ファルダーガー

  第4章 三種の神器を求めて・1部 炎の剣と氷の剣の所持者  

「ここは、どこ?」
「カバネルのカスピ」
 そう、ここはカバネル共和国国都カスピ。
 ラテスの呪文?ラテスの力でここまで来た。
「ミラノちゃん、取りあえず聖上庁にいって三聖人に会おう」
「どうして?守護庁に行ってゼルとマリウスに会わなくていいの?」
「うん…それもあるんだけど。ラプテフに対しての今後の対応を話さなくちゃならないしね」
 じゃあ、あたしの事先に守護庁に送ってよ。
「そう言う訳にはいきません。さ、聖上庁に行こう」
 納得いっていないあたしをよそにラテスはあたしを聖上庁に連れて行く。
 街はすっかり元の様子を見せる。
 復興して行く街をみてふと思う。
 人間と言うのは、なんて強い生き物なんだろう。
 個々の力は弱くても人は助け合って行けば生きていける。
 ふと、気付く。
 あたしは今まで誰かに助けられて生きて来たと言う事を……。
 ……突き詰めて行くと……なんかサガに辿り着くわねぇ。
 今まで、きちんと考えてこなかったけど…あたし……。
「ミラノちゃん」
「へ?」
「何ボーッとしてるの?」
「もう着いたの?」
「あのねぇ、ほとんど歩いてません。さ、行くよ」
 あ…うん。
 あたしは思考を中断して三聖人がいる聖上庁に向った。
「お久しぶりです、ラテス様。お元気そうで何よりです。ミラノも元気そうだな」
 バキア様はにっこり笑っておっしゃったけれど…隣にいるエト様は表情が渋い……。
「ラテス様、ラプテフと通信が不通になっているのですが……」
「その事を伝えにきたんだ。今、ラプテフには列島結界が張られている」
「列島結界…ですか」
「我々はどうしたらいいですか?」
 ラテスの言葉にバキア様とエト様は言葉を止めた。
「頼みたい事が一つ」
「何でしょう」
 そして、沈黙の後のラテスの頼みにバキア様とエト様は聞く。
「『スリーナイト』の二人をミラノに貸して欲しい」
「二人?」
「…ゼルとマリウス」
 バキア様とエト様は一瞬顔を見合わせ言う。
「分りました」
「いいんですか?」
「構いませんよ、ミラノ。ゼルもマリウスもラプテフ育ち。サガがこの場にいないのですから…」
 エト様の言葉にあたしもラテスも黙り込む。
「じゃあ、守護庁に行きたいんだけど…いいかなぁ?」
「え……ええぇ」
 ラテスの質問にバキア様がどもる。
「どうしたんですか?バキア様」
「いえ…何でもないですよ。ミラノ様、くれぐれもよろしくお願い申し上げます」
 と、バキア様の代わりにエト様があたしに言う。
 エト様の言い方が凄く気になったのだが問いつめてもおっしゃってはくれなさそうな気がしたので止めにした。
 そして、守護庁に向ったのだ。
「ミラノ、久しぶりじゃない」
 守護庁の入り口の所でキラに出迎えられる。
「キラ!久しぶり」
「元気そうね。ラテス様、お久しぶりです。ラテス様がお変わりなく何よりです」
「君も、元気そうだね、キラ。ところで、マリウスとゼルはいるかなぁ?」
「おりますが…どうかなさったのですか」
 キラはラテスのただならぬ気配に身構える。
「早急な用ができたんだ。キラ、君も同席して欲しい」
 ラテスの言葉にキラは近くに居た『スリーナイツ』の人にマリウスとゼルを会議室に来るように伝え、あたし達を案内する。
 でも、エト様&バキア様のちょっとした動揺ぶりの源である、守護庁からは何も感じられない。
 キラは…平然としてる。
 ただ無理して平然としているような感じも受け取れた。
 会議室に行くと、マリウスとゼルが待っていた。
「ミラノ、久しぶりだな。きちんと修行はやっているか?ラテス様もお久しぶりです」
「マリウス、久しぶりの挨拶がそれじゃミラノが可哀想だぜ。久しぶりだな、ミラノ。ラテスも」
 マリウスとゼルに挨拶もそこそこにラテスは話はじめる。
「久しぶりの再会を祝して…って言う状況じゃないんだ。マリウス、ゼル、オレが言う事を心して聞いてほしい」
 ラテスのただならぬ様子にマリウスとゼルは緊張する。
「……ラテス様がこの守護庁にいらっしゃった時点で…想像は出来ています。何なりとおっしゃってください」
 マリウスの言葉にゼルも頷く。
「わかった…。では、言おう。…ラプテフに現在、列島結界が掛けられている。そして、掛けた人物はキアン・セロ・メッシュ」
「…父上…………、いや、侍マスターと国王夫妻は…」
「現在、行方不明だ」
 ラテスの言葉にマリウスは絶句する。
「…で、オレ達にどうしろと?」
 言葉を失ったマリウスの代わりにゼルが単刀直入にラテスに聞く。
「…これから、オレとミラノはカーシュとファナを連れて列島結界を外部より解く鍵である三種の神器を捜しに行く。三種の神器を見つけたら、君たちと一緒にラプテフに行く。キラ、君はここにいてほしい」
「はい…それは構いませんが……。…ラテス様…実は申し上げにくい事があるのですが……」
 と、キラが遠慮がちに言う。
「なんだい?キラ」
 ラテスはそんなキラの様子を気にしながらも聞く。
「カーシュのことなのですが……」
 カーシュがどうかしたの?
「………えぇ、まぁ」
 キラの歯切れの悪い返事にあたしとラテスは顔を見合わせる。
「いいよ、キラ。言ってごらん、おおかたの予想はついてるから」
 と、ラテスは言う。
 予想?
 あたしには全然ついてないよ。
 もしかして、カーシュは逃亡したって言うの?
「はい、分かりました。では、私たちの後を着いてきてください」
 そういって、キラ、マリウス、ゼルの三人は部屋を出、あたし達を促す。
「…ラテス、おおかたの予想ってどんな予想?カーシュは逃亡でもしたの」
 あたしの疑問にラテスは軽く答える。
「逃亡はしてないよ。別のこと。ミラノには想像はつかないよ。これは、あの人たちのことだから」
 あの人たち?
 って…どの人たち?
「ラテス様、あの人たちって言うのはどういうことですか?」
 マリウスがラテスの言葉に反応する。
「秘密だよ。まだ言えないし、まだ確実となったわけじゃない」
 そういってラテスはその場を濁す。
 ますます、謎は深まるばかりだよぉ。
「こちらです」
 キラ達三人に案内されて来たのは一つの部屋。
 そして、キラは扉を開けたのだった。
 その部屋の中には燃え盛る炎がある一角を占めていた。
 そして、その中心には『炎の剣』を構えたカーシュがいた…。
「やっぱりね…」
 ラテスはそのカーシュを見てそう言った。
「カーシュは大丈夫なのですか?」
 マリウスがラテスに聞く。
「大丈夫だよ。今、カーシュは『炎の剣』の審判中。つまり、正当な使い手か『炎の剣』自身がためしてるんだよ。まぁ、この分じゃ大丈夫だけどね」
 と、ラテスはかるーく言う。
 ここで、素朴な疑問。
 だめの人だったらどうするんだろう。
「だめだったら、炎にまかれた時点で意識がなくならない」
 意識がなくならない???
「つまりね、この炎は幻火の炎つまり、火の女神タクラの炎の中に意識が取り込まれる事になるんだよ」
 意識が取り込まれるって事は意識がなくなって、炎の中でもぼーっと立っていられるって事?
「そういうこと」
 じゃあ、どうやってカーシュは起きるの?
「ミラノ、『炎の剣』をつかんで」
 ………。
 どういうこと?ラテス。
 あたしは、突然のラテスの言葉に戸惑う。
 燃え盛る炎の中に手を入れるわけ?
 あたし大丈夫なの?
「大丈夫だよ、ミラノ。タクラは君の事を認めているよ」
 って言うか……、まぁ、いいけどさぁ。
 ともかく、あたしはラテスの言う通りにカーシュがつかんでいる『炎の剣』の柄をつかんだ。
 その瞬間、炎は消え去ったのだ。
「ふわぁぁぁぁぁぁよくねた」
 一発目のカーシュの言葉がそれだった。
「カーシュ……」
「ん?ミラノ。ひさしぶりじゃねえか!!元気だったか?ってオレ何でここにいるんだ?」
 カーシュはいまいち自分のおかれている立場が分かってないらしい。
「……カーシュ、お前…今まで自分に何が起こってたのか分かってないのか?」
「ん?マリウス何言ってるの?それ、オレが聞きたいよ。いきなり、『スリーナイト』全員そろっててしかもミラノとラテスの野郎までいやがる。いったいどうしたんだよ」
 と、カーシュは『炎の剣』を鞘に収めながら言う。
「カーシュ、オレが説明してやるよ」
「……ラテス、なんで、てめーに説明されなきゃならねーんだよ」
「カーシュ!!!ラテス様になんて口の聞き方するの!申し訳ございません、ラテス様。カーシュ、ラテス様に謝りなさい!」
「な…、なんだよぉキラ。別にいいじゃねーかよ」
「いいから!!」
 カーシュの暴言にキラは大慌てでラテスに謝りカーシュをどつく。
 ゼルと、マリウスも一緒に。
 …………何で『スリーナイト』はカーシュの暴言にこうも過敏に反応するんだろう……。
 やっぱり、神様って本当なのかもしれない。
 ………なんの神様だか聞いてないけど。
「で、なんだよ」
「おまえは、『炎の剣』の審判を受けた。つまり、正当な持ち主にふさわしいかどうかだ。見事お前は、その審判に勝ち、『炎の剣』の正当な持ち主と認められたわけだ」
「ふーん。じゃあ、この『炎の剣』はオレの物ってことか?」
「ま、一応はそういうことになる」
 ラテスの言葉にいまいち納得してないのか『炎の剣』を鞘から抜き眺める。
「ふーん……まぁ、いっかぁ」
 そういってカーシュは納得し『炎の剣』を鞘に収めた。
「ふぅ、ともかくカーシュ、『炎の剣』に認められたからと言って修業を怠るんじゃないぞ」
 いきなり、マリウスのカーシュへの説教が始まる。
 キラとゼルはまた始まったって言う顔をしている。
『ラテス……久しぶりだね』
 突然、声が聞こえる。
 少し高めの男の人の声………。
 ラテスの方を見ても窓に寄り掛かりながらカーシュとマリウスの様子を見ている。
『いきなり出てきてびっくりさせないでよ』
『君も厄介事を持ち込むよね』
『これはこっちのセリフ。本当にいいわけ?あのカーシュで』
『いいんだよ、二人で決めたんだから』
 そういって、その声はもう聞こえなくなってしまった。
 まだ、カーシュはマリウスのお説教を聞かされている。
 と言うかゼルがちょっかいをかけて、話を長引かせている。
「何、ミラノちゃん」
 ぼーっとラテスを見てたらラテスに言われる。
「ラテス、今誰と話してたの?」
 そういうあたしにラテスはにっこり笑って言った。
「ミラノちゃん後で全部分かるよ。何でカーシュが『炎の剣』に認められたのか。それから、今の声は誰なのかもぜーんぶ後で分かるから」
 と。

『意識がどこかに飛んでいく』
 ファナは氷に包まれながらそうつぶやく。
 そのつぶやきさえも取り込まれて周りには聞こえない。
「ファナ!!何があったの?」
 ロマーニャの城主マリーナ卿は10年来の友人に向かってそうさけんだ。
 ファナは突然自分の意識の中に入り込んだ人物に話しかける。
『あなたは…誰?』
『この氷に包まれながらも私を認識できるなんて…さすがカバネルのウォールナイトね』
『……それは褒められているの?』
『もちろんよ、最大級の賛辞だと思ってくれてもいいわ』
『あなたは…誰?私のことを知っているあなたは』
『最初の質問ね。私は今、この『氷の剣』を通してあなたに近付いた者よ。一応意識はこの『氷の剣』とともにあると思ってもいいわ』
『……水の女神セアラ?なの』
『違うわ。確かにこの『氷の剣』はセアラの剣だけれども、私はセアラではないわ。私は、セアラに助けてもらってあなたに接触してるの』
『何故?私に』
『あなたの属性が水だから。じゃ、駄目?』
『私の属性はあなたが私に話しかけている理由にはあまり関係ないと思うんですけど』
『そうね。他の理由…いいえ本当の理由は私にはあるわ。でも、それはまだあなたに告げるときじゃない。あなたに本当の事を告げるときが来たとき、私はあなたの目の前に現れることを約束するわ』
『…名前は教えていただけないんですか?』
『ごめんなさいね、ファナ。でも、私の声、そして私から受けた感覚を覚えていて、それが私を認識するときよ』

 カーシュが、『炎の剣』から目覚めた次の日、あたし達はカーシュとラテスと共にファナのいるリグリア公国へと向かった。
「ラテス、ファナもカーシュみたいになってるの?」
「多分ね。『氷の剣』が望めばカーシュみたいにファナは氷の中に埋まってるはずだよ」
 埋まってるって……。
「ファナは、分かってるのかな『氷の剣』からでた氷の中に入ってるって」
「カーシュじゃないから分かってるよ」
「ラテス、オレにケンカ売ってるのか?」
 カーシュが、ラテスの言葉にかみつく。
「別に、そんなつもりはないよ」
「てめーにそんなつもりはなくってもそういうふうに聞こえんだよ!」
 ふぅ、これで何度目だ?
 カーシュとラテスのケンカは…。
「いい加減にしてよ。カーシュ、いまからファナのところに行くんだから」
 あたしの言葉にカーシュはしぶしぶ黙る。
「そういえば……、サガはどうしたんだ?ミラノ、お前と一緒じゃなかったっけ?」
 カーシュがいきなりサガの事について触れる。
「サガは………、ラプテフにいるの」
「何でだよ。マリウスの話じゃ、ラプテフやべーんだろ?サガだってやべーんじゃねーの?」
「……………うん…。多分……」
「多分って…。ミラノ、お前、サガと一緒に今まで居たんだろう?それなのに何で多分なんだよ」
 カーシュが責めるようにあたしに言う。
「だってだって、しょうがないじゃない。サガがあたしだけで行けって言ったんだもん」
 ふぇーん。
 思わず、泣き出してしまった。
「あたしだって、サガと一緒にラプテフから脱出したかったよ。でも、でも、でも、でも、サガはサガがサガが」
「…分かったよ。とりあえず、ファナのところに行こう。ともかく、このままじゃあしょうがないんだろう?ラテス」
 カーシュが泣きだしたあたしに驚いてラテスに助けを求めるように言う。
「もちろんだよ。ミラノ、サガと約束したね、絶対ラプテフに戻るって。そのためにファナのところに行こう」
 ラテスの言葉にあたしは涙を拭きながらうなずいた。

 ロマーニャの城
 ロマーニャの城では当主であるマリーナ・ピッコラ・カプリさんがあたし達を出迎えてくれた。
「お久しぶりですね、ミラノ様、カーシュ様」
「早速だけど、ファナはどうしてる?」
 カーシュの言葉にマリーナさんは言葉に詰まる。
 って事は………ファナは氷に埋まってることになる。
「事情は分ってるよ、マリーナ卿」
「……ら、ラテス様。お久しゅうございます。ご機嫌麗しゅう」
 後からやって来たラテスにマリーナさんは慌てふためく。
 マリーナさんってラテスと面識あったんだぁ。
「マリーナ、事情は分ってるから、ファナのところに案内してもらえないかな」
「そ、そ、それはもちろんご案内いたします。ファナ様があんなことになってしまって私、気が動転してしまいまして、どうしたら良いかとても困惑しておりました」
 と、どもりながらマリーナさんは下を向きながらラテスに言う。
 ファナが凍って動転しているって言うよりも…ラテスに会って気が動転してるって方が正しいような…気がするのはあたしだけだろうか。
 ともかく、ものすごく興奮気味のマリーナさんを先導にあたし達はファナのいる部屋へと向かった。
 マリーナさんが扉を開けると、その部屋にはファナを取り込んだ氷柱が存在した。
「こ、こちらにございます。ファナ様はある日突然氷に包まれ、八方手を尽くしたのですがなんともいかず、現在に至っております。ら、ラテス様、ファナ様は大丈夫なのでしょうか」
 ………どもりながらしゃべるマリーナさんは視線が定まらない。
 ラテスの方を見たり床を見たり、ファナを見たり、そしてまたラテスを見て、床を見る。
 どうもマリーナさんの調子がおかしい。
 慌てたり動転したりっておんなじか。
 でも、なんか前に会った印象と全然違う。
 なんかしっかりしてていいお姉さんって感じだったけど。
 今日のマリーナさんはどうも違う。
 もしかして、ラテスのこと好きなのかぁ?
 やめておいたほうがいいような気がするわ。
 氷の中に入っているファナをほうっておいてあたしってば何考えてんのよねぇ。
「大丈夫だよ、マリーナ。ファナは氷に閉じこめられたんじゃなくって氷に包まれているんだから」
 と、ラテスは満面にほほ笑みをマリーナさんに向ける。
 すると、マリーナさんは素晴らしく惚けた感じでラテスを見る。
 いわゆる目にハートが飛んでる感じ。
 ……ラテスって知っててやってるんじゃないの。
 もしかして………。
 ま、いいか。
「ラテス、どうするんだ?どうすればファナを氷から出せる?」
「カーシュみたいになってるんだったら良いけど、『氷の剣』も氷の中に入ってるよ。どうすればいいの?」
 あたしとカーシュの質問にラテスは笑って答える。
「簡単だよ、カーシュ『炎の剣』貸して」
 ラテスの言葉にカーシュは『炎の剣』をだす。
「これをこんなふうに氷に近づける」
 と、ラテスは言いながら『炎の剣』を氷に近づけた。
 すると、氷は見る見るうちに溶け始めたのだ。
 が、すぐさま氷始める。
 ………どういうこと?
 『炎の剣』で氷を溶かすのは、良いけど『氷の剣』のせいでまた氷始めちゃうのはちょっと問題じゃないの?
「だからね、ミラノちゃんこの『炎の剣』を『氷の剣』のところにもってくると、こう氷が溶けるだろう。その柄の所の氷が溶けた一瞬の隙に柄を持つんだ。そうすれば大丈夫だよ」
 と、ラテスは言う。
 なるほど納得してあたしは『炎の剣』を『氷の剣』の柄の所に持っていくと、ラテスの言う通りに氷は溶ける。
 そして、柄をつかんだのだ。
 その瞬間、氷はすべて無くなり、ファナがゆっくりと目覚めたのだ。
「………………ミラノ、カーシュ、ラテス……。私………」
「ファナ、大丈夫?」
 ぼーっとしているファナにマリーナさんが聞く。
「わたし…………ラテス、私、『氷の剣』の中に入ってる誰かと話したの。ラテス、あなたなら知ってるんでしょう?」
 ファナはラテスにすがるように聞く。
「誰かって……ファナ、お前は『氷の剣』に取り込まれている間誰かと話したのか?」
「お前はって……カーシュ、あなた『炎の剣』に取り込まれたんでしょう。誰かと話さなかったの?」
 カーシュの質問にファナは逆に聞き返す。
「カーシュは何にも覚えてないんだって、『炎の剣』に取り込まれている間のこと」
「何ですって?」
 あたしの言葉を聞いた途端、ファナのカーシュに対するお説教が始まった。
 ………カーシュって誰にでも怒られているような気がする。
『お久しぶりね、ラテス』
 ふっと声が聞こえる。
 女の人の声。
『ファナに話しかけたんだ、あなたは』
『えぇ、あの人はどうなの?』
『あなたの義弟さんでもありあなたの父親はカーシュに話しかけてないですよ』
『そうなんだ。あの人らしいわね』
『感心している場合じゃないでしょう。カーシュが彼に会ったときどう対処しろって言うんですか?』
『結構度胸あるから別にいいんじゃないの』
『そんな適当で良いんですか?』
『適当じゃないわ、ちゃんと話したのよ彼とあの人と。彼があの人はカーシュでいいんじゃないかって言ったの。』
『あの人が彼にカーシュを押し付けたんですか?』
『押し付けたって言い方ないんじゃないの?ま、とりあえずあたしはいったん消えるわ。じゃあね、ラテス』
 そういってその声は消えていく。
 …………何だったんだろう今の会話。
 この前、『炎の剣』の時はラテスは敬語じゃなかった。
 で、今回は敬語だったって事は………。
 でも、あの人の父親って………。
 もーーーーーーーーわからん。
 まったく何だかちんぷんかんぷんだ。
「ミラノちゃん、今のも聞こえたんだ」
 ふっとラテスに言われる。
「そうだね、この前の時も聞こえたもんね。不安にならなくても良いよ。今は分らないままでも、そのうち必ず君は知ることになる、あの声は誰だったのか」
 ラテスは今度は言い合いを始めたカーシュとファナを見ながら言う。
 ふっと浮かんだ疑問にあたしはラテスに聞いてみることにした。
「ラテス、一つ聞いていい?サガのこと」
 あたしの顔を見てラテスはうなずく。
「サガも、ファナとかカーシュみたいになるの?土に埋まる……みたいな」
「近いかな。でも、土じゃなくって鉱石に埋まってるんだよ」
「どうやってその鉱石からサガを目覚めさせるの?」
「それはちょっとお楽しみ」
 と、ラテスはそれ以上は教えてくれなかったのだ。

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