぶしぶ、あたしはサガの運転する車の助手席に乗り込み一路オデッサ台地へ出発となった。
「確かに、安全運転を心掛けてるねぇ」
 静かに動きだした車に、ラテスは落ち着いて言う。
 確かに、これはお父さんが運転する車より荒くないかも。
 なんか…眠く…なって…き…た…。
「おい、ミラノ。寝坊するぞ!」
 うーん、もうすこし、サガ…ってあれ?
「あれ、じゃないだろう。みらの朝だよ、朝」
 目の前には龍太郎がいる。
 龍太郎の家は両親とも働いているので朝は家で朝御飯と言うのが小学生のころから習慣になっていて、よく寝坊するあたしを龍太郎は起こしてくれていた…。
 龍太郎がいるって事は、ここは日本のあたしの家なのね?
 ファナに逢ったことも、カーシュに逢ったことも、ラテスに逢ったことも、サガに逢ったことも、あたしが神託の勇者って事もぜーんぶ、夢だって事ね!!!
「ホーーーーーーーホッホッホッ。なにをおばかさんなことを言ってる訳。甘い、甘い、甘過ぎるのよ。ミラノ・フォリア・ウォールス」
 誰?
 風景は一転して乳白色の霧に包まれ何も見えず、聞こえるのはかん高い笑い声のみ。
 気配を感じ振り向くとそこには…ネイ・ラパス・サンラファエル!!
 その前には横たわって宙に浮いている…龍太郎。
「ちょっと、なんであんたがあたしの夢の中に出てくる訳?嫌がらせ?」
「このボーヤは、あたしがもらったのよ」
 あたしの問いに答えずネイは龍太郎を抱き締める。
 ど、どう言うことよ。
 貰ったって……。
「このボーヤはあたしの奴隷よ」
 ど、奴隷?!
「そ、この子は、あたしの言うことしか聞かないのよ」
「りゅ、龍太郎…」
 思わず情けない声が出てしまう…。
 悲しいわ、大事な幼馴染みの龍太郎を。
「りゅ、りゅたろーーーーー!」
 あたしの呼び声にも応じず龍太郎はネイと共に遠くへと行ってしまう。
 そこで、目が覚めた。
 辺りは暗い。
 夜…なの?
「目がさめたようだな…」
 誰…だっけ。
 一瞬、思考が飛んだがすぐに思い出した。
 サガ・カミュー・ルマイラだ……。
「…だいぶうなされていた見たいだった…。大丈夫か?」
 とサガは静かに聞く。
「うん…ところで…ここはどこ?」
「オデッサ台地の手前の高速道路…。どうやら渋滞に巻き込まれたらしい」
 かなり、込んでるらしい。
 オデッサについたのが4時頃でそこから高速にのって5時間…全然まったく動けないらしい。
「高速、降りる以外にないね、すぐそこが降り口だから、そこで降りよう。ちょっと先見て来たけど…無理みたいだった。あ、ミラノちゃんお目覚めのようだね。予定だったらもう今頃ついていてもいいんだけどね」
 と、先の方まで見に行ったラテスが戻って来て言う。
「2時間ぐらいは掛かるけど…仕方ない、高速降りよう」
 と、言う訳で大渋滞の高速道路をおり通常の道でオデッサ台地へ向かう。
「元、暁の神殿と呼ばれる、オデッサ台地。大地の女神であるガイアの住む場所。ガイアは太陽神ファイザと月の女神アイファの妹。絶対神シーアンと創造神オリアの実子でもある。ファイザとアイファもそうだけどね」
 と、ラテスが言う。
 サガはじっと前を見て運転している…のは、当たり前だけど…。
 話に加わらない。
 知らないのかな…って一瞬思ったけど、それはないよね。
 サガはファラスナイトだもん。
 何か…考え事をしているような感じだ。
 暗闇の中を車が走っていく。
 ふと、あたりが開け月の明かりで神社…が見えて来た。
「あそこが、暁の神殿?」
「そう、ガイアの住む神殿だよ」
 車からおり、神社に近づく。
 大きな鳥居に大きなしめ縄。
 行ったことないけど、よく写真で見る出雲大社みたい。
「大地の女神と古代神太陽の女神フラウの神殿…」
 すこし、感慨深けに言うラテス。
「…何か、感慨深けだな…ラテス。訳でもあるのか?」
「別に…っていうか、お前、訳知ってるんじゃないのか?」
「…知ってるって…何を?オレは、何も知らない」
 そう言うサガにラテスはふっと笑う。
「ラテス?!」
 その不敵に微笑むラテスにあたしは気になったんだけど。
「何をやってるの?」
 神殿の方から声が聞こえる。
「そんな所で喋っていないで中にお入りなさい」
 また、同じ声。
 誰だろう…あたしが疑問に思っているとラテスが答えてくれた。
「…大地の女神ガイアだよ。さぁ、逢いに行こうか」
 そう言い、あたし達は先に行ってしまったサガの後を追い掛けるようにして神殿の中に入った。
「久しぶりだねガイア」
「…ラテス、あなたいつ」
「つい最近だよ。ガイア」
 17.8ぐらいの少女とおぼしき女性にラテスは話し掛ける。
「そう…あら、サガも久しぶりね。久しぶりにラプテフに戻って来たのね」
「お久しぶりです、ガイア様。彼女が、ミラノ・フォリア・ウォールスです」
 と、……サガに紹介されると言うことは、彼女が大地の女神ガイア。
 あたしと、同い年ぐらいに見えるのに全体に慈愛をたたえ、全てを包み込むような雰囲気を持っているのはやはり大地の女神だからなのか…。
「初めまして、ミラノ・フォリア・ウォールス。私は大地の女神ガイア。あなたにあえることが出来て良かった。夜も遅い、今日はゆっくりと身体を休めなさい」
 といい、ガイア様はにっこりと微笑み奥へと消えて行った。
 次の日の朝、暁の神殿と呼ばれるだけあって神殿内はすばらしく明るかった。
「改めて、私が大地の女神ガイアです」
 ガイア様はそう言ってにっこりと微笑まれる。
 昨日はハッキリと分らなかったけど、陽の下で見るガイア様はどうやってもあたしより年下に見えた。
「早速だけどガイア、一つ聞きたいことがある。フラウの様子は今、どうなってる?」
「…何故ですか?」
「マルマラにいた時、太陽が中々あがらなかった。あそこの管轄はファイザだが、フラウの力だけでもあげる事ができる」
「それで、フラウの様子を…」
 ガイア様の言葉にラテスは頷く。
「……今、闇の力が強まっています。フラウが、まともにその影響を受けてしまっているみたいで…。太陽の兄様も…そうだったのでしょう」
 ガイア様の悲痛な言葉にラテスは頷く(ちなみに、太陽の兄様とはファイザ様の事です)。
 あ、今思い出したけど、『大地の剣』、ガイア様にお替えししなくちゃ。
 『大地の剣』をアルスーンの袋から取り出し、ガイア様に渡す。
「…これは、『大地の剣』。ミシェーヌの塔に置いたものだから…ミシェーヌに掛けられた呪は、ミラノ、あなたが解いてくれたのね」
 ガイア様は嬉しそうな顔をして、あたしを手招きする。
「ミラノ、いい、『大地の剣』は、ガイアストーンのついている神々の『聖宝』の一つ。柄の下の所にラピスラズリがついてるでしょう、この根元の所にはトパーズも。これに大地の魔法を封じ込めているの」
 と、言いながら柄の根元を見せてくれる。
「さぁ、ミラノ契約しましょう。あなたは全ての神々と契約をなさい。魔法使い、僧侶、宗教、…全ての枠を取り去って」
「はい」
「では、契約をしましょう」
 そう言ってガイア様は詠唱を始める。
「大地の女神ガイアが命じます。古よりの力、今発動せよ」
 ガイア様から暖かい力が伝わってくる。
「契約は終りました。大地の呪文書はサガ、あなたが持ってるわね?」
 ガイア様の言葉にサガは頷く。
「ガイア、ミラノちゃんをフラウに会わせてくれないかな?どうしても会わせたいんだけど…」
 と、ラテス。
 でも、どうしてラテスってガイア様にため口なの?
 神様って言うのもしかして本当かも…。
「フラウに…ですか」
 ガイア様は少し悩んだ上頷く。
「いいわ、私も太陽の姉様に会わせたかったの。ミラノ、この扉を開けて奥に進んで…。太陽の女神フラウがあなたを待ってるわ」
 ガイア様の言葉にあたしは頷き、太陽の女神フラウが待っている所へと向かったのだ。
「ガイア様…何故彼女をあの扉から…。他の場所からでも行けるでしょう。何もあの扉からでなくても」
「そうね」
 批判的に言うサガにガイアはゆっくりと微笑む。
「あの扉から行かせた理由は彼女にあの絵を見せたかったから…。サガあなたなら知っているでしょう。あの絵を…」
 そう言うガイアにサガはうつむくだけだった。

 暗い…。
 扉の奥は暗い通路だった。
 何も…見えない。
 あたりに光が存在していない。
 朝なのに…。
 暁の神殿に暗い所があるとは…思わなかったわよ。
 ……でも…暁の意味を考えると……あるかも知れない。
 どのくらい歩いたんだろう。
『ドン』
 いったーい。
 何かにぶつかった。
 手探りでさわってみると…壁らしい。
 あたしったらおばかさんだ…。
 壁のあること気がつかないんだもん。
 ふいにひんやりとしたものに手が触れる。
 な、何?何か変なものあたし触った?
 もう一度恐る恐る触りなおすとドアノブらしい…。
 って事はあたしがぶつかったのは壁じゃなくってドア…ってことになる。
「フゥ」
 思わずため息。
 あたしってダブルでおばかかも知れない…。
 ドアだって気がつかないんだもん。
 ともかく、このドアを開けてみる。
 一本道みたいだしね。
 ドアノブをおして入る。
 ん?
 あ、開かない!!!
 ……もしかして引くの?
 そう思い引いてみると、おっ開いた。
 そして、恐る恐る部屋の中に足を踏み入れる。
『バタン』
 大きな音を立てドアがしまる。
 何気に振り向いてドアノブを捜すが………ない。
 ……何でなくなるのよ!
 …ともかく、フラウ様に会ってガイア様の所まで戻してもらおう。
 そんな時だった。
『ボゥ』
 光が突如現れる。
 ………微かな明かり。
 明かりに目が慣れるまで時間はいらなかった。
 ほんとに小さな光が少しずつ大きくなって行ったから。
 その光は照らしていた。
 その光が照らしていたものは一枚の大きな絵。
 気品が漂う一人の女性。
 大きな黒い犬をたずさえ、光り輝く剣をもって立っている。
 あの剣は…『光の剣』?
 間違いない。
 あれはあたしが持っている『光の剣』そのものだ。
 じゃあ、あの女の人は…誰?
 どっかで見たことのある顔だけど…。
「この絵は太陽の女神フラウが『アルスマントダイヤの輝き』という棺に入れられる寸前まで描いていたと言われる絵。題は『光に導かれし勇者』」
 ふと、後ろから声が聞こえる。
「…サガ?」
「そうだよ、ミラノ。この絵は封じられた瞬間に完成されたらしい。そうガイア様が言ってた。この絵はミラノ…君の事を考えて描いた絵らしい…」
 あたし?!
「そう…」
 なんであたしなの。
「予言をしていたんだ…。ミラノがこの世界に現れることを…」
 と、サガは何かさびしそうに言う。
 ふと気がつくと光が近づいてくる。
 ………この形は……。
 火の玉?!
 いやーん。
「火の玉じゃないよ。これはウィル・オ・ウィスプ、光の妖精。フラウの所まで、案内してくれる」
 サガがそう言う。
 ………?でも、何でサガがそんなこと知ってるの?
「ここには何度も来ているんだ…。母さんの用でね」
 さびしそうにサガは前を見る。
「母さんは……ガイア様のお気に入り……だから」
 ガイア様の?
「あぁ…」
 何か、つまらなそうにサガは言う。
 ふと、ウィル・オ・ウィスプが止まる。
 どうしたんだろう…そう思いながら見ていると…ウィル・オ・ウィスプが増えて行く。
 部屋中に増えて……増えてって……これはちょっと増えすぎじゃない?
 あたしの周り、部屋の隅々までぎっしりとウィル・オ・ウィスプだらけ。
 ふぇーん、気持ち悪いよぉ。
「ミラノ、良く見てみな」
 気持ち悪そうにヨガっていたあたしにサガは言う。
 よく見てみなって…言われてもぉ…。
「これは壁に反射している幻影だよ」
 ウィル・オ・ウィスプの幻影?
 そう言われても…気持ち悪くてじっと見が出来ない。
「…フッ」
 そうサガが笑うとウィル・オ・ウィスプは消えた。
 ふと、部屋を見渡すと…何なのこの部屋は!?
 キラキラ光ってる。
 そして、その中心にはキラキラと光った……棺?
「この部屋はアルスマントダイヤ…大地の女神アルスの名前を頂きに抱いた最上級のダイヤで構成されている。そしてあの棺もそう。アルスマントダイヤの輝きと言う名の棺」
 …………これが全てダイヤモンドなの?
 信じられない…。
「おいで、ミラノ。この棺を見て御覧」
 サガにいわれ棺を覗くとそこには一人の女性が眠っていた。
 美しくあふれる程のブロンドの髪をもつ…。
「この人が太陽の女神フラウ…?」
「…正確には、古代太陽の女神フラウ…。古代神の一人」
 古代神………眠ってるの?
 それとも………。
「眠っているだけだよ……」
 どうして、眠っているの?
「絶対神シーアンに封印されたんだ」
 ……その事ならラテスも言ってた……でもどうして封印されたの?
「……ガイア様に聞いた事あるけど…知らないって言ってた…。知ってても父親である絶対神シーアンの許しがおりるまで言えないって…」
 サガの話を聞きながら棺の中のフラウ様に目を落とす。
 封印される寸前まで描いていた『光に導かれし勇者』。
 どんな気持ちだったんだろう。
 封印される事を知っていたのか…それとも知らなかったのか。
 どっちにしろ…悔しい思いを為さったのかも知れない。
『…ミラノ、あなたに光の加護を…。光に導かれし勇者でなく光を導く勇者となる事を……』
 え……今の声は……。
「…ミラノ?」
 不思議そうにサガがあたしを見る。
 と言う事はサガに今の声は聞こえていない……。
 じゃあ…フラウ様なの?
「ミラノ……戻ろう」
 サガと共にガイア様とラテスがまつ所に戻ってくる。
「ミラノ…サガ…。あなた達は風の神サラの神殿へ向かいなさい。多分ですが…ファナとカーシュのふたりがいるはずです」
 戻って来た途端、ガイア様が言う。
「サラの神殿があるイオニア公国までは遠いですから私が送りましょう」
 そして、転換の間。
「ミラノ、この『大地の剣』はあなたがもってお行きなさい」
 転換の方陣に入る前にガイア様が大地の剣を渡される。
 返そうとするあたしにガイア様はおっしゃる。
「でも、これはあなたが持っていた方がいいのです。そのうち役に立つはずだから」
 と。
「ミラノちゃん…フラウの言葉…忘れるなよ」
 …ラテス…?
 ふと、ラテスの言葉に疑問を持った瞬間、転換の方陣が作動しあたしとサガは一気に転移をしてしまった。
 いったい………ラテスの言葉は何だったんだろう……。
 と言う疑問があたしの中に残ってしまった。

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