第2章・3部 ショルド脱出!!
新ヌーベルの駅は騒然として居た。
ショルドへの電車がすべてここでストップしてしまったのだ。
駅員に聞いている人もいたが、何故ストップしてしまったのか駅員さえも把握はしていなかった。
都内に一番近い大きな駅なのに、その割には駅をでるとあまり騒がしさは感じられない。
その理由はタクシーとバスは通常に運行されていたからだった。
「…サガどういうこと?」
「さぁ、線路のみが壊れているのかもね」
鈍行と新幹線両方だよ。
片方ダメって言うのなら分るけど…。
「どうする?」
「歩くのやだよ」
サガに聞かれ即答する。
「取りあえず、バスで移動しよう」
サガは呆れたのかバス停に一人でさっさと歩いて行ってしまった。
何よぉ、先に行く事ないじゃないのよぉ。
「ショルド行きのバスはこちらです」
駅員らしき人がざわついている人々を誘導する。
「サガ…あそこみたいだけど」
「行こう」
不安げなあたしをよそにサガは一人で歩いて行く。
もう、ワナとか仕掛けられていたらどうするのよ!
「大丈夫、いくらなんでも一般人を巻き込むような事はしないだろう」
と、言うので取りあえずそのバスに乗り込む。
「ミラノ…もしなんかあったら、お前だけは必ず守るから、安心しろ」
………。
いきなり言われる。
何と言って良いか戸惑ってしまった。
サガの顔を見てもその表情からはなにも読み取れない。
どう言う意味で言ったんだろう。
物凄く疑問だ。
「御乗車中のお客さまに申し上げます。このバスは次のウトナイ(品川)が終点となります」
バス内の乗客が騒然としている中アナウンスがくり返し鳴り響く。
「どうするの?サガ」
「…素直に降りよう。ウトナイからキガナイの屯所までは近くないけど」
サガの声に頷く。
ウトナイのバス停留所でバスをおりる。
運転手さんも無線連絡があって納得いってないみたい。
もちろん乗客も納得いってない。
みんな文句言ってる。
あたしも文句言いたいよぉ。
「どうするの?」
「いったん、家に行こう。そこからキガナイに行こう」
「ねぇ、サガ、エンガルにいったん戻るより直にキガナイの屯所まで言ったほうが早いんじゃないの?」
とのわたしの言葉を聞かずにサガはすたすたとウトナイからエンガル…品川から新宿まで歩きだす。
街の中は静かだった。
誰かに襲われたらどうしようってびくびくしてたんだけど…そんな心配はまったくなかった。
「静か…だね」
「こう静かだと無気味だな。人の気配はあるんだけど、中から外の様子を伺ってるみたいで…こわいな」
と、サガ。
「ねぇ、どうしてエンガルの家に戻るの?直にキガナイの屯所に行ったほうが……それにあそこ壊れてるんじゃあ」
「ちょっと用事があるんだあそこに。キガナイの屯所に戻ったら何が起こるか分からないんだよ。だからエンガルに一回戻って休んだ方が良いんだ。ミラノは休みたくないの?」
……サガの言う通り休みたいです。
「ね、急ごう。夜になる前に戻りたい」
と、サガがせかす。
……急に何か不安になって来た。
何故だか分らないけど、急に不安が押し寄せて来た。
どうしてだろう…。
不安になって空を見上げる。
鮮やかな夕方のグラデーション。
でも、何か普通と違うような気がする…。
「ミラノ、どうしたの?」
「何でもないよ」
サガの言葉に平然を装おう。
「空がどうしたの?」
「本当に何でもないよ」
空を見上げながら心配そうに聞くが、何が不安なのか気付いていない。
「……?!」
サガが空を見上げながら立ち止まる。
「どうしたの?」
「いや…。急ごう、夜になる」
サガは先に歩き始める。
「ミラノ…」
「今…行く」
不安がやってくる。
何の不安だか分らないままエンガルに戻った。
「ただいまオデッサ台地より戻ってまいりました。お二人が御無事で何よりです」
「私達も心配していました。あなた方がオデッサ台地に向ってから『トーニック』が追っていったと聞いたので…」
「御心配掛けて申し訳ございませんでした」
今、あたしとサガはアエロマさんとミリアさんのいるキガナイの屯所に来ている。
エンガルの家の地下室で一晩を過ごした後、キガナイにいったのだ。
「マスターが国王陛下夫妻共々行方不明という事は御存じでしたか?」
ミリアさんの言葉にサガは知らないと首を振る。
「多分…キアン卿の手より逃れているのだと思われます」
そうなのだ。
現在、ショルド内は国王夫妻と侍マスターが消えた事で大騒ぎなのだ。
ただし、役人のみの間での事ではあるが、その為にショルド行の交通網は統べてストップが掛けられてしまったのだ。
「アースガルズは一緒ではないのですか?」
サガの問いにアエロマさんは首を振る。
「一緒じゃないという事は……ライナスが『トーニック』にいるからですか?」
「残念ながら…それ意外に考えられません…」
そう、アエロマさんは寂しそうにいう。
ライナスはアースガルズの人間。
アースガルズの人が帝の逃亡に関わっているとしたら…ライナスになら簡単に見つけだす事ができる。
だから、アースガルズの人間は帝の側にいられない。
長い沈黙をやぶったのはサガの意外な言葉からだった。
「カバネルに…戻ります。カバネルに戻れば、どんな風にも介入できます」
「どういう事ですか?それは、ラプテフを…この国を攻めるのですか?」
ミリアさんの言葉にサガは言葉を続ける。
「それも、あるかも知れません。でも、もう時間がなくなって来ました」
突然、サガは急ぎ出す。
「どういうことなの?」
「………」
あたしと、アエロマさんミリアさんの視線を受けサガはいう。
「列島結界……。お二人ならこの言葉を、聞いた事がありますね」
その瞬間、ミリアさんとアエロマさんは顔を青くして震え出した。
どういう事?
「そんな…ことが…キアンが結界を……」
「サガ、確かな証拠はあるのですか?」
「はい、空を見れば……」
空……。
「………そうですか……」
会話が三人の中で続く。
列島結界って何?
「ラプテフの国を覆ってしまう結界の事だよ」
結界?
「それが張られるとどうなるの?」
押し寄せる不安を押さえながらサガに聞く。
「ラプテフから…でられなくなる」
うそーーー!!
それって物凄くヤバいんじゃあ。
「だから、時間がないんだ」
そう、サガは呟く。
まるで、何かを押さえるように。
「急いで行きましょう」
「どこに行くんですか?」
「結界が最後に張られる場所へです」
あたしの質問にミリアさんはそう答えた。
ともかく、アエロマさん、ミリアさんの案内で結界が最後に張られる場所ウエシナイ(お台場)へとやって来た。
「ここが、最後の場所」
「そう、ここが出口」
サガがそう呟く。
「……ごめん、待たせた」
声と共にラテスが現れた。
「ラテス、どうしたの?」
「交通機関が全てストップしてるから、ラプテフから脱出する為の交通機関だよ」
と、にっこり微笑む。
「遅くなった理由は」
「ワール・ワーズの転移とガイアとフラウの移動やってたら、疲れちゃって…だから」
「じゃ、ないだろう。遅くなって結界が閉じ切ったらどうするつもりだったんだ!!」
「だから、最初に謝ったんだろう」
う、うわーん。
サガとラテスが喧嘩を始めてしまった!!
「…ふぅ。こんな事やってる場合じゃないんだ。ミラノ、今からいう事を聞いて欲しい」
いきなりサガはあたしの方を向きいう。
「何?」
「…ラテスと一緒にカバネルに行って欲しい」
……?
どういう事?
サガは、どうするの?
「オレは、ラプテフからでられない」
どうして?
「ラプテフの人間は列島結界が張られはじめるとこの国から出られなくなるんだ。ワール・ワーズはその前に脱出したんだろう」
「まあね」
サガの言葉にラテスは答える。
……じゃあ、サガは…。
「サガは、来れないの?」
「あぁ」
サガはあたしの目線をはずし、俯きながら言う。
「どうして…。一緒にラプテフから脱出するんじゃなかったの?必ずあたしの事守るって言ったじゃないのよ!!どうしてよ!!!」
「ごめん……」
「ごめんって……」
その瞬間だった。
サガがあたしの腕をつかんで引き寄せ抱き締めたのだ。
「ごめん…。でも、今は…お前をこの国から脱出させなくちゃならないんだ…。……ミラノ……」
「サガ……」
サガの言葉に泣き出してしまった。
今、サガはあたしの事が心配で仕方ないんだ…。
あたしが、一人になれない事も知っているんだ。
「…ミラノ、カバネルに着いたらマリウスとゼルに会うんだ。あの二人なら必ず力になってくれる」
「…サガ、ずっとこの国から出られないの?」
「方法は、あるよ。結界を掛けた本人に呪文を解かせるしか……。そう言えば、ガイアに聞いた事があるもう一つの方法、オレは…知らないけど…」
そういってサガはうつむく。
その時だった。
「列島結界の解き方はオレが知ってるよ。」
「本当?ラテス…」
「あぁ、ただしそのためにはそろえなくちゃならないものがあるんだ」
ラテスはそういう。
ラテスの言葉を聞き、一つの考えが頭をもたげる。
「ラテス、そろえなくちゃならないものあたし集めるよ。そして、列島結界と解く」
今、そう決めた。
ラプテフを平和にする為にあたしはカバネルに戻る。
そうだ、カーシュとファナにも助けてもらおう。
今まで、忘れてたけど。
「ラテス、カバネルに戻る」
「その言葉、待ってました。今、開けるからねぇ」
ラテスは嬉しそうに呪文を唱える。
「ミラノ、『大地の剣』を持っていって」
でも…。
「それは、サガが持っていろ」
『大地の剣』をあたしに渡そうとするサガにラテスがとめる。
「どうしてだ」
「理由はただ一つ。それが列島結界を外部から解くための第一アイテム。結界を解くにはガイアの力を内側から発動させなくちゃならないからだ。ショルド都内にあるガイアの神殿でサガお前が守っていろ。そこの神主が教えてくれるはずだ、どうしてオレがそうしろと言ったかをな」
ラテスは一気に説明するとあたしに言った。
「ミラノ、脱出するよ」
「うん」
ラテスの言葉にあたしは力強く頷いた。
「サガ、絶対戻ってくるからね」
そう言って、あたしはラテスが開けた転移の扉の中に入って行った。
さわさわと気持ちいい風の音がする…。
ここは、どこだろう。
「おはよう、ミラノちゃん」
…目をあけるとラテスがいた。
「ここは、どこ?」
「カイサリー島」
カイサリー島?
「そ、ラプテフの一番南にある大きな島」
え、じゃあまだラプテフにいるの?
「一応ね、でも列島結界からは抜けているから安心して」
ふぅ、驚いた。
「一旦、避難て形なんだ。時間がなかったんでね、君たちが抱き合ってしまったからさ」
う……。
そんな、恥ずかしいこと言わないでよぉ。
「フッ…。取りあえず、カバネルに転移しよう。そこでラプテフの結界の解き方を教えてあげるから」
そう、ラテスは言う。
ラプテフ本島の方を見ると淡く何かが覆っているように見える。
「あれが、列島結界だよ」
ラテスがそう教えてくれる。
サガ…絶対に迎えに行くからね。
待っててよ。