朝になればちょっとだけ違う一日が始まって。
それの繰り返しのはずだった。
その日だって変わらない…はずだった。
だから、私はいつも通り、過ごしていただけだった。
あたしは!!!!
「えぇ、その件なんですが、お断りしても…」
会議終了後、突然現れたさんが眠る休憩室を目指しながら、隣を歩くオーストリアさんに私は言う。
「彼女の事を考えなくてはなりませんし」
「だからといってキャンセル必要はないでしょう。もう用意してしまいましたよ」
「は?」
オーストリアさんの言葉に思わず目を丸くする。
用意してしまいましたというのは…。
「そのままの意味です。部屋も用意させました。エリザベータの隣ならあなたも安心でしょう?」
しかし……。
「無駄に広い家です。部屋を無駄にするよりはましでしょう?あなたも泊まっていることですし」
「私もさんと話したいですよ」
オーストリアさんを援護するようにハンガリーさんが言ってくる。
「エリザもこう言っていることです」
「菊ー。俺もちゃんと話したいよ」
「独り占めすんなよ」
独り占めというわけではないのですが。
イタリア兄弟にまでそう言われる。
さて、なんて断りましょうか。
彼女が寝泊まりする部屋に関してはありがたい話ですしそれは遠慮なく甘えてしまいましょう。
私も泊まっていることは事実ですし。
「部屋の件はありがとうございます。それは助かります」
問題は会食。
『オーストリア』が今回の会議のホスト国だと決まったとき、これから行われる会食も『オーストリア』で行なうと決まっていた。
年に何度かある会食。
今年で何度目になるか…。
全員そろってからはまだ数えるほどしかしていない。
場所が場所ですから……。
休憩室で眠っているさんだって驚かれるでしょうし。
目が覚めないという可能性だってなきにしもあらずでしょうし……。
さて……困りました。
さんには申し訳ありませんが……彼女が部屋着であると言うことを理由にさせていただきましょうか。
「ですが、彼女は部屋着のままこの場にいるわけです。会食ともなればそれなりの服装をと彼女も考えてしまいます。ですから……」
気後れしてしまうでしょうし……。
「大丈夫だよ、それだったら。オレ達が用意したから?」
「フェ、フェリシアーノ君。ど、どういう事ですか」
いまいち話が見えないのですが……。
「うん、彼女に似合いそうな服、何点か選んでローデリヒさんのお城に運んでもらったんだ。だから心配しなくていいよ」
「いや、ちょっと待ってください。用意したって」
「彼女かわいいし。大体、部屋着のまま日本に連れて帰るつもりだったのかよ。かわいそうだろ?それに…」
「うんうん。それに、菊にはさいろいろお世話になったりしちゃってるし、オレ達からのお礼も兼ねてだよ。かわいいちゃんにオレ達からのプレゼント。仲良くなりたいんだ」
イタリア兄弟にそう言われて断る理由もなくなってしまった。
とはいえ、私がどうこう言えるモノでもない。
結局は最後は彼女の意志ということになった。
ですが、私も共に会食が出来ればと思っていたのも事実ですけどね。
「やっと追いついた」
「なんで我より先行くある、あへん」
すぐに会議室を出てきた私たちを追ってきたのか息を切らしてやってきたのはイギリスさんと中国さんだった。
「菊、あの子会わせるあるよ」
「そんなこと言ったって彼女は眠っています。目が覚めているのかすら分かりません」
「けど……」
「王さん、彼女は王さんが思っている人と違います」
「分かってるアル。だけど、ちょっとだけ話がしたいあるよ」
王さんが何を言いたいのか分かるだけあって……何とも答え返しづらい。
「彼女が目を覚ましていたら…という前提でよろしいですか?」
「それでかまわねーある」
私の言葉に中国さんは納得したようだった。
「で、アーサーさんはどういった事ですか?」
「べ、別に彼女と話したいって訳じゃない。けど、気になるんだ」
イギリスさんが気になるという理由。
中国さんと同じ理由な様な気がしてならない。
彼らは理解していない。
もっともあの時に説明しなかった私にも責任があるのだけれども。
「何に、ですか?」
「彼女はどこから来たんだ?」
あぁ、そっちですか。
なら問題ない。
「それは彼女に聞けば済むだけの事だと思います」
彼女がキチンと話してくれるかはまた別問題ですが。
だいたいの予想はついてますけどね。
楽しい手に汗握る、これからの生活が楽しみです。
「お、おい菊」
「失礼しました。彼女の様子は休憩室に行かなくては分かりませんよ。ギルベルトさんに見ていただいてますので、何かあったら…」
あ、しまった。
「彼女はギルベルトが見ているんですか」
「え…えぇ」
「あのバカに任せたんですかぁ?なんでそんなバカなことしたんですかぁ?」
あぁ、ハンガリーさんに知られてしまいました。
だから、彼女たちが居なくなったときにドイツさんからの提案を受けたわけですが……。
何かあったら来ると思いますし……というか来たら確実にフライパンの餌食になるのは間違いないわけで……。
自分の選択は間違っていたのではと思ってしまう。
いや、まぁ、相互努力をお願いするとして……。
「ともかく、行きましょう」
その場をとりあえず押さえて、休憩室に向かう。
いや、すでにものすごい勢いでイタリア兄弟&ハンガリーさんが向かったのは気のせいだと思いたい。
「ずりー」
「ずるい、何してるんだよ、ギルベルト〜〜」
休憩室の方から声が聞こえる。
あぁ、何があったんだか、想像したくありません。
「って待って、エリザさん落ち着いて〜〜。ちゃんが目覚ましちゃうよ」
「あいつぶん殴るのはが起きてからで良いだろう?」
慌てて休憩室に向かえばそこには冷めた目でプロイセンさんを見ているハンガリーさん(すでに片手にはフライパン装備済み)とそれを押さえているイタリア兄弟。
そしてさんが眠っているはずのソファには……プロイセンさんと彼の足を枕にしているさんの姿だった。
「あ、よ、よう、菊」
遠目でもだらだらと汗をながしているのが目に見えるようなプロイセンさん。
無理もない。
今にも何処かにフライパンによってはじき飛ばされそうな状況だ。
「何してんだてめー」
「そうある、から離れるある」
あぁ、もう事態が収拾つかなくなる。
この状態を落ち着かせるには彼女の様子を確認することが大事だ。
あとからドイツさんや他の方々も来たのか今はこの飛びかかりそうな2人をどうにかしてもらって、
「ともかく皆さん落ち着いてください。ギルベルトさんもありがとうございました。彼女の様子はどうですか?」
私は眠っている彼女に近づく。
「あ、あぁ問題ねぇぜ。ずっと気持ちよさそうに眠ってた。このつるつるでさらさら具合、俺好み。ってっっっ」
あぁ、余計なことをしてくれた。
今の状況はもう言い訳のしようがないと非難の目を向けたくなった。
さんの髪の毛の手触り具合が彼好みらしい。
で触った瞬間にフライパンが飛んできたと言うわけだ。
あぁ、投げた主を見ればすでに新たなフライパンを装備している。
これではいつこの騒ぎで目を覚ましてもおかしくない。
どう説明するか、出来れば静かな所で説明をしたいモノですが………。
「んっ……ん」
万事休すですね。
さんがゆっくりと目を開けていく。
「あ、起きたのか?」
声をかけたプロイセンさんをじっと見つめ、そしてすぐ隣にいる私に気づいたらしい彼女はまだ焦点があっていないようだった。
『………本田……さん?』
『そうです。本田菊です。さん』
『はい』
私の言葉にしっかりと彼女は頷いた。
そう、夢だと思ってた。
目の前にいる人の声を聞いた瞬間、聞いたことあるって思ったの。
その時はまだ眠くって、眠ってしまったわけで。
もう一度目を覚ましてみたら、今度は違う人の顔が写った。
銀色の髪に綺麗なルビー色の瞳。
銀髪紅眼!!
はまりやすいキャラクターの原点。
でもなんか……あれ?
えっと、あたしは……どこにいるんだ?
ざわつく様子に首を横に向ければ、さっきの人。
黒茶色の髪に黒茶色の本田菊さん。
男の人なのに菊って珍しいなって思ったから覚えたんだ。
『本田……菊……さん?』
『はい。さん』
さっきのは夢じゃないって事だ。
『えっと、ここはどこですか』
『ここは』
本田さんの言葉に当たりを見渡そうとして気がついた。
誰かの膝の上に寝てた、あたし。
それに気づいて思いっきり体を起こす。
「お、おい。急に起きたら貧血起こすぞ」
「は?え?」
背後から聞こえたその言葉通り確かにちょっとクラッと来た。
『大丈夫ですか』
『あ、はい。ちょっとめまいしましたけど大丈夫です』
『それは良かったです』
教えてくれた人にも礼を言おうと思って振り向けばすでにその人は居ない。
なんでだろう。
膝当たりが暖かいなって思ったら、誰かのジャケット。
『これ…どなたのでしょうか…』
『あぁ、これはギルベルトさんのですね。ご親切に掛けていただいたようです』
『そうですか。じゃあ、お礼をいわなきゃ駄目ですよね』
本田さんのギルベルトさんって言うのがどの人か分からないけれど……というか……えっとホントにあたしどこにいるの?
周囲を見れば外国人ばっかり。
日本人らしき人は本田さんともう一人ぐらい。
「ヴェー、目、さめた?」
そう言ってあたしをのぞき込んでくる青年。
茶色の髪にくるんとアホ毛が左の髪から出ていて、オリーブブラウンの瞳の青年(完璧外国人だ。どこの人だろう)。
っていうか………ヴェー???
つい最近、そんな言葉を聞いたよ。
+アナタトオナジコエデ。
ちょっと待って、待って落ち着けあたし。
よく考えてみれば本田さんも聞いたことある声だし。
なんだか顔の表情とか髪型とか。
「フェリシアーノ君彼女は日本人ですよ」
「あ、そっか」
えっと状況が見えないんですがどういう事だろう。
『えっと、おれ、ふぇりしあーの・う゛ぁるがすっていいます。Italiaなんだ』
すっごい、たどたどしい日本語+イタリア語。
「菊、日本語言えたかな?」
「ハイ、大丈夫ですよ」
えっとだからどういう状況なんだろう。
『お、おれは、ろう゛ぃーの・う゛ぁるがす。このばかおとうとのあになんだ』
わ、同じ顔、でも彼の方がちょっときつい感じだし上っぽい?。
『フェリシアーノ』と同じ顔で少し彼の方が濃い茶色の髪にオリーブグリーンの瞳。
違うのは前髪から出てるくるんなアホ毛。
ちょっとまって。
まだあたしなんか事態読み込めてないんだけど。
えっと、言葉全部理解してるこのの状況何?
日本語ではなしてるんだよね?
でも後からのは確実に日本語って理解してる。
最初の何?
あぁもう、訳わかんない!!
『Bonjour, jeune dame.』
うわ、フランス語来た。
目線をあげればプラチナブロンドの髪にあごひげをちょっと生やした甘やかなサファイアブルーの瞳の男の人。
『初めまして。かわいいお嬢さん。お兄さんの名前はフランシス・ボヌフォワ。フランスだよ。君は』
………………フランスの人?
声にひっじょうに聞き覚えがあるんですけど〜〜。
『フランシスさん、日本語いつ勉強されたんですか?』
「他国の文化を知るには他国の言語からって事でね。少しだよ」
「じゃあ、なんで英語は覚えないんだよ」
「アーティ、分かってること聞いちゃう?英語は嫌いだからだよ。愛をささやくにはフランス語。そして彼女の国の言葉に決まってるでしょう」
「ふざけんじゃねーよ。それ以上にアーティって呼ぶな!!!」
……なんだろう。
この目の前で繰り広げられる会話と声に既視感を覚える。
もうホント。
ここ漫画?っていうかアニメの中?っていうかもうなんなんだろう。
泣きそうを通り越して笑い出しそう。
「全く、君たちは相変わらず進歩がないなぁ。目の前で喧嘩をしてるのは紳士とかそう言うのに反するんじゃないのかい。俺はヒーローだからね。そんなことはしないのさ」
…あぁ、もう予想通りの人が出てきたよ。
金色の髪に自信たっぷりなスカイブルーの瞳
アメリカだ。
『My name is Alfred ・F・Jones . The hero of the world!』
いや…英語で言われても分からないから、あぁ、アメリカは英語じゃなくって米語か。
って言うかそれ以前に英語も米語も苦手だから。
分かるの日本語だけだから〜〜。
『彼はアルフレッドさんと言います。彼はアメリカの方ですよ』
「ひどいよ菊、アルフレッド・f・ジョーンズ。それから世界のヒーローだって事も忘れないでくれよ」
「……………善処します」
善処でいいのか?
「全く、お前はアホか」
金髪に太い眉毛意志の強いエメラルドグリーンの瞳。
えっと多分……イギリスだ。
『俺は、アーサー・カークランドだ。少し話がしたいんだが…』
『彼はイギリスの方です。日本に滞在したこともあるから日本語は多少なりとも分かりますよ』
『あ、はい…』
って言うか、今までの会話全部分かってるんですけど。
っていうか、それ以上に、この状況が訳分からないんですけど。
自分で整理するしかないよね。
えっと、確実にあたしはへたりあの世界に来てる。
名前……はとりあえず置いといて最初のくるん兄弟は確実にヴェネチアーノとロマーノ、その次がフランスで、アメリカで、イギリスで、本田さんが日本……。
って事になるよね。
間違いなければの話で。
そんなバカな話があるわけないよね。
それ以上に。
『あの、あの……本田さん。あたしっっ。あのこの…ここどこですか?』
なんて言えばいいんだよ!!!
なんて言えばいいのか分らなくって言葉が続かない。
結局、根本的な問題点を把握しよう。
『……落ち着いて聞いてもらえますか?』
『は…はい』
周囲の装飾とかから考えると、多分、『日本』じゃない。
『ここはヨーロッパにある会議場です』
『ヨーロッパ?』
えっと、おうちからとりあえず、遠く離れたヨーロッパに来てしまったらしいです。
それだけは確実になった。
「あ、皆さん。ここにいたんですね。探しましたよ」
と入り口から新たな人が入ってくる。
白金の髪の色。
「わぁ、彼女が突然現れた人ですね」
ヘリオトロープの花の色の瞳を持つ人。
『さん、彼はティノ・ヴァイナマイネンさんです。フィンランドの方ですよ。そろそろ時間も時間ですし向かいましょうか』
『向かう?』
『今日あなたが滞在する所にです』
どこに滞在すると言うのでしょうか。
不安だわ。
「ローデリヒさんのお宅です」
「ローデリヒさん……」
「………さん……」
「はい?」
本田さんの言葉に返事すれば、彼は小さく息を吐いた。
なんかまずいことでもあったのかな?
「うすうす勘づいては居ましたが……。先に状況を確認するべきでしたね」
「状況ですか?」
「えぇ。ここで話すような事でもないですし、私たちはこの辺で失礼させていただきましょう」
失礼って……。
えっとあたしも行くのかな?
「ちゃん、これ履いて」
「へ?」
「オレ達からのプレゼント」
兄弟の片割れがあたしの足下にミュールを置く。
って…あたし素足だ。
っつーか、部屋着のまんまだ、ユニ○ロだ。
うわ、この兄弟着てるのもしかするとヴェルサーチとかアルマーニかもしれない。
すっごい似合うんだけど。
「さん、遠慮せずに履いてください。ここでは混乱を招きかねません」
「わ、わかりました」
本田さんの言葉にあたしは足下に置かれたかわいいミュールを履く。
なんか今『Salvatore Ferragamo』って見えた気がした。
これ、もしかしてフェラガモ?
「サイズ、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫です」
うわぁ、気にしないでおこう。
「じゃあ、参りましょう」
と本田さんに促され、
「それでは皆様ごきげんよう」
とローデリヒさん(本田さんに教えてもらった)の挨拶と共にあたし達はその場を後にしたのだった。