ファルダーガー

　　1章・2部　マルマラ共和国　　

　風の音が聞こえる…。
　草の間を走る風の音…。
　一体、どこにいるんだろう……。
　ゆっくりと目をあけると草の間から空…青空が見える。
　ここはどこ……。
　そう思いながらゆっくりと体を起こすとあたり一面の草原。
　いったいここは…。
「ミラノ、やっと起きたのね」
　ファナが微笑みながらあたしを見る。
「ここはどこ？」
「マルマラ共和国よ。バキア様がくださったアルスーンの袋の中に『ファルダーガートラベラーズガイド』が入っているから見てご覧」
　と言うわけで、袈裟懸けに掛けている、小さなアルスーンの袋の中を探す…。
　そして出てきた、どう考えても、袋より、一回り大きな本……。
　………某何とかポケット？？？？？？
　…ま、まさかね。 　と、いうわけで初登場の『ファルダーガートラベラーズガイド』マルマラ共和国篇。
　マルマラ共和国…。
　カバネル共和国とはエジェレ洋を挟んで東側でリグリア王国とはエクアバル洋を挟んで西側にある。
　地図を見ると…ちょうど北アメリカ大陸に位置するみたい。
　山脈と大河によって３つの地域に分類される。
　一つは首都ドレステンより北のカルヴァング。
　一つは首都ドレステンより南のシルヴィング。
　そしてブタン山脈を挟んで西側がニルヴェング。
　首都ドレステンは、『シュマリナイ川』という大河によって北と南に別れている。
　ふーむ。
　で、ここは、どこ？
「あそこにビル街が見えるでしょ、あそこが首都ドレステンよ。サウスドレステン。つまりここは…」
　サウスドレステンより南だから……マンスー草原？
「そのとおり、さぁ、サウスドレステンに行きましょう」
　ファナの言葉にあたしはうなずく。
　ドレステン…マルマラ共和国の首都でマルマラ共和国の中央に位置する巨大都市。
　シュマリナイ川という大河によって北と南に分断されている。
　人口は１０００万人という多さで世界で４番目に数えられる。
　ちなみに人口の内訳はサウスドレステンは６００万人に対し、ノースドレステンは４００万人である。
　なるほど…。
　ドン。
　道にて人にぶつかる。
「あ、ごめんなさい。あたし、よそみしちゃって…」
　下から上へと顔を上げると…。
　うそ…。
「龍太郎…」
　信じられず名前を呼ぶ。 「…」
　ふとその人は不思議そうな顔をする。
　その顔を見て我に返った。
　この人は龍太郎じゃない…。
　龍太郎…嵯峨龍太郎はあたしの幼馴染み。
　でも…何で、この人を龍太郎と間違えたんだろう…。
　目の前にいる人は腰まで届く茶色い長い髪を持っている。
　龍太郎は黒髪の長い髪に反してスポーツ刈り。
　何処をどう間違ったのだろう。
「申し分けない…。私は『リュウタロウ』と言うものではなくトルニオと言う名前のものです。私もボーッとしていたので…失礼」
　と、通りすぎて言った。
「ミラノ…どうしたの？」
　ファナの言葉に我に返る。
「さ、ミラノ。ドレステンの大統領官邸に行こう。そこにはこの国の大統領がいるから…」
　そうファナは平然といった。
　と言う分けでドレステンの官邸に向かって行くと官邸の方から人が走ってきた。
　そしてファナを見て叫び出した。
「ファナ様？もしやウォールナイトのファナ・ネイピア・カイクーラ様ではございませんか？」
「あ、あなたは大統領の秘書のかた？」
「そうでございます」
　ファナの問いに息咳ってかけてきた人は言う。
「何があったと言うの？」
「じぇ、ジェルファ様が……突然……」
　そう言って彼、大統領の秘書官は言葉を濁す。
「ともかく、私と共に来てくださいませ。往来では話せない事ゆえ」
　ただ事ではない様子にあたしは思わずファナを見る。
「分かったわ」
　ファナは頷き、そしてあたしを促して大統領の官邸へと向かった。
　宮殿内に入ると人々が慌ただしく走り回り騒然としていた。
「一体、何があったと言うの？」
「はい、私共も詳しく理解できてはいないのですが…・突然大統領の様子が…急変いたしまして…。乱心と言う言葉が一番合いますでしょうか………。ともかく突然、本当に突然に人が変わられてしまったのです」
　そう秘書官の人は言う。
　ジェルファ大統領とはマルマラ共和国の２４代目の大統領でフルネームをジェルファ・ルーセ・アトラスといい、ファナが４年前にここに着たときにお世話になった人なんだそうだ。
　あたしとファナは事務次官の人に連れられ大統領がいるところまでやってきた。
「何をしている。私の許可が降りるまでこの部屋には何人も入れるなと言ったではないか。出て行け、出て行くのだ」
　尋常ではない、そうまるで…鬼が乗り移ったような表情でジェルファはあたしたちに叫んだ。
　そして、そんな大統領をファナは一目見てこういった。
「闇の力に支配されている…」
　と……。
　闇の力って何？
「闇の力を取り除くには反対の光のちからが必要なの…」
　光の力…？
　疑問に思っているあたしにファナは教えてくれる。
「光の力とは太陽神ファイザを守護とする光の魔法。闇の力とは闇の王ラジルを守護とする闇の魔法…。光の力の主なものといえばさっきも言った光の魔法。『光の剣』…。魔法といえばミラノに教えた呪文もそうね」
　と…。
　と言うことは、光の呪文をジェルファにかければ闇の力は消えるのかな？
「ま、簡単に言えばそういうことになるかしら」
　ジェルファがゆっくりとあたしたちのほうを見てこういった。
「何をしているんだ！！…！。丁度良い、私のこの力の実験台になってもらおう…」
　実験台？！
「ジェルファ正気なの？」
「ご茶ご茶言わないでもらおう。私はいたって正気なのだ」
　そうジェルファは言うと呪文を唱え始めた。
「わが闇の力…古代神闇の神エランよ、今我が前にその力を示せ…ダークファイアー！」
　するとジェルファから黒い炎があたしたちに向かってきたのだ。
　あれが闇の力なの？
「そうよミラノ。呪文を唱えて、光の呪文を！私がこの前教えた呪文を！」
　あたしたちにぶつかる前にファナが呪文を唱えたのか黒い炎は目の前で止まっている。
「ルーン・ファイザ・アバタール・ミラ。太陽神ファイザの光よ、今ここに闇を払う力となりて現われよスターライトファイア！！！」
　あたしの手から発せられた光の炎は、ジェルファにまっすぐ向かい彼を取り囲む。
「ウウワァァァアァァァァアアァァァァアア……」
　するとジェルファはもがき苦しみ…そこらじゅうをのたうちまわった。
　そして、炎が消えたとき彼のからだには驚いたことに焼け跡がまったくなかったのだ。
　…どうして？
「ジェルファ、ジェルファしっかり」
　炎が消えたとたんファナはジェルファに駆け寄った。
「ファナ？あぁ、ファナありがとう君のおかげだ…」
　うっすら止めを開けるとジェルファはファナを見ながらそう言った。
「私じゃないわよ、ジェルファ。ここにいるミラノがいなかったらあなたは私では助けられなかったわ…」
　と、ファナはあたしを見ながらいう。
　何かてれちゃうなぁ…。
「あなたは一体…」
　ジェルファはファナに支えられながらいう。
「アイル様が…三聖人がお選びになった勇者よ」
　ジェルファの問にファナは答える。
「だから…光の呪文で私を浄化することができたのですね…。私はトルニオと名乗る人物に闇の力を植え付けられてしまったのです…」
　え？
　トルニオ？
「どうしたのミラノ」
　どうしたも何もそのトルニオっていう人にさっきぶつかった…。
「まさかその前に……」
　ジェルファは闇の力に犯されてしまっていたの？
「二人とも過ぎ去ったことを後悔してもしかたないですよ…。ミラノ様…勇者であるならば太陽神ファイザの神殿にお行きなさい。ブタン山脈の中腹といわれている…。これからどんな難儀なことがあなたを待ち受けているかもしれない…。そんなことにならぬよう太陽神ファイザ様に逢われるといい」
　そう、ジェルファは教えてくれた。

　ジェルファと別れたあたしたちは車に乗り込みドレスベイブリッジを渡りサウスドレステンからノースドレステンへと向かう。
　ノースドレステン。
　商業の都市サウスドレステンと違い、娯楽の都市と言われるノースドレステン。
　カジノ、遊園地、動物園、劇場、映画館…その他いろいろたくさん存在する町。
　この２つの町には遠くアドリア王国などの国々からもやってきて…サウスドレステンで買い物をし、その後ノースドレステンで遊び帰って行くのである。
　Ｂｙファルダーガートラベラーズブックｉｎマルマラ共和国篇
　なるほどね。
　カジノね。
　しかしドレスベイブリッジはながい…。
　何キロあるのよ！！
「約１｡５キロあるわよ。ここら辺は河口じゃないから狭いほうね。河口のほうにいくと２キロぐらいあるわよ」
　うそー。
　ながいよー。
「さ、ノースドレステンよ」
　と、ファナの言葉でノースドレステンに入る。
　カジノ、カジノ、カジノ�｡
「なに浮かれてるの？」
「ねぇ、ファナ。カジノやろーよ、カジノ」
　喜び勇んでファナのことを誘うと
「だめ」
　と、冷たくあしらわれる。
　なんでよー！
「あたりまえでしょ！ミラノ。別にねカジノによって行ってもいいよ。でもここで質問。ロマの復活はどうやって止めるの？」
「え…」
「どうやってとめるの？」
　ファナに言われはたと気がつく…。
　そうなんだよね…。
　あたしは何にも分からないんだ…。
　ロマの復活を止めてほしいと言われても…どうやっていいのか分からずに途方に暮れている状態なんだ…。
「分かった？ミラノ」
　ファナの声にあたしは渋々頷いた…。
　あたし達の乗った車はノースドレステンをでてシュマリナイ川沿いにあるハイウェイに乗り西へ西へ…ブタン山脈に向かった。
　周りの景色はめまぐるしく変わる。
　林だったり平地だったりにぎやかな街があったり湖が見えたりもした。
　そして、ブタン山脈に差し掛かろうとしたところで夜になってしまったのである。
「ファナ…どうするの？夜の山越はすごーく危険だと思うんだけどな」
「そうね。今日はここで野宿じゃなくてミラノ、 アルスーンの袋のなかに入っている家をとって」
　ファナに言われたとおりに家を探す。
　でも、本当にあるのかな家なんて…。
　と、思いながらさがすと有りました。
　家らしきものが。
「そしたら、そこにおいて。１０秒したら大きくなるわよ」
　ファナに言われたとおり置くと大きな音と共にミニチュアの家は手ごろな大きさに早変わり。
「さぁ、今晩はここで一休みするわよ」
　ファナはなんのためらいもなく入る。
　もしかして『ファルダーガー』って考えているより変な世界なんじゃ…。
　そう思いながらもあたしは家のなかに入って行った。

　そのころ…とあるところではトルニオという人物が何人かを従えて話し合っていた。
「先程、マルマラ共和国の大統領ジェルファ・ルーセ・アトラスに植え付けた闇の力が光の力によって浄化されてしまった」
「なんですって、トルニオ」
　トルニオのとなりにいた女性が驚く。
「ラパス黙って」
　その女性…ラパスに向かってトルニオは言う。
「トルニオ様…どうなさるのですか？」
　と、ラパスではない女性が聞くとトルニオは少し考えて言った。
「……では、ドルドーニュ、クセイル、サンド、セオン、ミズーラはロマ様の復活に向けての手がかりを見つけること…。ラパス、おまえは私と来るがいい」
　と…。
　ラパスを連れ立ってトルニオはと有る部屋に向かう。
「トルニオ、私には何をやらせるつもりなの？」
　と、ラパスが聞くとトルニオはゆっくりと言葉を紡いだ…。
「ラパス…そなたには闇の力を消し去ったものを探し出してほしい…」
「？」
　ラパスはトルニオの言葉に首をかしげる。
「古代絶対神トルーアより神託が降りた…」
　その言葉にラパスは緊張した面持ちでトルニオの次の言葉を待つ。
　神託とは神々からくだされるおつげのことである。
「…そのもの…異界の地よりこの地に降り立つ。そのもの光の加護を受け闇の犬を従い太古の悪魔を滅ぼさん」
「トルニオ…」
「その者とは勇者のことであろう…。光の加護とは太陽神ファイザの力、闇の犬というのが少々気になるがその者がロマ様を滅ぼすに違いない。その勇者には仲間となるべき者が３人いる。一人はカバネルにいたファナ・ネイピア・カイクーラ。この者をさらえば勇者は助けに来る。そこを狙うのだ。いいな、ラパス」
　トルニオの言葉にラパスはうなずく。
　だが、彼はまだ知らなかった。
　勇者が少女であることを…。
　そして、その少女とサウスドレステンでぶつかったことも…。
「…？」
「どうしたの？トルニオ」
「…いや、気のせいだ…」
　トルニオは独り言のようにつぶやく。
　彼は外に誰かいると思ったのだ。
　事実そうであった。
　２人がいた部屋の外にはクセイルと一人の少女がいたのだ。
「どうするの？」
　少女が聞くとドルドーニュは笑って、
「では、オレ達もその勇者とやらを探そうではないか」
　と、言った。

　朝、あたし達はブタン山脈を登ってた。
　あたし達が目指すところは、太陽神ファイザ様の神殿。
　太陽神の神殿は世界中で一番夕焼けが美しいところにあるらしい。
　ガイドブックによるとね。
　し…しかし疲れるー！！
「ミラノ何やってるの？」
　上のほうからファナが言う。
　ファナは、あたしを置いてさっさと先に行ってしまっている。
　ファナのペースについて行けない…。
「ファナ、疲れたー」
　疲れきったあたしはその場に座り込んでしまった。
「そんなことじゃ、みんなに笑われるわよ」
　みんなって誰だよ！
「早くここまでおいで、ここは少し平地になってるからここで休めるわよ」　ファナの言葉にあたしは少し元気が出た。
　たった少しだけどね。
　ともかくやっとの思いでファナのいるところに着いた。
　少し休んでいるとファナがあたしに一つの質問をぶつけてきた。
「ミラノ、どうして自分が勇者に選ばれたのか不思議に思ったことない？」
　と。
　…そんなこと今まで全然考えたことなかったぞ。
　そういわれて見ればそうだね。
　そんなことを考えているとファナは話始める。
「すべては神託によるものだとアイル様…兄貴が教えてくれた。ミラノは絶対神が告げた勇者なんだって。偶然も必然も運命も宿命もすべて神々が決めたことだって…」
　静かにファナはいう。
　ファナの言う通りなのかなぁ…。
　違う世界の人間であるあたしがこっちの世界にきているんだし…。
　そう、考えているときだった。
「見つけたわ！」
　とファナじゃない声が叫んだ。
「何者？」
　ファナとあたしは声がするほうを見ると女性が一人。
　あでやかな赤の瞳に、赤褐色の髪。
　不敵な微笑みをたたえ腰には鞭…。
「私の名前はネイ・ラパス・サンラファエル。 『暗黒集団”魔界衆”』の一人。ウォールナイトファナ・ネイピア・カイクーラ、覚悟」
　と、言うと彼女はあたしに目もくれず、ファナにむかっていった。
　ファナは攻撃体制をとろうとしたときファナは何と空中に上がってしまったのだ！
　どうして？
「娘、ファナ・ネイピア・カイクーラを返してほしかったら勇者をつれ、ミシェーヌの塔にくるがいい」
　と、言い残し消えてしまった。
　あの人、あたしが勇者だってことわかってないの？
　もしかして…。
　あぁ！！どうしよう。
　ファナが連れ去られちゃった！！
　って、動揺している場合じゃないわ。
　ファナを助けなくちゃ。
　助けるためにはまず…太陽神ファイザ様の神殿にいかなくちゃ。
　そう思い、あたしは、ブタン山脈を上り始めた。
　急な斜面ももろともせず…と、言うわけにはいかなかったけど…。
　頂上か？
　と思った瞬間、目の前が真っ暗になってしまった…。
　まさか、こんなときに貧血？
　まさか……。
　いきなり目の前が黄金色の野原…いや草原…。
　そして、遠いところから高く澄んだ声が聞こえる。
　歌声…。
　静かで…果てしなく続くような高い歌声…。
　哀しく…大切なことを思い出せそうな…。
　そして…大切な思い出が忘れてはいけない思い出が守られていくような歌声…。
　どのくらい、その場にたたずんでいたのだろうか。
　あたしは、一歩足を踏み出したとたん、輝くほどまばゆい神殿が現われた。
　太陽神の神殿…。
　心の奥で思った瞬間に歩いていた。
　が…？！
　ヒュッ
　風を切る音と共に、槍が降ってきた。
　一本の槍…。
　降ってきた方向を見て見ると一人の女性がいた。
　髪は、ブロンドのロングヘアーに瞳はブルー。
　そして、耳が尖っている。
　いったい彼女は…。
「誰？」
　おそるおそる聞く私に彼女は威圧的に言う。
「私の名はライトエルフのフィア。きさまの名は何という。素性の分からぬものにファイザ様の神殿へ無断に入れるわけには行かない！」
　ひえー。
　こわい。
「名は何という」
　えーい！女は度胸、強気でゴー。
「ミラノよ」
「笑止！冗談にも程がある。ファイザ様やほかの神々がお決めになった勇者の名だぞ」
「そうよ、その勇者ミラノよ」
「ならば、その証拠を私に見せろ。私と戦い勝ったら認めてやる」
　ひえー！！
　フィアはすでに臨戦体制。
　無理だよー。
　絶対無理だよー。
　勝てるわけないよー。
「何をしている早く剣を持たぬか」
「分かったわよー」
　しぶしぶ、あたしは鞘から剣を抜く…。
　負けると分かって戦うのって何か気がおもいよー。
　あたしはこの世界に来てたぶんまだ２日３日よ。
　それなのに初めての本格的の戦いがこのエルフとなんてー。
　剣なんて無理だし…。
　やっぱり魔法しかないのかなぁ。
　やるしか…ないわよね。
　とこんなこと思いながらもフィアの応戦を防いでいるあたしってもしかして凄い？
　ともかく、まず間合いを取って…。
「何をするつもり何だ？」
　フィアの疑問にあたしは呪文で答える。
「ルーン・ファイザ・アバタール・ミラ。太陽神ファイザの光の炎よ、今、我に力を与え給え。スターライトファイアー！！！」
「光の呪文は私に聞くと思っていたのか？ルーン・ファイザ…………」
　フィアもあたしの呪文を始まった同時に呪文を始める。
「フューイ・アイファ・フルターヌ・ライ、月の女神アイファよ今その力解放せよ…」
　と言う呪文とともにあたしとフィアの呪文はかき消されてしまった。
「フィア、太陽神の御前なのだぞ…。控えなさい」
　その声とともにフィアに似ている男の人が出て来る。
「けど、セフィル…」
　不満気なフィアを無視してセフィルという男の人はあたしの傍に来て、ひざまずく。
「ミラノ様、先程は私の妹フィアが無礼を働き申しわけございませんでした。私はファイザ様の世話をしているセフィル。フィアも同じです…。ミラノ様、ファイザ様があなたをお待ちしております」
　と言った。

「きれー」
　思わず感嘆の声を上げる。
　あたしは、太陽神ファイザ様の神殿内にいる。
　あたしの真正面には黄金の玉座がある。
「ファイザ様…お連れいたしました…」
　と、セフィルが言うとその玉座に巨大な龍が現われた。
　と思う。
　その眩しさといったら…太陽を鏡に反射させたぐらいより強い光…と言っても足りないくらいの眩しさなのだ。
　さすが太陽神といわれるだけはあるかもしれない。
「まぶし…」
　思わず声を上げるとその龍は輝きを消し人に姿を変えた。
「済まなかった。私の名はファイザ。人は太陽神と呼ぶ…」
　静かにその人は落ち着きを払ながら言う。
　その落ち着きにあたしは本来の用を思いだし慌て出してしまった。
「ファ、ファイザ様…ファナがファナがファナがファファあ…？」
「落ち着きなさいミラノ」
　セフィルに肩を抱かれ少し落ち着いたのかあたしはゆっくりとファイザ様に言った。
「ファナが何者かにさらわれてしまって…」
　あ、まだ慌ててる。
　ファイザ様がファナのこと知ってるわけないのに。
「ミラノ、何も案ずるな。それより神託を聞いたか？」
　神託？
　て何？
「そなたをこの地に呼んだのもすべて神託のおかげ。神託とは神よりくだるおつげのことだ。もちろん私も予言した……」
　と、ファイザ様は一息付きまた話始めた。
「すべての神々が そなたと太古に躍進した…と言っても我々にとっては昨日のようなものだが…悪鬼について予言した。……その者、異界の地よりこの地に来る。すべての現世（うつしよ）の神の祝福を受け闇の犬を従い、太古の悪魔を滅ぼさん……」#
　ファイザ様はゆっくりとあたしに神託をお告げになった。
「ファイザ様…それがあたしなんですか？」
「そうだ…」
　あたしの質問にファイザ様はゆっくりと頷く。
　…神託って実際聞くと重みが増すと言うか…なんと言うか…。
「ミラノ、君に武器を与えよう。『双龍のメダル』を私に…」
　ファイザ様の言う通りにあたしは『双龍のメダル』を渡す。
　ファイザ様の手に渡るとファイザ様の手からひかりが溢れだし『双龍のメダル』に吸い込まれるように入っていく。
「ミラノ、メダルに手をかざして御覧」
　メダルを渡してくれながらファイザ様は言う。
　言われた通りにメダルに手をかざすと、何かがあたしの手に集まり始め…一つの剣となったのだ。
「ミラノ、それは『光の剣』。私の力の集まった剣だ。その、『双龍のメダル』が鞘となる、メダルに剣を近付けてみるといい」
　ファイザ様の言う通り、『光の剣』はメダルの双龍の間にきちんと収まっていた。
「ミラノ、君に、次に光の力を与えよう」
　ファイザ様の手からまたもや光が溢れだしあたしの中に吸い込まれたかのように入ってくる。
「これで、光の呪文は儀式を行わなくてもレベルに準じ使えるだろう。これで、君の旅もすこしは楽になるはずだ」
　と、ファイザ様は穏やかに言う。
「ありがとうございます。ファイザ様」
　なんか、思いっきり感謝ね。
「ファナの事だが…ミラノ、神託を受けたものは君の他にあと3人いる。一人はファナ・ネイピア・カイクーラ…君が助け出したい人物だ。そして、シンハンという街に神託を受けた人物がいる。その者と共にいけば助けだせるだろう」
「ありがとうございます」
　と、言う訳で、あたしはファイザ様にシンハイまで送ってもらうことになりました。
　シンハイの街は近いのかなって思ってたらなんと西海岸。
　ブタン山脈のファイザ様の神殿は東斜面。
　つまり、山越えしーの、砂漠越えしーの、なんてやんなくちゃならないらしい。
　それにね、東側から西側にいくにはほとんど空路以外にないんだって。
　そりゃ根性出せば大陸横断道路があるから車でいけないこともないけど、結構危険らしい。
　だから、と言う訳でもないけどファイザ様が送ってくれるんだからラッキーだよね。
　でも、ファナが神託を受けたなんて聞いてないなぁ。
　何で言わなかったんだろう。
　ま、いいか。
　外に出るとファイザ様は銀龍に変わり、あたしはその背に乗る。
　高度はぐんぐんあがり…ちょっと恐いかも。
　でも、気持ちいい風。
「ファイザ様、ちょっと恐いけど、気持ちいいですね」
「それはよかった」
　と、その時、一羽の白鳥が近付いて来た。
「太陽の兄様、お久しぶりで、お元気そうで何よりですわ」
　と、白鳥が喋る。
「…セアラか、今からサラの元にいくのか？」
「えぇ」
　ファイザ様と白鳥の会話が続く。
「ところで、そこの少女は？」
「我々が決めた………………勇者だ」
「まぁ………」
　ファイザ様の言葉に白鳥は驚く。
「勇者様。私は水の女神セアラ、いつかあえる日を楽しみに待ってますわ」
　そういって白鳥……は南へと飛んでいってしまった。
　……………白鳥が………水の女神セアラ様？！
　衝撃の新事実。
「あれは、私と同じように地上での化身だ、いわば変身だな。地上にいる間はこの姿でいなくてはならないんだ」
「どうしてですか？」
「いわゆる、力を押さえている姿だ。本来の姿でいると余りにも強大な力となってしまう。力が落ちている時もこの姿になってしまうのは不便だがな」
　と言いながらファイザ様は軽く笑う。
　銀龍が笑うなんて……ちょっと恐い。
　すこし経つと遠くに街が見えて来た。
「さぁ、シンハイが見えて来た。ミラノ、健闘を祈っている」
　ファイザ様はあたしを降ろしまた、神殿へと飛び出っていった。
　でも……ファイザ様が降ろしてくれた所はシンハイの町外れ…。
　中心よりはちょっと遠いわよね。
　ま、のんびりと参りますか。
　町並みは日本の商店街に近い。
　お好み焼き、たこやき、もんじゃ焼き…うー見てたら食べたくなってしまった。
「ミラノ、何やってるんだ？」
　声を掛けられ振り向くとファイザ様の神殿にいたライトエルフのフィアが居た。
「フィア、どうしてここに？」
「ファイザ様が二人目の所まで無事、お連れしろと言ったから…」
　と、無愛想にフィアは言う。
「ありがとう、フィア。あたしも実はすこし不安だったんだ」
　そう言うと、フィアは顔を赤らめる。
　フィアってもしかすると人見知りするタイプなのかもね。
「と、とりあえず、行くぞ」
「はいはい」
　と、フィアを道案内に出来たのは良いんだけど…………どうやらはぐれてしまったらしい。
　まじで、困った。
　ともかく、捜すか。
「あのー、ミラノ様ですか？」
「ふぇ？」
　振り向くとスモークブルーの髪にサファイアブルー瞳の男と小豆色の髪にエメラルド色の瞳の女の子が立っていた…。
「あの…何かようですか？」
　恐る恐る聞くと女の子が口を開く。
「はい、実はファナ・ネイピア・カイクーラのことでちょっと…」
　ファナの？
　ファナのこと知ってるの？
　あんた達、名前は？
「私の名前はパリ・ドルドーニュ・カストル。この娘はラリー・ニザナ・ヨークと申します」
　と、パリが言った時だった。
「ミラノ、やっと見つけた」
「フィア？…あ…………いない」
　フィアを見つけた瞬間パリとラリーの二人はその場から消えてしまっていた。
「……何か合った？」
「んん、なんでもない。ところで、フィア、その人だれ？」
　フィアの質問をあたしは軽く交わし彼女のとなりにいる髪も瞳もブルーブラック色のあたしと同い年ぐらいの男の人に注目する。
「あ、紹介する。彼は神託を受けた人物の一人。カーシュ・アレス・アルビータ。カバネルのスウェルナイト。つまり魔法剣士」
　とフィアが言うと彼はあたしに向かって挨拶をした。
「よろしく、オレがカーシュ・アレス・アルビータ」
　と。