1章・3部 ミシェーヌ
「ここが、一応オレの住処。ただし、カバネル所有のね」
と、カーシュはシンハイの市内にあるマンションの一部屋に案内してくれる。
「で、どこに行くの?」
「フィアに聞いてない?ミシェーヌの塔にファナが捕まってるの」
と、あたしが言うとカーシュは驚く。
「ファナってあの、ファナ・ネイピア・カイクーラ?」
…うん。
「まじかよ………」
そう呟いたっきりカーシュは黙ってしまった。
結構、ショックだったのかな………。
「ほら、何かふいをつかれちゃったのよ…暗黒集団『魔界衆』とかの一人だって言うやつに」
「魔界衆?!なんて言う名前?」
あたしの言葉に敏感に反応し凄い迫力で聞くカーシュにあたしは半ば怯えながら言った。
「えっと…えっと…………ネイ・ラパス…なんとかって言ってたっけな…」
あたしの言葉にカーシュは落ち着いたのかため息を着く。
「…異界の地より降り立ち勇者に青く黒い髪を持つ者、現れる。その者かの勇者を助ける運命を持つ一人……」
カーシュはふと呟く。
それは……何?
「……オレに、降りた神託。多分、ファナももらっただろうしね。オレがさっきファナの名前を聞いたことに驚いただろう。
それは、お前が助けに行く人物が、勇者を助ける神託を受けた一人だってライトエルフに聞いたんだよ。
で、ファナも受けたんだ…って知ったんだ」
カーシュの異常な程の驚きはそう言う所にあったのね。
ファナが捕まってショックだったていうよりは、ファナも神託を受けたひとだってことにびっくりした訳ね。
「ともかくさ、これからよろしくな」
と、カーシュが言った時、外で何やら人の気配がした。
「ちょっとまってて」
とカーシュが玄関を開けて外にいる人と会話を始める。
「……お前……、………これからどうする訳?」
カーシュが外にいる人に質問をしている。
誰だかは、カーシュの影に入って全然見えない。
やっぱり、違う所から覗く!!…って訳にもいかないわよね。
「それじゃあ、カーシュ。オレは一度戻るから…」
「戻るって?」
「ラプテフにだよ……。じゃあな」
そう言うとその人物は去って行き、カーシュはその人物の後ろ姿を寂しそうに見送っていた。
次の日、目がさめるとカーシュが朝御飯を作っていた。
「おはよう、カーシュ」
「あ、やっと起きた。今日はミシェーヌの塔に行くんだろう?」
あ、忘れてた。
「忘れてたんじゃねーよ。ったく、ミシェーヌの塔って言ったら海だな」
海?
ミシェーヌの塔って海にあるの?
「あぁ、ミシェーヌの塔は絶海の孤島。エクアバル洋にあるんだよ」
と、言う訳であたし達は西の中心地でもあり海の玄関口でもあるサスカに向かったのでありました。
サスカ
海のにおいがして空がひろーい。
サスカに着いての感想。
潮風も気持ち良い…、あれがエクアバル洋ね。
カバネルからは空間転移の扉ってやつで来ちゃったから海、見てなかったのよね。
「ねぇ、カーシュ。どうやってミシェーヌの塔に行くの?」
「……………船しか……ないんだけど………」
と、何となく心もとな気なカーシュ。
なんで、こんなに心もとないの?
「………………が………ないんだ」
カーシュは堤防に座りぼそっと呟く。
……全然、なにがないんだかわかんないよ。
「……船がないんだ」
船?
なんで、港なのに?
周りには船がたくさん見えるのにカーシュは不思議なことを言う。
「………ミシェーヌの塔に行ってくれる船がないんだ?」
え、えぇぇぇぇぇぇ?
「な、何で?」
あたしが聞くとカーシュはその訳を話してくれた。
「ミシェーヌの塔って言うのは…呪われた塔なんだよ。なんで、呪われてるのかっていうと…今から1200年も前フォース暦700年代の頃に今のマルマラの前の国、ロルヌス王国って言うのがあって…そのセヌギヌス王朝セレンティス王の時代まで遡るんだ。セレンティス王には子供が二人いて一人はミシェーヌ王女、もう一人はセディス王子って言ったんだけど、ミシェーヌ王女はセレンティス王の死んでしまった前の王妃の娘で、セディス王子はその王妃の妹が母親なんだ。王妃…サラフィーと妹セラフィスは双児だったんだよ。サラフィーとセレンティス王は恋愛結婚だったんだけど…その結婚を妬んだ奴が結構たくさんいてさ、その代表がセラフィスってわけ。同じ顔なのになんでーって感じでね。でも、サラフィーはミシェーヌを産んだ後に死んでしまった。噂では殺されたらしいけどな」
ちょっとまって。
じゃあ、死んじゃったサラフィーの変わりにセラフィスを王妃にしちゃったってわけ?
その王様は。
「その通り、王はセラフィスに始めてあった時サラフィーの生まれ変わりだとかおもちゃったみたいらしいな。そして、生まれたのがセディスってわけ。ミシェーヌが3つの頃かな?それから約10年後、ミシェーヌはサラフィーの生き写しの様に成長していった」
……そしたら、セラフィスとも似てるんじゃないの?
「雰囲気とか話し方が凄く似てたんだよ。で、ミシェーヌも恋をするようになって、相手は国一番の青年将校。周りにファンがいっぱいいる中で見事両思いになったらしい。国中が王女の恋愛に喜んでいた頃、セディス王子が階段から転げ落ちるという事件がおこってしまった。王女のことをねたましく思っていたセラフィスはミシェーヌが王子を殺そうとして突き落としたんだと言いまくって王女を追放しようとしていた。なぜなら、王女がいなくなれば王位継承権はセディス王子に渡からさ」
そういいカーシュは一息入れる。
なんか、セラフィスってかなり陰険。
むかつくババァって感じ。
「親心ってやつだよ。で、その事件を聞いたセレンティス王は青年将校ルシフェルとミシェーヌを国外に出そうと王は考えたんだ。国外に出る方法は二つ。海から船で行くか、ドレステンにある空間転移の扉を使う」
その王朝ってどこにあったの?
「………、ここサスカだよ」
じゃあ、ここからドレステンに行くの大変じゃいの?
「そ、だから王様は海からにしてしまった…。ところがどうしてそうなったのかは謎なんだけど、国外に無事いけたのはルシフェルのみ。ミシェーヌは島にいたんだ。同じ船に乗っていたのにも関わらずに…。理由はセラフィスの魔法だった。…ミシェーヌはセラフィスの陰謀に気付き、セラフィスを呪って死んでいった。セラフィスは暗殺されセディスは転落死…。そして、気が着いたらそのミシェーヌがいた島には塔が聳え立っていたんだ」
だから…呪われた塔。
ミシェーヌが可哀想。
誰か供養してあげればその塔も呪われた塔じゃなくなるんじゃないの?
「あのなぁ、島の周りは潮が強くって船は近寄れねぇんだよ」
「じゃあ、どーするのよ。ファナは捕まってるのよ!」
あたしが怒るとカーシュはうつむき、
「……そうだよな………」
と言ったきり黙ってしまった。
どうするつもりよ。
思わず座り込んでしまう。
こうしてる間にもファナがどうかなってたら……。
「どうしたのかな?『双龍のメダル』をつけたお嬢さん。悩みがあるならオレにいって御覧」
ふと、聞こえる声に顔をあげると目の前には美形が立っていた。
濃い緑がかった青色…マリンブルーの髪に同じくマリンブルーの瞳に軽やかな笑みを浮かべている男のひとが目の前に立っていた。
「その、『双龍のメダル』は絶対神シーアンと古代の絶対神トルーアをさすものだよ」
え、絶対神シーアンと古代の絶対神トルーア…って?
「てめぇ、何もんだ!」
いきなり剣を引き抜きその人に向ける、カーシュ。
「おっと、そんな物騒な物向けて。オレはそんな怪しいもんじゃないよ。カバネル聖共和国所属の『スリーナイツ』、スウェルナイトのカーシュ・アレス・アルビータ殿」
「…オレの事何で知ってんだよ…」
「まぁね、オレは海の神ラテス…だからかな?」
神様?
神様がなんでこんな所ふらついてるの?
あたしの驚きを無視しカーシュは喧嘩腰だ。
「ラテスなんて神、オレ知らねぇよ」
「本当に君は神のことに関しては無知だねぇ、カーシュ君」
「何だよ、その言い方」
「フフフ」
カーシュの言動にラテスは軽く交わす。
「オレがこんな所ふらついてるのは君の事を助けてあげようって思ったからだよ。ミラノちゃん」
何で、あたしの事知ってるの?
「一応は神様だし。神様とも仲良いし、君が絶対神シーアンから降りた神託も知ってるしね」
ふーん、でさぁ、何でこのメダルがシーアンとトルーアを指すなの?
「なんだ?メダルもしかして渡しっぱなしって訳かぁ…」
ラテスはため息を着きながら言う。
「いいよ、教えてあげる。絶対神シーアンと絶対神トルーアの人界での姿は二人ともペンドラゴン。ペンドラゴンはもっとも大きい龍。そこに象られているのは二人のペンドラゴン…つまり絶対神を指すって訳」
と、教えてくれた。
「どーでもいいけど、ミシェーヌの塔におれたち行きたいんだよね」
やっぱりまだカーシュは喧嘩腰。
だけどそんなカーシュにお構い無しでラテスはにっこり笑う。
「大丈夫だよ。海に出るんだったらオレに任せて。出発は明日の朝」
「な、なんで?」
ふと聞くあたしにやっぱりラテスはにっこり笑って言う。
「夜のミシェーヌの塔周りは海が荒れてるんだよ」
と。
「うーん、良い天気。絶好の航海日和だねぇ」
と、ラテスはのんきに言う。
が、まだ辺りはうすぐらいから眠いのなんのって。
ふわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
「おい、ラテス。なーにが、良い天気だ!なーにが絶好の航海日和だよ!まだ、夜じゃねぇかよ!」
と、カーシュはラテスに文句を言う。
無理もない…ただいま午前3時半…。
寒いし眠いよー。
「カーシュ君、ミラノちゃん。奇襲を掛けるなら夜の方が良いんだよ」
って、言ったって、眠いものは眠い。
「では、いざ、ミシェーヌの塔へ出発!」
ラテスの言葉で船はミシェーヌの塔に向かって走り始めた。
「この船首に着いているのはなんだ?」
カーシュの言葉に船首をのぞき見ると女の人が象られていた。
「カーシュ、海の女神か何かじゃないの?昔は船にお守りとして女神様を象った像を船首に付けたって言うの聞いたことあるよ」
「ばぁか、ここには海の女神だなんていないんだよ」
と、カーシュはあたしの言葉を一掃した。
が、
「カーシュ君、君は何にも知らないんだな…。これは創造神オリアだよ。船首に海の女神でもあった彼女をつけるのは海に出るものの常識だよ。ミラノちゃんの方が常識って言うのを知ってるかもね」
とラテスが逆にカーシュの言葉を一掃してしまった。
「オリア様が海の女神だなんて…」
「母なる大地…地母神である大地の女神アルスに対し…次代の母オリアは生命が生まれる。と言う訳だ」
カーシュはラテスの言葉に納得する。
ふっと気が着くと海には白波が立っていた。
波が荒い。
「ラテス…海荒いけど大丈夫?」
思わず不安になってしまう。
「……確かに荒いね……」
「なぁ、ラテス。そろそろじゃないのか?日の出の時刻って」
「あぁ…確かにおかしい。この一帯だけ結界が張られてる感じだ」
心配そうに東の方を見ている。
日の出の方向からは一向に太陽があがる様子がない。
「フラウやファイザに…何かあったかな?」
「おい、ラテス。フラウってまさか古代の太陽の女神フラウのことか?」
「他に誰がいるんだ」
自分のつぶやきを敏感に捕まえたカーシュにラテスはあっさりとかわす。
「あのなぁ、ラテス。古代神は力がないって言うのが普通じゃないのか?」
「それじゃあ、お前は古代神を参拝しないのか?古代神あっての現代神だって言うのは分かってるだろうな?」
ラテスはカーシュに怒鳴り付ける。
が……あたしには何の事を話しているのかさっぱり分からん。
?マークがいっぱいのあたしを放っておいてまだ二人は言い合いを続けている。
「ねぇ、あたしにも分るように説明してよ」
と、言うと二人は一瞬にして静まり返る。
「おい、まだ説明してないのか?」
「……てっきりファナがしてるのかと思って…」
ふぅっとラテスがため息を尽き説明を始めてくれた。
「……この世界の歴史って言うのは創世記、神話暦、ラトニア暦、スコピア暦、セルフィラ暦、そして現在のフォース暦と6つの暦に分けられているだけどね、この世界が『ファルダーガー』と呼ばれる理由は、その一番はじめの創世記にいた創造神ファルダーと言う人が作ったからって言われている。
ファルダーが破壊神と共倒れになった時初めて古代神の始祖が誕生したんだ。それが、絶対神トルーア様と双児の弟で在らせられる創造神ドルーア様なんだ。神話暦になった時に、お二人で協力して太陽・月・火・風・水・大地・冥府・闇の神々をお造りになった」
「絶対神のくせして闇の神とか冥府の神とか造っていいのかよ」
カーシュがラテスの説明に不満なのか文句を言う。
「甘いな、カーシュ。トルーア様は絶対なお方なんだよ」
と、やっぱりカーシュの言葉はラテスに一掃されてしまった。
「さて古代神はそれぞれ別名があって暁の女神と呼ばれる太陽の女神フラウ。それから悲しみの神は水の神アーシャ、情熱の母は大地の女神アルス。月の少女と呼ばれるのは月の女神ミディア、炎の女王は火の女神セリア、闇の貴公子は闇の神エラン。洗練の貴公子は絶対神トルーア、双児の弟である創造神ドルーア様は白面の貴公子。美麗の女神は風の女神エイリア、化身の姿から金色の王と呼ばれるのは冥府の神ルシファー。そして、光の貴公子と呼ばれる裁きと戦いの神ニスク」
「…裁きと戦いの神ニスクって言うのは誰が造ったんだ?」
「彼は、絶対神トルーアと創造神オリアの息子。そして姉に現代神である創造神オリアを持つ」
と、ラテスはカーシュの質問に答える。
「………ラテス……今古代神ってどうしてるの?」
あたしの質問にカーシュが答える。
「封印されたんだよ。絶対神シーアン様によってな」
「…封印…なんで?」
「………さぁ?オレは知らないけど…ラテスお前は知ってるのか?」
あたしとカーシュの視線をラテスははずして言う。
「何故…古代神が封印されたのかは知らない…。けど……オレは………」
「な、なんだよその言い方は……。ん?おい、ラテスあれがミシェーヌの塔か?」
カーシュの言葉にラテスは頷く。
そのカーシュが見つけたミシェーヌの塔は暗闇に包まれていながらおぞまし気に発光していた。
その塔を見ながらあたしは嫌な雰囲気を感じずにはいられなかった。
島に上陸はしたが、ラテスは一向に塔に向おうとはせずにただいらついていた。
「ラテス、どうしたの?何をいらついてるの?」
「…だめだ、心配だ。絶対、太陽神に何かあった」
「太陽神がどうかなってると不味いことでもあるのか?」
とカーシュが聞くとラテスは言った。
「ミシェーヌの塔に入れない…」
と…。
何でよ、どうして?
「ミシェーヌの塔は闇の力で結界に被われている。闇に対抗できるのは光。つまり、闇の力を取り払わない限り塔の中に入ることは不可能なんだよ」
そう言いながらラテスは地面に魔法陣を書き始めた。
「この八芒星は太陽神の紋章か……」
「あたりだよ、カーシュ。ミラノ『光の剣』持ってるね」
……ファイザ様からもらった奴?
「そう、ちょっと貸してくれるかな」
ラテスの言葉に『光の剣』をメダルから取り出し、ラテスに渡す。
「ありがとう。太陽があがらないのはね、どっちかの神が闇の影響を強く受けている可能性が在るんだ。それでね、それぞれ守備範囲っていうのがあってここら辺は一応ファイザなんだ。ファイザにはこの前あったから多分大丈夫だと思うんだけど…不安だからファイザの方から見てみるね」
そういってラテスは呪文を唱え始めた。
「太陽神ファイザよ。我が声が聞こえるならば我が描きし魔法陣よりその姿を我に表せ」
すると、光が魔法陣から溢れだしある形が現れる…。
それは、私がカーシュに逢うためにのせてもらったバハムートだった。
「………バハムート。ミラノ、カーシュ、ファイザの神殿に戻るぞ」
いきなり、その姿を見たラテスが叫ぶ。
どうしてよ。
「このミシェーヌの塔は闇の結界が被われているっていうのは言ったね。それを吹き飛ばすには光が必要だって。あのバハムートはファイザの地上での姿。つまり、神殿においてバハムートの姿でいるって事はこの闇の結界が物凄い力を今発しているって言う訳」
「でも、どうやっていくのよ?ここからブタン山脈まで」
「大丈夫、まぁちょっと見ててよ」
と、ラテスは言うと海に手をかざし呟く。
「いでよ、テュッティ。我がラテスの名において命ずる。我らを、われらの望む場所へ連れて行く水となれ」
すると……轟音と主に渦巻きを始めたかとおもうと海の水が空中に浮かびあがったのだ。
「精霊使い………エレメンタルユーザーはすでに伝説のクラスなんじゃ…」
カーシュは今、起った出来事に目が点になりながら言う。
「まぁね。詳しいことは後だ。飛び込め!」
え、ここを…。
思わずラテスの言葉に躊躇してしまう。
「いいから」
との、ラテスに手をひかれ一気にその中に入っていったのだ。
遠くから聞こえる懐かしいような音色………。
高く高くどこまでも響き渡る澄んだ音色、一度聞いたことのある歌声があたしの耳に流れてきた。
「ミラノ」
ふっと目が覚めると…金色の草むらに見たことのある顔があたしを覗き込んでいる。
「大丈夫か?」
「カーシュ?!ここは…どこ?」
ふぅっと安堵してカーシュは答える。
「ブタン山脈…太陽神ファイザの神殿だよ」
ファイザ様の神殿。
「ねぇ、ラテスは?」
ふと思いあたしは辺りを見回しながら聞いてみる。
「あそこ…神殿の中。いくか」
カーシュの言葉に頷き、あたし達は神殿へと向かった。
「……何でこんな姿に」
「ランドの力が強いのか……。いやそれはないな、ラテス、心当たりはないのか?」
「…………あぁ」
ラテスの言葉にシルバードランゴンの姿でいるファイザ様が言う。
「太陽をあげなくては…既に太陽が上る時刻を過ぎている…。…太陽神ファイザの名において我が力の源太陽よ、その姿を表せ」
ファイザ様が唱えると眩しい程の光が辺りに発せられた。
「太陽は上った。私の力で、そなた達をミシェーヌの塔へ送ろう」
その光に包まれ、あたし達はミシェーヌの塔に着いたのだ。
でも、太陽があがってもミシェーヌの塔の辺りは黒い雲が覆い太陽から発せられる光を拒否しているようだった。
「…ミラノ、塔の結界を解こう。そうすればこの黒い雲はなくなって中に入れるようになるはずだよ」
あたしはミシェーヌの塔に行く前に教えてもらった結界の解き方通りに、『光の剣』を地面に突き立て、あたしは呪文を唱え始めた。
「オプス・ポストゥムス・ウヴェルチュール 太陽神の力において、今この力を取り払わん」
すると、『光の剣』が太陽光を受け、塔全体を光に包み込む。
「ごくろうさま。さすがドルーア様とシーアン様から神託が降りただけはあるね」
そう言いにっこり微笑むラテス。
そう言われると照れるけど…つかれたよぉ!
「では、参りますか」
ラテスの声であたし達3人は塔の中へと入って行った。
「闇の力が強い…。これほどまでにミシェーヌの呪は強いのか…。やっと太陽も上ったって言うのに」
ラテスの台詞にあたし達は繋ぐ言葉がない。
ただいま、塔の三階。
ラテスの話だと半分ぐらい昇って来たんだって。
やっと半分と思うと…ちょっと大変。
だってね、二階まで物凄い化け物の数。
実際的に初めての戦闘で思わず泣いてしまったら、ラテスとカーシュの二人によってたかって怒られるし。
「それでも勇者か」
って。
でもね、しょうがないとは思ってくれているみたい。
違う世界から来って言うのもあるし、戦闘に関しては、全然素人だし。
けど、あたしも努力しなくちゃって一応は思ってるのよ。
一応は。
でね、この三階って言うのは唯一、ミシェーヌが自分の気をしっかり持っていられた所なんだって。
「恋人のルシフェルのことを思い出した所だしね」
だって。
『………けて………』
え…?
ふと、聞こえて来た声。
その瞬間、周りの景色は一変してしまった。
『私じゃないのに…私じゃないのに…どうして……』
辺りは真新しい塔の中。
窓際に座っている一人の女性。
髪が長く床まで届いている。
『…だれ?』
ふと、振り向いた顔…どっかで見たことがある……。
『………私?』
……あたしにそっくり。この人。
『………あなたはどなた?教えてくださりませんか?』
「あたしは…高山みらの………ミラノ・フォリア・ウォールス」
『…そう、私はミシェーヌ』
……ミシェーヌ?
いったい、今いつの時代?
あせっているとミシェーヌがクスっと笑う。
なに?
『…私、ずっとあなたがここに来ることを待っていました。長い年月の間。この呪われた塔の呪縛より解き放ってくれる方を…』
ミシェーヌ…。
『…私は…』
泣き出しそうな顔が外を向いている。
私じゃない…私じゃないのに…。
って泣いてる。
「ルシフェル…あの娘は、私の亡き妻に似ておる」
「サラフィー様ですか?父がいつも申しております。ミシェーヌ様はサラフィー様によくにておられると」
ふと場面が変わってある庭で二人の男性が話していた。
一人は初老の男性、もう一人は18.9位の青年。
多分…ルシフェル……。
「ルシフェル。お主は、サラフィーとセラフィス…どっちに似ていると思う」
「…サラフィー様にはお会いしたことがないので…ハッキリとは申し上げかねますが…父の話を聞いていますと、サラフィー様と思われます」
「御主もそう思ったか」
と初老の男性は嬉しそうだ。
内容から判断すると……この初老の男性がミシェーヌのお父さんセレンティス王って訳ね。
「ルシフェル様」
遠くの方でルシフェルを呼ぶ女の人。
…ミシェーヌか。
「ミシェーヌが呼んでおる。行ってやってくれ」
「は、陛下」
おじぎをするルシフェルにセレンティス王は言う。
「…ミシェーヌを頼む。主人と、臣下と言う立場ではなく…」
その意味を汲み取ったのかルシフェルはミシェーヌの元へ向かって行く。
「お呼びですか?プリンセス・ミシェーヌ」
「ルシフェル様…お父様と何を話していたんですの?」
「あなたの事ですよ」
「まぁ、お父様ったら、また私の悪口をルシフェル様に言っておられたんですか」
「いえいえ、あなたがまた一段と美しくなったとおっしゃっておられたのですよ」
とのルシフェルの言葉にミシェーヌは顔を赤らめる。
「ルシフェル様…御冗談ばっかり…」
「冗談ではありません。あなたはまた美しくなられた…」
「……ルシフェル様…恥ずかしいですわ」
「…恥ずかしがる必要なんて…どこにあるんですか?それに、私の言うことが信じられないと言うのですか?」
「そんな…ルシフェル様ったら意地悪ですわ」
「あなたが好きだから…意地悪になってしまうんですよ」
そう言ってルシフェルはミシェーヌを抱き上げた。
『…私が一番、幸せだった時かも知れません』
辺りの景色は塔に戻りミシェーヌは言う。
確かに…ミシェーヌの言う通り彼女の言葉は幸せに満ちていた。
その幸せは望まない形で終ってしまったんだろう。
『…私、月の女神アイファ様にずっと願っていました。彼女は悲恋の女神。古代神水の神アーシャ様と恋に落ち悲しくもアーシャ様が封印されて…悲恋で終ってしまった。御自分がそうであったから他の者には自分と同じ思いをさせたくないと思われていたけど…』
ミシェーヌはふいにあたしの方に振り向き言う。
『けど…私は…結局悲恋で終ってしまったのかも…。こんな悲しい思いにもう捕われていたくはありません。ミラノ様、四階の小部屋に『大地の剣』があります。それでこの塔を破壊してください』
そう言いながらはらはらとミシェーヌは涙を零す。
「辛かったのね…苦しかったのね…悲しかったのね…ミシェーヌ。あなたの願い通りあたしがこの塔を破壊してあなたを助けてあげる」
そう言い抱き締めるあたしにミシェーヌは静かに言った。
「ありがとう…」
と…。
「……、おい、おい!ミラノ。大丈夫か?」
ふと、気が着くと目の前にはカーシュがいた。
え…え…えええええええ?!
「こ、ここは?」
まだ、ハッキリとしないあたしにカーシュは呆ている。
辺りは古ぼけた塔の内部。
「…ミラノ…ミシェーヌの魂と話したね」
ラテスの言葉にハッとする。
そうか…あたし、ミシェーヌと話していたんだ。
昔のミシェーヌ…と言うかここから抜けだせないでいる彼女の魂と…。
「ミラノ、どうすればミシェーヌの魂を救える?」
「四階にある小さな部屋…。そこに『大地の剣』があって…それでこの塔を破壊できるって…」
と言うあたしの言葉にラテスとカーシュは怪訝な顔をする。
どうしたんだろう…。
「…ガイアストーン…か」
「…だろうな。『大地の剣』って言うとアースストーン別名ラピスラズリ。この分じゃ失われた『聖宝』を見つけるかも…」
かるーく言うラテスにカーシュは真っ青になっていく。
「……まさかオレ達にガイアストーンを捜せって言うんじゃ…」
「うーん、『光の剣』もあるし…。それにアルサイトストーンもプラスされちゃったりして」
「じょ、冗談だろぉ」
カーシュはラテスの言葉にどんどん力が抜けていく。
でも、二人の会話にあたしの入る余地が全然ない。
ガイアストーンって何?アルサイトストーンって何?
「どうしたの、ミラノちゃん。何か、怒ってるみたいだけど」
「二人とも、あたしがわかんない会話しないでよ!ガイアストーンってなに?アルサイトストーンって何よ!」
あたしの怒濤の怒りに二人は目が点になる。
「………カーシュ。これも、もしかして話してない訳?」
「…………………………ファナが………って訳ないか…………」
カーシュの言葉にラテスはため息を付き古代神の説明に続きまたもや説明をしてくれたのだ。
「ふぅ、ガイアストーンって言うのは現代神の持つ『聖宝』の事でアルサイトストーンって言うのが古代神の持つ『聖宝』って訳。ちなみに『光の剣』はガイアストーンだよ。…取り合えずこんなもんで詳しくはまた説明します。ともかく四階へ行きましょう」
と、力の抜けたラテスの声であたし達は四階にあると言う小部屋へと向かった。
「……いいか、あけるぜ」
と、言いながらカーシュは小部屋の扉を蹴り開ける。
部屋の中心には柄の所にラピスラズリらしき石がはめ込まれた剣が台座に突き刺さっていた。
「…あれが、『大地の剣』。あの青い石はアースストーンをあらわすラピスラズリ。大地の女神ガイアの『聖宝』で剣の種類は両手剣。ちなみに『光の剣』は片手剣だよ」
と、一通りラテスが『大地の剣』の説明をする。
でも、どうやって塔を破壊するの?
あたしの悩みにラテスは簡単に答える。
「最上階に行けば分るよ。それに最上階にはファナも待ってるしね」
そう言う訳で、あたし達は『大地の剣』をたずさえて塔に来た本来の目的であるファナの救出と塔の破壊の為に最上階へと向かったのだ。
上へ登る階段は最上階に出ると部屋の中心にあった。
今まで、塔の中心には太い柱が一本あったのだが最上階にはそれはなく円形の部屋になっていた。
「…さすがに最上階だけあってボスと言うかミシェーヌを捕らえている何かががいるような感じで嫌だね」
ラテスはのんきに言う。
「ファナ!」
「無事か?」
あたし達が登って来た階段から一番遠くにファナは捕まっていた。
そして、その後ろにいる奴!
赤い瞳に赤褐色の瞳の…ネイ・ラパス・サンラファエル!
「まさか、あんたがミラノ・フォリア・ウォールスだとはね。驚いたわ」
…何なの…この人。
「われら『暗黒集団”魔界衆”』の使命はロマ・ラゴス・ハルツーム様の復活に向けて努力すること。そうしてもう一つ、ミラノ、あなたの命をいただくと言うことよ。パソ・ドワレ闇の王ラジルよ、その力我に今わけ給え!ダークファイアー」
「何?イン・フレッタ月の女神アイファその力で邪悪なるものを押さえよ。ミストブレス」
黒い炎がくる直前にラテスがブレスを張る。
「太陽神の奴じゃないから完璧じゃないけど何とか押さえられる」
と、ラテスがにっこり笑う。
ファナの事、助けなきゃ。
こんな所でうだうだしている暇はないわ。
『光の剣』があるから、大丈夫だよね。
邪魔な『大地の剣』は床に刺しておいて。
「何してるんだ?ミラノ。今出たら危険だって」
結界から出て行こうとした時カーシュにとめられた。
「大丈夫、『光の剣』があるもん」
と、言うと怒られてしまった。
どうして?
「いいか、ミラノ。ダークファイアはそんなに長い間放射されている呪文じゃない。ファナのことは大丈夫だって」
そんなこと言ったって…。
ふっと『大地の剣』に寄り掛かろうとした時カーシュが慌てて言った。
「お前、『大地の剣』どこにさしてんだよ!」
へ?
…床…………だよ。
カーシュの驚きにラテスは青ざめて言う。
「ミラノ、引き抜くなよ。抜いたとたん…この塔は破壊する…」
……まじっすかぁ?
「当たり前だろう、そこは塔の中心。階段が塔の中心にあった柱のとなりにあったんだぜ。オレ達はその階段の隣にいるんだから…すこしは考えろよ」
カーシュに怒鳴られる。
う、う、どうしたらいいのよ。
「何を騒いで……。だ、『大地の剣』。ここはひとまず退散させていただくわ。またあいましょう」
そう言ってネイは消えてしまった。
きゃあ、どうすんのよ!
「ミラノ、何とか抜かないで済む方法を考えましょう」
カーシュに助けられたファナが言う。
そんなこと言っても…どっちみち塔を破壊しなくちゃ、ミシェーヌは助けられなかったんだし……。
「何してるんだ?抜け!一度刺したものは抜かなくちゃならない」
ふいに声が聞こえる。
誰?
カーシュでも、ラテスでもない男の人…。
「ま、まさか…お前は…」
「驚いている場合じゃないはずだぜ。抜かないとミシェーヌは永遠にこの塔にさまよったままだ!ミラノ、抜くんだ」
強い調子で言うその人の言葉にあたしは脱出方法はどうするんだ、と思いながら剣を引き抜いた。
その直後、塔は轟音と共に崩れていく。
そうしてあたしは崩れ行く塔と共に気を失っていった。
そんな時だったから…夢だったのかも知れない。
天から光の梯子が降りて来て天使に扮したルシフェルがミシェーヌを連れてまた天に登っていく光景を見たのは…。
そして、
『ありがとう…ございました…』
と聞こえたのも……。