OPERA NIGHT〜極彩色の世界〜

 ウィーン。
 夏、間近の5月末のウィーンは過ごしやすく、つゆ間近の日本と違って空気がからっとしている。
 そのウィーンのローデリヒさんのお宅のお庭でお茶会。
 一週間ぶりにあった菊ちゃんの荷物がスーツケース一個分増えているのが非常に気になるわけです。

皇帝達の戯れ 閑話

 ローデリヒさんの家でお茶会。
 それほど暑さを感じないのは日陰で湿気がないからなのと
ちゃん、アイスおいしーね」
 アイスを食しているからだと思うんだ。
「イタリア旅行はどうでしたか?」
「楽しかったよ。そう、フェリシアーノとロヴィーノから聞いたんだけどっ」
 そうそう、菊ちゃんに会ったら絶対聞こうと思ってた疑問を!!!
「菊ちゃん達がいたら一般人立ち入り禁止な所に入れるってホント?」
「ずいぶんと熱心に……。えぇ、本当ですよ」
「江戸城に入りたい」
 うん、入りたい!!!
「……落ち着いてください」
 菊ちゃんはあたしの言葉に目を丸くして何か考えた後言う。
「ダメ?」
「残念なお知らせが」
「何?入れないの」
「違います。はドコをどう見て江戸城と言ってるんですか?」
「とりあえず、敷地全部」
「皇居も含めてですか?」
「皇居って江戸城もじゃないの?」
 菊ちゃんがため息をつく。
 ちょっとまって、あたし変なこと言った?
「江戸城の天守閣は明暦の大火(1635年、江戸の大半を焼く)で焼失以降再建されていません。本丸は文久三年(1863年)にあった火災で焼失しています。残っていた西の丸も明治6年に焼失しています」
 マジでか……………。
 知らなかったよ。
「もう少し勉強してください。歴史の授業で明暦の大火はやるはずですよ?ちなみによく見る江戸城の櫓や門は関東大震災と東京大空襲で破壊された物を復元されたものですよ」
「う……そうだったんだ……」
 知らなかったよ(マジで)。
 あたし歴史好きだけど知らないことまだまだいっぱいあるなぁ。
「落ち込む事はありません。知らなければ知っていけばいい。知識は吸収をしようと思えばいくらでも吸収できるんですよ。なら大丈夫。あなたは好奇心旺盛ですしね」
「じゃあ、京都御所で入れないところに行きたい!」
「いきなりそれですか……」
「ともかく、入れないところに入ってみたい!!!」
「落ち着いてください。簡単に入れるって言ったって行ってすぐにって訳じゃなくって一応許可が必要なんですからね」
 やっぱり?
「まぁ、複雑な手続きなんて言うのは必要ないですけど……。それでも無理って言うところはあるんですからね」
「たとえば?」
「…………………伊勢神宮御正殿とか…………」
 入ってみたいな行ってみたいな所の一つじゃん!!
「ああっあそこは、私ですら入れないんですよ。姉上と『上司の上司』しか入れないんです!!」
 うーうー。
 菊ちゃんの話では『いわゆるそう言う冠婚葬祭系にまつわる一般人立ち入り禁止な場所』で菊ちゃんが入れるのは…ごくわずからしく、後は西にいるという『姉上様』だけで、その姉上様と『上司の上司』しか入れないそうだ。
『上司の上司』?って言うのはもしかしてもなく、かしこき辺りのなんとかって言うやつ?
 他の場所なら、入れるみたいだけど。
 でも入れない所って『いわゆるそう言う冠婚葬祭系にまつわる一般人立ち入り禁止な場所』が多いとおもうんだけど……。
「ともかく、『いわゆるそう言う冠婚葬祭系にまつわる一般人立ち入り禁止な場所』は文化財とはまた別の意味がありますからそれらについては諦めてください。他の所ならいくらでも連れて行きますから」
 うん……無理言ってまでは行きたいなんて言わないよ。
「それより、ベルギーはどうだった?打ち合わせだったんでしょ?」
「はい」
「何の打ち合わせだったの?」
 そう言えば、聞いてなかったな。
 菊ちゃんと一緒に住むようになってから1ヶ月。
 秘書をやるようになってから一ヶ月。
 過去はともかく置いといて、現在進行形の仕事とか、会議の内容とか結構いろいろ教えてもらってる。
 もちろん、聞いてないのもあるだろうけど(とりあえず、夏コミの件についてはばっちりだぞ!!15(金)、16(土)、17(日)。初日だけ不参加だ!!※都合により、このようなスケジュールにさせていただきます)。
 で、ベルギーでの打ち合わせはあるって言うのは知ってたんだけど、内容までは知らないんだよね。
「そうですね……。も関係してくることですし」
 なにが?
「来月、上司の上司がベルギーに表敬訪問なされます。ベルギーさんの上司のご招待ですね」
 そう言えば、そんな話をニュースかなんかで聞いたような。
「そうです。我々も当然同行します。ベルギー王国からのご招待ですからね」
 ……マジですか……。
「午前中は視察、午後は昼食会。近隣諸国、今回は近隣と言うより欧州各国の王国を招くそうです」
 お、王国ですか〜〜。
 ちょっと待って、ますます雲の上な感がひしひしと。
「イギリス、スペイン、オランダ、ノルウェー、デンマーク、スウェーデンと言った方々と共に昼食会を共にします」
 え、え、え、え〜〜〜〜〜〜〜?!
 いきなり、なんで、そんな事に〜〜!!!
「ベルギーさんの主催で、我が国は主賓です」
 まぢですか!
 あ、聞いたことがある。
 ベルギー王室は上司の上司の家を尊敬してるって言う話を……(すっごい古い家だからね)
「我々も、出席します。もっとも、我々は別になりますけどね」
 菊ちゃんが言うにはいわゆる『国』の『人』の存在は(一番)偉い人しか知らないらしい。
 その『長』と呼ばれる人だけが知ってる秘密。
 から別場所と。
「その後、夜は夕食会も兼ねた、懇親会です。こちらは欧州各国からいらっしゃいますよ。そう言えば、アルフレッドさんも呼んだとか」
 欧州各国?
「オレ達も行くよ〜〜」
 フェリシアーノがにっこりとほほえみながら言う。
 欧州各国っていうのはつまり王国じゃない国々もって事か。
「へー、それはちょっと楽しみだね」
「それは、よかった」
「俺もちゃんと踊るの楽しみだね」
 へ?
「俺とも踊れよ」
 フェリシアーノとロヴィーノが楽しそうに言ってくる。
 まなざしはちょっと怪しいのが……?
 へ?へ?踊り?
は大変ね。いろんな人と踊らなきゃならないから」
 なんてエリザが言う。
 踊らなきゃならないって?どういう事!!
「ワルツだよ」
「ワルツ〜〜〜!!」
 お、踊れるわけないでしょ〜〜!!
「踊ってくださいね、『しゃるうぃーだんす』ですよ」
「き、菊ちゃん、本気で言ってる?あたし一般的日本人女子。ダンスなんてましてやワルツが踊れるわけないでしょう?」
「知ってますよ。だから、特訓していただきます」
 特訓?
「はい、こういう事は早いに越したことはありません。留学という形でとある国に行っていただきます」
「本気?」
「本気です」
 菊ちゃんの目がマジだ。
 と、特訓なんてやりたくないよ〜〜〜!!
、少し太りましたか?」
 ……………、この人なんて言いました。
 さわやかな笑顔で、とんでもないことをぶちまけられたような気がしますよ。
「き、菊ちゃん?」
「こー、ほっぺた辺りが」
 そう言いながら、菊ちゃんはあたしのほっぺたをつまむ。
「菊ー、ちゃんは全然太ってないよ。むしろ、細い方だよ?」
「って言うか、もうちょっと太ったほうが良いと思うけど?」
「フェリシアーノとロヴィーノは黙って」
 確かに、イタリア旅行はご飯がおいしかった。
 フェリシアーノが作るご飯もロヴィーノが勧めてくれるご飯も、デザートもとてもおいしかった。
 結構、あれやこれやと食べてしまったのは事実。
「ダンスの練習すればダイエットできますよ」
 あぁ、魅惑のお言葉『ダイエット』。
 菊ちゃんに完璧に乗せられてるけど、体重を気にしているのを菊ちゃんは知っているし(菊ちゃんのご飯はおいしいだもん。つい食べ過ぎて体重計乗って顔面蒼白になりそうになったことだってある)脂肪と化す前に体脂肪を燃やすことは重要!
 女の子の永遠のテーマ『ダイエット』
 たとえ、もう少しあった方がって言われたって、160cmのあたしのあこがれ体重は45kg(だとあれだから)47kg。
 この際だから、ダイエットと称して頑張ります!!
「それは良かったです」
 ダイエットの為だもの。
 とはいえ……ダンスの練習する必要ってあるのかな?
「本当にそう思ってますか?が、そう思っても相手の方はそう思ってくれません。あなたが、我々の目の前に現れたときの衝撃は並大抵の物じゃなかったのですよ。その結果、あなたに興味を持った方が多数おられます。舞踏会ともなれば引く手あまたですよ」
 むー、でもなぁ。
「それに、私はを連れてパーティに出席してみたかったのです。エスコートさせてくださいっっ」
 いや、泣かないでよ……。
 湾ちゃん(まだ台湾に逢えてない)とかエスコートしてないのかな、この人。
「そして、もう一つ。我が国は主賓です。主賓の一人であるあなたが踊らないわけにはいかないのです!!」
 そんな力説しないでよ。
 分かったから。
「ドコで練習するの?」
 やっぱりイギリスとかフランスとか?
「……………なぜ、イギリスとかフランスとか出てきたんですか?」
「社交界と言えば、フランス。後、マイフェアレディの舞台ってイギリスだよね」
「まぁ……さんの考えも間違いというわけではありませんが……」
 なんでそこでため息つくのよ。
「最初は、フランスはともかくとして、イギリスに関しては私も考えました」
「なんでフランスダメなの?」
「フランシスさんですよ?に何かあったらと思うと私は居ても立ってもいられません」
「確かに、フランシス兄ちゃんだとちゃん危険だよ」
 フェリシアーノが不安そうでロヴィーノが泣きそうな顔してる。
 ……フランス兄さん…やっぱり歪みないのか……(フランシスと会ったこと忘れてる)。
 で。
「ですが……このことを聞いて乗り気になった方が」
 乗り気?
「はぁ」
 とテーブルに座ってる全員がため息つく。
「菊さん、ホントに良いんですか?」
「まぁ…本人は乗り気ですし……」
「あいつで平気なのかよ」
「そうだよ。ダメってわけじゃないけどさぁ。ちゃんが可哀想だよ!」
 待って、待って、待って、何が待ってるの?
「少し落ち着きなさい。私も監修します。彼一人だけに任せるというわけではありません」
「ローデリヒさんっ。私は納得出来ませんっ。あんな奴に任せるのはホントに止めましょう?私だったら大丈夫ですよ」
 ……エリザの言葉で誰が教えてくれるのか……分かったような気がする。
 えっと知りたくありません!!
「き、菊ちゃん…まさか」
「ドイツ。はい、ギルベルトさんです」
 な、何であの人なの?
「ベルギーでの打ち合わせには他の会議も一緒にありまして、その時に……。ギルベルトさんの方から提案してくださったのです」
 なんで、提案してきた!!!
「ダンスを教えてくれと……が言ったとおっしゃってましたが……」
 あたし、そんなこと言ったっけ?
 …………………あ。
「言ったんですか?」
「言っちゃったの?」
「言ったのかよ!!」
「なんてお馬鹿さんな事を……」
「あいつ、殺す!」
 なんで、全員から責められるんだ……あたしが。
 あ、エリザからは責められてないか。
「いつ、なんて言ったんですか?」
「だって……あれは社交辞令の一種じゃない?」
 確かにシュトラウス像の前でそんな話をした。
 踊れないって言ったら教えてくれるって言ってそれは社交辞令だと思って一応お願いしてみた。
「断らなかったんですか?」
「本人忘れてると思うじゃないですか!!!」
「そこはにっこり笑って断ってください」
 今、それを思い出しました!!
「し、仕方ないじゃないのよ〜〜ウィーン観光でテンションあがってたんだから〜〜」
「はぁ、ともかく。ドイツの家で、は1ヶ月ダンスレッスンすることになりました」
 いや、それマジで?
「マジです。教えてくださるのは先ほども言いましたが、ギルベルトさんです。あぁ見えても、ワルツはキチンと踊れる方です」
「あぁ見えても結構誘われてるよな」
「あぁ見えても人気なのよね。黙ってればいいけど。見てる分には良いけど。近寄ってこられると嫌すぎるけど」
「あぁ見えても誘われるのってフランシス兄ちゃんに勝ってる時あるよね」
「あぁ見えても踊り方は正統ですからね」
 …………あぁ見えてもなのか。
 ギルベルトって。
「メインで教えてくださるのはギルベルトさんですが、ルートヴィヒさんもいらっしゃいますし、ローデリヒさんも監修してくださいます。心配することはありませんよ」
「やっぱり不安です」
 社交ダンスと、ワルツ(ウィンナワルツ)は違うと思うわけだ。
「何のための1ヶ月間ですか。大丈夫ですよ、はまだ若いんですから。この爺みたいに年寄りじゃありませんし、簡単に覚えられますよ」
 ……運動、あまり得意じゃないんですがね。
「大丈夫よ、ちゃんと教えるようにきつく言うから!私も、ローデリヒさんもドイツに一緒について行くから!」
「最初は私とエリザで教えます。だから安心しなさい」
 エリザとローデリヒさんの言葉に頷く。
「細かく様子も見てくださるそうですし。大丈夫、ルートヴィヒさんがきちんとギルベルトさんを監視してくださいます!だから安心してくださいね」
 菊ちゃんの言葉にも頷く。
「オレ達もちゃんの様子見に行くから。がんばって!」
「ムキムキの家に行くのは嫌だけど、には逢いに行くからな!!がんばれよ」
 フェリシアーノとロヴィーノが応援してくれる。
 はぁ、ともかく練習……することになっちゃったから、するしかないよね。

 ちなみに、増えた菊ちゃんの荷物は……私の荷物でした。
 必要な物が全部入ってるって菊ちゃんはにっこり笑って言いました。
「樋乃の為にノートパソコンも入ってますよ」
 笑顔に一瞬殺意を覚えました。
 実際問題、いつからこの計画を立てていたのか小一時間、問い詰めたいです。

backnovels indexnext
あとがき

というわけで、閑話編です。
江戸城の一件調べました。
知りませんでしたよ、えぇ、知りませんでしたorz。
『かしこき辺り』って? 恐れ多い所という意味です。宮中とか、天皇家とかをさします。
次回はドイツ編です。まだまだ先は長いよ。