ファルダーガー

  第4章 三種の神器を求めて・2部 ニスクの天秤  

「ところで、サガはどうしたの?」
 突然、言い合いを中断したファナに聞かれる。
 ファナの問いにカーシュ&ラテスが答えてくれる。
「…列島結界。兄さんから聞いたことがあるわ。ラプテフの緊急事態の時にはられる結界のことだって。ラプテフ以外の人間ではその列島結界の事を三点結界とも言うって」
 と、ファナはいう。
「そう、その三点に三種の神器を置かなくてはならないんだよ」
 ちょっとまって。
 そういえばあたし、三種の神器はどういうものかって言うのと三種の神器でどうするのって言うの両方聞いてないわよ。
「大丈夫きちんと教えるよ」
 と、ラテスは言った。
 場所を移し、あたし達はロマーニャ城の会議室にてラテスの話を聞くことになった。
「三種の神器とはラプテフに古来から伝わる神器の事だ。世に言われる神々の『聖宝』の事でもある。一つは剣、これは『大地の剣』の事だ。二つ目は鏡、これは古代の太陽の女神フラウの『フラウの鏡』。三つ目は天秤、これも古代の裁きと戦いの神ニスクの『ニスクの天秤』の事だ。つまり、ラプテフの国に神殿がある三神の『聖宝』が三種の神器とされているんだ」
 ラテスは一息入れ続ける。
「三種の神器による列島結界の作動の仕方は、内部の『大地の剣』で、外部の二点『フラウの鏡』と『ニスクの天秤』を作動させる。これがいわゆる三点結界と呼ばれるゆえんって訳」
「つまり、その逆で外部の二点で『大地の剣』を作動させるわけ?」
「そうだね」
 ラテスはあたしの問いにうなずく。
「それは分った。じゃあ、三種の神器ってどこにあるわけ?」
 カーシュが何気に聞く。
 そうね、『大地の剣』はサガが持ってるわけでしょう?
 残りの『フラウの鏡』と『ニスクの天秤』ってどこにあるの?
「『フラウの鏡』を捜すのは簡単で、『ミディアビュート』があれば捜しだせるんだ。ちなみに『ミディアビュート』って言うのは古代月の女神ミディアの『聖宝』で鞭の事なんだ」
「で、その『ミディアビュート』ってどこにあるんだ?」
「『ミディアビュート』はマレイグが持っている」
 と、カーシュの質問にラテスは答える。
「………マレイグってまさかあのワール・ワーズのマレイグ・グリーノック・マザーウェルの事?」
 ファナがびっくりして聞き返す。
「そうだよファナ」
 ファナの問いにラテスは平然と答える。
 ファナとカーシュは信じられないと言った風に驚いている。
「だから、ワール・ワーズのことをラプテフから脱出させたの?」
「そうだよ、今、彼らには『ミディアビュート』を頼りに『フラウの鏡』を捜してもらっているんだ」
 そうだったんだ。
 全然知らなかったよ。
「ちょ、ちょっちょっと待てよ。ラテス、いや、ラテス様、後で俺達ワール・ワーズに会えるわけ?」
 カーシュが興奮してラテスに聞き返す。
「そうだね、一応見つかったらカバネルの守護庁で逢う予定になってるから」
 と言うラテスの言葉にファナとカーシュは興奮している。
 すごく興奮している。
 んーファナとカーシュもワール・ワーズのファンなんだ。
「ファンって当たり前でしょう。ワール・ワーズって言えば全世界の人がほとんどファンなのよ。マレイグの歌なんて聞けるのが感動もんなのよ」
 ファナが興奮している。
「うっひょー、ワール・ワーズに会えるなんて夢にも思わなかったぜ。あの時はサガだけだったし。いいよなぁ、サガのやつ、おんなじ国で生まれてるってだけでもうらやましいのに一緒に仕事までして」
 一緒に仕事?
 ってなに?
「昔ちょっとした事件があってその事件の解決をワール・ワーズに要請したことがあったの。その時ワール・ワーズのサポートに行ったのがサガなの」
 と、ファナが教えてくれる。
「いっつもいいとこ取りだよなぁサガのやつ」
 カーシュが文句をいう。
「サガを選んだのは理由があるんだよ。ま、その理由を言うわけには今のところいかないんでね」
 と、ラテスはカーシュとファナに言う。
 その理由ってもしかして、サガはガイア様のお孫さんって事かな?
「とりあえず、『ニスクの天秤』捜しましょう。そうじゃないとワール・ワーズにあえないわ」
 と、ファナはあたし達にそう言ったのだ。
「で、『ニスクの天秤』ってどこにあるの?手がかりぐらいは知ってるんでしょう、ラテス」
「うーん、まぁ、一応ね」
 そう、ラテスは歯切れの悪そうに言う。
「なんだよ、その一応って言うのは」
「場所の検討はついてるんだけど…………………彼女に会えるかが問題なんだよね」
 彼女?
「彼女に逢って、神殿の奥の扉を開いてもらわないとならないんだけど、オレって、彼女にあんまりよくは思われてないんだよねぇ。いろいろあったしなぁ」
 ラテスはますます意気消沈していく。
 もういったい何なのよぉ。
「いったい、彼女って誰なの?ラテス、私たちにも分るように説明して欲しいわ」
 ファナがちょっと怒りながら言う。
 あたし達三人の視線を強烈に感じながらラテスは仕方ないと言ったふうに言う。
「月の女神アイファだよ。彼女の神殿の奥宮に『ニスクの天秤』はあるはずなんだよ」
「あるはずなんだって何であるって分らないの?」
「……………………………ちょっと、記憶にないんだけど、多分、アーシャに天秤を貸して、そのままだから………」
 アーシャって誰?
「アーシャってまさか古代水の神アーシャ様の事?アイファ様の神殿の奥にアーシャ様の神殿があるって姉さんから聞いたことがあるわ」
 ねーさん?
「ファナってお姉さんいたの?」
「うん、わたし三人兄弟の末っ子なの。とはいっても姉さんっていっても双子なのよ似てないんだけどね」
「ファナ、双子の姉の名前は?」
 唐突にラテスが聞く。
「何で?姉さんの名前知りたいの?」
「いいから」
「オルト、オルト・レイピア・カイクーラよ」
 その言葉を聞くとラテスは次の質問に移る。
「じゃあ、オルトとはつい最近連絡はとった?」
「いいえ、オルトとは彼女が家を飛びだしたときから連絡はとってないわ」
「そうか………」
 ファナの言葉を聞いてラテスは少し考え込む。
「ファナの姉と連絡取れないとまずいんか?ラテス」
「いや、それは問題ない。オレが考えてるのは別のことだよ、カーシュ君」
 ラテスの言葉にカーシュはもちろんあたし達も悩む。
 別のことっていったい……。
「いいだろう。オレがオルトと連絡をとろう。多分、この近くにいるはずだから」
 そう言って、ラテスはマリーナさんに水をはった桶を持ってきてもらい何かの準備をし始めた。
「何を始めるの、ラテス」
「オルトと交信するだけさ」
 そう言って、ラテスはファナの言葉をかわし呪文を唱え始める。
「アーシャ・トーイ・ジル・アーシャに近きものよ、我の声に応えよ」
 すると、水が鏡のように形作り一人の美しい女性が現れた。
「やぁ、パラ久しぶりだね」
「ラテス、お久しぶりです。お元気そうですわね」
「君もね。ところで、君のパートナーはどうしてるかな?まぁ、そいつがいなくちゃ、君はアーシャの水鏡には出てこれないけれどね」
「あなたがアーシャの水鏡を使ったことを感じていやーな顔をしてわたしに出てくれと言ったんです。今、呼びますから、お待ちください」
 そう言ってパラと呼ばれた女性は消え、男性が現れた。
 と言っては語弊があるかもしれない。
 美しい男性、女性と見間違う程の、いや、女性を男性と見間違うほどの人物があらわたのだ。
「何をむっつりしているのかな?オルト」
 そう、彼女こそファナの双子の姉オルト・レイピア・カイクーラだった。
「なんで、あなたがアーシャの水鏡を使うんだ」
「使えるからだよ。相変わらず男装をしているんだ、オルト」
「ぼくのことは関係ないだろう。ところで何のようだ?そんなこと言うためにアーシャの水鏡を使ったわけじゃないだろう」
 オルトの言葉にラテスは言った。
「『ニスクの天秤』が入り用になった。アーシャが持っているはずだろう?だから、彼女に今から、オレが取りに行くって伝えて欲しいんだ。あと、勇者も」
 と。
 そのラテスの言葉にオルトが反応する。
「ラテス、勇者ってあの、勇者か?」
「その通りだよ。ま、ともかくアイファの神殿であおう」
 そう言って、ラテスは水鏡を消してしまう。
「オルトってば相変わらず男装してるのね」
「そうみたいだね、オルトの前に出てきたのがパラ・ロシェル・グルノーブル。オルトと常日ごろから行動を共にしている人物」
 ラテスが感慨深そうに言う。
 何故だかはすごく謎なんだけれど……。
「ともかく、アイファの神殿に行こう。急がないと、世界各国がラプテフ制裁に乗り出す」
 ラプテフ制裁……って何よ。
「今、ラプテフは列島結界がはってあるんだろう。外部からの接触をすべて断ってることになるんだぜ。諸外国から何かたくらんでるって思われるに決まってるじゃねえか。ラプテフの態度次第だと、戦争まで起るんだぜ」
 カーシュの言葉に思わず、がく然となる。
「みんな、急いでアイファ様の神殿に行こう」
 その言葉にラテスが笑う。
 何で笑うのよぉ。
「そうならないために今、カバネルの三聖人が何とかしてるよ。いわゆる時間稼ぎ。そう簡単に戦争にはならないから安心して。そうは言ってものんびりはあまり出来ないけどね」
 ラテスの言葉にうなずき、あたし達は次の日に彼の転移の呪文で月の女神アイファ様の神殿があるトマスビル大陸のミストリアに向かったのでした。
 ミスト
 月の女神アイファ様のおひざ元の都市、ミスト。
 トマス砂漠と、ファルサラ高原の中間にある都市。
 神殿は、その都市を見下ろす丘ミストリアにある。
 季節の変わり目に霧が立ちこめる日があるが、一つには月の女神アイファのめぐみだというのもあれば、アイファの神殿の前の主古代水の神アーシャの季節の変わり目に対する賛辞だとも言う(byファルダーガートラベラーズガイド、トマスビル大陸ミスト&ミストリア篇)。
 今は夏真っ盛りなので霧はないです。
 でも、地図を見るとミストって……赤道近辺にあるんですが。
 それをどうやって春夏秋冬見分けるんだ?
 赤道近辺って雨期と乾期に別れるからそれかなもしかすると。
「見てごらんよ、あの丘に見える神殿が月の女神アイファのいる神殿だよ」
 ラテスに教えられ、あたし達3人はラテスの指さす丘を見る。
 標高50メートルぐらいの丘の頂上に神殿ミストリアはあった。
「あそこに『ニスクの天秤』があるんだな?」
 カーシュの質問にラテスはうなずく。
「じゃあ、早くいきましょうアイファ様の神殿へ」
 ファナの言葉にあたし達はうなずいた。

「ひさしぶり、アイファ」
 ミストリア神殿には月の女神アイファ様が待ち受けていた。
「久しいのラテス。何しに来たのだ?」
「何しにって、そうそう、アイファこの娘が勇者だよ」
 と、あたしを紹介する。
 月の女神アイファ。
 たっぷりとした強く輝く月の色に似ている亜麻色の髪、瞳は淡く輝く月の銀色。
 力強く美しい女神、まるでギリシャ神話にある月の女神アルテミスのような感じを受けた。
「そなたが勇者か。フラウが描いた者に似ている。フラウにあったか?」
「一応、神殿の方であわせたよ。まだルーの所には行ってないから」
 アイファ様の質問にラテスが代わりに答える。
「そなたがカーシュか、なる程マリウスのいう通りだな」
「ま、マリウスってスウェルナイトマスターが何かアイファ様におっしゃったんですか?」
 アイファ様の突然の言葉にカーシュは困惑する。
「気にするな。大したことではない」
 カーシュの困惑様にアイファ様は笑ってそう答える。
「そなたがファナか?オルトに似ているな」
「そうですか?私はオルト…姉と似ていますか?昔から双子なのに似ていないとよく言われていたのですが」
「顔は似ていないかもしれないが、気が似ているのだ」
「アイファ様はオルトを……姉をご存知なのですね。姉とは、一体どういうふうに…」
 ファナはラテスが姉と連絡を取ったときから不思議に思ってたのに違いない。
「………まだ何も知らないのなら、私が言うことではない。そうだな、ラテス」
 アイファ様の言葉にラテスはうなずく。
「さぁ、アーシャの神殿へと参ろう。もうオルトが待っているはずだ」
 そうアイファ様は言うとあたし達をアーシャ様への神殿へと促した。
 アイファ様につれてこられた神殿の前は入り口に水のカーテンがかかっているようでとても美しかった。
 そして、その神殿の前には一人の人物が待ちかまえていた。
「オルト、アーシャはいる?」
 ラテスの言葉にその人物、オルト・レイピア・カイクーラはうなずく。
 男と見間違うほどの長身、そして女性と思われるほどの身のこなし。
 男性と女性が合わさった、そう中性的な様相をもっていた。
「はい、神殿の奥で眠っておられます」
 そう、オルトは静かに答える。
「オルト、天秤はアーシャが持ってるね」
「はい、お持ちです」
「よかった、やっぱりアーシャだったんだ」
 能天気にラテスはいう。
 じゃあ早くアーシャ様のところに行こうよ。
 ワール・ワーズはもう『フラウの鏡』見つけてるんじゃないの?
「そうだね。オルト、アーシャのところまで案内して」
 ラテスの言葉に彼女はうなずき神殿の扉を開いてあたし達を古代水の神アーシャ様の元へと案内してくれたのだった。
 水の神アーシャの寝所
 アーシャ様の寝ている棺の周りには水がはってあって、アーシャ様が眠っておられる棺を守っているかのようだった。
「これが、アルサイトフィアのせせらぎと呼ばれる棺だよ。材料はアルサイトフィアと呼ばれる最高級のサファイア。アーシャは古代神の中で最後に封印された神なんだ。悲しみの神とも呼ばれる」
 ラテスは悲しそうにアーシャ様が眠っている棺を見つめる。
「オルト、アーシャの事起こしてくれるかな」
「何故?天秤を返すぐらいなら僕がとっても構わないんじゃないのか?」
「違うよ、アーシャに逢いたい人がいるだろうと思ってね」
 そう言って少し後ろにいるアイファ様にラテスは視線を移す。
「オルト、私のことは気にしなくても構わない。逢いたいのなら逢いに行けばいいそう思ってるのだから」
 そう、アイファ様が言った瞬間だった。
 ふと、声が聞こえてきたのだ。
『ラテス、冷たいね、アイファは。相変わらずだけどさ』
『冷たいって……そんな言い草ないんじゃないの?アーシャ。それより、ミラノは俺達の会話気づいてるんだけど、挨拶する?』
『んーそうしておこう。始めましてミラノちゃん。僕が水の神アーシャです。そうそう、この会話、アイファには気づかれてないよね』
『それは大丈夫。この会話は俺達だけしか出来ないのを使ってるでしょう』
『じゃあ、聞かれるとするならば神官のオルトぐらいかな?』
 そう聞こえてきたのはアーシャ様とラテスの会話だった。
 ただ、周りには聞こえない心の中だけの会話。
『あのぉ、ファナのお姉さんが神官ってどういうことですか?』
『あれ、ラテス、まだ言ってなかったの?あっちゃーまずいこと言っちゃったかな。でも、そのうち教えるんでしょう?』
『そりゃねぇ。でも、今はまだ言わないよ、アーシャ。ミラノ、とりあえず、すべてはラプテフの一件が終わってからだよ、全部話すのは』
『分った。アーシャ様、『ニスクの天秤』はどこにあるんですか?』
『『ニスクの天秤』?あぁ、ごめん。オルトに渡す』
 そう言って、アーシャ様は交信を切ってしまった。
「おい、おい、ミラノ?急にどうしたんだ?ボーッとしてちゃんとしろよ」
 カーシュの言葉に我に返る。
 ふぅ、びっくりした。
 アーシャ様、優しそうな方だった。
 そう言えば神官って何のことだろう。
 とりあえずそれは置いておいて、『ニスクの天秤』はオルトさんからラテスに手渡された。
 これで『ニスクの天秤』は手に入ったわ。
 あとはワール・ワーズと合流するだけね。
 とりあえずその夜はアイファ様の神殿にお泊りをし次の日カバネルの守護庁に向けて出発したのだ。

Copyright (c) 2005 長月梓 All rights reserved.