--原理と譲れないモノ-- +1+ 

「悟浄、ずりー!」

 悟空の声が上がる。

「悟浄、見るからにいかさまですって言うのはやめた方がいいよ?いかさまって言うのはこうやって分からないようにするのがポイントなの」

 そう言っては持っていたカードを1枚消す。

「へ?」

 消えたカードに悟浄が目を丸くする。

「上手いもんですねぇ」

 運転席の八戒がバックミラー越しに見たの術の見事さに感心する。

「ほぅ」

 あまりの騒がしさに顔を後部座席に向けた三蔵も、その瞬間を見たのか感嘆の声を上げる。

「すげー、それどうやったんだ?」
「フフフ、秘密。はい、悟浄、返すね」

 悟浄の髪の中に手を入れて出したの手に合った物は先ほどが消した、カード。

「すげー」
「マジックはいかさまの応用なのよ」

 感心する4人に得意げな
 今日ものんびりと、車中は過ぎていく。

 

 はずだった。
 

 

 

***

 

 

「あぁ、もう多すぎ!!!」

 叫んだって、妖怪が消えてくれるはずもなく。
 今日も、妖怪達は襲ってきた。

 目的は三蔵の持つ『魔天経文』。

 だいたい、妖怪の文句は一律

「我らは、玉面公主様の命令で、三蔵一行、経文をもらい受ける!!!」

 だって。

 妖怪の目的は経文を持ち帰る事。
 って言うか、その命令だした玉面公主って誰よ!!!って聞いたら三蔵達も知らんって言ってた。

「まぁ、牛魔王蘇生実験の首謀者の一人だと思いますよ」

 八戒の推測ではこう。
 三蔵も異論はないらしい。

 で、光明様が持っていた『聖天経文』。
 三蔵の話じゃ妖怪に奪われたらしい。

 初めて逢った時、どうして『聖天経文』がないのが不思議だったんだけど。

 三蔵が『妖怪に奪われた』と小さく呟いたのは、わたしがこの旅に合流してすぐの事だった。
 どうして奪われた事までは教えてくれなかったけれど。

「確かに、いつもの量の倍ちかくはありますねぇ」
「ん〜」

 思わず、考える。
 なんか、わたしのせいもあるかもしんない。

「どうしたんですか?」

 八戒がよってくる妖怪達に気孔を放ちながら聞いてくる。

「うん、もしかするとね、この妖怪達の目的、わたしもあるのかなぁ?なんて」

 そう言って銃弾を妖怪に打ち込む。

 なんだか、わたしも標的にされてるっぽいし。

「でも、どうしてですか?」
「ほら、私、仕事してるから。妖怪ハントって奴?今まで妖怪の被害に会った町とかで解決してきたから」

 道教協会の存在理由。
 それが、魔物退治だったり、危険妖怪退治だったり、凶悪犯を捕まえることだったり。

 仏教協会よりも民衆に実質的に頼られることが多かったりする

「そうなんですか?」
「うん、後は賞金首?」
「え、賞金首…ですか?」

 わたしの言葉に八戒が驚く。

 実は凶悪犯には賞金が掛かっていたりする。
 寺院などに閉じこもらない道士の為と、情報収集の強化にもなったりする。
 出資者は道教協会と仏教協会。

 けど、仏教協会は基本的にケチ、なんだよね。
 道教協会が主に賞金を出していたりするのはココだけの話。


「何?」
「僕に賞金首かかったりしてるんですか?」

 何気無しに八戒が聞いてくる。
 八戒には掛かってないよって言おうと思ったんだけど、

「…八戒?うーん。ない…かったっけ?」

 ちょっとあやふやに言ってみたら、なんだか、おもしろいほど、動揺されて思わずびっくり。

 やっぱり、やだよね。
 自分が賞金首のブラックリストに入ってたりしたりしたら。

「っ、!?」
「ないよ。八戒になった時点でブラックリストからはずれてる」

 本当の話。
『猪悟能』から『猪八戒』になった時点で賞金首はもとより指名手配からもはずれてる。
 だから、納得いかなくって思わず、その後の『猪悟能』がどうなったか思いっきり調べたもん。
 だから、いろんなこともわかったしね。
 まぁ、それはもういいんだけど。


「何?」
「今、僕のこと、からかったでしょう」

 ニッコリと微笑んで八戒はわたしを見る。

「…べ、別にからかった訳じゃないわよ」

 これは、本当よっ。
 ただ、ちょっとからかっただけ……って……。

 ………。

 あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
 からかったってなってるぅ。


「ご、ごめんなさ〜い」

 八戒の笑ってない笑顔の後に来るモノは、 何度か仕事した中で理解してるの。
 だから、すっごく怖いのよぉっっ。

 ふぇえええん。
 ごめんなさぁい。

「ふぅ、今回だけですよ。そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。僕は、には何もしませんから。気孔をぶっ放して消滅させるとか」

 …?

「ニッコリ微笑んで、食事抜きにするとか」

 ……うっ。

「あと何にしましょうか」

 その笑顔が怖いんですってばぁっっ。

「ごめん八戒」

 ホントに平謝り。
 かる〜い気持ちで言ったわたしが馬鹿だった。

「クスっ」

 クス?

「ホントにしませんよ。大丈夫ですから」
「ホント?」

 顔を上げると、普通の笑顔。

「ホントごめんね?」
「いえいえ」

 ほのぼの〜とした空気がわたしと八戒の間に流れる。

「何してんだよっそこ二人っっ」

 悟浄の叫び声が聞こえる。

 うっかり忘れてた、今、お客さん達と交戦中だった。

「うっかり忘れてましたね」
「ホントだね。ねぇ、八戒、一気に片しちゃってもいい?」
「任せますよ」
「了解っっ!!悟浄、悟空、三蔵、避けてねぇ〜」

 軽く3人に告げて、少し離れた所にいる3人がわたしの方を見たのを確認して呪符を取り出し、前方に差して神咒の詠唱に入る。

「北帝勅吾 打邪気敢有不伏者」

 無防備な状況に入る為、結界を張る。

「雷灼光華 縛鬼伏邪 天宋真火 万魔調伏 一切死活滅道」

 神咒を唱えていくと札が独りでに浮き始め、結構な距離をとる。
 呪符があるところは妖怪がひしめいているところ。
 その間に愛用の銃『ベレッタM92FS』を取り出す。

 悟空と悟浄…大丈夫かな。
 頭の片隅で一瞬そんな事を考え…。

「それ晴陽は天となり 濁陰は地となる 謹製し奉る 九天応元雷声普化天尊 急々如律令」

 札の中央に狙いをさだめ、手がぶれないよう銃を両手で構え雷帝である『九天応元雷声普化天尊』の力を解放するべく銃弾を放った。

 まっすぐにとんでいく9mmの銃弾は正確に呪符を打ち抜く。
 次の瞬間、大音響と共に爆発した。

「ふぅ、完了!!!」

 制御は完璧、吹き飛ばされていないらしいです。

「見事、ですね」
「ありがとう、八戒。皆、無事かなぁ?」

 煙の中から、言い争っているように見える姿が2つ。

「悟空と、悟浄の二人も、問題ないみたいですね。相変わらず、あの二人はケンカ始まってて」

 あとは、三蔵か。
  三蔵、知らぬ間に少しだけ遠くに行っちゃったのよね。

「三蔵も、平気みたいですね」

 八戒が三蔵の方に目を向ける。

 その瞬間だった。

「三蔵!!!!」

 八戒と、遠くの悟空の声が重なる。

 迷ってる暇なんてなかった。
 呪符を飛ばして、神咒を唱える。

「天道晴明 地道安寧 人道虚寧 三才一体 混合乾坤」

 呪符の効力を素早く作動させる。

?!」

 誰が呼んだ声かわからない。

 わかってるのは、三蔵が振り向いたのと、呪符が作動したのと、妖怪が三蔵に向かって斬りつけたのが一緒。

「『九天応元雷声普化天尊!!』」

 そして、次の瞬間、神咒が間に合った事に安堵した。

「ふぅ、間に合ったぁ」

 思わず座り込んだ。

「三蔵は無事なようですよ」

 八戒が座り込んだわたしを安心させるかのように言葉を紡ぐ。

「大丈夫か?」

 悟浄もやってくる。

「さ、三蔵っっ」

 悟空の戸惑った声。

「どうしたんだよっ」

 悟空の声が近くで聞こえる。

 まだ、肩で息しているわたしに影が掛かる。
 顔を上げるとそこにはいつものように眉間にしわを寄せた三蔵がいた。

 

 

 

***

 

 

「三蔵!!!」

 遠くから悟空とそれに遅れて八戒と悟浄の声が聞こえる。

 の神咒で片づいた妖怪の襲撃。
 まだ、多少は片づいていないが、下僕共と、で片づくだろう。

 そう、思っていた。

 背後の殺気を察知し、たばこをくわえたまま振り向く。
 刀を持っていたのか、そいつは俺に向かってそれを振り上げていた。

 愛銃を取ろうと懐に手を入れたか、この間合いではやられると判断したはずなのに、突然、目の前に呪符が飛び込んでくる。

 のだと気付いたのは目の前に深栗色の髪が踊った時。
 銃を取り出し、刀を振り下ろそうとした妖怪に照準を定めたときに声が響く。

「『九天応元雷声普化天尊!!』」

 髪が舞い散るのと、雷が妖怪に落ちるのと、刀が振り下ろされたのが同時だった。

 

 雷の音に景色が変わる
 雨の日。
 殺されそうになった瞬間。
 

 

 あの人が前に躍り出てきて。

 

 

 殺された。

 

 

『違う、そうじゃない』
 頭で理解しているのに。

 

「ふぅ、間に合ったぁ」
「三蔵は無事なようですよ」

 聞いた声が二つ耳に飛び込んでくる。

 一つは八戒。
 もう一つは…

 はらはらと落ちてくる真っ二つに切られた呪符を掴む。

「三蔵っ。大丈夫か?」

 悟空の声が耳元で聞こえた。
 どうしようもない、感情がわき出して、

「三蔵、どうしたんだよっ」

 気がついたら、その札を握り締めたまま、の目の前に向かう。
 そして、怒鳴りだしていた。

 

 

 

***

 

 

「何のつもりだ」

 三蔵がわたしを見下ろしたまま言う。

 何のつもりって…どういう事だろう。

「余計なことすんじゃねぇよ」

 余計なこと?
 ますます意味がわからない。

「何のつもりって?余計な事ってどういう事?」
「これだ」

 三蔵はそう言って、呪符をわたしに突き出す。

 その呪符は、さっき、三蔵に向かって飛ばした呪符。
 妖怪の攻撃を受け、破れたのでただの紙切れ同然だ。

「ご苦労様。火炎招来」

 破れてはいても、呪符は呪符。
 放っておいたらどうなるかわからないから、呪符を燃やす。

「何?呪符を飛ばして、助けた事が不満なの?」
「テメェの姿つくって、人のかばう真似なんざすんじゃねぇ。迷惑なんだよ。だいたい、テメェに庇われる筋合いはねぇ!!」

 そう、三蔵は言う。

「どういう意味よっっ、あれはしょうがないでしょう?」

 呪符は…わたしの姿を作り出した。
 そして、三蔵を庇うように、妖怪の前に立った。

 けれど、あの時はあれが精一杯だった。

 三蔵が気付き、妖怪が背後に近付いた時には神咒は唱え終わる直前。
 もちろん、皆、気付いてはいたけれど、お互い距離があってどうしようも出来なかった。

「迷惑なんだよっ」

 三蔵が声を上げる。

「意味がわかんない。迷惑って何?助けることが迷惑だって言ってるの?庇うことが迷惑だって言ってるの?」

 三蔵の言ってる意味がわからない。
 わたしは、何か間違ったことした?

「どっちもだっ」
「じゃあ、誰かが危険な目にあいそうだったら助けないの?」
「慈善事業でテメェが傷ついてどうすんだっ」
「そんなの知らないっ。そんなこと後から考えれば良いことじゃないのよっ」
「ハッ、随分めでたい奴だな。それで自分が死んでどうすんだ」
「その時はその時よっ。誰かを助けるのに、自分が危ないからって助けないわけ?理由が必要なわけ?損得で誰かを助けるわけ?わたし、確かに、天道師として、道士や方士の上に立ってる。でも、そこまで冷静でいられない。理由なんているの?誰かを助けるのに、計算なんているの?」

 わたしは、そこまで冷静ではいられない。
 人が傷つこうとしているのを黙って見過ごす事なんて出来ない。
 ましてや知ってる人、しかも一緒に旅している人ならなおさら。

 わたしは、今までそうやってきた。
 これだけは変えられない。

「それが、余計なお世話なんだよっ」

 三蔵の言葉が鳴り響く。

「助けられた方は、どうするんだ。助けてくれた奴が傷ついてもどうすることも出来ない。そいつが死んで助けられた…残された方はどうするっ」
「そんなのわからないよ。でも、自己満足なんかで誰かを助ける訳じゃない」

 お互いがお互い、何かを譲れなかった。

 三蔵の言っている意味ももっともだ。

 それでも、譲れない。

 

 

 

***

 

 

 雷が鳴る。
 上を見ると、先程までの青空が、黒雲に覆われていた。

「雨が…降りそうですね」

 八戒の声が聞こえる。

「そうだな。八戒、」

 言葉をかけると、八戒は頷いて、ジープを出す。

 三蔵とはまだ、動かないでそのまま。

「悟空、乗っちゃってください」
「で、でも…さぁ」
「お前先に乗っとけ」

 俺の言葉に悟空は何か言いたそうだったがジープに乗り込む。
 そして、三蔵も舌打ちも何もせずにジープに乗り込む。

 を見ると俯いていた。

「八戒、街までどのくらいだ?」
「そうですね…、10分もあれば着きますよ。雨が降るぎりぎりと言ったところでしょうか」
「そ…」

 八戒の言葉に俺は三蔵を見て、それからもう一度聖樹を見る。
 三蔵は、腕を組んだまま、うつむき、目を閉じている。

 は、やっぱり、俯いてる。


「………」

 かけた言葉に何も応えない。

「雨、降るぜ?」

 わざと軽く声をかける。

「濡れちまうぜ。どうせだったら、俺と濡れることしない?」
「悟浄」

 調子に乗りすぎた振りの言葉に八戒が咎める。

 もちろん、本気じゃない。
 それ程、長いつきあいじゃないが、本気の時とそうじゃない時ぐらいは理解出来る。

「どうぞ、お姫様」

 どうあっても動かないに手を差し出す。
 多分、乗りづらいんだろう。

 三蔵とやり合ったばっかだ。
 あの生臭がを拒否すれば、…まぁ、そんなことは許さねぇけど。

「……ごめん。悟浄、今、乗るね」

 顔を上げたはいつもの彼女で。

「ありがとう、悟浄」

 差し出した手を掴んでジープに乗る。
 ふんわりとした笑顔の中に一瞬だけ見せた、泣き出しそうな彼女の顔は今の空のようだった。

 

 

 雷が、雲の色を濃くしていく。
 空が雨をはき出すのも時間の問題だった。

 

 

 

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あとがき
実は、雨降り直前。
ヒロインと言い争う三蔵様。

「理屈なんてあるのかよ…。人が人を助けるのに、論理的思考はいらねぇだろう?」工藤君、カッコいいね。やっぱさ、うん。

関係ない話になりましたが、これが入れたくて書いたようなもの。
多少なりともアレンジ且つ、ちょっとおかしいですが。
こ、ここはメインじゃないし…。
後半の方が長いし。
前半、8P…って長いなぁ。
これ以上長くなるのぉ?
うーん。
残りは後編で。
後編は全編雨降りです。

乱入!!!

八戒:途中、関係のない話になってると思うんですが…。
長月:ハハハハ。そうだねぇ。ついでに実は悟空以外全員名探偵登場したって知ってる?*注
八戒:そうなんですか?悟浄だけ、心当たりがないんですが。
長月:だって、悟浄だけ犯人何だもん(爆)
八戒:……そうだったんですか。じゃあ、駆除しても大丈夫ですね(⌒-⌒)ニコニコ...
長月:………。い、一応、彼、逮捕…されてるし…。
八戒:そう言う犯人は再犯を冒すって知ってます(⌒-⌒)ニコニコ...。
長月:……っっっ!!!悟浄、こ、来ない方が…。
悟浄:は?……八戒、なんか、お前、怖いんだけど…。
八戒:気のせいですよ\(●o○;)ノフフフ...
悟浄:まじ、こえぇって。長月、お前何言った!ぎゃあああああ!
(;-_-)o~~~~\____(^-^;/}}}ズルズル(八戒に引きずられていく悟浄の図)
長月:悟浄…なんだか、ごめん。

*注:アニメオリジナルのキャラクターで1回保志さんは登場してました。
伊東玉之介という人物でした。
ちなみに、石田さんは白馬君、関さんは大神さんだったのですが、平田さんは園子を軟派し殺そうとした犯人で登場。

次回予告
三蔵:……。
悟空:…あのさぁ、黙ってたら次回予告にならねぇと思うんだけど。
三蔵:雨は嫌いだ。
悟空:あ…あぁ、そっかぁ。
:三蔵も苦手なんだ。八戒も苦手なんだよね…雨。
悟空:
:次回予告!!!原理と譲れないモノ後編。須く看てね
三蔵&悟空:っっ。