ファルダーガー

  第5章 ・3部 レグダル公  

 トロワさんが住むヴォレイン城で過ごすこと3日。
 ワール・ワーズも到着し、トーニックもリランとライナス以外はこの城に集まった。
 そして、闇の王エラン様の神殿にも行けないまま、あたしはこの城に閉じこめられていた。
「閉じこめてるつもりはないけど、でもエランが居るラークの都がどこにあるか知らないでしょう?」
 うっ……詳しくは知らないけど………。
 街で人に聞けば……。
「誰かが一緒に行ければ良いんだけど、一応作戦前だって事理解してる?」
 してるわよ、ラテスのバカー。
 だから、こうやっておとなしくしてるんじゃない。
「まぁ、そうすねない。終わったらこの一件が終わったら逢わせるって言う約束になってるから安心して。さて、ライナスとリランの二人がそろそろこの城にやってくる頃だから、出迎えてあげて」
 そう言えば、二人はどこに行ってたんだろう?
 ラテスの言葉に頷きあたしは二人を出迎えるために城を出て門の所まで向かう。
 ヴォレイン城はこのルトマルク地方の領事館もかねているけれど、それほど大きな城というわけじゃなく、玄関に当たる入り口から門まではさほど遠くない。
 その門の所にたどり着いたときにはリランとライナスは到着するところだった。
 一人の男の人を伴って。
「リラン、ライナスっ。二人とも遅かったね。センターたちもう着いてるよ」
「知ってる。オレ達はレグダル公を迎えに行ってたんだ」
 とライナスは隣の人に目を向ける。
 銀髪にさらさらヘア…いわゆるマッシュルームカットに、青い瞳の男の人……レグダル公が笑顔を浮かべてあたしの方を見ている。
「初めまして、黒髪のお嬢さん」
 とキラッキラな笑顔を浮かべて声を掛けてきた。
「え、えっと……初めまして」
 あたしから名前いった方が良いのかな?
「ミラノ・フォリア・ウォールスです。レグダル公」
 そう言えば彼は目を見開いてあたしを見つめる。
「貴女が勇者様でいらっしゃいますか」
 ゆ、勇者様……って言われるのやっぱりなれないなぁ。
「私は、フェルディナンド・ルカ・アレグリーニ・マグヌス三世と申します。皆は私の事をレグダル公と呼びますが、貴女には他人行儀にレグダル公と呼ばれたくはない。どうぞ、親しげにフェルとお呼びください」
 と仰々しくレグダル公もとい、フェルさんは言う。
「あ、あのフェルさん?」
「あぁ、敬称も必要ありません。ただ、フェルとお呼びください。ミラノ様」
「じゃあ、あたしも様は……」
「あぁ、いけない。それはいけない」
 芝居がかった風にフェルは言う。
 な、何なんだろう……。
 この仰々しさは……。
 この人の芝居がかった態度は。
「貴女は勇者だ。貴女は敬称を付けてしかるべき方だ……。ソレを受け入れて欲しい」
 ど……どう、対応しろって言うの…。
 リラン、ライナス〜〜。
 助けを求めようとリランとライナスを見れば二人は諦めたように首を振る。
「ミラノ、気にしない方が良いぜ。レグダル公はこういう方だって割り切った方が良い」
 って、リラン……。
 こんな人今まであったことないから……。
「ルカっっ。何やってるの!!!」
 と怒鳴り声。
「ま、マリーナさん。どうしてココに」
 やってきたのはマリーナさん。
 なんで、リゼールにいるはずのマリーナさんがココにいるの?
「父の事で皆様方の手を煩わせているというのに、私だけがロマーニャにいるわけにはなりません。父の事も心配ですし、少しだけでも力になれればと参りました」
 そう言うマリーナさん……。
 本音は違う所にあるような気がするけど、お父さんであるトロワさんが心配だって言うのも本当だろうと思う。
「ミラノ様、先ほどはルカがご迷惑を掛けていたようで、トーニックの皆様方もルカの護衛は大変だったでしょう?心中お察しいたします」
「私は、別に迷惑など掛けては居ない。マリーナ、お前の思い過ごしであろう」
「その変な仰々しいしゃべり方をやめろと言ってるの!!!!」
 ま、マリーナさんとフェルさんはかなり親しいようだ。
 どういう関係なんだろう。
「かなり親しいみたいですけど」
「幼なじみ…と言っても良いでしょうね。ファナもルカの事はよく知っています。ルカ……フェルディナンドは幼い頃ロマーニャに住んでいたんですよ?今は通称の通りレグダルですけど」
 レグダルって場所の名前なの?
「はい、エンブルグ地方の首都にあたります」
 成程、そうなんだ。
 そこの領主なのかな?
 だからレグダル公って呼ばれてるんだね。
「早く参りましょう。ラテス様もお待ちでしょうし」
 ………やっぱり、それ?マリーナさん。

「マリーナ、ロマーニャからわざわざ済まないね」
「ら、ラテス様。父のためです。ら、ラテス様がお気になさる事ではございません」
 ヴォレイン城の大会議室にあたし達は集まる。
 相変わらずマリーナさんはラテスと話すだけで視線が定まらない。
 ラテスも分っていながらマリーナさんと会話しているからますますマリーナさんの挙動が不審になっていく。
 気の毒としか思えなくって、なんだかマリーナさんが不憫に思えてくるから、ラテスが悪役に見えてどうしようもない。
 笑っちゃ行けないって分ってるんだけど、おかしくなってしまうのはマリーナさんの行動がラテスと話す度にテンパってくる所なんだろうな……。
「リランとライナスもご苦労様」
「全くだよ」
 そう答えたリランの言葉にラテスは苦笑いを浮かべる。
 何が大変だったんだろうか。
 会議室に今回の作戦のメンバー全員が集まる。
 あたしとラテス、ルトマルクの領主であるトロワさんに娘のマリーナさん、ワール・ワーズの3人にカーラ、トーニックの5人とそれからフェルさんの計14人が顔をそろえた。
「まずは、現在までの状況を説明して欲しい」
 フェルさんが口火を切る。
「エルフ保護政策に違反していると連絡があったのは二ヶ月前の事です、場所はディア近郊。数名のエルフが連行されていると通報が入りました」
 二ヶ月前はまだあたしが守護庁で修行してたか…ファルダーガーに戻って来たばっかりか。
「内偵を進めた結果、その周辺でエルフが行方不明になっている事までは突き止めたのですが、それ以上は……。邪魔もあり進める事が出来ませんでした」
 とトロワさんは悔しそうに言う。
「条約違反は厳重な処罰が下る。ソレを畏れて慎重になっているのだろう」
「でしょう」
 フェルさんの言葉にトロワさんは頷く。
「で、結果は?」
 ラテスがトーニックの方に目を向ける。
「中央政府反乱分子と思われる人物数名がココよりディア近郊に集合中である事を確認。ルトヴェイグの森よりエルフが連れ出されるのを確認。未然に阻止はしましたが」
「ルトヴェイグは…幻惑の魔術がかかってるけど…」
 センターの説明にカーラがうつむく。
「ちょっと弱い?」
 ラテスの言葉にカーラが頷く。
「首謀者の確認は」
「とれた。スコット・バーンズ伯爵、スティーブン・フォード伯爵、オズバルド・カルデナス卿、そして前ルトマルク領主マルセル・フェルンバッハ候。4名が目立った中心です」
「調べたところバーンズ伯爵、フォード伯爵はエルフ保護政策反対組、カルデナス子爵、フェルンバッハ侯爵は中央政府、特にトロワ公に対する反乱という話があります」
「レグダル公、バーンズ伯爵、フォード伯爵に対する記憶は?」
 ラテスが問い掛けるとフェルさんはうつむく。
「保護政策反対派の中心と言われていた3年前に逮捕したマティアス・ヴルピウスの腹心、パスカル・ラ=トゥールの取り巻きだ。ヴルピウス侯爵やラ=トゥール子爵も捕らえた折は己の保身の為に賛成派に回っていたが……。そうか………カルディナス子爵もか……」
「私に対する不満もあるのでしょう。レグダル公」
 センターとショウの説明を聞いたトロワさんはぼそっと呟く。
「トロワ卿、卿は正しい。エルフ保護政策にはじめから賛成の立場を取っている。愚かな事をやめさせようとこのリグリアにエルフ保護政策を持ってきたのはトロワ卿ではないか。私も卿の意見に賛成した。反対の立場である者からすれば卿の行動は全て不満に思えよう。それは卿の責任ではない。正しい事を正しいと理解した者が何故否定されねばならない。そうであろう?トロワ卿」
「……レグダル公……。有り難う御座います、レグダル公。正直、公のご協力を頂けるとは思ってもおりませんでしたのでそのお言葉、大変心強く思います」
「何を言う、場所は違えど立場は同じくする者同士ではないか。共に頑張ろう」
「っっ。レグダル公、恐悦至極にございます……」
 感極まってトロワさんは泣き出さんばかり……。
 な、何でだろう。
 なんだろう……。
 トロワさんより、フェルさんの方が偉いの……?
 えっと、こっそり調べてみよう〜。
 もちろんトラベラーズガイド!!!リグリア王国編。
 レグダル公とは。
『レグダル。リグリア王国西に位置するエンブルグ公国の首都。リグリアでもっとも早く近代化に成功し早くから工業が発達した工業都市である』
 ふーん、ロンドンみたいだね。
 場所も、ロンドンっぽいしね。
『ちなみに、』
「ミラノ?聞いてる」
 え?!!  声を掛けられ顔を上げてみればラテスが苦笑してあたしを見てる。
「調べ物は後でにして、今はこっちね。直接関係ないってのもなくはなかったけどね」
「えっと…ごめんね。で、どうするの?」
「うん、今から連中が居るである場所について説明しながら作戦内容について話すよ。城はディア近郊にあるアルノルト城」
「アルノルト城は、マルセル・フェルンバッハ侯爵の所有している城です」
 とセンター。
「寄りによってアルノルト城ね……」
 ため息をつきながらチェスが言う。
 アルノルト城って何か問題があるの?
「ラテス、3年前の話どこまでした?」
 不思議に思っているあたしを見てマレイグがラテスに問い掛ける。
「軽くしか。今回の件には関係ないでしょう?前回の首謀者は捕まっている。その取り巻き連中がその中心だし」
「3年前あたしが捕まってたところだよ〜」
 ラテスの言葉を遮りながらカーラが軽く言う。
 カーラが捕まってたところ?
「そう」
 って、そんな明るく頷かれても…。
「気にしなくて良いよ。元々は違うところにいたんだけど、逃げ出して、そこに捕まったって言うか、そんな感じ?」
「最初、逃げ出したときはディアじゃなくってリゼールにいたんだよ」
「あの頃は東リグリア一帯がエルフ保護政策の反対地域だったからな。ひどいのはルトマルクだったけれど。リゼールにいたときは逃げ出して、ディアの時は自分から行ったんだっけ。ソレを思えば今はリグリアも平和になったと言うか……」
 クロンメルの言葉にカーラはえへへと笑う。
 でも…
「今もリグリアでは布をかぶらないと歩けないんだよ」
 そう寂しそうに笑う。
 そう言えば、思い出したけれど、カーラに最初に逢ったのはラプテフの山合の道だったけ……。
 周囲には人影もあまりない場所だったっけ。
 脳天気に見えるけれど、やっぱり大変だったんだって今の表情で分ってしまった。
「で、どうするの?あたしはどうすればいいの?」
 たとえ、怖いとか、不気味とかそう思っても。
 迫害や虐待はやっちゃ行けないんだって思う。
 人にせよ、何にせよ。
 エルフは人じゃないって言う人がいても、生きているのは同じなんだもんね。
「まあ、焦らずに話を聞いて。アルノルト城がどういう城だか把握しないと動けないんだから。はい説明」
 ラテスはセンターに説明をせかす。
「ふぅ…。アルノルト城。正確にはアルノルト城塞都市」
 城塞都市??
「そう。城壁の内部にアルノルトの街がある。リグリアには珍しく絶対神の信仰地だ」
「シーアンの信仰はリグリア中央部から東部、特にルトマルクに多いね。やっぱりアナトリア山脈が見えるからかな?」
 でも、シーアン様の神殿ってアナトリア山脈でもカバネル側にあるんじゃなかったっけ?
「関係ないよ。信仰する人にとっては神が居る山脈として崇拝の対象になる」
 あぁ、言われてみれば、そうか。
「作戦は、ワール・ワーズで都市部を制圧」
「制圧は言葉が悪いよ。ボク達で中の市民を誘導させるって事でしょう?でワール・ワーズの新曲なんてどう?」
「まぁ、派手な方が問題ないけどね。で、その間にトーニックはアルノルト城内部を制圧」
 ワール・ワーズの行動とトーニックの行動を設定していくラテス。
 あ、あたしは?
 あたしはどうすればいいの?
 トーニックと一緒に内部制圧?
「んん、フェルと一緒にボス倒し」
 ボス倒し??
「その意図は?」
 ラテスの言葉の意味を計りかねているあたしをよそにフェルさんがラテスに問い掛ける。
「ワール・ワーズが動くと言うことを理解させると言うこと。連中はその意に気付く。ワール・ワーズはオレの名代であるらしいと聞いていれば」
「つまり反対派の逮捕にカバネルが動いていると言うこと」
「そう、同時にトーニックを踏み込ませ一部はエルフ救出、同時にボスを追い詰める。そして逃げ出すようにし向け、待ち伏せして捕らえる。その方法が一番良いでしょう?」
 ラテスの言葉にフェルさんは頷く。
「待ち伏せ?あたしはそこで待ってればいいの?そんなんで良いの?」
「良いんだよ。ミラノちゃん。マリーナもいいね」
「は、はいラテス様。私の力どうぞ、お使いくださいませ」
 な、なんか拍子抜けた。
 そんなんで良いのかなぁ。
 まぁ、大層なこと出来るわけでもないから……しょうがないか。
 ソレよりも。
「待ち伏せだけど、出てくるところ分るの?
 結構抜け穴とかあるんじゃないの?
「問題ないよ。オレたちの歌で全面包囲するから。抜け穴なんて見つけられない。オレたちの歌で包囲して誘導するんだから」
 とクロンメル。
 大丈夫なんだよね。
「まぁ、城塞都市であるアルノルトだから出来ることだよね?」
 ラテスの言葉にあたし以外の人達は頷いた。

「み、ミラノ様」
 広間でのんびりとしていたらフェルさんがあたしに声を掛けてきた。
「あ、あの〜様を付けるのをやめてもらえませんか?」
 やっぱりなんか恥ずかしい。
「何故?」
 何故って、さっきも言ったような気がするんだけどなぁ。
「では、ミラノさんでよろしいですか?」
 あたしが困っているのを見てフェルさんは言う。
 それぐらいならば、問題ないけど……。
「お一人でおられるのを見受けまして、ミラノさん、心配ですか?あの作戦を?」
「え?そんなことないですよ?何でそう思ったんですか?」
「あの時、不安そうな表情をなさっていたので」
 不安っていうか、あたしがやることは待ち伏せしてるだけで良いのかなって思っただけで……。
 作戦に不安とかは全くないんだよね。
「ミラノさんが私やマリーナと共に待つ作戦というのは正しいと思います。さすがラテス様だ。貴女のことが心配なのでしょう」
 そ、そうかな……。
 まぁ、そうだよね。
 勇者だっていったってあたしは新米と同じようなもんだし。
 よく考えてみれば、何も出来ないのと同じなんだよね、あたしは。
「フェルさんフェルさんの言うとおりだよね。ラテスは心配してくれてるんだよね」
「フェル…と呼んではくださらないのですね」
 え………。
 やっぱり呼んだ方が良い?
「えぇ、呼んで下されるのであるのならば」
「分った」
 随分とこだわる人だなぁ……。
「ソレより、今回の作戦を貴女はどう思われますか?」
「え?」
 別に、いいか、悪いかなんて判断は出来ないよ。
 あたしは作戦考えるようなこと出来ないもん。
「ラテスが考えたことだし。トーニックもワール・ワーズもいるし……。ラテスがあんな風にワール・ワーズに全面的に信頼をしているって言うことはワール・ワーズって結構すごいんだよね?」
 ラテスは神様だもんね。
 その神様が信頼してるワール・ワーズだもん。
「それに、フェルもマリーナさんもいるし。あたし一人なら不安でしょうがないけど。そうじゃないから大丈夫」
 言ってて分った。
 一人じゃ不安だわ。
 ラテスが心配するの分った。
「ミラノさん……。貴女の言葉に勇気づけられました。共に頑張りましょう」
 え?
 あたし、勇気づけるような言葉言ったかなぁ?
 思わず、悩んでしまった。

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