ファルダーガー

  第3章・2部 オデッサ台地へ  

「お気を付けください。市街地を抜けたらモンスターが頻繁に出るようになります。山道は得に危険ですので…」
「大丈夫だ、ミリアとアエロマは…」
「はい、御安心くださいませ。私達がお守り致します。…ミラノ様方の行く道にガイアの救いがあります事を…」
 クッチャン(熊谷)まで送ってくれたアースガルズの人と二、三言葉を交わしあたし達は歩き始めた。
 ライナスの最後の言葉『これからヤバい事になる』というのが気になりアースガルズの人にショルド都内の情勢を聞いた所、今の所は平穏らしい。
 ただ、今の所だけどね。
「これから、だからまだ大丈夫なんだよ」
 とサガの言葉にあたし達はのんびりとオデッサ台地への旅路を楽しめる事になった。
 ただ、サガを狙う『トーニック』とモンスターに注意しなくちゃいけないらしいけどね。
「らしいじゃないだろう。連中に、喧嘩を売ったお前の責任なんだからな」
 ……そんな事言わなくたっていいじゃないのよぉ。
「取りあえず、一路オデッサ台地へ…ってどうやって行くのサガ」
「山道を通って行く」
 サガの話ですと…いわゆる中山道を通って行くらしい。
「ここ、クッチャンから七つの宿場を抜けビエイ峠(碓氷峠)をこして、トムウラシ(下諏訪)で本線を抜けて脇街道に入る通路を取る。そうすれば『トーニック』には見つからないだろう」
 だそうだ。
 今一つ分かってないあたしをサガは笑う。
「バカにしてるの、サガ」
「そんなつもりはないよ、ミラノ。ともかく行こう」
 そう…ですね。
 のんびりと江戸時代の人みたく中山道(本当は東海道の方がいいなぁ)を通って行きましょう。
 そうして、あたしとサガの旅は始まった。

 アルミニ(高崎)
 と言う宿場の前まで来た。
 ……疲れた。
 ずうっと歩き通し…。
 こんなに大変だとはちっとも思わなかった。
 やっぱり現代人は歩いてないんだなぁ。
 と心の奥からそう感じた。
 でも、疲れた………。
「ミラノ、何やってるんだ」
 あたしより先に宿場に着いていたと思われるサガが心配して戻って来た。
「…つかれた」
「ミラノ、そんな事言っててどうするんだ。これからどんどん険しくなるんだぞ」
 と、サガに冷たく言われる。
 分かってるよぉ。
 この後どれだけ大変なぐらい。
 身にしみて分かったよぉ。
「なら、ミラノ、オレと一緒にいるなら身体ぐらいはきちんと鍛えなさい」
 どぉしてそうなるのよぉ。
「マリウスみたいな事言わないでよぉ」
 身体を鍛えろなんて……。
 あまりの疲労に泣き出しそうだ。
「…ごめん、ミラノ。今日はアルミニで休もう」
 と、サガは呆れにも聞こえるような声であたしをアルミニまで促した。
 
 アルミニの宿
 群馬の高崎ぐらいの都市のアルミニ。
 でも、今のあたしには旅を楽しむ余裕などなく、ただただあまりの疲労にベットに突っ伏していた。
「ミラノ…温泉あるから入って来たらどうだ?」
 サガが気を使ってくれる。
 部屋…別々の方が良かったな。
 旅館の温泉に入りながらふと思う。
 旅行じゃなくって旅なので贅沢出来ないのは分かってるけど。
 疲れた時って一人になりたい時あるよね。
 でも、さすがに温泉から出た時は気分はさっぱりした。
 が…さすがにベットに直行でした。
 夢をみる。
 何の夢を見たか覚えていないけど…。
「We Aer Inferior To Each Other We Surrender Everyday.We Aer Inferior To Each Other We Surrender Every Night(TM NETWORK:Electric prophet 作詞小室哲哉)
 誰……。
 闇の奥底に光る所から聞こえる。
「…ワール・ワーズ?」
 ワール・ワーズって?
 誰?
 自分の口から出た言葉に思い出せない。
「忘れてしまったの?」
「知らないの?」
「教えてないとか」
 三人の声が交互に入れ代わる。
「僕たちは知っている」
「君の事を…」
「会おう、ミラノ。君に…逢いたい」
 あいたい?
「僕達は待っている。君が来る事を…」
 …どこで…?
「来れば分る…」
 その瞬間、目をさました。
「おはよう、ミラノ」
「サガ、今何時」
「…朝の九時。ぐっすり寝てたみたいだね」
「ホントに?」
「もう、ぐっすり。本当に疲れたみたいだね」
 と、サガは優しく微笑みながら言う。
「サガ…あのね、歌が聞こえたの」
「うた?」
 サガが怪訝そうな顔をして聞く。
「夢の中でね、あたしに会いたいって」
「ワール・ワーズ…か」
 ワール・ワーズ?
「トリポリタニアでライブをやってたろ」
 あぁ、思い出した。
 あの、三人組かぁ。
「そうだよ、ミラノ、お前はワール・ワーズからメッセージを受け取ったんだよ」
 と、サガは言った。
 メッセージか……。
 ともかく、あたし達は宿の人に来るまでボンワド(坂本)と言う所まで送ってもらい、そこからまた歩き始めた。
 ここからビエイ峠(碓氷峠)までは近いんだって。
 この街道の宿場町は中山道と同じ数だけ合って、ボンワドを抜けたら峠までは宿場はないんだって。
 でもね、峠を抜けたら軽井沢ッスよ。
 あの、日本の避暑地、天下の軽井沢。
 今じゃ、めっきり人も多くていやって言う人もいるけど…。
 腐っても軽井沢!
「多分…シラヌカ(軽井沢)ならワール・ワーズはいると思うんだけど…。今一つ自信がないな。何故ならワール・ワーズは今全世界のマスコミから姿をくらましてから既に一ヶ月がたっているし…」
 と、サガは寂しそうに言う。
「サガ…なんか寂しそう」
「一応知り合いだしね」
「お互いに、名前だけ知ってる間柄なんでしょう」
 そう言うとサガは少し微笑んだだけで何も言わなかった。
 何か思い出がありそう。
 そして、約10キロの道を歩きビエイ峠に辿り着いたのでした。
 ビエイ峠(碓氷峠)
「様子は…大丈夫?」
「大丈夫だよ、検問とかはやってない」
 とサガは言った。
 碓氷峠、江戸時代には幕府の重要な関所としてかの箱根と肩を並べる。
 もちろん現在も県境の交通検問の場所としては重要よね。
「ともかく行こう」
 サガにつれられて、関所を抜ける。
 碓氷峠を抜けると群馬から長野にはいる。
「ミラノ、もう少しでシラヌカに入る。ワール・ワーズがいるとすればそこだろうな」
 と、サガが言い終わらないうちに歌と曲が聞こえて来た。
「瞳には青い空、左手に風が吹き、君の右手には僕の思いを 荒れ果てた大地から輝きを見つけだす 君の微笑みを大切にしたい I Love You (大地の物語:song by TMN 作詞小室哲哉)
 力強く高く低く通る声。
 それに合い重なるコーラスとアコースティックギターの音。
「ワール・ワーズ?」
「帰れない このまま君を 帰せない 抱きしめたいから ぬくもりは今 永遠の やすらぎを伝えはじめた(大地の物語:song by TMN 作詞小室哲哉)……久しぶりだね…サガ」
「何か凄く驚いているみたいだけど」
「無理ないんじゃないの、チェス。オレ達は全世界の人々から姿を消した三人組なんだから」
 そう言いながら物陰から出てくる三人にサガは面喰らっていた。
「その娘がミラノちゃん?初めましてオレはって自己紹介しなくても平気か、ライブ見てるんだもんね」
「今度はしっかり捕まえている見たいだな、サガ」
「マレイグ、そう言う言い方はしなくてもいいんじゃないの?」
 と、立て続けに話し掛ける三人にサガは我に返ったのか、サガは怒り出したいのを押さえながら話し始めた。
「……。自分達のやった事、分かってるのか?三人とも。世界中のトップニュースになってるんだぞ!!『ワール・ワーズ、リグリア共和国にある録音スタジオから突然姿を消す』この報道を知らない訳じゃないだろう!」
 とうとうサガは怒り出してしまった。
「そんな事言ってもねぇ…」
「なぁ」
 ワール・ワーズの三人は顔を見合わせながら口々に言う。
「人を驚かす事が僕達の趣味だし」
「それは、チェス。あなたでしょう」
「クロン、お前、チェスの事言えないよ。クロンも結構好きなんだから」
 マレイグの言葉にワール・ワーズの三人は笑い出す。
 けど、サガはますます怒り出してしまった。
「一体何しに来たんだ。ミラノの夢にメッセージ送って、それで出て来てこれか?いいかげんにしろ!!」
 サガの怒りにあたしがおろおろしていると一人の女の子が出て来た。
「あろぉ!カーラちゃんでーす。喧嘩しちゃダメよぉ!みんな仲良く。ね」
「カーラ!」
 と割って入って来たエルフの女の子。
 彼女とサガは知り合いみたいだった。
「カーラ、ミディア様の所に行くんじゃなかったのか?」
「ん、行くよ。でも、サガがいるって言うし、その前に逢いたかったの。サガ、怒っちゃだめだよ。サガのかーいい女の子がびっくりしちゃうから。じゃあね、みんな」
 と、嵐の様にやってきて嵐の様に去って行ったカーラ。
 サガは今のカーラの出現に気がそがれてしまったのかワール・ワーズの出方を見ていた。
「…ガイア様がお呼びだ。オレ達はそれのお迎えの先発隊。あいつはどうせ、そこらへんをぶらぶらしてるだろうとの仰せだ」
 マレイグの言葉にサガは不思議がる。
「先発隊?」
 と、サガが聞いた時だった。
「あろー、ミラノちゃん。元気になったみたいだね」
 近くの木の上から聞こえる声に見上げると
「ラテス、今までどこにいたの?遊びに来るとか言ってたくせに」
「ごめんねミラノちゃん。でも、今日はガイアの所に君たちを連れて行くってガイアと約束したんだ。だから、ガイアの所にいる間遊ぼう」
 うん。
「ラテス、何しにきたんだ?」
「ワール・ワーズの後発隊。空間転移の穴でオデッサ台地に行こう」
 そう言ってラテスは大地に魔法陣をかいた。
「開け我が名において、アト・レヌ・ニア。どうぞ、お入りください。ここからガイアの所までは一直線だよ」
 と、開いた穴にあたし達を促しながらラテスは言ったのだ。

「何を考えているの、ミラノ」
「…え…ガイア様…」
 今、あたしはガイア様の住まうオデッサ台地にいる。
 そして、ガイア様と向かい合ってお茶をたてているのだ。
「何を考えているの、ミラノ」
「…今まで合った事が…して来た事が全て夢のような気がして…」
 こうして、ガイア様のお住まいになるオデッサ台地にいると、全てが記憶の片隅にいく様な…。
 オデッサ台地に着いて四日、そう感じていた。
「ミラノ、あなたは急激な環境の変化に疲れています。だからその様に考えてしまうのだと…私は思います。ここで、のんびりしなさい。私が、この大地の女神ガイアが守りますから…」
 ガイア様は微笑みそう言う。
 彼女の言葉通りあたしはのんびりした。
 一気にいろいろおこりすぎた…、そんな感じ。
 サガは神主さんの格好で参拝客の相手をしている。
 ワール・ワーズの三人も神主さんの格好で結構よく似合う。
 神社に違和感無しの神主さん。
 やっぱり、日本はこうでなくちゃ。
 私も神子さんの格好したい。 
 なんて、妙な野望を抱いている、今日この頃。
 なんてね。
「誰…あなた。知らない人ね…」
 神社の奥の院(表の院は普通の神社で奥の院は寝殿造りになっている。ちなみにフラウ様の寝所は西の対の奥)の寝殿の所にのんびりと座っていた時だった…。
 人の気配なんてしなかったのに…。
 振り向いてみるとにっこり微笑んだ、誰かに似ているあたしと同じくらいの女の子がそこにいた。
「ガイアの知り合い?あの人にこんなかわいらしい友人がいるなんて知らなかったわ…」
 どこか現実離れしているその娘はゆっくりとあたしの隣に座った。
「…あの…」
「セルフィラ、こんな所に居たのか。ガイアが捜していたよ」
 あたしが口を開きかけた時、ラテスがやって来た。
「ラテス、急に声を掛けないで。可愛い女の子が驚いてしまうわ」
「ミラノ、こんな所に居たのか…」
 と、ラテスが言い終わらないうちに今度はサガがやって来た。
「セルフィラ、来て居たのか?」
「まぁ…サガまで来たの?」
 とその女の子…セルフィラがサガの方を向き言う。
「セルフィラ、いつこっちにきたんだ」
「今日よ、サガ」
 サガの言葉に彼女セルフィラはにっこりと笑う。
 ……って…セルフィラって誰?
 と、疑問に思っているあたしにサガは平然と答えたのだ。
「あぁ、ミラノ紹介するよ。オレの母親のセルフィラ」
 は、は、は、は、母親ー!?
 ど、どう見たってあたしと同じくらいにしか見えないわよ。
 うまくいって二十代……。
 サガより年下の母親って事は義母?
 そんな、立ち入った事……うわぁー大混乱!
「理由はいろいろあるんだよ」
 と、サガはラテスとセルフィラが行った後にいう。
「いろいろって…」
 やっぱり、義理の母親…。
「オレが『トーニック』になった理由もそこにあるんだけどね…」
 『トーニック』になれた理由?
「わかんない…よサガ。教えてよ」
「後でね」
 …って、前に、後で教えるって言ってた。
 今がその時期じゃないんですか?
「じゃあ、ミラノの家族構成教えてよ。それからだな」
 どうして?
「いいから」
 と、強引に聞くのであたしはサガの言葉に従う。
「父親と母親と弟プラス犬が一匹」
 お父さんは歴史の先生でお母さんは旅行雑誌に書いているフリーのライター、弟は小学生だよ。
「そうか…。言っても………良い時期かもな」
 そう言いながらサガはゆっくりと呟く。
「ミラノ、心を落ち着けて聞いてほしい」
 どうして?
「トップシークレット!!だから」
 そう、サガは言う。
 トップシークレット…って。
 そんなに凄い事なの?
「あぁ、知っているのは侍マスターと国王夫妻、カバネルの三聖人とスリーナイトのマリウスとゼルのみ。あとこのことに関わる関係者のみ」
 ……かなり、トップシークレットね。
「言っても平気かな?」
 一応、心の準備はできたわ。
「オレの母親…セルフィラは、ガイアの娘だ」
 …………。
「ガイアはオレの祖母にあたる」
 ええええええええええええええええええええええええええええ!
 天と地がひっくり返る程の衝撃を受ける。
 サガが、ガイア様の孫?
 じゃあ、サガは……神様……なの?
「……違うよ」
 サガは笑って否定する。
「で、でもガイア様ってシーアン様とオリア様の娘でしょう。オリア様って古代絶対神トルーア様と古代大地の女神アルス様の娘って……聞いたよ…ってことは…やっぱり…神様……」
「まぁ、血筋で言えばそうかもね」
 血筋って……。
「神族って言うか…一応人と神のクォーターになるのかな?セルフィラの父親はスコピア暦(この時代より6500年前)の旧三聖人でね」
 旧三聖人?
「昔にも三聖人がいたんだよ。その頃のウォールマスターで…大怪我をしたガイアを介抱したのがその人。いろいろな経緯があってセルフィラが生まれたんだ」
 ……そう言えばヒルコとなったガイアの娘の事聞いたなぁ…。
 まさか、それが……。
「そうだよ、それがセルフィラ…。ところで、誰に歴史習った?」
 マリウス…だったかな?
「そうか、マリウスなら安心かな。ともかく、セルフィラは今から二十何年か前にオレの父親にあったって言う訳だ」
 ふぅん、で。
「でって……。父の家は下級侍だったらしくて、そんな父が『トーニック』になれたのはセルフィラがガイアの娘だったからなんだ」
「そうなんだ。でも、『トーニック』になるって言うのは父親が『トーニック』だったら全然大丈夫なんでしょ。得に最大の理由って言う訳じゃないんじゃないの?」
「まぁね。でも、一番重要なのは『スリーナイツ』かな。影のナンバー1といわれる由縁はガイアの孫の為に魔力が普通よりも多いって事だよね」
 絶句……。
 もう何も言えない。
「だから、あまり知られたくなかったんだ」
 と、サガは言った。

 サガの超ド級の告白を聞いた夜は余りにも寝つける状態じゃなかった…。
 それも当然だよね。
 だって、いきなり神様(ガイア様)の孫だなんて告白されてみてよ。
 誰だってびっくりするわよ。
 でも、なんか納得させられちゃうのよね…。
 今上帝や、皇后様に簡単に会えちゃうとか…。
 セアラとか昔から知ってるとか…。
 うーむ、やっぱり本当なのよね。
 よし、寝よう。
 目をつぶりようやくうとうとと夢の中に入る寸前の時だった。
『ドーーーーーーーーーーーン』
 いきなりの爆発にあたしの目は一気に冴えてしまったのだ。
 何事だろうと思いながらパッパッと着替え、音のした方に行ってみると、サガと誰かが向かい合っていた。
「お前達、ここがどこなのか分かっているのか?」
「一応、分かってるつもりだけど」
「…分かってるつもりじゃすまされないんだぞ。ここはガイア様のお住まいになる本殿だって事忘れたのか?」
「じゃあ、何でお前はここにきたんだ、サガ。オレ達が追っている事を知っていたんだろう?」
「『トーニック』!?何しに来たのよ」
 思わず飛び出す。
「ミラノ、何で来たんだ」
 サガがあたしに非難する。
 あんな音がしたんだ、来ない訳にはいかない。
「あ、勇者だ」
「へぇ、彼女が勇者なんだ。で、センターとライナスはあの娘にやられたんだぁ。ふぅーん」
「うるせぇ、ショウ。お前は黙れ!」
「何だよ、そんなにおこる事ないじゃん」
「センター、あんまりおこるな。ショウ、センターを怒らすな」
 リランの言葉にショウとセンターは黙り込む。
「………サガ、オレ達がここに来た理由は分かってるだろうな」
 気を取り直したのかセンターがサガに向って言う。
「お前達の考えている事を今一つ分りかねるが…オレの事を殺しにきたんだろう。理由は何だ?」
「さ、サガ」
 あたしの驚きを制止ながらサガは『トーニック』に向って言う。
「…理由ねぇ、オレとウォンは得にないよ」
「オレは大ありだショウ。サガ、あんた何でラプテフを裏切った」
 と、センターはショウの言葉に反発しつつサガに言う。
 …ラプテフを裏切ったって…どう言う事?
「どう言う事だ……?ラプテフを裏切った?だなんて勘違いも甚だしいな、センター。それは誰に言われたんだ?」
「お前に言う事じゃない」
 サガの問いにセンターは視線をそらす。
「じゃあ、オレが言ってやろうか。このオレがラプテフを裏切ったなんて言った人物を…」
「……」
「キアン・セロ・メッシュ。侍トップ4のひとり…。違うか?」
「ち、違う。キアン卿じゃない」
「センター、『トーニック』は誰の命令で動いているんだ。マスターの命令じゃないのか?お前がナンバー1の『トーニック』はキアン卿の命令で動いているのか?」
「そ…それは…」
「すこし、頭を冷やすんだな。ここはガイアの神殿。血で汚すような事はしたくない」
 サガの言葉にセンターは俯く。
「ショウ、ウォン、リラン…ライナス。お前達も考えろ」
 と、『トーニック』にサガは言った。
 夜が明けて、あたしとサガはガイア様の御前に居た。
「…帰ります」
 そう、サガはガイア様に告げる。
 帰るって…どこへ?
「…ショルド…ですか。では、私が提供できる限りのショルド都内の事を教えましょうか?」
「分かっています。マスター派と反マスター派の一触即発の危険がある事ぐらい。でも、戻らないと彼女を…ミラノを出す事も出来なくなるでしょう」
 そうサガが言う。
 あたしを出す事も出来なくなるでしょう…ってどう言う事?
 なんだかさっぱり…。
「わかりました。ラテスを先に都内に向かせあなた達が来る事をアースガルズの者に伝えさせましょう」
 と長い沈黙の後ガイア様は言った。
 そしてあたしとサガはオデッサ台地を後にした。
「…サガどうして戻ろうと思ったの?」
 オデッサの駅に向う道であたしはサガに聞いた。
「ヤバいから…」
「都内がヤバいって言うんじゃなくて…いわゆるきっかけよ!」
「きっかけ…か…」
 そうサガは呟いて黙り込む。
「『トーニック』が追い付いたから?」
「それもある。でも、『トーニック』の…センターの後ろにキアンがいるとなると『トーニック』はオレ達の足留めになりうる可能性がある」
 ……どう言う事?
「国外にでられなくなる可能性って言うやつ」
 …ねぇ、キアン卿は何がしたいの?
「ラプテフの…軍事国家化。侍って言うのは現在では警察の役割を持っている。でも、侍は本来は戦闘集団だから…もともとの性質に戻したいんじゃないのかな。たぶん…」
 軍事国家化……。
「バカな話だよ。戦争なんて半世紀も前に終ったって言うのにやつは戦争をおこしたいんだ」
「無茶苦茶じゃない」
「そう、無茶苦茶なんだよ」
 と、サガは言葉を吐き捨てる。
 その後あたし達はその話題はさけ続けたのだ。
「次は新ヌーベル、新ヌーベル。御乗車中のお客さまに申し上げます。まことに申し訳ございませんがこの新幹線は次の新ヌーベルで終点となります。くりかえします…」
 新幹線内に響いたアナウンスに乗っている者を驚愕させた。
「どう言う事だ…」
 たぶんにももれずあたし達も面喰らった。
「…………?!」
 まさか…。
 不安になってサガを見ると、サガはゆっくりと頷く。
 口に出して言えない事が既に起っているんだ。
 あそこで…。
 新ヌーベルの駅に着くまで言えない。
 ショルドで…何か起ってる!!

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