1章・1部:旅立ち
風が立ちこめている。
二人の男性が、見合っていた。
そして、その二人の男性を心配そうに見ている女性が一人。
遠くより見つめる少女が一人…。
「…やめろロマ。魔力をこれ以上使うつもりなのか?」
「…ナイル…」
ロマと呼ばれた男はぼうっとナイルという男の名前をつぶやく。
「ダメよナイル。ロマは意識をなくしているわ」
女性の言葉にナイルは手を握り締め叫ぶ。
「わかっている。でも、オレはロマの名前を呼ばずにはいられない。ずっと一緒にやってきたのに…ロマ、ロマ、ロマ!」
「ナイル…」
そんなナイルの様子を、心配そうに見る女性となんの感情も湧いていない風に見るロマ。
「ロマ……」
そんなロマの様子をナイルは唇をかみしめながら見る。
その刹那。
ロマが何事かつぶやき始めたのだ。
「まさか…」
遠くで見ている少女がきがつく。
ロマが何をしようとしているのか。
「……フューイ・シンハイ・ルシファー………」
「それは、ロマ、ロマ、ロマやめて…。いやああああああああああああああああああ」
きゃあああああ!!
がばっと起き上がる。
ここはどこ。
あたしは誰…。
って馬鹿なことをやってる場合じゃない。
気をしっかり持って。
あたしはミラノ。
じゃあここは?ベットの上、だーけど…。
いったいどこ?
あたりを見回しても手がかりになりそうなものは得になく、ただ大きな窓とグランドピアノが一台。
その窓にしたって部屋の中からはベランダが邪魔をしていて外の様子は全然分からない。
でも、何か出られそう。
そう思ってあたしはベットから下りて窓をあけ外に出た。
「わーーーーー」
思わず声をあげてしまう。
そのベランダから見えると眼下には街が広がっていた。
そして、あたしが今いるらしき建物の所からまっすぐ先に2つのお城らしきものが見えた時、あたしは一つの考えが浮かんだ。
もしかして、ここって『ファルダーガー』?
見たこともない…まるで中世のヨーロッパの様な景色。
「お目覚めになった様ですね。ミラノさん」
いつの間に入って来たのか一人の女性が窓の所にいた。
どこかで見たことあるなぁっ…て、さっき家にいた人じゃないの。
「私は、この世界『ファルダーガー』の魔道士(wizard)タリアと申します。タリアと呼んでくださって結構ですよ」
冗談じゃなかったのね…、『ファルダーガー』に行きましょうって言ってたの…って。
「…私、冗談はあまり言いませんわ。ところでミラノさん、ピアノは弾けますか?」
へ?!
いきなりのタリアさんの言葉に面喰らう。
だって、いきなりピアノを弾けって…始めて来た世界で言われる言葉?
そりゃあ、弾けないことはないけどさ。
「でわ、お好きな曲を一曲、私に聞かせてください」
「………」
なんか、タリアさんが引いてくれそうにないので…弾くはめになってしまった。
「じゃあ…」
納得はいかないが…グランドピアノの前に座り3連符で始まる曲を弾く。
「…月光…ですね」
そう、ベートーベンのソナタ曲。
でも、何であたしひかされてるの?
「この世界の者は何かしら楽器を奏でることが出来ますので」
ふーん
「タリアさんも弾けるの?」
「えぇ、まだ未熟ですが」
と、謙遜する。
まだ、今一つ納得いかないんだけど…これ以上つっ込んでもしょうがないので、当初の疑問に戻る。
「ねぇ、タリアさん。ここはいったいどこ?『ファルダーガー』にいるってことは一応納得したわ」
「はい、ここはカバネル聖共和国の国都カスピ。勇者ミラノ、三聖人のお一人が先ほどからお待ちです。共に参りましょう」
と、タリアさんに促され、三聖人の一人とやらが待つ部屋と向かった。
「失礼致します。勇者ミラノ様をお連れ致しました」
その、タリアさんの声で扉は開く。
中には1人の偉そうな男性とほか数名がそばに控えていた。
「ご苦労であった…。勇者ミラノ…どのですね」
静かにその人は言った。
歳の頃はいくつだろうか…。
どう見ても30は越してるかな?
ダンディーと言っては失礼かもしれないけど、かっこいい30代って言うよりはダンディーな男という感じがある。
「私は三聖人の一人、スウェルマスター(大魔道士)のアイル・フュルト・カイクーラといいます。今から、私の言うことをよく聞いてください」
丁寧な口調でスウェルマスターアイル様はおっしゃった。
「なぜ、我々があなたをこの世界『ファルダーガー』にお連れしたのかというと…太古の昔、我らを暗黒へとつき落とした男がよみがえるからです。その男の名は…」
アイル様はあたりをはばかるように名前を言った。
「その男の名は……ロマ…。ロマ・ラゴス・ハルツーム。1万年前のスウェルマスター」
と…。
ロマ……そう言えばさっきの夢に出てきた人の名前が、ロマって言ったわよね…。
じゃあ、あれは太古の昔の出来事…。
「勇者となることに…抵抗を覚えることがあるかもしれない…。異世界からきて不安に感じるかもしれない。でも、これだけは聞いてほしい。我々は君を必要としている。君は我らの創造主、創造神ファルダーも選んだのだ…。あとはウォールナイトのファナに任せる…。あとは頼んだぞ、ファナ」
そう言い、アイル様はどこかに行ってしまった。
「まったく…。こちらへ勇者様」
そう言うファナのあとをあたしはついて行った。
いま、あたしは最初にいた部屋にいる。
「ま、よろしくね、ミラノ。あたしの名前はファナ・ネイピア・カイクーラ。ファナでいいわ」
と、彼女は自己紹介する。
ファナはさっきのスウェルマスター(大魔道士)であるアイル様の妹だそうだ。
「じゃあ、まずこの世界の創生のころから話すわね」
と言うことで始まった説明はなかなか面白かった。
『ファルダーガー』の意味は創造主ファルダーの名前からとったらしい。
地球は何からとったんだろう。
英語はアースだしローマ系から行くならゲーとかガイアだよね。
で、この『ファルダーガー』はあたし達の世界と似ているところがいっぱいあるんだって。
いわゆる相対しているわけだね。
で、国家の数が少なく八つしかないんだそうだ。
よく分裂しないなぁと思ったら、
「それぞれ自治区に別れているから分裂しないのよ」
とファナが教えてくれた。
じゃあ、アメリカみたいな州国家みたいなのね。
と納得しました。
八つの国はそれぞれ地球の地方で別れているらしい。
まず、アジア(日本抜かして)カバネル聖共和国。
日本はラプテフ王国でヨーロッパがリグリア王国。
旧ソビエト連邦がチレニア帝国でアフリカ大陸がアドリア王国。
北アメリカ大陸がマルマラ共和国でメキシコがイオニア公国。
で南アメリカがトリポリタニア合衆国何だって。
通貨は全世界一緒らしい。
でも、為替レートが違うらしい。
「次は魔法とかのことね」
と、職業(クラス)や魔法のことをすべて教えてもらった。
まず、スウェルとはカバネルにいる黒魔道士のこと何だって。
カバネルにいる黒魔道士、白魔道士、賢者はある特定の呼び方で呼ばれているんだって。
で、その呼び方が黒魔道士はスウェル、白魔道士はウォール、賢者はファラスと呼ばれているんだそうだ。
そのマスターが三聖人の方々でアイル様は黒魔道士のマスターつまりスウェルのマスターであらせられるのだ。
ほかにもウォールマスター、ファラスマスターのもいらっしゃるという。
「ファナもスウェルなの?」
と聞くと、ファナは笑ってこう言った。
「あたしは ウォールナイトよ」
と。
ファナの説明によると、ウォールナイトとは聖騎士のことで『スリーナイツ』の名称だそうだ。
『スリーナイツ』とは聖騎士(白魔法を使う騎士)、魔法剣士(黒魔法を使う剣士)、聖魔騎士(両方を使う騎士)のことを差す。
呼び方はさっきのウォールとかスウェルとかファラスとかにナイトをつけただけ。
魔法は光、水、土、火、風、魔、闇、幻術、錬金、冥王の10。
で、攻撃、補助、回復に内部でそれぞれに分かれるんだそうだ。
最後に聞いたのがさっきアイル様もおっしゃっていたロマ・ラゴス・ハルツームのこと。
ロマとは今から1万年前にいた実在の人物。
ラトニア歴1492年にリグリア王国のレムール地方(ヨーロッパでいうと旧ユーゴスラビア付近)で生まれ、1508年にカバネルにファラス見習いとしてやってきた。
16歳で出てきた訳だけどファナの話じゃ遅いらしい。
カバネルには魔法学校があってファラスやスウェル、そのほかいろいろな職業になりたい人は、たいていその学校に入学するんだって。
で、ほとんどの人は初等教育(日本でいう小学生)を、終えた12歳〜14歳できてるらしいんだ(この世界には小学校にも落第はあります。飛び級もある)。
でも、普通は3年で賢者(ファラスの称号を得ることのできる資格)になるんだけど、ロマは半年でファラス、そのあと半年でファラスマスターになれるというところまで来たのよ。
でもって同じような経歴を持つ人物がロマの親友で、現在、神様であらせられる戦いの神ナイル様。
彼も、16歳でスウェル見習いとしてやってきて、半年でスウェル、あと半年でスウェルマスターになれるというところまで来たらしい。
ナイル様とロマは幼馴染みでお互い、ともに競い合い助け合っていた仲らしい。
しかし、平和は長くは続かなかった…。
それがロマが始めた魔物の召喚。
禁呪を使い魔物達と契約を始めてしまった。
自分の理想郷のために…。
なに?この理想郷って……。
「さぁ。今となっては何でロマが何のために理想郷を作ろうとしたのか…わからないわ。でも、それは人類にとって危険なものには違いないわ」
と、ファナ。
で…それから火事が起こり風は荒れ大雨が降り大地は汚れる一方だった。
それに見かねた親友のナイルはある人物と協力し、ロマを封印する。
その『ある人物』の命を引き替えにして…。
その後、ナイルは天に引き上げられ戦いの神ナイルとして存在する…と。
読み終わってちょっと悩む。
『ある人物』って誰だろう?
ファナに聞いたら知らないっていうし。
うーむ。
一つ疑問ができたわ。
旅して行くうちに説き明かされるであろう疑問にね。
「どこ行くの?」
とあたしが聞くと
「街に旅の準備をしにね」
と、ファナが笑って答えた。
今は朝。
眠いのに起こされてしまった。
「朝じゃないわよ!お昼よ、お昼。太陽が高くのぼってるじゃないの」
ふえーん。
おこんないでよ。
「いい、ミラノ。あなた、今、勇者としてのまったく自覚ないでしょう」
「だってぇ…」
「だってぇじゃないの。ま、いいわすこしぐらいのんびりさせてあげる」
ふぅっとファナは一息付きにっこり笑った。
「とりあえず、カスピの街ぐらい案内してあげるわ。それからでも遅くないわね」
と、言う訳で、あたし達はカスピの街にいる。
しっかし、人が一杯。
道に溢れてるって感じ。
「そりゃ、そうよ。一応はカバネルの首都だもの。それなりに人口は多いわよ。でも、ここは経済の中心地って言う訳じゃないのよね」
え、そうなの?
日本人としては国の首都が経済の中心地ってなる感じだけど。
「ここはね、政治の中心地。経済の中心地はここからずーっと東にある都市。世界で一番人口が多いツーロンになってるわ」
世界で一番人口が多いってどのくらいなの?
「…………忘れたわ、あとで、誰かが教えてくれるわよ」
と、ファナはごまかす。
……知らないな、ファナ。
「人には苦手な分野と得意分野ってちゃんと2つにわけられてるのよ」
と思いっきりごまかした。
カスピの街。
窓の中から見た時は凄くきれいな感じがしたけど、人が溢れているせいなのかな…結構ごみごみしてる。
活気はあるけど…。
「…ミラノ、この街は安全なの。三聖人と『スリーナイト』がいる限りね」
『スリーナイト』って?
「……言ってなかったけ…?」
「『スリーナイツ』は聞いたけど…」
あたしに説明し損なったのを思い出したのかファナは近くにあるベンチに座って説明し始めた。
「『スリーナイト』って言うのは聖騎士、魔法剣士、聖魔騎士のマスターのことよ。ま、それをひっくるめて『スリーナイツ』って言うんだけどね」
…ってことはファナはウォールナイトって言ってたよね。
「じゃあ、ファナも『スリーナイツ』なんだ、凄ーい。」
「まぁね、周りの人は…って言うかあたしの家族なんだけど兄貴がスウェルマスターだからあたしもスウェルになると思ってたみたい。とは言ってもあたしは騎士になりたかったんだけどね」
そういってファナはにっこり笑う。
「取りあえず、いきましょうか」
いくって…どこ?
「決まってるじゃないの。訓練所よ」
くんれんじょ?
「そうよ、あなたの事を鍛えるの」
きたえる………って。
「…死にたいの?…」
ファナはあたしの様子に冷たく言い放つ。
ほぇーーーーーーー。
これは、まじだ!
訓練所につきファナはいろいろとやってる。
「何をするの?」
あたしはファナに不安気に聞く。
そんなあたしを勇気づけるかのようにファナは笑って答えた。
「少しぐらい剣が使えないとしょうがないから剣の訓練。と、魔法も使えないと勇者として意味がないから魔法の契約」
そう言いながらファナはあたしに鞘つきの剣を渡してくれた。
「ロングソードよ。剣を習いたての人は使ってるわ。細い歯だけどショートソードよりはいいわよ。どうせなら、スウェルナイトのレイピア持ってきたかったんだけど…ま、しょうがない」
と、いいながら木刀を渡してくれる。
「さ、いくわよ。ミラノ。一応魔法の世界だけど、魔法だけじゃ生きていけないわよ」
そういいながらいきなりファナの強い一発が上から入ってきた。
とっさに、防御する。
けど、痛い…。
その反動で木刀を落としてしまった。
「ミラノ、甘いわよ。その位じゃ生きていけないわよ」
と、ファナの叱咤が飛ぶ。
1時間後…当然のごとくまだファナの訓練は終わっていない。
うーうー。
大変だよー。
「まったく、実戦でやるしかないわね。模擬戦、やってても上達しない人は実戦でも上達しないからね。筋はあるわよ、ミラノ。さぁ、魔法の契約もしましょう」
ファナのあとをついて隣の部屋へいく。
その部屋はさっきの部屋と同じくらいの広さで一つ違うとすれば…床になにかが描かれているかの違い…。
あれってて、魔法陣?
「ミラノ、魔法はね。神々と契約することによって使えるようになるのよ。だから、まず一つの魔法を契約しましょう」
一つの魔法って何の魔法?
「スターライトファイアよ」
スターライトファイア?
「太陽神ファイザの特別必殺呪文よ。さぁ、契約するから魔法陣の中心に行って」
あたしは、ファナに言われたとおりにする。
「じゃあ、始めるわね。絶対神シーアンの息子、太陽神ファイザに願います。ミラノ・フォリア・ウォールスに汝が力、分け、与え賜え」
すると、魔法陣の中心、つまりあたしの足元から光があふれだしあたしの中に吸い込まれるように入っていった。
「さて、これで契約おわりよ。宮殿に戻りましょうか」
宮殿に戻るとファナはアイル様の所に行き、魔法の契約をした事を話した。
「スターライトファイア…太陽神ファイザの」
そう言ったきりアイル様は黙りこくってしまった。
そのアイル様に代わってエト様(ウォールマスター)はこう言った。
「その装備では、これからが大変だ。ささやかではあるが私たちから装備のプレゼントをしよう」
と。
三聖人からのプレゼントは隣の部屋にあった。
そして、いそいそと装備に着替えるあたし。
「ミラノ、『双龍のメダル』ある?」
「あるけど、どうして?」
と聞くあたしにファナは真面目に答えた。
「前、言ったでしょう。この世界は魔法中心の世界だって。いくら、剣士や騎士がいても魔法の力には勝てないの。そのため、魔法に対する防御が必要になってくる訳。その『双龍のメダル』は魔法防御は最高よ。だから、きちんと身につけなさい」
と、ファナの言うとおりあたしは、『双龍のメダル』を身につけた。
「では、三聖人に挨拶をしてからいきましょうか…」
と、いう訳であたし達は三聖人に挨拶をしてからカバネル聖共和国の国都カスピから旅だったのである。
あたしはファナが運転する車に乗っている。
「どこいくのー」
「スクワの街よ。」
ファナはそう答える。
ここから、20km先にあるらしい。
遠いわ。
「なんのあてもないからね。遠いなんて言ってられないわよ、ミラノ」
はーい。
確かに、ファナの言うとおりなんのあてもない旅。
どうすればいいのだろう。
ロマを倒せなんて言われたってさ、手がかりがなくちゃしょうがないじゃない。
ふぅ大変。
ん?ファナがボケーッとしている。
どうしたんだろう?
その時あたしは気がつかなかったのだ。
ファナが惚けていたのではなく、何かに耳を済ましていたのを。
そして、聞こえてくる、何かのエンジン音。
『プルプルプルプルプルプゴゴゴゴゴゴゴゴゴッゴオオゴオオゴオオゴオオオオオオオ』
何この爆音?
ヘリコプター?
「ミラノ、しっかりつかまって。カスピに戻るわよ」
そう言いながらもファナは車をUターンさせていた。
そう、ファナは、あの爆音に注意していたのだ!
でも、なんで?
空を見ると飛空船らしきものが飛んでいた。
それを見て、ファナはつぶやいたのだ。
「…チレニア帝国…」
と…。
宮殿の三聖人の間に戻ってきたあたし達。
あれはなんだろうという疑問に襲われているあたしを無視して、ファナは三聖人…アイル様に詰め寄った。
「どう言うことですか?あれは、あの飛空艇は!ここからでも見えるでしょうチレニア帝国の飛空艇が。サミット(国際会議)で決まったのに…チレニアは現に不可侵条約を破っているではありませんか。それでも、黙っていろというのですか?兄さん!!……?!」
一瞬、時が止まった様に感じられた。
エト様もバキア様も驚いてアイル様を見ている。
もちろんあたしも、ファナも…。
そして、一番驚いていた…アイル様…。
そう、アイル様がファナをぶったのだ。
「……失礼する」
思わぬことでいたたまれなくなったのか…アイル様は部屋から出て行ってしまった。
「バキア、二人をあそこへ……。私はアイルを追う」
と言うエト様の言葉にバキア様はうなずきあたし達を促した。
そうして…やってきたところは地下神殿だった。
「ここは…」
ファナが目を見張る。
あたし達の目の前にあったのは一つの扉。
なんの変哲もない。
「まさか…これが…」
「そうだ…ファナ。これが伝説に伝わる、空間転移の扉だ…。ミラノ、先程の状況、君はわからないだろうから説明するよ。先程、君達が見たのはチレニア帝国の巡視艇だ…。チレニア帝国は過去に何度も領土侵犯を犯してね…その度にサミットで問題になってきたのだ。チレニアには事情があるのだと説明されても、その事情が何か我々は分からない。その事情を説明してほしいと言っても説明しない。そんな中…アイルが突然言い出したのだ…。事情は私が知っている…と」
「そして、二度と侵入はしないだろうと、兄さんは言ったのよ」
言葉を止めたバキア様のあとをファナが続けた。
「でも、チレニアは領土を犯した…って言うわけ?」
と言うあたしに二人はうなずく。
「そうだ。さぁ、この中に入ってくれ。私たちはアイルから状況を聞き出さなくてはならない。空間転移の扉は一方通行だ。世界にあと何か所あるのか我々は知らないが…必ず役に立つ扉なはずだ。さぁ、ミラノ、君にアルスーンの袋をあげよう。何でもはいる袋だ。これさえあれば便利だ。さぁ、行きなさい!ファナ、ミラノを頼んだぞ。最初がおまえで安心した」
と、バキア様。
でも、最初がおまえで安心したってどういうこと?
「おっと、言い忘れた。ミラノ、そなたを助けるものはファナを含めて3人いる。まずはその残りの二人を探し出しなさい。では、勇者ミラノ、ご武運をお祈りしています」
その言葉にあたしとファナは空間転移の扉の中に入っていった。
これから待ち受ける運命がどんなに過酷なものであるかも知らずに、あたしはやっぱり、お気楽極楽で入っていったのだ。